なんだろう、幕間感。
「山野くん、誰にも理解できない葛藤だけして、結局何もかも自分で賄った上に、罪まで自作して背負おうとしてるね?」
ぶどうを一粒房からとり口に運ぶと、弓削さんはお茶に口をつける。
テレビを見ながらの雑談で、「アメリカどうだった?」という流れから、俺が言葉に詰まっただけでそんなことを言う。
「罪の自作って何さ。俺はただ、アメリカ行ってでかいハンバーガー食べてきただけだよ」
テレビに向けていた目をこちらに向けて、弓削さんは俺を睨む。
その目が何を言っているのか、俺にはよくわからない。
「お姉ちゃんは、気に病むことないんだよ。今回もたいちさんは自分にできることはやったじゃない?と言いたいんだと思います」
「ユウ、私はそこまでお人よしじゃないよ」
「お姉ちゃんがなんでそんなにたいちさんに厳しいのか、あたしはあんまり理解できないんだよなぁ」
「山野くんはね、女の敵なんだよ」
なんかすごいこと言われてないか? しかも本人いるのに?
「たいちさんがお姉ちゃんの敵なのはわかったけど、私の敵ではないもん」
そう言うと、ユウちゃんは俺の方に来て腕を取る。
寄り添うように腰を下ろすと、俺にニコッと笑いかけてくれた。
「ミナ、ユウって学校で嫌われてたりしない?」
「大丈夫。あれ、おにいさんにしかしないから」
「あそう、ならいいんだけど」
そう言う弓削さんの目は俺をドス黒い色で睨みつけている。
ミナちゃんは呆れたような目で姉妹を見ていた。
今日は、新作のレシピでお菓子を作ると言うことでユウちゃんにお呼ばれして久しぶりに弓削家に来ていた。
アメリカから帰国して3日後である。
兄から請け負った仕事の経過報告と、先輩の検診で、この三日間学校には行っていないのだが、由利亜先輩伝手でお誘いいただいた。由利亜先輩はアメリカ帰国後翌日から登校している。時差ぼけとかないのか聞いたら「中学生の頃、よく一人で海外旅行してたんだよね」とか言っていた。
金持ちの旅行って距離感の概念がないのかな。
「ユウもよくフランス行きたいっていってるよね」
ミナちゃんの言葉に「ほう?」と、俺と弓削さんは反応する。普段あまりこれがしたいと欲を言わないユウちゃんにしては珍しいことだからだ。
「え? まあ、そうだけど」
「フランス、どうして?」
「だってほら、美味しいお菓子とかってフランスが発祥のものが多いでしょ? だから、本場の味ってどんなかなって、なんとなくだよ?」
ふむ。
この間は行くとなった翌日にはアメリカにいた俺だ。
ちょちょっと調べれば明日には凱旋門で打ち上げ花火でも決められるんじゃないだろうか?
「山野くん。うちの妹を君の世界の法則に当てはめるのはやめて」
さも俺が何を考えているのかが読めているかのようなことを言う弓削さん。
「何を言う。可愛い友達とフランス旅行の計画を立てたいなと思っただけじゃないですか」
「未成年者掠取で訴えるよ」
「お許しください」
目がマジだった。
「フランス連れて行ってくださるんですか?! わたし、楽しみに待ちますね!」
「こらユウ、無茶言わないの」
「いいのいいの。ね、俺とユウちゃんの仲だもん。いつか一緒にいこうね〜」
「山野くんも悪ノリしないで。本当に困るのは山野くんのくせに」
めちゃ怖いこと言ってる人は置いておいて、
「ところで、今日は何を食べさせてくれるの?」
俺は今日の本題に入るのだった。
「はい! 今日は”本気で”パイ生地を作ってみたので、それを食べていただこうかと思いまして」
ギラリと、ユウちゃんの眼光が光る。
これは楽しみだと喉が鳴った。




