過去との和解は誰かの思いやりで。
事態の解決は、事件の解決ではない。何かが起きた時、起こった事象を解決するのは前段階だ。
殺人事件が起き、殺人の犯人を捕まえる。
事件の収集はそこからが始まりの段階で、犯人を捕まえるのは事態収集までの1プロセスに過ぎないのだ。
だから今回の事件、宮園唯華の眠りを覚ますという事態の収集は、宮園唯華が眠りについたという事件の解答にはなり得ない。
宮園唯華が目を覚ました。
ここから、裁判が始まる。
己を殺し損ねた俺への断罪がまっている。
はずだった。
寝起き、開口一番宮園はこう言った。
「あの、すいません……。ここ、どこですか?」
えっちらおっちら体を起こし、こちらを見て、
「えっと……どちらさまですか……?」
そう問うたのだった。
:*:*:*:
違和感はなかった。
目の前の人物を宮園唯華だと認識する自分にも、宮園唯華のその存在にも。
だからあまりにも唐突なその質問に、俺は硬直した。想定外だった。
そうはいっても、これからのことをさっさと決めなければならない。そのために可能な限りのことをしよう。
「僕はここの研究員だ。君は今まで長らく寝ていたんだよ」
「あ、はあ、研究? 私なんかびょうきなんでしょうか?」
「いいや。ただ少し長く眠っていただけだよ。ところで、自分の名前はわかるかな?」
室内と俺のことをちらちらと交互に見やりながら、宮園は「はい、宮園唯華です」と自身の名前を口にする。
「出身と、誕生日はわかるかな?」
「なんか、記憶喪失の人にする質問みたいですね」
「君の記憶が、寝ている間にどれくらい削れているのかを確かめる質問だからね」
そうなんですね。と、質問に答える。
「資料にあったとおりだ。うん。記憶の異常はなさそうだね」
病み上がりの人間に不安要素を持たせてはいけない、と、何かで読んだ知識でつなげ、俺は最後の質問をする。
「自分がどうして眠っていたのかわかるないし、眠る前の一番最初の記憶はなんですか?」
宮園は俺を見る。
目が合って、確信した。
「わからないです。でも、とても気持ちが良かったような気がします。これで良かったんだって、そう思っていた気がします」
俺は「そうですか。わかりました」そういって宮園に手を差し出した。
ベッドから起こし、立ち上がらせる。
「この研究所はアメリカにありまして、今ここは日本じゃないんですよ。どうでしょう、一緒に日本に帰りませんか?」
へ? と、驚いた顔をする宮園。
ハッと表情を変え、首を横に振る。
「まだわからないことが沢山で……。なので、他の方にもお話を聞きたいと思います」
「そうですか。では、ここでお別れですね」
手を離し、足をひく。
俺の言葉に宮園は再度首を横に振った。
「私も後から日本に帰ります。日本でなら、また会えるかもしれないので」
「……そう、ですね」
外から足音が聞こえてくる。
バイタルをモニターしていた連中が走ってきたのだろう。
俺は宮園に背を向けてて、ドアに向かう。
彼女の何か言いたげな雰囲気はひしひしと感じていて、それに応えてしまいたい気持ちは確かにあって、でもきっと、それは間違いだと思った。
もうこれ以上、彼女に間違いたくない。その気持ちが俺の背中を押す。




