不明瞭と明快と。
好きな人に好かれたいなんて傲慢に、私自身あまりいい印象を持っていなかった。
だからこうして自分がそう思う状況になって、自分に対して少し自己嫌悪を抱いてしまうのは仕方がないんじゃないかと思う。
少なくない回数告白されて、その全てを拒絶した。
そのあとに嫌な思いをした事も少なくない。
だからこそ、私は好いた相手に嫌な思いをさせるようなことはしないと決めていた。
それは人として当然なことだと思う。
好きな人に、好きになってもらえない。
それは仕方のないことで、受け入れざるを得ないこと。そう思っていた。
今に至って、私にそんな理性だけでの行動はできなかった。
好きな人には好きになってほしいし、いつも一緒にいたい。
どれだけ答えてもらえなくてもきっといつかは私のことをって、思ってしまう。
そんな傲慢を、悪だと思えなくなってしまった。
だから私は太一くんと一緒にアメリカに来た。
長谷川さんに誘われた時、急に何を言い出したのかと疑問だった。
でも少し考えたらわかることだった。
「このまま私たちがあえて知らないふりをしても、太一君は川島君に言われるがままアメリカに飛ぶ。そうすれば彼はまた一つ自分を殺してことを解決する」
そう言われてその光景はありありと浮かんだ。
長谷川さんが退院してきて、太一くんはまた少し笑わなくなった気がする。
そのことの詳細について長谷川さんは何も言わなかったけれど、責任がある、という部分を隠すこともなかった。
私はまた、蚊帳の外。
そして、今回も。
三好さんが隣にいる時、太一くんは少し明るく笑う。
後輩の二人がいる時、太一くんは迷惑そうにしながらも優しく笑う。
弓削さんが隣にいる時、太一くんは少し気持ち良さそうに笑う。
長谷川さんといる時、太一くんは安心したように笑う。
じゃあ、私といる時は?
私といる時の太一くんは、どう笑う?
彼はいつも、申し訳なさそうに笑う。
心のどこかに棘が刺さったように。
喉の奥に何かがつっかえたように。
振り解けないしがらみを、諦めるように。
私といる時の太一くんは、滅多に笑わない。
だから私は一緒にアメリカに来た。
彼の隣にいる人間はいつもどこにいても、私なんだと思ってもらうために。




