言葉の意味の裏側で。
宮園唯華が目を覚まさない。
屋上から発ち、数秒の間地球との接点を失ったあと、鈍く、しかし耳に残る激しい音と共に地面へと還った彼女。
救急車で運ばれる彼女を呆然と見送り、俺は一人膝を抱えた。
翌日、宮園が目を覚まさないと聞いた俺は「そうか」と、思った。
自分の作ったものをつけた人間が死んだ。
その話を聞いたとき、俺の中の細い棒のようなものがぽっきりと折れた感覚をはっきりと感じた。
人が一人飛び降りたのだ。当然のことながら騒ぎになった。
だが、俺はそれ以上のことをはっきりと覚えていない。
警察に行って事情聴取をされる日々が続いたのは確かだったけれど、何を聞かれて、どう答えたのかも定かじゃない。
あの時の俺は完全に体の中身がもぬけのからだった。
今思い出しても、その時期の記憶だけ靄がかかっていて何も見えてこないのだ。
なんだかんだとしている間に色々が終わり、俺は宮園唯華という一人の人間について知ることになった。
自分が一年一緒に過ごした後輩のことを何も知らなかったのだと思い知らされて、そうしてようやく気付いたのだ。
俺に人と関わる才能はないのだと。
確かに必要とされていたし、はっきりと求められていた。
だから、俺は差し伸べていたつもりだった。
差し出しているつもりだった。
だが宮園が本当に手にしたかったものを俺は全く理解していなかった。
関わっている間に、宮園が何を思いどうしたかったのかを、俺は一つも察することができなかった。
いつも言っていた。
『ねえ先輩。私、絶対に先輩の横にいるからね』
むしろいつも前を歩いてるだろ、なんて、その場限りのごまかしをして。
俺は何も。
俺はいつも。
わかった気になって、全部をこぼして歩いていた。
だから、気付いた時には宮園は横にいなくて。
前を歩いていた背中も無くなっていた。
一年。
その間に俺が彼女にしてやれたことなんて、彼女に死に方を与えるくらいのものだった。




