道があって、歩いたわけじゃない。
中学一年。
部活を追い出されて路頭に迷った俺は、一人の先輩をいじめから救った。
思えば、救ったなんて烏滸がましくて、図々しくも割って入ったと言う方が正しい気がするけれど、しかし、その頃の俺を含めた誰もが、俺がその人を助けたのだと思っていた。
別に、俺が助けていなければ他の誰かがやっていただろう。
なにしろ、世の中にはいじめが溢れている。
いじめて、いじめられて。
そんな出来事が山のようにあって、でも、大ごとになることなんてほとんどない。
当然だ。
どれだけ物事が起きていても、どこかで終わるのだ。
だから、俺が救う必要なんてどこにもなかった。
俺が割って入ることで、好転したことなど特にない。
必要性のないことを独りよがりに行動して、その気になっていた俺は、誰かを助けると言う熱に浮かされた。
悲鳴の上げられない人間というのは実際いて、どうしてか俺はそれに遭遇することが多かった。
今思えば、川上に誘導されていたのかもしれないと思うこともあるが、しかしそれでは説明がつかないこともあった。
ただ中学時代の俺は、手当たり次第、目についた人に手を貸しては反対側の人間を断罪した。
片側からの景色に酔っていた。
自分を部活から追い出した連中への意趣返しのつもりから始まった、人助けという遊びは加速し、後戻りのできない場所に俺を連れて行った。
そうして、たどり着いた場所で、俺は碧波ゆえと出会い、埜菊ひいみを見つけ出し、宮園唯華を殺した。
俺にできたことなんてせいぜいが手を貸すくらいのもので、引っ張り上げることなんてできなかったのだと、思い知った。
人との関わりを最小限に生きていた俺が、人間関係を完全に抹消しようと決めたのはそれが原因だった。
まあ、高校に入ってすぐにヤバい人たちに見つかってその決意も簡単に崩れ去ったわけだけれど、それでも俺は、誰かを助けるだなんて偉そうなことをしようとは思わなくなった。
人は別に助けられなくたっていつの間にか普通に生きられる場所に戻ってこられる。
だから、俺が手を出す必要はないのだ。
だから、なにもしなくてもいいはずなんだ。
昏睡状態で眠る宮園唯華に対して、俺は。
なにもしなくて、いいはずなんだ。




