だから頼りすぎだってば。
「最近、来すぎじゃない?」
定期テスト1日目を終えて、弓削家。
薄々そう思っていた。
だがあえて考えないようにしていたことをバッサリ、弓削さんに言われた。
「あ、うん。だよね」
しか言えなかった。
「いいんです、たいちさん。お姉ちゃんはツンデレなだけなので気にしないでください」
「ありがとう、ユウちゃん。でもそういうことはお姉さんのいないところで言おうね。俺が後で君のお姉ちゃんに裏でボコられちゃうからね」
「そんなことしないよ!!」
玄関を入り、居間に至ると、俺はいつも通りの位置に腰を下ろした。
「ていうか、最近何かと勘違いされてるけど、私別に山野くんのこと好きじゃないからね?」
「そんなことを俺に言われても泣くしかできないんですが?」
こっちを見て弓削さんが言ってくるから、俺はあえてそういう。
「ああ、じゃない、ユウに言った」
「ガッツリ俺の方見てたけどね!」
「ツンデレとか言うからさ」
妹を見て、改めるように言う。
「お姉ちゃんが好きじゃなくても、私とミナは好きですから」
姉に睨まれても、妹は意に介さず。
俺にニコパッっと笑って見せた。
可愛い。
「ありがとうユウちゃん!」
最近散々な目に遭っているのでその優しさが嬉しくて、うるっときてしまった。
お茶を淹れてくれた弓削さんが、四人の前に湯呑みを差し出してくれた。
そう。
四人。
「太一くん。JCが恋愛対象だったの?」
「社会的に俺を殺すのが組織からの命令だったりするんですか?」
「組織ってなにさ」
いや知らんけど。
「鷲崎先輩、お茶お口にあいましたか?」
湯呑みに口をつけると同時の2秒ほどの沈黙。
弓削さんが珍しく由利亜先輩に声をかけた。
「うん。すごく美味しい。このケーキも、わざわざ買ってきてくれたの?」
フォークでシフォンケーキを刺すと、口に運んで笑顔を作る。
由利亜先輩の仕草は本当に可愛い。
「あ、いえ。それはユウが作ったんです」
「手作り! すごいね、ユウちゃん?」
話題にされて、スッと居直ると、礼儀正しい少女となって。
「ご挨拶遅れて申し訳ございません。お初にお目にかかります、弓削悠梨と申します」
丁寧にそう告げた。
「ユウリちゃんで、ユウちゃんなんだ。私もそう読んでいい?」
「はい。是非! ケーキもおかわりあるのでよろしかったら」
「おかわりもらってもいいの?」
「もちろんです!」
そういって立ち上がると、ユウちゃんは台所へと駆けて行った。
「由利亜先輩も、JC好きそうですね」
「私は大体みんなにこうです」
「そうでしたね。俺以外にはそうでした」
隣に座っていた由利亜先輩は少し体を寄せると、
「みんなと同じに扱われたいの?」
「今更でしょ、て言うか環境からしてみんなと一緒というには行かないわけですし」
「ふふ、だよね」
「人んちにきてまでいちゃつくな、山野太一」
ひと一人殺せそうな目で、フルネーム呼びされると、さすがに怖い。
「綾音ちゃんは本当に太一くんのこと好きじゃないの?」
「なっ」
本人のいる前でそう言うこと聞く?
俺が若干動揺すると、弓削さんはあえてと言ったふうに大きくため息を吐いた。
「人としては尊敬しています。お母さんを起こしてくれたことにも感謝してます」
「ほお?」
居心地の悪いことこの上ない。
そんな状況で由利亜先輩が先を促す。
「だから、もちろん人として嫌いなわけはないですが、が! ぶっちゃけ男としては本当にどうかと思うところがあるので!! ちょっとイライラしてます!!!」
弓削さんは加熱していた。
「わかる!!!!」
由利亜先輩は身を乗り出して叫んだ。
「(!!!!!!?!?!?)」
なんか意気投合した!?!?!?
「こんなに言い寄られて自信なさそうなのもムカつくんですけど、それ以上に気付いてない振りが本当にイライラして!!!」
「わ!!!か!!!る!!!!」
………………………何しに…… きたんだっけ………?
*;*;*
戻ってきたユウちゃんに宥められることで二人の怒りは一旦収まる所を見つけてくれた。いや、俺なんも悪いことしてなくない……?
そんなきついこと言わなくても良くない?
大体誰が誰に言い寄られてるんですかね?
ああ、あれですか?
家に住まわせてくださいって言い寄られたやつですか?
もう半年くらい前の話ですか??!!
「太一くんの口を言い合える仲間がこんなに近くにいたなんて。これからは綾音って呼ばせてもらおうかな」
「はい。私も由利亜先輩って呼ばせていただきます」
それだと俺と被っちゃうなぁ……
「ん? 太一くんは呼び捨てじゃん」
「は? 山野くん由利亜先輩のこと呼び捨てしてるの? 身の程弁えたほうがいいよ」
「なんか弓削さん俺にあたりすっごい強いね!!!」
ふっと鼻息で俺の渾身の叫びを受け流すと、「それで」と、本題を促してきた。
この流れでは絶対に本題には入れないぞと言いたかったが、すでに遠回りしまくっている。
これ以上の迂回はマジで時間の無駄な気がして、
「はぁ……」
一つため息を吐くことで、どうにか感情を1時間前に戻して、
「頼みがね、あるんです」
そう、ようやく入り口に手をかけた。
「由利亜先輩のことを占ってほしいんだ」
誰が聞いても、普通の人なら疑問符を浮かべるお願いだった。
それはここが神社だからといって変わらない。
一般社会において、占いとは娯楽の一つだ。
そして、本当に困っている人にとっての占いとは、逃げ道の一つ。
方向を見失った人たちに道標を作る、そんな娯楽。
では居間俺が頭を下げてお願いしている占いとは何か。
道標が欲しいわけでも、探し物があるわけでもない。
「太一くん、占いって、どういう?」
友達の家が営む神社にやってきた時点で、由利亜先輩は混乱していたことだろう。
昨日は科学的に足の爪から髪の先まで検査を受けて、また翌日も何かするとだけ伝えておいたが、まさか神社で後輩に占いをお願いされるとは思っても見なかっただろうから。
「そうだよ山野くん。占うって言ったって、私には探し物と、少しミルことくらいしかできないよ?」
「謙遜は美徳だけど、できることまでできないって言う必要はないんじゃないかな?」
「「お前が言うな」」
今日の組み合わせはなんか、息の相方が異常だな……。
「そもそも謙遜とかじゃなくて、できることなんてそんなにないんだよ」
隣のユウちゃんもうんうんうなづいて、
「お姉ちゃんの占いは、そこまで便利なものではないです」
そう断言した。
いや、わかってる。
なんでもできるなんてあり得ない。
そんな万能の力を求めてきたわけではない。
「大丈夫、俺がお願いしたいのは、由利亜先輩が呪われているかどうか、それをミテ欲しいってだけの話だから」
由利亜先輩は驚いたように俺を見る。
本人も、旅行先で占い師に何某かの呪いを受けているんだと思い込んでいる、と言うわけではない。
むしろ逆で、由利亜先輩はオカルトに否定的だ。
だけれど、祖父母や両親を責める気はないらしい。
自身の体が縦に伸びていない事実を、小学校の頃の写真を見るたびに受け入れるしかできないから。と。
「大丈夫です。ここは神社、しかも占うのは本物の巫女です。どこの馬の骨ともわからないエセ魔法使いみたいな占い師とは格が、地位が、立場が違います」
「ちょっ、そんなに持ち上げられるとやりづらいから」
「由利亜先輩の現状は、この弓削綾音さんがすばっと解決してくれます」
「いやほんと、本当にやめて」
「お姉ちゃん、諦めて」
今回は、条件なし。
弓削さんの根負けということで、無報酬で占ってくれることと、相なった。




