いきなり。過ぎる時間の大切さが。
研究施設はアメリカにある。
だから、アメリカで昔みたいに四人で仲良く暮らしながら、宮園ちゃんの病気を治す研究をしましょう。
碧波ゆゑは、言いたいことだけ言って帰っていった。
逃げ場などなく、行き場などなく、俺のいる場所など、今も昔もどこにもなかった。
行きたい場所のない人間の、居たい場所のない人間の、俺のような人間の、二進も三進も行かない状態というのは、なかなかに地獄の絵面だった。
その場の流れで生活を送り、時間の流れで体を動かし、状況の変化に合わせるだけの毎日で、そんな人間で、俺に何ができるかと。
兄も、碧波も、埜菊も、なぜそこまでして俺に関わらせようとするのか。
俺にはとんと理解できないし、理解しようとしても多分俺には解読できない。
自分の見る自分と、他人の見る自分は違うのだ。
そんなことはよくわかっていて、わかっているのに不理解には苦しむほかない。
不理解というか、非理解、というか。
俺と碧波のそんなやりとりを見て、里奈さんは見定めるように黙っていた。
俺は今まで流されるままに生きていて、目の前に何か問題があれば解を出すことを厭うことをしなかった。
巻き込まれたから。いつの間にか渦中にいたから。依頼されたから。
理由は複数あって、そのどれもが基本俺の意思とは関係なく進んだけれど、それでも確かに他人の問題を捻じ曲げてきた。
誰かのためじゃない。
ただ、そうしなければならなかったから。
だから俺はこれまで感謝などされたことはないし、これからもないと言い切れる。
最後に俺の手に残るのは、誤解と過大評価、この二つになるだろうと、そんな風に思った。
;*;*;*;
「ねえたいち君、これなんてどう?」
お昼を迎え、キッチンカーの並ぶエリアに来ていた。
里奈さんはハンバーガー屋の看板に目を凝らし、端の方に映る海老の使われたものを指さす。
「海老好きなの?」
横に主張強めに鎮座ましましている国産牛肉100%のハンバーガーを横目に、海老を選んだ里奈さんに聞く。
「お肉も好きだけど、今は海老の気分」
「なる」
えー、俺はどれにしようかな。
「たいち君が海老を選んでくれたら、私はこの一番大きいやつを食べる」
「今は海老の気分、はどこへ?」
「交換して食べればどっちも食べられて一石二鳥でしょ?」
「ああ、なるほど。由利亜先輩と同じこと言うね」
「……へぇ」
俺の発言が何か悪かったらしく、里奈さんの目が昏くなった気がした。
「でもたいちくんもどっちも食べたくない?」
陰りは勘違いだったかもしれないと思うほどで、ふわっと明るさ満点。
「まあ、どっちも食べられるならそれに越したことはないかな?」
ないよな?
「じゃあ決まりね!」
言うが早いか、二、三人の列に並んでしまう。
ちなみに、ほかにはステーキやラーメンやらのお店もあって、頭を抱えるレベルで美味しそうな匂いが漂っている。
その中でハンバーガーのキッチンカーに並ぶ運びになったのは、里奈さんの強い要望だった。
普段、兄弟に遠慮しながら食べるファストフード店のハンバーガーと比較して食べてみたい。そんなようなことを熱く語られた。
各々1セットずつ手に持つと、ベンチに腰を下ろした。
「本当にお金出してもらっちゃっていいの?」
「もちろん。むしろ買い物付き合ってもらって何もしなかったら罰当たりそうで怖い」
勝手にデート気分になってキモい妄想とかしてることへの罪滅ぼしとかも兼ねているので、恐縮されると恐縮してしまう。
「写真撮らせて!」
里奈さんはそう言って二つのセットを並べると何やらセットしてパシャパシャ撮っていく。
1分ほどで満足いくものが撮れたらしい。
「食べよ〜」
そんな感じ。
撮れた写真を見せてもらったら、店の前に置いてある看板よりも100倍美味しそうだった。
たいち君の後輩。
中学の期間。
私の知らないものが次々とやってくる。
たいち君が、アメリカに行ってしまう。
どうしていいのかわからなくて、勝手に盛り上がってついてきた買い物を続けることしかできなかった。
そんな私の心の中が見えているかのように、たいち君は私に合わせて楽しくデートみたいにいてくれた。
一緒に食べたハンバーガーの味は、多分一生忘れない。
でも、これからもっと、一緒に色々食べたいなって、わがままなことを思う自分もちゃんといるんだ。




