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それもこれも、彼の中でかみ砕かれて。



「なんで俺が来てるってわかったんだよ」

 白々しくそんなことを聞いてくる川島に、電車に揺られながら俺は答える。

「由利亜先輩は隠し事が苦手なんだよ。あと、先輩が埜菊のことを知ってた。兄貴から聞いたって言ってたけど、なんとなく嘘だってわかったからな。俺の中学のことを詳しく知ってる奴なんてそう多くないし」

「あれだけ喋ればさすがにばれるか」

「余計な事言ってないだろうな?」

「余計というなら、たぶん俺はかなり余計なことを話してると思うけど」

 まあ、それはそうなんだが。

「言い方を変えよう。余計なこといってないだろうな?」

 んー、とうなってから、

「変なことってあれか、一個上と二個上の先輩二人に同時にキスされた話とかか?」

「具体例を挙げる必要は全くないけどそういう話をしてないだろうなと確認してる」

「そういうことならそのたぐいの話はしてないよ。俺は情報は小出しにするタイプだからね」

「いや待ってくれ。ださないという選択肢を選んでくれると助かる」

 割と切実なお願いだった。

「え、何ですかその話。私知らないんですけど」

 とかなんとか食いついてきたバカのことは置いといて、電車を降車する。

 慌ててついてくるアホを置き去りにする程度に早足で歩く俺と川島は、別に示し合わせているわけではない。

「それで、ゴシップ川島、お前がいるってことはまた何か事件なんだろ?」

 改札を抜けて自宅アパートへの道をまっすぐ行く。

 小走り気味についてくる後輩のためではなく、単純に疲れた俺と川島はペースを落として話し始めた。

「お察しの通り、今回も、少し耳に入れたいことがな」

「それにしたって、別の学校になってまで俺のところに来なくてもよくないか?」

「いやいや、これはお前にしかできないことなんだよ」

 そんなわけで、半年ぶりに会った友人は、俺の何でも屋顧客№2という立ち位置にすっぽりと収まる、なんとも厄介な仕事を持ってきたのだった。

 それも、俺の断ることのできないような意地の悪い難題を。



+;+;+



『他人の心配してる暇ないだろ』

 電話越しの兄の声はあきれを通り越していた。

 だが、そんなあからさまな態度をとる兄に対して、俺は当然ながら言えることがあったのだった。

「人のことあっさり売り飛ばした奴に何を言われる筋合いもないわ」

『まあそれはそうなんだけど』

 反省の色も全く見えず、「こりゃだめだ」と会話をあきらめた俺。

『でもお前、行きたいだろ、アメリカ』

「は? なんで?」

『鷲崎ちゃん、追いかけたいだろ?』

「……は? なんで……?」

『むしろここで追いかけたくならなかったら薄情すぎてドン引きだよな』

「……ああ、うん。ちょうど行きたいと思ってたんだよ、アメリカ」

『だよな~ やっぱり、兄さんは弟のことをよく理解してるんだよな~』

 恐ろしいほど得意げだった。

 でも確かに。

 由利亜先輩自身がどれだけいかないと言っていても、手続きが済んでしまえばついていくしかなくなってしまうかもしれない。

 それは少し以上に寂しい。

 もしこの家から由利亜先輩がいなくなったら。

 そんな風に思いながら、自分一人のアパートを見回した。

『でも、他人の心配してる暇ないだろ?』

 兄は再度そんなことをいう。

 いや、俺は基本暇だ。

 何しろ兄のせいで学校に行かなくても点数だけ取っていれば授業を受けなくてもよくなってしまったのだから。

 家でだらけるもよし。

 学校に行って部室でだらけるもよし。

 授業を受けながら昼寝をするもよしの、スーパーハイパー暇人マンとしての地位を確立しているのだから、暇じゃないわけがない。

『いやいや、お前この間のWEA普通に解いただろ』

「え? ああ、まあね」

『なら、お前にはすぐに総研からお呼びがかかる。まあ、今回の埜菊ちゃんの以来と大差ないとは思うけど、そっちも併せてお前はだいぶ忙しくなるはずだ』

 ほー、と声に漏らしても、俺はそれはないと確信していた。

 なにしろ、俺はWEAの試験をまともに解いていないから。

 まあそれ以前に、総研?とかいうところから声がかかる理由もよくわからないけれど、それ以前に、俺は今回の試験、三好さんと弓削さんに質問された箇所しか答えを書いていないのだった。

 今回の試験、インターネットに接続できる端末の使用と同様に、複数人での回答のすり合わせも可能となっていたのだ。

 だから三好さんは即俺の横で問題を解きたし、その隣には弓削さんがいた。

『いやいや、今回の試験は二の次だよ』

「今回の試験を見ないで何を見てるんだよ」

『人の居場所』

「……?」

『わからない、というのが嘘じゃないのはわかるけど、それはもう少しド努力するべきということになるな』

「? ……?」

 俺たちの会話がかみ合わなくなり始めたころ、家の戸がたたかれた。

『じゃあまた連絡する』

「はいよ、っていうか、この来客も兄さんの仕込み?」

『開けて、確かめてみろよ』

 いやな予感しか残らないそのセリフで、通話の切断がを知らせる音がなった。

 コンコン

 二度目のノックに俺は、

「はーい」

 と声で応える。

 ふう、と気持ちを入れ、何が起きてもいい心構えをする。

 そう、だれが来ても、俺は驚かない。

 鍵を開け、戸を開くと、そこには女子が立っていた。

「買い物! 行こう!」

 その姿に、俺は安堵のため息と、昨日の発言を思い出したのだった。

「ありがとう、三好さん。準備するから上がって待ってて」

「うん!」

 美少女との買い物。

 これはデートと言ってもいいのだろうか?

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