一緒にいたいだけなのに、とか、そういうのは聞き飽きてますので……。
中学の時には一人だけ、友達のような奴がいた。
今現在の高校生活とは雲泥の差で、人と関わることが皆無だった俺には珍しく。
珍しいタイプの人間だったので、特別俺が珍しかったわけではなく、そいつが特別に珍しかったのだと思う。
山野一樹の弟と聞けば人は寄ってきたが、そういう人間はだいたい2日も経てば俺のことを忘れいた。
小学校の六年間にできた友達とも、疎遠になった中学時代だったが、その一人だけは俺に話しかけにくることが稀にあった。
そして、そいつと最後に交わした会話というのを、まあはっきりとは覚えていないのだけれど、確かあいつはこう言った。
「この先も未来も、お前にはもう見えてるんだろ?」
「だったら悩むこともないだろう」
と。
俺に未来を見る力なんてものはないし、ましてや天才の兄と比べられながらの過大評価だ。
ありえないことはありえないというのが人間としての正しい生き方だった。
その頃の俺は、今以上に心が引きこもりだった。
今も大して変わらないけれど、それでも美人な先輩と可愛い先輩に鍛えてもらったこのメンタルを持ってすれば、多分あの頃の黒歴史さえ乗り越えることができるだろう。
中学2年の終わりに蓋をして、3年の夏休みに見えないところに押し込んだ、そんな何事でもないようなたわいない黒歴史を。
若気の至りと、厨二病と、天才の弟であるという他人の威を借りたそんな慢心を振りかざしていたという、ありきたりな恥ずかしいエピソードを。
そもそもあの二人と中学時代に出会っていたら、などというたらればは意味をなさないけれど、中学の頃にあの二人が俺のことを振り回していてくれたなら、俺はあんな立ち回りで生きることもなかったかもしれないと思うと、今の生活への依存度が計り知れるわけなのだが。
何はともあれ、中学の後輩に俺はいう。
「前に証明した通り、お前の未来予知は単純に思い描いた通りに物事が進むってだけのものだ。だからお前自身が予想できないことは予知できない」
「だから私の予想力を高めれば、全ての可能性を網羅できるわけじゃないですか」
駅までの道のりで、俺は後輩を諭すように話す。
俺の言い分に納得のいかない後輩にとって、俺の言葉はただの反発するための材料でしかないと分かった上で。
「私は絶対に当たる未来予知能力を手に入れるんです。そのためには先輩の力が必要なんです」
むすっとした態度で、道の先を見据える埜菊は俺のことなど眼中にない。
その態度からも、俺が必要であるようには全く思えない。
だから結局、これは俺への贖罪のつもりなのだろう。
何もできない俺に、せめてもの情けとしての。
「俺は別に、お前に心配されるほど生活に困ったりしてないぞ」
「? 私はただ、先輩に私のそばにいて欲しいだけです」
?
よくわからない返しだった。
「いや、俺学校あるし、先輩たちにも心配されるからアメリカとか絶対行かないけどな」
だからはっきりと断った。
「クソ野郎!!!」
「口が悪いな〜」
そんな口の悪い後輩のほっぺをつねって伸ばしたり縮めたりをしてひとしきり遊ぶと、手を話す。
「へんはい」
その暴言だけは甘んじて受け入れた(後輩とはいえ女の子であることは確かだった)。そう思った時に浮かんだのは由利亜先輩の顔(調教済み)。
そんなこんな、話していれば駅につき、俺は話題を一転させた。
「そういえば、ここにはお前一人できたのか?」
埜菊は眉一つ動かさず、
「はい。たまたま先輩がここにいると聞いたので」
その回答はあまりに流暢で、その態度はあまりにも自然で、違和に溢れていた。
「まあいいや」
俺は一人そう呟いて、
「なあ川島」
いないはずの人間の名前を口にする。
それは中学の時の友人の名前。
昨日までならいる訳がないと思っていただろうその名を口にする。
「俺だけじゃないけど、それはまた別のお話かな。久しぶり、元気そうで何よりだ」
「ゴシップ魂は健在みたいだな。人のいるところに川島ありとはよく言ったものだ」
「それは多分、俺じゃなくて別の川島さんが混じってるな」
「ただの苗字だからな」
ひとしきり笑い合って、俺たちは半年ぶりの再会を祝った。
「気持ちわる……」
ほっぺたを引きちぎられかけながら、こめかみに激痛を走らせる後輩は、いい加減日本語を学んだほうがいいかもしれないと切実に思った。
引きちぎろうとしながら。
作者コメ
キャラ描写がないことに関して、活動報告で書きます。多分。
描写しないことに意味はありません。
ただ、一人称視点でのキャラ描写がありえないという結論なだけです。というようなことを書くと思います。




