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逃れられない血のつながり。

 ベットなんじゃないかと思うほどの大きさの机を挟んで兄と対峙する形に座る。

 骨董に知識はないが、この机も相当な金額だろう。由利亜先輩の父親はいったい何をしている人なんだろう。もはや訳がわからないので考えることをやめた。

 入り口側の端っこに鎮座した俺の隣に、先輩とのじゃんけんで勝利した由利亜先輩が獲得したらしく、ぴったりと俺の肩に触れる位置に座っている。先輩は俺に一つ睨みを入れて、目の前に座る男に視線を戻した。由利亜先輩も、おずおずと視線を向けている。

 兄さんはその視線を受けてもにっこりと笑顔を咲かせている。

「まだ、学校が始まって一か月だよな?」

「そうだよ。そっちにいるのが部活の先輩でこっちの人は、こっちの先輩は、えーっと……」

 先輩の紹介は端的に終わるのだが、こうして紹介してみると気づかされる。

「俺と由利亜先輩って、関係性的には学校の先輩後輩でいいんですかね?」

「ややこしくしたくなければそれで良いよ?」

 黒目を潤ませながら同意をいただいたので、

「じゃあそれで」

 といって紹介を終える。

「お前、中学の時は友達いないって言ってなかったか?」

「うっ、いなかったよ、別に欲しくもなかったし…」

 横の二人を見比べてからもう一度俺の顔を見た兄さんの顔には、どう言ったら良いのかわからないと書いてある。

「にもかかわらず、高校では、犯罪に手を染めたのか?」

「先輩だって言ってんだろ、しかもこの人がこの家の家主の娘だ」

「その容姿で、ロリじゃない…? 嘘つくな、兄さん怒らないから」

「諭してくんな、事実だ。大体、俺はどちらかというと年上好きだって兄さんは知ってるだろ」

 突然の性癖暴露に食いつきに来そうな年上二人を「ん、んん!」と咳払いで制し、目をそらす。

「そういえば、そうだったな。でも人の好みは変わらるからな」

 なんとなく納得がいかないらしい。

「由利亜先輩、少し経ってもらっていいですか」

 面倒なので実力行使に出ることにした。

「いいけど…」

 すっと立ち上がった由利亜先輩の後ろに立ち、

「失礼します」

 胸を下から掬い上げた。

「へっ!!?」

 驚きの声を上げる由利亜先輩は身じろぐが腕を解きには来ない。

「この大きさが、小学生に出せるかな?」

 この一言で兄の不満は撃破された。

「なるほど…! これは大学、いや、今に至っても見ることのなかった素晴らしい大きさ、服越しからもわかる整った形……。太一、これからも先輩方を大事にするんだぞ…」

 どこに目を向けてんだよと突っ込むのをこらえ「ふぅ、納得してくれたならよかったよ」と、ゆっくりと胸から手を放し、元の位置に座る。

 放心状態の由利亜先輩はを見て先輩が舌打ちをする。うわあおっかねえ…。その怒りが自分に向いているのだということを理解しつつも、他人事だと思いたい本能が俺にそう思わせた。

「ところで兄さん」

「なんだよ弟」

「仕事の内容はここで由利亜先輩を待つことだったんだよな?」

「そう。正しくはここに来る人を迎えることだよ」

「それを依頼したのは、」

「ここの家主、鷲崎正造氏だよ」

 俺の質問を答えで遮り、はっきりそう言った。

「鷲崎正造って…」

 そう聞いたばかりの名前を口をついてこぼしたのはそれまでわれ関せずを貫いていた先輩だった。誰もが知るその名前。聞くのは今が初めてではないその名前の主は。

「welcunce-noiss-jewelryーウェルカンスノイスジュエリー代表取締役社長・鷲崎正造。

 お前も一度は聞いたことがあるだろう?」

 人を小馬鹿にしたようににやりと笑み、兄さんは言った。


 世界のジュエリー関連の企業の九割の頭目にして、大株主として君臨するその企業。

 鷲崎正造という男は、その大会社をマイナスから引っ張り上げた立役者だった。

 昭和から続くその会社は、不況の煽りに会い没落し、倒産寸前だった。

そこに一人の男が就職した。男は絶望した。いくら就職難でもこんな企業じゃやっていけない。

だが、入ったからには仕事はきっちりこなした。

 初めて企画の仕事をもらい、会社を立て直すほどの企画を考えてやると息巻いた。

結果は大失敗。見た目は良さそうな企画は中倒れし、中途で損害だけを残して崩れ落ちた。

責任はすべて男に降りかかった。どうにかしなければ、男は二つ目の企画を練り上げた。

 一度失敗した男にチャンスはなく。しばらくして男はリストラされた。

 生きる術を無くした男にもう一度希望がさしたのは、ボロボロのジュエリーショップを見つけた時だった。

そこに自分の企画を持ち込み、そのジュエリーショップの企画担当として雇われた。

 そこから男に怒涛の幸運ラッシュが続く。

 こけかけた企画を大手の企業に拾われ、つい先日まで働いていた会社はつぶれた。

二度の無茶な企画を成功させ、給料を元手に大手企業の株を買いあさった。

 どれも値の上りは最高潮で、二年で大金持ちとなった。そうして企業の株を自費で買いあさる反面、企業も大きく成長させ、年配だった先代から社長職を引き継ぎ、さらに企業を大きくした。裏金や不正も多々あったと聞くが、検挙されたことは一度もなかった。

 そうして世界最大の企業になると、社長は姿をくらませた。


「まさか、嫁もらって子供作って博打に明け暮れて嫁に捨てられてるとはなあ~」

 話を聞き終えて素直に驚いていた。

 由利亜先輩はうつむいて顔を見せよとしない。

「とまあそんな感じの事情で、ここの人は今も洋々とボートレース場で叫んでいるだろうね」

 にわかには信じられなかった。が、兄の言う事は一つを除いては真実だ。兄は俺に生まれてから嘘をついたことがなかった。

「先輩、驚いてるのはわかりますけどその顔はどうなんですか、女子として」

「…な…!? なんでマスクしてるのに顔がわかるのよ!?」

 いや、なんででしょうね、でもわかるんですよね、美人なのは確かなんだけど、その表情はダメでしょ。描写もできないくらいだらしなかったよ。

「鷲崎さん」

「は…はい…」

 兄さんが由利亜先輩の名をよんだ。今に至って初めて。理由は、なんとなく察しが付く。

「今日ここに来たのは理由があるね?」

「はい。父と、話をしに来ました。いないなら出直します」

「まあまあ、落ち着いて」

 ニコニコと、それだけ見れば和やかな兄の顔で、焦りなのか憤りなのか、心にせかされている由利亜先輩をたしなめる。

「何も帰ることはない。ここにいればそのうち来る。そうだなあ、今日の夜には帰ってくるだろう」

「夜ですか…」

 夜、その単語をきいて、うつむきがちに兄を見ていた目が、完全に下を向く。

「今日は、帰るよ。また出直す。行きましょう、先輩、由利亜先輩も、ほら」

 沈む背中を眺めてから、先輩は立ち上がり兄に一つ例をしてふすまの方へ歩き出した。

 俺も同じ背中をみて、トントンと肩をたたき「行きましょう」と再度促した。

 サッというふすまの開かれる音がなるのと、由利亜先輩が立ち上がったのは同時。

先輩によって開かれたそこを通り、廊下に出る。

「相変わらずなんだね、太一」

 皮肉っているのは明白だった。

「兄さんは、もう少しやり方を変えるべきだね。客が減るよ」

 ははは、そうかもしれない。愉快そうなその言葉を聞いてふすまを締めた。

 玄関を出るとすっかり日が暮れていた。

 夜。もうそう呼ばれる時間帯に近い。何がそうさせるのか、俺の手は由利亜先輩の背中を押している。早く、早くこの場から立ち去りたい。心の中で俺はそう叫んでいるのかもしれない。

 隣を歩き、震える彼女のその肩が、俺の心を急き立てている。


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