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考えれば考えるほどよくわからない。

 四月二八日土曜日、午前十時半。

 何がどうしてこうなったのか、ただいま俺は、何故か大型のショッピングモールに学校の先輩二人と買い物に来ている。

 楽観的に見れば両手に花でデートなのだろうが、とてもではないがこの雰囲気を真近で見て、そんな呑気は言っていられないことを悟ったのだった。

 先輩の二人、とはいえその二人は激しく仲が悪い。

 なんで一緒に買い物なんて来たのだろうかと、本気で不思議なほど仲が悪い。

 その間に立たされる俺の心労は、来る前に想像した何百倍のそれだった。右に引っ張られたと思えば左に引かれ、両方向に引かれた時には体が二つに分かれるかと思い、そうなると両端から怒号が飛び出す。そしてそれを謝って回るのは俺の役目なのだった。

 ほかの客にも迷惑だし、俺には荷が重すぎるし、先輩は顔隠してて怪しいし、鷲崎先輩は露出多くて俺が補導されそうだし、何をどうすればいいのか、正直もう俺にはわからない。

 つまり、何が言いたいかというと、まだ到着して三十分も経ってないけれどもう本当に帰りたい。そういうことだ。

「もう少し離れてもらっていいですか、歩き難いんで」

「そうよ、そんな肉の塊を押し付けるのはやめなさい」

「あんただって同じことしてるじゃん」

 空気がおいしくないです…。

 

 女の子とのショッピングは予想では、もっと華やかで、きゃっきゃうふふなラッキーほにゃららがあると、はい。思ってました。思っていたんですよ。

 それがふたを開ければカオス極まりないんです。

 試着をするというから待っていれば、突然下着で出てきて引っ張り込もうとしてくるし、まだ時期も早いのにやけにギリギリな水着を試着して、ギリギリを強調して、失敗して少し見えるし。

 ……。

 違うんだよ!!!

 俺が求めてたのは、確かに、エロイことも欲してたかもしれない!

 でもさ! 違うじゃん! これじゃないじゃん!

 だって見せてくるんだよ!?

 見せてきちゃダメじゃん!

 見られたら「きゃ…きゃああ!!! 変態!!」くらい言わなきゃじゃん!

 なのに何よあの、

「太一くんは、生えてる方が、いい…?」って。

 はあ!!!? だよ!!!!

 先輩は先輩で何しだすかと思えば、

「ほら見てこの下着! 可愛いねえ~」

 いやいや、男子の後輩に何を聞いてんの? 

馬鹿なの!!? 誘ってんの??!!!!


「ハアアアあぁぁぁぁぁ……………」

 お昼時を過ぎると客足がどっと増え始めた。

 多くの客がすれ違っていくが、二人の女子に腕をとられ、振り回される可哀想な男子高校生のことを、奇異の視線で見るものはいるが、同情してくれているものはいそうにない。

 帰りたくなってから既に二時間以上が経過していた。

 ため息はとどまるところを知らない。

 にもかかわらず、この二人はため息の原因を、

「ほら、太一くんが困ってるじゃんか、もうあなたは帰った方がいいんじゃない?」

「何を言ってるの、あなたのほうが帰った方がいいんじゃない?」

と、お互いに擦り付け合うだけで、解決いようとはしてくれない。というか、解決する方法を「お前がいなくなればいい」と捉えているようなので、もはや諦めているようですらある。

「どうする太一くん。お昼ごはんにする、それともクレープとか食べる?」

 身長的に必ず上目遣いになる鷲崎先輩は、それだけでなく、ワイシャツのボタンを上何個か開け、谷間を強調しながら聞いてくる。

 押し当てられるその双丘を、一瞥してから小さくため息をついて、

「そうですね、混んでますけど座って落ち着きたいんで、お店に入りましょうか」

「は~い」

「先輩もそれでいいですか?」

 鷲崎先輩を睨み過ぎて眉間に皺のよった美人に問いかける。

「うん。私ピザが食べたい」

「じゃあファミレスにしますか」

「さんせ~」

 ということで、サから始まりアで終わるファミレスの店舗に入った。


「ご注文、お決まりでしょう、か?」

 店員さんは非常に困惑し、俺はひたすらに目をそらし続けることしかできなかった。

 心優しい店員さんは、若干に引きつりながらも笑顔を保ち、机の下で蹴り合う二人の注文を忠犬よろしく待っていてくれる。

(ご…ごめんなさい…)

 俺は心の中でしか謝る事が出来ないが、この二人はメニューを取り合い喧嘩を続ける。

「あんたはピザ食べるって言ってたじゃない!」

「ちょっと見るくらいいいでしょ?!」

 なにででも喧嘩できるんだな、この二人。さすがにもう関心するレベルなんだが…。

「あ、取りあえず俺はこのナポリタンとドリンクバーでお願いします」

「はい。承りました。お連れ様は…」

「また呼びますので…」

「わかりました。それではごゆっくり」

 ほんとありがとうございます。

 ぺこりと一つお辞儀をした。

 結局、先輩は普通のピザ、鷲崎先輩は無難なドリアで食事に入った。

 あんなに喧嘩したくせして大して食わないとか、本当に超迷惑だな…。



 薄暗くなった駅前を三人で歩いている。二人はもうけんかしていない。

 昼食を終え、店員さんに小さく「うるさくしてごめんなさい」と「ごちそうさま」を合わせて言い、会計を済ませてから店を出ると、何があったか聞きたくなるほど先輩二人が仲良くなった。

 そんなこんなでショッピングはつつがなく進み(本当に何があったの、お腹が空いてて喧嘩してたの?)、俺の持てる荷物の限界量がはっきりとわかるほど買い込んだ。



((あのウェイトレス、あいつだけは近づけては駄目だ))


 汚い咀嚼音は、店中に聞こえる。


「先輩、もの食べるの下手だったんですね…」

「昨日の時点で分かってはいたけど、より酷い…」

「み…!見るなあ!!!」

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