バスプロ
『それでは登場してもらいましょう! 一刀両断! 菊島明宏プロ。大ベテラン! 川藤浩二プロ。そして、前年度JBエリート5! 今年は年間王者掴めるか! 青井大介プロでーーーーす!』
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
大歓声と共に、ステージに三人の男が並んだ。
それを見て、タカシは驚きの表情を浮かべる。
「おい、レイ。青井って、まさか!」
「そう! 私のお兄ちゃんよ!」
「な、なんだと! めちゃくちゃ有名人じゃねえか!」
興奮したタカシはステージに見入った。
『それでは、三人のトッププロに今大会への意気込みを聞いてみましょう! まずは菊島プロ! どうですか?』
「意気込みやて? ダメダメ! あかんですわ! 水が終わっとる。まあ、それでも釣るのがプロやけどね」
『ありがとうございます! 次に川藤プロ、どうでしょうか?』
「そうですねえ、僕も菊島君と同意見かな。これじゃリミットを揃えるのが精一杯だね」
『ありがとうございます! 最後に青井プロ! いかがですか?』
「前の二人と同じです。二日前に降った大雨の影響で、普段はクリア(透明)な水がクリーム色に濁ってる。これじゃ通常の芦ナ湖の釣りは通用しないはずです。プラ(練習)でもいい感触は掴めなかったし、厳しい試合になりますよ、今日は」
『ありがとうございます! 御三方の意見をまとめると、とても厳しいコンディションでの波乱の展開が起きそうな予感です! さあ、まもなく試合開始です!』
そのアナウンスの声を最後に、各選手準備に入り始めた。
タカシには今のプロ達の話が理解できなかった。しかし、最悪の状況でトーナメントが開かれるという事だけはわかった。
****
「レイちゃん! ここにいたんだね! お兄ちゃん探したんだよぉ!」
先程ステージの上で真剣に話をしていた青井大介が、レイに抱きつこうとしていた。
しかしレイは、冷静に大介の顔に膝蹴りをお見舞いする。
「あばば!」
レイの膝をくらった大介は、そのまま大の字に倒れた。
「この変態バカ兄貴! いい加減妹離れしなさいよ!」
「わかってるよぉ。でも、レイちゃんが最近お兄ちゃんに構ってくれないから!」
「お、おいレイ! このシスコン野郎がさっきのプロかよ!」
タカシは大介のあまりの変わり様に驚きを隠せなかった。
「ん? レイだと? お前、人の妹を呼び捨てにするとは何事だ!」
大介はさっと立ち上がりタカシを睨みつける。
「もう! ケンカしないで! お兄ちゃん、コイツが今日のお兄ちゃんのパートナーよ!」
「え? マジかよ! 俺のパートナーはレイちゃんじゃないの?」
「もう! 言ったじゃない! バスプロになるいい人材がいるって!」
「あれ? そうだっけ? ごめんごめん! 忘れっぽいからなー俺。まあ、でもレイちゃんの事を呼び捨てにするようなガキと一緒に、釣りなんてできないよな? ああ?」
「こっちだって願い下げだ変態兄貴さんよお!」
タカシと大介は睨み合いを始めてしまった。
「ちょっと! 二人ともマジでやめてよ!」
どうにか離れさせようとするが、二人は聞く耳を持たない。すると、
「おやおや、若い人達は威勢がいいねえ。試合前だと言うのにねぇ。羨ましい限りだ」
三人いたプロの内の一人、川藤プロが、おもむろに話しかけてきた。
大介はタカシといがみ合うのをやめ、川藤に向き合う。
「お、おい............え?」
急に態度を変えた大介に文句を言おうとしたタカシだったが、大介からにじみ出る殺気のようなものを感じ、口をつぐんだ。
「川藤さん。これは新しい才能を教育してるんですよ。僕はどこかの誰かさんと違って、出る杭を打つ主義ではないので」
「おや、そうなのかい? 気分を悪くしたなら謝るよ。まあでも、期待のルーキーが同乗者と遊んでて、入賞を逃すなんて事があったら大変だと思ってね。親心みたいなもんさ。ははは」
「お気遣いありがとうございます。でも、この濁りですからね。川藤さんお得意のサイト(見えているバスを釣ること)もできないんじゃ、ぼくの心配をしていてもしょうがないかなって」
タカシは、二人の間に目に見えない緊張が走るのがわかった。思わず、ゴクリとツバを飲み込む。
(クソジジイ。てめえの時代はもう終わってんだ! このトーナメント、新米ルーキーがいただくぜ!)
(いい度胸だな青二才! 核の違いを見せつけてやる! 死ぬ気でかかってこい!)
無言で睨み合う二人の間に、イナズマの様な電流が流れているように見えた。
(お、おい、なんだよこれ! 釣りの大会だろ!? なんでこいつら、こんなにマジなんだ!? これが......バスプロか!)
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