芦ナ湖
日曜日、AM5:30
「ここが芦ナ湖か......」
タカシの目の前には広大な湖が広がっていた。
既に周りは明るく、うっすらと霧が立ち込める芦ナ湖のボート乗り場。既に会場は多くの人やボートで溢れかえっていた。
「あいつ遅すぎる! 何やってんだか......あ! 来た!」
ぼーっと立っているタカシを見つけたレイは、急いでタカシの元へ向かう。
「何してたのよ! 全く! もう開会式始まっちゃうわよ! これが公式戦だったら、ペナルティなんだから!」
「ご、ごめん!」
会場の雰囲気を察し、さすがに悪いと感じたのか、タカシは素直に謝った。
「まあ、いいわ。さっさと受付して、開会式に参加しなさい!」
そう言うと、レイはタカシの手を引っ張って受付所へと向かう。
「すいませ〜ん! 遅れてきちゃって! まだ、参加受付って間に合いますか?」
「大丈夫だよ! あれ? 君は青井君の妹さんじゃないかい? 兄妹で参加とは、さすがJBエリート5だねえ」
受付のおじさんは感心したように言った。
「いいえ、違います! 参加するのはコイツ!」
レイはタカシの背中を叩き、おじさんの前に突き出した。
「君? 見ない顔だね〜。NBC戦績はどのくらいだい?」
すると、タカシより先にレイが喋り始める。
「おじさん! コイツ、今日が初めてなんです! エキシビションだから、別に素人が参加しても大丈夫ですよね?」
「おい、その参加って何だよ! 俺は別に大会に出るとは言ってねえぞ!」
タカシは不満そうにそう言った。しかし、
「はあ? 何バカなこと言ってんのよ! ここに来た時点で、大会に参加しますって言ってるようなもんでしょ! わかったら、黙って受付する!」
レイの気迫に押されて、タカシは渋々受付用紙に名前を書く。
「初めてかあ。いいねえ、若いってのは。プロとペアになるなんていい思い出だ!」
「違げえんだよ! おっちゃん! 俺はな......」
「はいはい、変なこと言ってないで受付が済んだらすぐに開会式よ!」
なんとか受付を済ませたタカシは、レイに引っ張られて開会式の行われるステージへと向かった。既にステージの周りには多くの人だかりができていて、みんなまだかまだかと待ちわびていた。
そんな人だかりから少し離れたところで、二人は開会式を見る事にしたのだが......
「おい! なんだよ参加って! 俺は何にも持ってきてねえぞ!」
「いいのよ! お兄ちゃんのお下がりをあんたに貸すから」
「はあ? なんだよそれ! 俺はまだ釣りを始めるとは言ってねえんだぞ!」
「うるさいわねぇ! とにかく、一度だけでもプロの試合を見てみないことには、あんたも決断できないでしょ?」
「それは......そうだけどよ......」
レイに反論できなくなったタカシは、そのまま黙ってしまった。しかし、そのおかげかタカシの耳に開会式のアナウンスが聞こえ始める。
『さあ、遂にこの日がやって参りました! 芦ナ湖、スペシャルエキシビションタッグトーナメント! 各NBCチャプターで活躍するアマチュアトーナメンターの方から、普段は陸っぱり一筋のチャリンコバサーまで! たくさんの方にお集まりいただき、誠に光栄です! 本日はスペシャルゲストとして、日本のバストーナメント最高峰で活躍するこの3人にお集まりいただきましたああああ!』
「「「「待ってたぞおおおおおおお! うおおおおおお!」」」
「なんだ? すげえ盛り上がり方だな。有名人でも来るのか?」
タカシは会場の気迫に押されて小声でレイに聞く。
「今の日本のバストーナメントの第一線で活躍する人達よ。もしもあんたがアメリカに行きたいなら、あの人達を倒していかないとね」
「......ゴクリ」
タカシは、緊張した眼差しでステージを見上げた。