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BASS☆MASTERZ  作者: 江戸川維新07
第1話
4/21

飛べない鳥

「タカシのやつ、バスケ部の練習ジャマしてそのままいなくなるなんてマジサイテ〜! 見つけたらタダじゃおかないんだから!」


「まあまあ、レイちゃんとタカシ君は幼馴染おさななじみなんでしょ? 許してあげなよ。それに、タカシ君もイロイロと心の整理がつかないんじゃないかな」


「それは......そうだけどさ......」


 バスケ部の練習後、レイとマネージャー仲間の増田梓ますだあずさは、仲良く帰り道を歩いていた。

 タカシの話題でヒートアップしていた二人だったが、おもむろにレイが立ち止まる。


「あれ? なんか聞こえない?」


「え? 何も聞こえないけど。空耳じゃない?」


「ううん。聞こえる。この音、誰かがドリブルしてる音だ」


 それは、夜になり人気ひとけの無くなった大きな市民公園の方から聞こえてきた。


「ここって、ストバス(ストリートバスケ)用のバスケットゴールがある所だよね? 誰か試合してるのかも! 見に行こっ!」


「え? ちょっとレイちゃん! もう遅いから帰ろうよ!」


「いいからいいから! ちょっとだけだって!」


 そう言うとレイは、半ば強引にあずさを引き連れて音のする方へと歩を進めた。


「あ! あいつ! こんな所で遊んでたのか!」


「あれは、タカシ君?」


 バスケットゴールの近くまで来ると、タカシが一人で練習をしているのが見えた。ちょうどシュートを打つ体制に入っている所だった。


「こらあああ!タカシいいい!」


「あ、ちょっと、レイちゃん待って!」


 レイは怒りの声をあげて、制服の腕をまくりながらタカシに近づいて行った。

 しかし、タカシに近づくにつれ、レイの怒りはだんだんとおさまっていく。その代わり、ひとつの疑問が浮かび上がった。


(あれ? あいつ、なんでシュート打たないの?)


 タカシはシュートを打つ体制になったままピクリとも動かない。

 その内、近くまで来たレイに気づいたようだった。


「なんだ、レイかよ。びっくりさせんなよ」


 タカシはシュートの体制のままそう言った。


「あんた......もしかして......」


「ああ、これか? ついに見られちまったな。笑えよ。高校MVPがこのザマだ」



 タカシの膝は震えていた。



「怖ぇんだよな。シュート打とうとすると、あの時の記憶が蘇ってくんだよ.........なあ、レイ。笑っちまうだろ?」


「そんな、笑うなんて......」


「小学校の頃の作文にさ、将来はアメリカに渡ってNBA選手になりますって書いてたんだぜ。本当バカだよな。あーあ、俺の六年間はなんだったんだろうな......」


 ゴールを見上げるタカシの目からは、涙が溢れていた。


 レイとあずさはタカシにかける言葉を探す。しかし、タカシの気持ちを考えると中途半端な慰めの言葉など、なんの意味も持たないことに気づいた。

 レイは黙ったまま、まだボールを離さないタカシに近づき、後ろから優しく抱きしめる。

 ボールが地面に跳ねる音を最後に、タカシのすすり泣く声だけが響き続けていた。

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