飛べない鳥
「タカシのやつ、バスケ部の練習ジャマしてそのままいなくなるなんてマジサイテ〜! 見つけたらタダじゃおかないんだから!」
「まあまあ、レイちゃんとタカシ君は幼馴染みなんでしょ? 許してあげなよ。それに、タカシ君もイロイロと心の整理がつかないんじゃないかな」
「それは......そうだけどさ......」
バスケ部の練習後、レイとマネージャー仲間の増田梓は、仲良く帰り道を歩いていた。
タカシの話題でヒートアップしていた二人だったが、おもむろにレイが立ち止まる。
「あれ? なんか聞こえない?」
「え? 何も聞こえないけど。空耳じゃない?」
「ううん。聞こえる。この音、誰かがドリブルしてる音だ」
それは、夜になり人気の無くなった大きな市民公園の方から聞こえてきた。
「ここって、ストバス(ストリートバスケ)用のバスケットゴールがある所だよね? 誰か試合してるのかも! 見に行こっ!」
「え? ちょっとレイちゃん! もう遅いから帰ろうよ!」
「いいからいいから! ちょっとだけだって!」
そう言うとレイは、半ば強引にあずさを引き連れて音のする方へと歩を進めた。
「あ! あいつ! こんな所で遊んでたのか!」
「あれは、タカシ君?」
バスケットゴールの近くまで来ると、タカシが一人で練習をしているのが見えた。ちょうどシュートを打つ体制に入っている所だった。
「こらあああ!タカシいいい!」
「あ、ちょっと、レイちゃん待って!」
レイは怒りの声をあげて、制服の腕をまくりながらタカシに近づいて行った。
しかし、タカシに近づくにつれ、レイの怒りはだんだんとおさまっていく。その代わり、ひとつの疑問が浮かび上がった。
(あれ? あいつ、なんでシュート打たないの?)
タカシはシュートを打つ体制になったままピクリとも動かない。
その内、近くまで来たレイに気づいたようだった。
「なんだ、レイかよ。びっくりさせんなよ」
タカシはシュートの体制のままそう言った。
「あんた......もしかして......」
「ああ、これか? ついに見られちまったな。笑えよ。高校MVPがこのザマだ」
タカシの膝は震えていた。
「怖ぇんだよな。シュート打とうとすると、あの時の記憶が蘇ってくんだよ.........なあ、レイ。笑っちまうだろ?」
「そんな、笑うなんて......」
「小学校の頃の作文にさ、将来はアメリカに渡ってNBA選手になりますって書いてたんだぜ。本当バカだよな。あーあ、俺の六年間はなんだったんだろうな......」
ゴールを見上げるタカシの目からは、涙が溢れていた。
レイとあずさはタカシにかける言葉を探す。しかし、タカシの気持ちを考えると中途半端な慰めの言葉など、なんの意味も持たないことに気づいた。
レイは黙ったまま、まだボールを離さないタカシに近づき、後ろから優しく抱きしめる。
ボールが地面に跳ねる音を最後に、タカシのすすり泣く声だけが響き続けていた。