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8話 村の英雄

 そのあと、ファイヤボールは20発ほどで撃てなくなり、最後はただの鬼ごっこになった。

 はじめは2発が限度だったファイヤボールが20発も撃てたのは、魔力がそれだけ上がったということなのか?

  でも、ファイヤボールは1発しか撃ってなかったのにそんなに急に上がるもんなのだろうか? ゴブチン倒してレベルアップして上がったとか? そんなにあがるもんなのかな?

 そんな疑問も残りつつ俺たちは村の噴水広場まで帰ってきた。


「はぁはぁ……アリサ、おまえなんでそんなに元気なんだよ……」


  トイレさんは膝に手を置き肩で息をしながら言ってきた。


「えー、だって暴れたりなかったんだもん!」

「はぁはぁ……恐ろしいやつだな……まだ四時半か……おまえのせいで30分も早く着いたぞ……はぁはぁ……」


 本当に疲れてるみたいだ。

 まぁ、後ろから爆発物(ファイヤボール)を撃たれながら走ってたんだから無理もないか……。


「いいじゃないか! それに早くフローラルさんに会いたいだろ?」

「おー、我が愛しのフローラル!」


 フローラル、この一言が出ただけで急に背筋を伸ばし、さっきまで息を切らしていたのが嘘のように声を上げた。

 クエスト管理局行ったらこいつが何もしないように注意しないとな……。


「フローラルー! うひょー!」


  さっきのは失言だったな……。こいつまた別の世界に旅立ちやがった……。


「おい、帰ってこい! それより早くステイタス更新しようぜ!」

「フローラ……はっ! 俺は何を!?」


 まるでなんかの呪いにかかってるみたいだな。ほんとに大丈夫かよ……。


「だからステイタスを更新しようって!」

「あー、はいはい! しようしよう! アリサのステイタスがどうなったか気になるもんな!」


 俺はガラスの玉ところまで行き、ガラス玉に右手を置いた。

 置いた瞬間、視界にステイタス画面が出てきた。急に出てきたから驚いて声を上げてしまった。


「わっ! なんか出てきた!」

「初めてやると驚くよな。で、どうなってるよ?」

「読めないんだけど、朝見たときと順番が同じなら、力223、耐久121、敏捷285、知能434、魔力78だな。――耐久上がってなくね?」

「攻撃一発も食らってないってことか……すごいな……」


  すごいと言われても、上がってくれないともしもの時とかに困るのであまり嬉しくない……。


「いつか上がるのかこれ……?」

「頑張って攻撃に当たってください」

「嫌だよ!」


  自分から好きで攻撃に当たるやつなんているわけないだろ! ――Mでもない限り……。


「それより、全体的に上がりすぎじゃないか? 一日で上がる量じゃないぞ?」

「そんなこと言われても。それなりにゴブチン倒したし」

「それにしてもな……。というかおまえ知能が上がってないか?」

「うん、上がってるね」

「何でだよ!」


 何を驚いてんだ? ゲームみたいに戦ってステータス上がるのは普通だろ? ——あ、そうか。この世界ではそうでもないんだっけ。知能=頭の良さ、だったっけな? それなら何も考えずにただモンスターを倒してるだけだったら上がらなくても不思議じゃないか。


「この世界のこといろいろ知ったから? 剣での戦闘を知ったから?」

「何でそんなことで上がってんだよ!」

「知らないよ」

「こんなんじゃすぐ抜かれそうだな……」

「すでに知能は勝ってるから抜きようがないな」

「くっ……悔しいが何も言えない……」

「あ、それと一つ疑問なんだが、なんで俺の魔力こんなに上がってんだ?」

「おまえ、レベルいくつになってる?」


  そう言われ、俺は自分の視界にステータスを表示させた。


「レベル? えーっと……これかな? 5って書いてある」

「やっぱそのレベルだとすぐに上がるな。多分レベルアップのボーナスが全部魔力に行ったんだと思う」

「あー、そういやそんなこと言ってたな」

「そのボーナスが1レベ上がるごとに、一番必要なところに10入るから、それとさっきの鬼ごっこの時の合わせてそうなったんだろ」

「なるほど、納得」

「にしてもすごい上がり方だよ」

「それは良かった。ところでおまえはどうなんだ?」

「俺は戦ってないからなー」


 そういってトイレさんはガラス玉に手をのせた。

  俺の時と同じならステータスは手を置いた瞬間に視界に出てくるから、そろそろ読み終えてもおかしくないのに何の反応もない。


「どうなんだ?」

「……敏捷が20上がってる……」

「え? 何もしてないのに何で?」

「おまえとの鬼ごっこだろ! 10キロもダッシュさせやがって!」

「結果オーライだろ!」

「ぐっ……そうだけど……」


  トイレさんはどこか納得いかないと複雑な顔をしている。


「早くクエスト管理局に金もらいに行こうぜ!」

「クエスト管理局! フローラルー!」

「ほんとに元気になるな……」


 トイレさんは村の中をそのまま叫びながら走り出した。俺は置いていかれないように、知り合いだと思われないように後を追った。

  大声で女性の名前を叫びながら町中を疾走する人の仲間だなんて思われたら、俺も変人、いや、変態と思われてもおかしくない。そんなとばっちりなんて受けたくない。


「フローラルー! あー、早く君に会いたい!」

「……」


 道を歩いている人が、道沿いに並ぶ店にいる人がトイレさんの声に気づくなり道を開け、笑いながら口々に何か叫んでいる。


「おー、オテアライ! 今日も派手にやられに行くのか?」

「これで何度目だー」

「よく壊れないな! 肉体的にも精神的にも!」

「応援してるぞー!」

「死ぬなー!」


 こいつ、村で有名になるほどアタックしてるのか……。もうなんと言うか、キモイを通り越して尊敬するな……。

 というか、さっきの言い方だと昼の精神的にダメージを与えるやり方以外に物理的な物もあるのか……? あの人あんな穏やかな顔しといて実はめっちゃ怖いのか? あんな優しそうな人がか? あまり考えられないな……。

 俺たちはそのまま村の人たちの声援を浴びながら、クエスト管理局の前まで来た。


「あー、めっちゃ恥ずかしかった……」

「今日こそはフローラルを振り向かせてみせる!」


 その一言で、いつの間にか俺たちの後ろにいたたくさんの村人が口々に頑張れよと叫んでいる。

 いつの間にこんなに人が……。これじゃあまるでこれから旅に出るどこかの英雄だな。これから何が起こるというんだ……?

 そう思い、近くの人に聞いてみた。


「あのー、これから一体何が起こるんですか?」

「お? 兄ちゃんこの辺来てまだ日が浅いのかい?」

「はい、今日来ました」

「じゃあ知らなくて無理ないね。これからな、英雄が私たちを導いてくれるんだよ!」

「はい……?」


 だめだ、さっぱり分からん。というか、トイレさんほんとに英雄だったのか……。

 何が起こるかさっぱり理解できないが、これからトイレさんが何かとてつもないことをやらかしてくれるということは分かった。


「アリサ!」

「へ?」

「行ってくる!」


 そういってトイレさんはクエスト管理局の入り口へ歩いて行った。

 これから何が起こるのか未だに全く理解できていない。いないのだが、思わず敬礼をしてしまった。

 あれは、これから戦いに命を捧げ何かを成し遂げるために行く覚悟を決めた目、そんな男の目をしていた。俺の中の何かがそれを反射的に感じ取り体を動かしたのだろう。

 みんな口々に叫び、英雄の旅立ちを祝っている。その英雄は前を向いたまま後ろに手を振り中に入っていった。

 トイレさんの姿が外見に対して違和感しかないガラスの自動ドアの後ろに消え、見えなくなったと思ったら、観客は手を胸の前で合わせ、クエスト管理局に向かって軽く頭を下ろした。クエスト管理局の神社のような見た目と合わさり、神社と参拝者みたいな風景になっている。

 みんな急にどうしたというのだ……?

 そのとき、中から旅立った英雄の声がした。


「フローラルーーー!うぐっ……がはっ…………」


 トイレさんが声を上げながら走って行ったと思ったら、まず何か堅い物で何かを殴ったような鈍い音とトイレさんの鈍い声がして、次の瞬間に中で爆発が起き、トイレさんが屋根を突き破って俺達の前に降ってきた。トイレさんはそのまま地面に倒れ、動かなくなった。

 中で何があった…………。

 周りの人はそれを見届けると死にかけているトイレさんを心配することもなく、自分たちの持ち場に帰っていった。みんなどこか満足げに口々に言っている。


「今日も美しい飛び方だったな」

「俺もう一回トベナイブタに勝負挑んでくる!」

「こいつを見ているとわしもまだまだ何かやれそうじゃのう……!」

「うおー! ピーナッツ! 俺はまだ君を諦めないぞー!」


 えーっと、何というか、どうやらみんなの希望になってるみたいだ……。

 自らを犠牲にし、人々に希望を与える――なるほど、確かに英雄だ。


「おまえの犠牲、無駄にはしない……」


 俺は横たわってピクピクしている英雄にそう告げて、クエスト管理局に入った。


「もう! フローラル! 毎日ここを壊さないでよー!」

「えへへ、ごめんなさい」

「ほら早くそんな物しまった! 次の人来てるわよ!」


 そう言われフローラルさんは、手に持っていた1.5メートルほどの棍棒を後ろに置き、こちらを向いて穏やかに笑った。


「あら、お帰りなさい。アリサちゃん」

「た、ただいまかえりました……」

「ゴブチンいっぱい殺せた?」

「は、はい……」


 あんな光景を見さされたあと、しかも後ろにとても大きな棍棒がある状態で、この人の殺すという言葉を聞くとそれだけで逃げたくなる。

 というか、足が震えて立っているのがやっとだ。


「では、この血の色をした玉の上に手をのせてください」

「は、はい……」


 そんな言われ方をするとのせたくなくなってくる。

 でも、もし言うことを聞かなかったら、俺も天高く舞い上がってしまいそうな気がするので大人しく言うことをきこう……。


「ゴブチン30体とカシコイゴブチン1体、それにマホウツカイゴブチン1体ですね?」

「は、はい」

「たくさん殺しましたね! ですがこれは本来なら中級クエストに入る物ですね――」

「は、はあ……」

「本来なら後ほどお金を請求して貰うことになるんですが……面倒くさいからいいですよね?」


 いいわけがない……。だいたい職員がそんなてきとうなことしていいのか!――と言いたいが、言ったらもう明日が来ない気がするのでやめときます……。


「も、もちろんです!」

「あら、じゃあそうさせていただきますね! では、報酬の10000コスです」

「あ、ありがとうございました……」

「クエストお疲れ様でした」


 フローラルさんの穏やかなみに見送られて外に出た。

 後ろでガラス戸が閉じやっと体から力が抜けた。


「あー、疲れたー……」


 クエストの数倍は疲れた。あれを物ともせず、あのテンションで向かっていけるトイレさんは結構すごいのかもしれない……。

 そして、そのトイレさんはまだ倒れていた。


「おーい、生きてるかー!」

「くそー、次こそは!」


 トイレさんは寝たまま悔しがり、すでに次のことを考えているようだった。


「大丈夫みたいだな……」

「お、アリサ! 報酬もらったか?」

「ああ、もらったよ……」

「なんか元気ないな? さてはフローラルの魅力にやられたな!」


 悪いがそれだけはない。あんなことをされたのによく魅力だの言えるな……。ほんとにすごい奴だ。


「俺、おまえをほんとに尊敬するよ」

「おー、そうかそうか!」


 俺に哀れみの目を向けられているとも知らず、トイレさんは誇らしげに威張っている。

 ほんと、なんて言うか、うん…………。


「ところでアリサ、この後あいてるか?」

「え? あいてるけど?」

「よし、じゃあ飲みに行くか!」

「え? なんで?」

「おまえの初クエスト祝いだよ! 金出すからさ!」


 よっしゃただ飯ゲット! トイレさんまじリスペクトっす。

 俺は思いもよらない食事の誘いに喜んでのることにした。


「それなら行ってやろう!」

「お! そうこなくっちゃ!」


 そして俺たちはそのまま酒場に向かい、そこで俺は人生初酒を飲んだ。

 だが、俺は知らなかった。

 このお金節約したいが為にのった宴が、俺に数々の悲劇をもたらすということを…………。


 ◇◆◇◆TO BE CONTINUED◇◆◇◆


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