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6話 初クエストへ出発

俺たちは再び噴水広場に帰ってきた。

 そしてさっき見ていたピンクのクエストボードの前に来た。


「どのクエストに行く?」

「俺、読めないから。なんかある?」

「どんな討伐クエストにするんだ?」

「そうだなー……戦いがいのあるやつがいいから、出来るだけ数が多いやつ! あ、出来れば報酬も……」


 モンスターと戦えるということで頭がいっぱいだったが、目的は金稼ぎなんだよな……。せめて今日の宿代ぐらいは稼がなければ……。


「数の多いやつか————それと夕方には帰れた方がいいから近めのとこがいいよな……」

「そうなるな」

「——おっ! これなんかどうだ? 『ゴブチン討伐 ×20体 報酬10000コス 場所は東の湖のほとり』」

「20か、いい数じゃないか」

「あぁ、二人で倒してもそこそこやり応えあるぞ!」

「二人? は? 何言ってんだ?」

「え?」

「俺一人でやるに決まってるじゃん」

「いや、無理だって! 20体だと袋叩きにされたら中級者でも危ないよ!?」

「だからどうしたの?」


 こいつは何を言っているんだ。そもそも一人で行く気だったんだ、一人で倒すと言っても不思議じゃないだろ?

 だいたい一人でやらなければ自分の実力がはかれないだろ?


「俺は何のために行くんだよ?」

「え?…………道案内?」

「道案内?俺の役割それだけ……?」

「何か不満でも?」

「不満だらけでしょ!」

「へー、だから?」

「だからって…………ほんとに一人でやるの?」

「さっきから何度も言ってるだろ?」

「うーん……分かった。でも、やばそうだったら手を出すからな!」

「そうだな、間違ってそっちになんか飛んでった時のためにもポケットからは手を出しとけよ」

「おまえ聞いてる!?」

「……」

「無視するな!」

「あ、ところで東の湖ってここから遠いのか? というかそこっておまえが俺を沈めようとした場所だよな?」


俺が無視を貫いていたらトイレさんも諦めたらしく、最後に少し不満げに俺の身を案じてくれた。


「くっ..おまえほんとにむちゃはするなよ?」

「はいはい。で?」

「東の湖ね。あれはこっちに向かってだいたい10キロほど行ったところだよ」


 そう言ってトイレさんは俺が仮に決めた東の方角を指した。

 どうやら太陽の動き方と方角の表し方も同じみたいだ。これだけ同じなら他にもいろいろと同じことがあるかもしれないな。


「10キロか往復2時間近くはかかりそうだな」

「そうだな」

「今何時だ?トイ……オテアライ」

「えーっと、12時30分くらい」

「クエスト管理局に行くことも考えて……2、3時間は狩れそうだな!」

「飯はいいのか?」

「いらない。動きにくくなるし出来るだけ多く狩りたい」

「まぁ、いいけど……20体でいいんだぞ?」

「そのつもりだよ? でも向こうからけんか売ってくるの殺るのは問題ないよね?」

「アリサなんてかわいい名前してるのに……」

「次かわいいなんて言ったら殺すぞトイレ」

「す、すいません…………ん? トイレ? なんでトイレ?」


 あ、しまった、ついついムカッときて言ってしまった。さて、どう言い訳するかな……。

かと言っても、うまい言い訳がそんな急に思い浮かぶわけも無く、適当に言葉を並べてみることにした。


「あー、えー、昔いじめっ子がいました」

「は?」

「そいつがいつも俺に言うんだよ。バーカ、バーカって」

「おまえ急に何を」

「そこで俺は言ってやったんだよ! バカって言う方がバカだ! ってな」


 我ながら何を話しているのだろうか……。

トイレさんも何を言ってるのかさっぱり理解できないという顔でこちらを見ている。

「————で、それがどうしたんだよアリサ」

「つまりそういうことってことだ」

「なるほど分からん」

「俺も分からん」

「じゃあ何だったんだよ!」

「…………さて、クエスト管理局とやらにクエスト受けに行くか!」

「ほんとになんだったんだ……」


***


 クエスト管理局に着いた。外見は神社みたいなくせに、中はホテルのロビーみたいだ。

 随分とむだに金を使ってるな……。

 驚いたのは従業員だ。みんなとても綺麗な女性でこの内装には全く似合わない着物を全員着ていた。

 これも王様の趣味なのだろうか?

 唖然としているとトイレさんが一人の従業員のカウンターの方へ歩いて行った。俺もその後をついて行った。


「やぁ、フローラル」

「あら、オテアライさん!」


 どうやら知り合いのようだ。

 この従業員の女性の名前については何も言わないでおこう。女性の名前について何か言うのは男として出来ないからな……。


「今日は何のクエストを受けに来たんですか?」

「今日はこいつとゴブチン狩りにな」


 そう言ってトイレさんは俺の肩をガシッとつかんで前に出した。


「あら、この子は? お友達?」

「あー、こいつは今日、村で出会って困ってたからいろいろと教えてあげてたんだよ」


 女性の前だからと調子に乗ってるのは気に食わないが嘘は言ってないし、ここは相手への礼儀もあるしちゃんと挨拶しておこう。


「えー、お初にお目にかかります。私は貝原有沙かいはらありさと申します」 

「ご丁寧にどうも、アリサちゃん。私はフローラル・カオリと申します。よろしくね」


 そう、とても穏やかな笑みを浮かべて言ってきた。

 悪気はないのだろう。だから何も言えないが、俺は男だ。どっからどう見ても男だ! こんな鉄の胸当して赤いロングコートを着た女がいるわけない。

 それと名前! いろいろと言ってやりたいけど相手は女性だしとてもいい人そうだ。

 何も言えないな……我慢……我慢……


「オテアライさんとアリサちゃんはお知り合いで?」

「いえいえ、アリサちゃん……コホンッ……アリサちゃんとは今日初めて出会いました」


 こいつ今わざと二回言ったよな? こいつにアリサちゃんと呼ばれるのは許せない。

 ということで、トイレさんに貰った黒いグローブを付けた右拳で後ろからどついてやった。


「いやー、こいつがですね……グハッ」


 背中を殴ったらグローブのおかげか、予想以上に威力が出た。

 このグローブすごいな……魔力込めたらどうなるんだ…………。

 トイレさんは殴られたのと、そのままカウンターに腹をぶつけたので、面白い格好でうなっている。

 へっ、ざまぁ。


「あらあら、二人とも仲がよろしいんですね」


 ほー、今のを仲がいいと見たか。この天然ぶりはすごいな。トイレさんはこういう人がタイプなのか?

いや、この人が童顔だからか…………。


「そ、そうなんですよ……ははは……」


 面白い格好のまま笑顔を崩さずトイレさんは言った。

 凄いなこいつ……。


「お二人はこのクエストをお受けにになるんですよね?」

「は、はいそうです……うっ……」


トイレさんは腹と背中を抑えながらも笑顔を保っている。


「お二人で20匹も殺すんですか?」


こちらも穏やかな笑顔を保ったまま言った。

 お姉さん、殺すではなくて倒すといった方がいいのでは————なんてことも、言いたくても言えない。


「い、いえ……正確にはアリサが一人で……っ」

「あら、そうなんですか?頑張ってくださいね!」

「はいっ……」


 お姉さん、目の前で死にそうな男の人にせめて何か声をかけてあげて————なんてことも言いたいが言えない。

 この人は天然なのか何なのか、ずっと穏やかな笑みを浮かべて淡々と話している。目の前のかわいそうな男に気づいてあげて欲しい……。


「はい。じゃあこれで手続き完了いたしました。それではアリサちゃん、お気をつけて!」


 そう深々と腰を下げて見送ってくれた。俺はフローラルさんに軽く頭を下げ、最後まで何も言ってもらえなかった男を連れて外に出た。

 こいつの後半の扱いひどかったな……最後に名前すら呼んでもらえてなかったし……。


「なんか、どんまい」


 とりあえず、俺の隣で落ち込んでいるやつを励ましといた。


「くそ、今日もかまってくれなかった!」

「今日も?」

「初めてフローラルを見たときにかわいいなって思って、もっとお近づきになりたいと思ったんだよ」


つまり一目惚れか?


「それで?」

「それでな、いろいろコミュニケーションをとってみようと思っていろいろしてみたんだよ」

「聞くのが怖いが聞いてやろう。何したんだ?」


俺は恐る恐る聞いたが、返答はやはり想像していたような事だった。


「えー、とりあえずスリーサイズ聞いただろ?それから……」

「ちょっとまて、女性にそれはないだろ……ちなみにいつ?」

「え? 初めて会ったときだけど?」

「……」


 こいつはどうしようもないバカだな。初対面の人にスリーサイズ聞いて仲良くなれるとでも思っていたのか? フローラルさんは天然なのかと思っていたけど、ただあの人なりの嫌だというアピールだったのかな? 少し同情するな……。


「今回の痛手を負った男作戦もだめか——次はどうしようかな?」


 だめだこいつ、もう次のこと考えてやがる……。

 フローラルさんには悪いが、俺も関わりたくないのでほっとかせてもらおう。


「次は……そうだ! いきなり後ろから抱きつく作戦でいこう!」

「やめとけ————そんなことより、道案内! どうでもいいからさっさと東の湖まで連れて行け!」

「え? じゃあ何がいいかな? うーん————」


 そんなことを一人つぶやきながらちゃんと歩き出した。時々(うな)り声をあげて頭をブンブンと振っているが、何にもぶつかること無く真っ直ぐ石畳の上を歩いている。

 いろんな意味で気持ちの悪いやつだ……。

 トイレさんは一人つぶやきながら噴水広場を左に曲がり、そのまま村の外を目指して歩き始めた。

 

***


 村を出て40分程経過した。もう湖は目と鼻の先と言えるところまで来ていた。湖は想像していたよりずっと大きく、とても綺麗だった。ここまでは運がいいのかモンスターとも出会わなかった。

 それはいいんだがこいつが————


「フローラルに愛の歌を送るのはどうだろうか? いや、でもやっぱりもっと刺激的な方が……」


 あの後からずっとこの調子だ。こいつ見ていると前の世界で親友だった拓実(たくみ)を思い出すな。

 あいつ今どうしてるかな……?

 でも、今はそんなことより————


「じゃあ、ダンスでも踊るか! それでフローラルも誘って……ぐへへ……」

「何がぐへへ……だよ! おい! おい! 帰ってこい!」

「フローラルー! ————はっ! 俺は何でここに!?」


記憶まで無いらしい……。

どうやら、歩きながら頭の中だけ別の世界にあったようだ。


「モンスターに出会わなくて良かったな」

「あー、多分それは無意識のうちに避けてたんだと思う」


 そういや、こいつのスキルは敵感知だったな。移動中に急に岩陰に隠れたり、走り出したりするからついにそこまで頭が……なんて思っていたが少し安心した。

 でも、無意識でそんなに歩きまわれるってそれはそれで心配だな……。


「とにかく、もうすぐ着きそうだぞ」

「え? もうそんなところ? あ! ほんまだ!」

「ほんとに大丈夫かよ……」

「でもまだここで良かったな!」

「ん? なんで?」

「覚えてないか? おまえに魔法を見せてやるって言ったの」

「あー、朝の噴水広場に向かうときのあれか!」


すっかり忘れていた。そういえば、こいつに魔法を見せてもらう約束をしてたんだっけな。


「村の中じゃなかなか試せる場所なかったからな」

「確かにな。それで何見せてくれるんだ?」

「そんな、たいした魔法じゃないぞ?」

「なんでもいいよ。どちらかというと覚えられるかどうかを確かめときたいだけだから」

「あ、そう。じゃあいくよー」


 そう言ってトイレさんは右手を前に突き出してフンッと言った。

 するとトイレさんの右手からサッカーボールほどの火の玉が出た。その火の玉は、まるで投げられたボールのように宙を舞い10メートルほど離れたところに落ち、爆発した。

 見た目のしょぼさに比べ爆発は思ったより大きかった。

 この魔法に名前をつけるなら見た目通りファイヤボール————ん?ファイヤボール……?


「これってまさか……」

「そう、俺の大好きな魔法! 初級火属性魔法ファイヤボールだ!」

「もっといいもの見せろよ……」

「おまえ知らないだろ? このスキルはな、詠唱なしで撃てるから逃走中でも手頃に撃てるんだぞ!」

「知るか! 逃走中なんてことそうそうないわ!」

「えー、よくあるのになー……」

「おまえと一緒にするな!」

「まあまあ、とりあえずやってみ」

「簡単に言うな!」

「あ、これから戦いだし軽く撃てよ? 抑えたら撃てたときにもう一回撃てるぐらいは残るから」

「そっか、俺の魔力ってゴミほどしかないんだっけ?」

「そうそう、他の魔法は無理だけどこの魔法なら今の魔力でも二発撃てる」


なるほど、たしかにこいつの言うようにもしもの時に魔法が撃てた方がいい事があるかもしれない。考えなしに動く馬鹿かと思っていたが、そうでもないのかもしれない。


「おまえ、そんなことを考えて————」

「いやいや、今のは今考えついた!」

「……」


 こいつは褒めるとだめなタイプだな……。


「よし、やってみろ!」

「はいよー」


 と、言ったはいいがどうするんだ? あいつは右手を前に突き出してフンッって言っただけだしな。

それを出来るだけ抑えて……?

考えても分からんな。やってみるか。

 俺は右手を前に突き出しさっきトイレさんがやっていたのを思いだしながら手に意識を集中させた。

 あいつのやっていたことを抑えて……抑えて………………はっ!

 ジュボッという音とともに、俺の右手からゴルフボールほどの大きさの火の玉が出て少し飛んで爆発した。大きさも飛距離もトイレさんのファイヤボールに比べるとそのしょぼさは歴然だ。

だが、この爆発ならモンスターをひるませる程度にはなるだろう。


「こんなのでよかったか?」

「まさかほんとに撃てるとはな……」

「だって初級魔法だろ?」

「見て覚えるときは何の魔法かなんて関係なしに覚えられない物なの!」

「そんなものなのか?」

「あぁ、よっぽど難しい魔法でもない限りな!」

「へー」


初級魔法なんて覚えられてもそんなに嬉しくはないが、覚えられたに越したことは無い。それに何らかの形で役に立つこともあるかもしれない。


「まあいい、とりあえずクエスト行くぞ!」

「そうだな」

「おまえにやらせてやる。ただし始めは近くの茂みに隠れて様子見るからな! 分かったな!」

「それぐらいはいいよ」

「よし!」


 そして俺たちは湖の周りの木々に隠れながら移動し、そこそこ広さのある湖のほとりの近くまで来た。

 気のせいか何か騒ぐような声やドンドンという低く響く音がしているような気がする。


「なぁ、トイ……オテアライ。なんか聞こえないか?」

「あぁ、聞こえるね」

「これ、何の音だ?」

「祭りだろ?」

「祭り!? なんでこんな所で?」

「ゴブチンが祭りでもしてんだろ?」

「え……モンスターが祭りなんてするの……」

「ゴブチンぐらいなもんだろ」


モンスターといえばほとんど知能も無く、プラプラとしてるようなイメージかあったんだが……。ほんとにこの世界には驚かされるばかりだな……。


「それで、俺は祭りを襲撃するのか……?」

「そういうことだ!」

「いくら相手がモンスターでも気が引けるな……」

「気にすることはない! なんせこいつらは、隠れ女性水浴びスポットであるこの湖を占領してやがるんだからな!」

「何でおまえがそんなこと知ってんだよ」

「女性が隠れて水浴びしてるところだぞ! 男として当然のたしなみだ!」


全く当然のたしなみとは思えないが、今の言葉を聞いて嫌な予感がしてトイレさんに問いかけた。


「覗いたりしてないよな?」

「は? 誰が覗くか!」


よかった。こいつもそこまで堕ちてはいないようだ。


「てっきりおまえなら覗いてるかと思った」

「俺はそんな姑息なことはしないよ」

「え?」

「俺は覗いたりせず、水浴びにまぜてもらう!」

「もっとひどい……」


その返答は予想もしていなかった……。

 こいつはどうしてそんなことが平気で出来るんだ……。なんかこのゴブチンたちを倒してもまた新たな危険が生まれる気がする……。


「ゴブチンには悪いけどもう行ってもいいかな?」

「待て、アリサ」

「なに?」

「覗いてみないと分かんないんだけど、ゴブチンが祭りをするときはだいたいカシコイゴブチンがいるときなんだよ」

「カシコイゴブチン? またネーミングが安直だな……」


この世界のネーミングについてはそろそろ突っ込むのも疲れてくるな……。


「もしカシコイゴブチンがいるならやめといた方がいい」

「はー? 何でだよ!」

「カシコイゴブチンがいると単体ではただの雑魚のゴブチンが、連携して一人が初級冒険者並の動きをするようになる」

「つまり、カシコイゴブチンがいるとめちゃくちゃな動きのゴブチンがちゃんとした動きで、しかも目的のある行動をしてかかってくるってことだよね?」

「そういうことだ。いた場合は中級クエストに入れられるし、仮にこのままやるとしてもおまえを守りきれるか保証できない」

「いや、守ってくれなくていいから。というか確認してみればすむ話だろ?」

「分かった」


 俺たちは茂みから頭を出して音のする方を見た。

 そこには、想像通りのゲームとかで出てきたゴブリンが30体ほどいて、火を囲みながら何かを食ったり飲んだりしながら騒いでいる。何個か太鼓もあり、それを狂ったように叩いてる奴もいる。

 よく見ると一匹他の奴等より一回り大きいゴブチンがいて、偉そうにしている。おそらくこいつがカシコイゴブチンというやつだ。

 しかし、もう一匹ほかの奴等とは少し違ったやつがいる。他の奴等よりちゃんとした服を着ていて手には木で出来た杖のような物を持っている。

 こいつはなんだ……?


「おい、アリサ! 絶対行くなよ!」

「え、嫌だ」

「嫌だじゃねーよ! カシコイゴブチンだけじゃなくてマホウツカイゴブチンまでいるんだぞ!」

「マホウツカイゴブチン? 聞かなくてもどんな奴かわかるな……」

「あの数のゴブチンとカシコイゴブチン、それにマホウツカイゴブチンまで加わるとほんとにまずい!」

「動きが人間みたいになるんだろ? やりやすいじゃないか!」


俺の曲げない強情な態度のせいか、予想外の返答のせいか、だんだんトイレさんの声量が大きくなっていく。


「は? やりにくいに決まってんだろ! おまえは人間30人相手に一人で勝てるのか!」

「うん」

「え……? 俺は冗談を言ってるわけじゃないんだぞ?」

「その言葉そのまま返そう」


 これは本当に冗談なんかではない。

 中学生の迷走期に空手で早く強くなりすぎた俺は嫉妬され、その道場の人約30人から勝負を挑まれた。勝負とは言ったものの、実際は30対1のただのリンチだった。

 まぁ、勝ったんですけど。

 人間が相手だと何人で来ようがある程度パターンが出てくる。それに加え一人一人の持ち味が発揮しにくくなり、一人一人の力が落ちる。数の力でそこをうめようとするみたいだが、正直30人程度ならほとんど変わらない。

 だいたい、30人いたとしてそれが一気にかかってこれる訳じゃない。実際は1人を相手にするなら同時にこれるのは5人が限度だ。30人とか言いつつ実は5対1×6みたいなもんだ。

 だからあの時も圧勝だった。

今回についてもそうだ。相手が目的もなしにつっこんでくるんじゃ何が起こるか分からない。

 でも、人間らしく動いてくれるなら何とでも対処が出来る。だからやりやすい。

 一つ心配なのは俺が剣を使うのが初めてというくらいだけど、それで相手の動きに変わりが出るわけでもないし大丈夫だろう。


「やっぱり行ってくる」

「待て待て、アリサ! ゴブチン30体が大丈夫というのは信じてやらんでもない。でもマホウツカイゴブチンはどうするんだ? 遠くからすきさえあれば魔法を撃ってくるから、カシコイゴブチンと一緒だとやっかいだぞ!」

「魔法か……ま、なんとかなるだろ!」

「おい、ちょ、待て!」

「あ、絶対手を出すなよ?」

「え? いや、待てー!」


俺は必死に止めようとするトイレさんの言葉に全く聴く耳を持たず、地面を蹴った。



 ◇◆◇◆TO BE CONTINUED◇◆◇◆

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