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5話 スキルの謎と武器の入手

 そういってトイレさんは西の道に向かって歩き始めた。こいつの家はこっちにあるみたいだ。

 西の道はそのまままっすぐ行くと広い草原が広がっているように見える。

 草原には古びた大きな西洋風な屋敷だけで他には何もない。その後ろには転がる岩や点々とはえる木々、さらに遠くには高い岩肌の山も見える。

 いい景色だな……。

 ――――ん? でも、この世界にはモンスターいるんだよな? 村を取り囲む塀とかなくていいのか?

 これじゃあモンスター入ってきほうだいなんじゃあ……?


「なぁ、トイ……オテアライ。この村周りに塀とか何もないけどモンスターとか大丈夫なのか?」

「あぁ、大丈夫。この村には村の端から1キロのところまでモンスター除けの結界張ってるからモンスターはまず入ってこられないんだよ」

「そんな便利な物が――――――ん!?」


 結界なんて物があるのかと思い視線をまたあの草原に向けると、急に視界に村を囲む大きな水色のドームが現れた。

 なんだこれはもしかして結界か?

 その結界らしき物はちょうどあの大きな屋敷の向こうぐらいまで広がっている。

 何で急にこんな物が……。


「どうしたアリサ?」

「いや、さっきまで見えなかったのに急に結界が見えたから」

「は? おまえ結界が見えるのか!?」

「俺もはじめは見えなかったんだけど、そこら辺に結界があるって聞いたら急に――」

「もしかしてスキルのせいか?」

「あ、神眼ゴッドアイか……」

「ほんとに見えるんだなそのスキル」

「みたいだな……」


 このスキルすごいな……。

 でも、意識を向けると何でも見えてしまうのはさすがに面倒だな。


「でも、結界が見えるのは少しいいぞ」

「なにが?」

「よく子供が見えないで結界の外まででちゃってモンスターに襲われるんだ」

「まじかよ――でも俺は子供じゃないぞ?」

「え……」

「え……じゃねぇーよ! 俺もう14! 子供ってほど子供じゃない!」

「おまえ14だったの!? 俺より4もしたじゃん! やっぱ子供だよ……」

「何か言ったか?」

「いやー、結界がずっと見えてるなんて邪魔だろなーって言ったんだよ」

「絶対違うよな!…………まぁ、でも確かに邪魔だな」

「だろ? 見えなくするのは出来ないのか?」

「うーん……」


 見えなくするか……。

 見たいときは意識するだけで見えちゃったから、その逆で意識から外せば――――――――だめか。

 意識しないように意識してしまい結局、結界を意識してしまう。

 自分で何やってんのかわかんなくなってきたぞ。あー、もう! なんで消えないんだ!

 こんな水色のドームなんていつまででも見えたら落ち着かない。

 くそ! 消えろ! 消えろよ!

 …………あっ、消えた。

 なるほど逆のこと願えば見えなくなるのか……。変なスキルだな。

 使い勝手はいいのかな……?


「消せた」

「どうやって?」

「消えろって願っただけ」

「そんだけ?」

「うん」

「変なスキルだな。でも、これで境目のわかりにくいこの草原でも間違って結界外に出ないですむということか」

「まあな、要するにあの屋敷の向こうに行かなきゃ出ることもないってことだな」

「屋敷? 何のことだ?」

「え? いや、だから、あの草原に古い大きな屋敷が」

「何言ってんだ? あの草原には石の一つも転がってないぞ?」

「え? あの大きい屋敷が見えてないのか!?」

「うん」

「え…………じゃあ、あれは何?」

「俺に言われてもな――――あっ! スキル!」

「また神眼ゴッドアイか!?」


 いや、でもこのスキルは意識を向けないと見えないはず……。

 俺はあそこに何かあると知っていた?

 いや、そんなはずがない! 草原に目を向けたときから見えていた。

 では、なぜ見える?

 こいつから見えてないんだ、スキルのせいというのは確実だろう。

 神眼ゴッドアイでなければ超感覚ハイセンスか?

 いや、確かあれはそもそも見てはいけないんだったはず……。

 じゃあ、やっぱ神眼ゴッドアイか。

 たしかこのスキルの説明は……あ、そっか、このスキルの説明、“見える!”だけしか書いてなかったんだった……。

 いろいろ試して勝手に分かった気になってたけど、何がどうしたら見えるかなんて書いてなかったな。

 じゃあ、今俺が見てる物はなんだ?

 そのときトイレさんが口を開いた。


「幽霊屋敷…………」

「は?」

「やっぱそのスキル、幽霊とかが見えるんだよ!」

「ばかばかしい! 何を根拠に……?」

「おまえが屋敷が見えるってのはあの辺だよな?」


 そう言ってトイレはちょうどその屋敷の建っている辺りを指さした。


「そうだけど?」

「やっぱりな」

「え? なにがやっぱりなの!?」

「実は、その辺は有名な心霊スポットなんだよ……」


 トイレは俺を怖がらせたいのか、怪談話でもするような声でそんなことを言ってきた。

 前の世界でもテレビでよくそのてのことはやってたが、あんな物は映像合成でも演技でもどうとでも出来る。

 でも、それで話題になると実際に行く人がでて、その人たちが思い込みで少しの物音なんかでいちいち騒ぎ、また騒ぎを呼びといった感じでどんどん広がり心霊スポットに――――みたいなことはよくあった。どうせこれもそんなとこだろう。

 まぁ、随分とノリノリみたいだから話は聞いてやろうか。


「なに? あそこで女の人の声が! みたいな?」

「そうそう、あの近くを通ると度々聞こえるんだ……女の声で――暇だーとか、誰かきてよーとか――――」

「なんかかわいそうだな」

「ほかにも……度々聞こえる爆発音と女の悲鳴!」

「いや、それ絶対なんかあったでしょ! しかも度々って何してるの!?」

「あとはあそこに近づくと…………人がよくこける!!!」

「しょぼいな……。それに、たぶん一緒に見えてる庭の石とかにつまずいてるだけかと……」

「あとはな……突然何かにぶつかり前に進めなくなる!!!」

「うん、家にぶつかったんだね」

「時々、人が急に現れて村の方に歩き出したと思ったら消える!」

「なんだよ、住人ちゃんと出てこられるんじゃん! でもすぐ消えるってなんかの魔法? 人見知りなのか? いやでも、誰かに来て欲しいんだよな? 変わった人だな」

「ここからは俺の研究成果なんだが――――」

「おまえ、人の家を研究素材にするなよ!」


 トイレさんは、俺のツッコミを聞きもせず、今度は少し楽しそうに話を続けた。


「なんとだな……ボール投げたら跳ね返ってきた!!!」

「おまえなんてことしてんだよ!」

「そのまま楽しくなってやり続けていたら…………突然、雷が降ってきた! 怖くね?」

「女の人が怒って魔法撃ったな。自業自得だろ」

「それで、これはまだ研究が必要だと思った俺は――――」

「おまえは暇か! というかもうやめたれや!」

「俺の好きな初級火属性魔法“火玉ファイアボール”を撃ってみた!」

「うわ! 人の家に向かって……」

「そしたら、なんか光ったなって思ったら威力が上がってかえってきた!」

「すごいな、リフレクターかなにかあの屋敷に張ってあるのか?」

「その日からだろうか――――人が何かに当たったと思ったら吹っ飛ぶようになったのは…………」

「おい、それ確実におまえがしつこいから周りに張ってるものの跳ね返す威力あげたよな? おまえなんてことしてんだよ! というかその女の人に謝れ!」

「それで最近ではあそこに近づく人はほとんどいなくなった――――な? 怖いだろ?」

「いや、だからあそこに屋敷があってそこに人住んでるんだって!」

「幽霊屋敷が見えてしまうとはかわいそうに…………おまえには同情するぜ」

「おまえ人の話聞いてるか?」

「幽霊が見えても泣くんじゃねぇーぞ!」

「だから絶対違うって!」

「よしよし、泣くな泣くな」

「泣いてねぇーよ!」


 なんなんだこいつは。

 そんなに俺に幽霊がいると信じ込ませたいのだろうか? それとも幽霊がいると信じていたいのか? どっちにしろ面倒だからほっとこう。

 でも疑問は残ったままだな。

 あの屋敷が普通に屋敷で、人が住んでるのも分かった。

 じゃあなんで俺には見えて他の人には見えてないんだ?

 あの屋敷に何か特別な何かが……?

 でも俺だけに見える理由にはならないよな? 何なんだろう?

 人も住んでるみたいだけど何か分からないし、とりあえず近づかないようにしよう。



「アリサ! そこにお化けが!」

「何も見えないよ」

「ふふっ、実はな……俺の家にお化けが出るんだ!!!」

「ふーん、それはおめでとう」

「毎日、夜になると、1コス銅貨がいちま~い……1コス銅貨がにま~い……って地下から聞こえてくるんだよ!」

「似たような話を聞いたことが…………どうでもいいいけどおまえの家まだ?」

「あー、そこの角曲がって三件目。実はそこの角には豆腐の角に頭をぶつけて死んだ人の幽霊が!」

「うるせぇ! 速く歩け!」

「はーい」


 こいつはそんなことで俺が怖がるとでも思っているのだろうか。

 俺より四つも上のやつが何してんだよ……。


「とうちゃーく! ここが我が家だ!」

「小さい、ぼろい」

「ひどいくない!?」


 レンガ造りの家に挟まれて1階建てのぼろい木造の家がそこにあった。中をのぞいてもキッチンも無く、ベッドとタンスが置いてあるだけで他には何もなかった。

 こいつから武器とかもらうことになってるけど、こんな家にそんな物がおいてあるのだろうか?

 そういえば、さっき地下から声が聞こえるなんてこと言ってたな。

 ということは地下に置いてあるのだろうか?


「じゃあ、狭い家だけど上がってくれ」

「どうも」

「それで早速なんだが、おまえはどんな武器と防具が欲しいんだ?」

「うーん、希望で言えば片手剣ソードと動くのに支障の無い軽めの防具なんだが……。おまえの家にそんな物あるのか? とてもそうには見えないんだけど……」

「安心しろ。ちゃんとある。片手剣ソードと動きやすい防具だな?」

「ほんとにもらっちゃっていいのか?」

「遠慮するな! それに俺がおまえを気に入ったからやってるだけだよ」

「お、おう。なんかありがと」

「どういたしまして。じゃあアリサ、ちょっとそっち向いてろ。いいか? 絶対にこっちみんなよ?」

「え? あ、うん。分かった」

「よろしい」


 俺は言われたとおり入り口の方を向いた。

 後ろでベッドを引きずっているような音や、地面が揺れ何かが動いているような音がする。

 何が起きてるんだろうか? すごい気になる……。

 だが、見るなと言われた以上、見るわけにもいかない。

 でも、見るなと言われると余計見たくなってくるな……。

 これはあれだ、カリギュラ効果というやつだ。

 くー、気になる!

 でも見るなと言われたんだ、我慢……我慢……我慢…………。

 音が止んだ。

 それと同時に後ろから声がした。


「アリサ、もういいぞ」


 その声で振り返ると、ベッドが壁際に移動されさっきまでベッドがあった位置に下へと降りる階段があった。

 中は暗くてどうなっているのか見えない。

 ほんとに地下があったんだな……。


「なんだこの階段?」

「隠し部屋!」

「見れば分かるけど……何のために?」

「――――で、片手剣ソードと動きやすい防具だな?」

「おい、なんでスルーした?」

「今から取ってくるけど、いいか? 絶対に中に入ってくるなよ?」

「入ったらどうなる?」

「東の湖に沈んでもらうことになる……」

「東京湾に沈めるみたいなこと言うなよ!」

「トウキョワン? まぁ、とにかく見るなよ?」

「えー」

「隠し部屋見せたのもおまえが初めてなんだ。許してくれ……」


 そんなことを結構本気マジな顔で言ってきた。

 そんなふうに言われると素直に従うしかない。


「分かったよ。ここで待ってる」

「ありがとう。あ、あとこの部屋のこと口外禁止ね!」


 そういってトイレさんは階段を降りていき闇に消えた。

 さっきの言い方といい、この隠し部屋といい、こいつは何者なんだ? 詮索するのはよくないからしないが、少しきになるというか不安だな……。

 それから暇なので一階の部屋を物色していると、この家にトイレしかないことが分かった。

 オテアライという名前だけにキッチンも風呂もなくてもトイレだけはあるらしい。

 そんなことを考え一人で笑っているとトイレさんがいろいろ抱えて階段を上がってきた。


「おまたせ」


 そう言って抱えていた物をガチャガチャと音を立てながら床に置いた。

 いくつかの片手剣ソードと様々な種類の防具がある。一枚の盾もあった。


「どうしたアリサ? なんで笑ってたんだ?」


 上がってきているときに見られていたみたいだな。

 名前がトイレの人の家にトイレしかなかったから笑ってました! なんてことはもちろん言えないので、適当に流そう。


「いやー、今日はいい天気だなー」

「頭大丈夫か?」


 さすがに無理がありすぎたか……。

 まぁ、話はそれたしいいことにしよう。


「そんなことより見せてくれよ」

「あ、そうだったな。えっと――――」


 そう言いながら、トイレはまず三つの片手剣ソードを持ってきた装備の山から取り出して、俺の前に並べた。

 長さが少しずつ違い、剣身が白いのと黒いのがある。どれも金属本来の綺麗な光沢があり、とても使っているようには思えない。

 それにどれもめちゃくちゃ高そう……。


「ちょっといいか? どれもめっちゃ高そうだしとても綺麗なんだが、これお古か? というかこんなのもらっていいのか?」

「あー、使ったことのないものだが、どうせ使う気ないしコレクションの一部だからあげるよ」

「コレクション!? なに、こんな家に住んどきながら実は金持ちとか!?」

「そういうわけじゃないんだけど……まぁ、とりあえず気にするな!」

「まぁ、おまえがいいんならいいんだけどさ……」

「じゃあ説明していくぞ! まずは――――」


 そういって一番剣身の短い白いのを手に取った。


「これが“ブランシヤ”っていう片手剣ソード剣身ブレードの長さは50センチだ。これは昔、旅先で一目惚れしてぬす……ゲホゲホッ…………買った!」

「おい、一目惚れしての後なんて言おうとした?」

「いやー、今日はいい天気だなー」

「おい」


 よく聞こえなかったんだが買ったわけではないことは分かったぞ。

 こいつもしかして…………考えないことにしよう……。


「これは俺がもらっても大丈夫なんだろな?」

「そんな片手剣ソードたくさんあるし、大丈夫だよ! 多分……」

「多分って……まぁ、聞かなかったことにする…………次は?」

「えーっと、次は――――」


 今度はブランシヤの隣に並べてあった黒い、剣身の少しながいのを手に取った。


「これが“シュヴァルツルース”。剣身ブレードは80センチだね」

「名前が付いてるあたり怖いんだが、もしかしてこれも……」

「ん? なんか言ったか?」

「何でもないです……」

「じゃあこれが最後だな!」


 そういって三つの中で一番長い、白い片手剣を手に取った。


「これはプラータティグリス。剣身ブレードが100センチだ」

「もしかしてこれも……」

「さあ! 持ってみてどれがいいか試してみて? どれも切れ味抜群だよ!」

「ほんとに大丈夫か? 俺、捕まったりしないよな?」

「大丈夫だろ?」

「もっと普通のないの?」

「俺はいい物しかぬす……ゴホン…………持ってない!」


 嫌な予感しかしないけど正直欲しいな……。

 でもなー、これもらったら共犯者だよな?

 うーん――――――


「これ持ってて何か言われたときどうすればいいんだ?」

「うーん、国の兵士でもない限りは、道に落ちてて綺麗だったから使わせていただいてました! とでも言っときゃなんとかなるだろ?」

「おい、そんなのいいのか?」

「この世界ではモンスターにやられた人から物取るとかよくある話だし、大丈夫だろ?」

「…………」


 とても悪いことをしているのは分かっている。

 だが、武器がなければこの先何も出来ない……。

 こいつが何をしていようと、こいつより見知らぬ俺にいろいろしてくれる人はいないだろう。

 それに俺は今、そんなに贅沢を言っていられる状況ではない。ここで武器が手に入らなければまたこいつみたいな人と出会うまで――いや、その前に死にそうだ。

 やっぱりもらうしかない。

 それにそんな危険と隣り合わせっていうのも刺激があっていいんじゃないか?

 そうだ! 刺激だ! これは人生のちょっとしたスパイス! 後のことなんて知るか!

 そして、無理矢理自己暗示に成功した俺は武器をもらうことにした。


「さーて、どの武器をもらおうかなー!」

「あれ? もらう気になったのか?」

「吹っ切れた! 捕まる? そんなことする奴らはぶっ飛ばしてやる!」

「また随分な吹っ切れ方だな」

「これぐらいの刺激があってこそのエンジョイ異世界ライフだ!」

「大丈夫かよ……まぁ、いいけど。で、どれにするんだ?」

「そうだなー…………」


 さて、どれにしようか。

 あまり短いのは好きじゃないから長い二つのどちらかになるよな……。持って比べてみるか。

 そう思い、俺はまず長い方のプラータティグリスを持った。


「重さ的にはちょうどいい気がするな」

「アリサ、武器っていうのはな、持ったときの重さじゃなくて実際に振ってみたときの重さがしっくりくるかどうかで決めるんだ。ちょっと振ってみろ」


 そう言われたので周りに注意しながら軽く振ってみた。

 振ることは出来たがイメージしてたほど振り回すことは出来ない気がした。


「しっくりきたか?」

「ちょっとイメージしてたより重いな」

「じゃあ、やっぱこっちだな!」


 そう言ってトイレは黒い片手剣を手渡してきた。


「シュヴァルツルースだったっけ?」

「そうそう、この片手剣ソードはたまたま入った家に転がってたからもらってきた」

「住居不法侵入と窃盗.――――完璧にアウトだよね?」

「気にしたら負けなんだろ?」

「そこは気にしてくれ」

「まぁまぁ、ともかくだ、この片手剣ソードは見た感じかなりの業物わざものだからおすすめだぞ!」

「おすすめって――――ん? いま気がついたんだが、家の中に転がってたような物の名称が何で分かるんだ?」

「だって書いてあるし」

「は?」


 驚いて剣身を確認してみた。

 確かに読めないが黒い剣身に黄色い文字で何か書いてある...。


「これだと持ち主さんに見つかったときに言い逃れできないってことですか?」

「――なんとかなるさ!」

「あー、もう知らない!」


 と言いつつ、俺はシュヴァルツルースを手にとって軽く振ってみた。

 ビュンッと気持ちのいい音を立てて空を切り、そのまま隣にあったタンスも切った。


「あ……」

「あーあ、周りをよく見ないから」

「すいません……」

「あ、いいよ! どうせからだし」

「ほんとだ……」


 驚いた、こいつの家の一階は本当にただの見せかけだけらしい。服とかまで地下に隠しているみたいだ。

 だが、そんなことよりもっと驚いたのがその切り口だ。

 木で出来たからのタンスが全く動かずひびも入らず綺麗に切り落とされている。

 断面もツルツルとしている。

 切ったときに切った感覚もまるでなかったし、この片手剣が業物わざものというのは確からしい。


「どうだ? その片手剣いいだろ?」

「自分の物みたいに言うなよ!」

「持ち主の手を離れて俺のところにあるんだから俺のもんだろ?」

「そういう考え方をしてるのか…………」

「取られる方が悪い!」

「……もう何も言わない」

「で、どうするよ? その片手剣にするか?」

「あぁ、これにさせてもらうよ。これがここにある理由は聞かなかったことにする」

「うん。あ、そうだ! よかったら君も一緒に……」

「嫌だ」

「即答か…………ま、当たり前だよな」


 もらうことにするだけでも俺的にはかなりの決断だったのにそんなこと出来るはずない。

 なぜか悲しそうにしているが、悪いがここは譲れない。


「じゃあ、はい、これ」

「ありがとう」


 俺はその黒い片手剣と、それと同じ色をしたさやを受け取った。

 鞘もシュヴァルツルースと同様に黒く輝いていて、右上から左下に二本斜めに赤い線がはいっていた。

 どう考えても初めて持つ武器にしてはいい物過ぎるがありがたくいただこう。


「じゃあ、次は防具だな」

「そうだな」

「いろいろと軽装を持ってきてみたんだが、どんな軽装がいい?」

「うーん――――」


 軽装か……出来るだけ動かすのに支障がないのがいいからな。

 軽装と言われてイメージするのは、体のいろんなところに最低限の鉄でできた防具が付いてるものだけど…………正直に言うとそれだけでも少し鬱陶しいから嫌なんだよな。

 ほとんど布みたいな素材で衝撃に強く、破れたりしないような防具があれば――さすがにそんな物はないか。

 駄目元で聞いてみるか……。


「破れたりしない衝撃に強い布っぽい防具ってあるか?」

「注文が多いな」

「やっぱ、そんなもんないよな…………」

「あるよ」

「え? まじで?」

「ほら!」


 そう言ってトイレさんは赤い何かを投げてきた。広げてみると、どうやらロングコートのようだ。

 ほとんどが綺麗な赤色でところどころに装飾がしてあり、背中には円の中に右斜め上から黒い剣が地面に突き刺さっているような模様が描かれている。

 持っていても見た目ほど重くなく、おそらくこれを着ても柔道着を着ている程度の感覚しかないだろう。

 見た目といい、この持った感じといい、絶対にこれもいい物だ。


「おまえ、これはどこから?」

「それは確か…………一年ぐらい前にお宝求めてさまよってるときに立ち寄った誰かの家で拾った!」

「知らない人の家に入った場合、許可がなかったら立ち寄ったじゃなくて侵入しただよね? それに人の家の中で拾ったって、つまり盗んだんだよね?」

「そうとも言う!」

「…………おまえ、今まで何件やった?」

「目に入った家はたいてい…………」

「何でそんなことするんだよ!」

「そこに宝があるからだ!」

「あ、だめだこいつ……」

「そんな細かいこといちいち気にすんなって!」

「細かくないよね?」

「そんなことより、どうだそのコート?」

「そんなことで終わらせるなよ――――このコートの機能にもよるけど、重さと見た目は気に入った」

「それはよかった! 機能のことなんだが、それは衝撃には弱いけど、破れることはまずないし、異常なまでの魔法耐性が付いてるから、よっぽどの魔法でもない限りだめになることはないと思うよ」

「衝撃には弱いのか…………でも他の機能が充分過ぎるからそれぐらいはいいか。魔法耐性が付いてるってことは魔法をこのコートで防げるってこと?」

「魔法自体は防げるけど魔法によって生まれた衝撃は防げないから吹っ飛びはするよ?」

「まぁ、それぐらいは普通か。というかこのコート何で出来てるの?」

「これはね、ちょっと高級な鎧とか盾でよく使われる魔法耐性に特化した鉱石といろんな種類の堅い鉱石を糸に練り込んで作ってるみたいなんだけど…………こんなことが出来る人がいるとは驚いたな」

「なんで盗んできたおまえが驚いてんだよ!」

「一年ぶりに引っ張り出してきたもんだから改めてすごいなと思ってな」

「盗んどきながら一年ぶりって、コレクションじゃなかったのか?」

「盗むことに意味があるんだよ…………」


 まじめな顔でそんなことを言ってきた。

 言ってることは何一ついいことではないはずなのになぜか反論できなかった。


「まぁいいか。このコートの他に何か身につけといた方がいい防具ってある?」

「そのコートにするんなら胸元が心配だな」

「確かにそうだな」

「えーっと――――この胸当むねあてなんかどうだ?」


 トイレさんはそう言って装備の山から黒に白いラインが形にそってバランス良くはいった、胸だけでなく腹部もしっかり覆える防具をだした。

 手に持ってみるとほとんど重さもなく着ていても邪魔にはならなさそうだ。

 これもどうせ盗んだのだろうが気にせずもらうことにしよう。


「いいんじゃないか?」

「そうか、なら早速着てみるか?」

「そうしてみよう」


 着替えてみると意外にもどれも体にフィットしていた。

 もしかしたら、気をきかせて俺に合いそうな物を持ってきてくれたのかもしれない。

 さっきの防具に加えて、防具の下に着るためのアンダーシャツと俺のはいていたズボンの色が似合わないということで黒い動きやすいズボンをくれた。アンダーシャツとズボンは、昔にトイレさんの使ってた物らしい。

 ちゃんと自分の物もあったんだな……。

 そしてもらった片手剣をグリップが右肩の方に来るように紐で肩にかけた。

 防具をけ終わり鏡で自分の格好を見せてもらったが――――


「派手すぎじゃないか?」

「派手だな」

「だよな……それに少し暑い」

「それなら――――」


 トイレさんはロングコートの袖を綺麗に折りたたんでいき、肩に付いたいた金具で止めた。


「これなら少しましだろ?」

「暑くはなくなったけど……今度は少しワイルドな感じに…………」

「気にするな!」

「そう言われても初めての装備がここまで派手だとな……」

「そんなに気になるんだったら有名になってなんとも思わせないようになればいいじゃん!」

「簡単に言うなよな……まぁ、そのつもりなんだが」

「おー、その意気だ!」

「お、おう!」

「あ、そうだ、その腕まくり戦うときは下ろせよ。アンダーシャツ一枚だともろにくらうぞ?」

「了解!」

「あ、そういや盾も持ってきてみたんだがいるか?」


 そう言ってトイレさんは一つだけ持ってきていた盾を手に取った。盾は白く、真ん中にドラゴンとそれと戦う剣士のような絵の金の紋章が描かれていた。

 またまた高そうな物を……。

 だが、あいにく俺は盾なんて邪魔そうなものは持つ気がない。


「俺は盾を持つ気はないな」

「そうか――せっかく国王軍の盾あげようと思ったのに……」

「え……? 今なんて? 国王軍って言った?」

「そうだよ?」

「そうだよ? じゃないだろ! それ大丈夫なのか!?」

「見つからなきゃ大丈夫だろ?」

「見つかったら?」

「――――――――さぁ?」

「そんなものを俺に渡そうとすんなよ!」

「あはは、軽いジョークだよ!」

「軽くねぇーよ!」

「まあまあ、これあげるからさ」


 トイレさんから一組の指なし手袋を渡された。

 これもまた黒く、拳のところに石が縫い込まれている。


「これは?」

「普段は剣を持つときの滑り止めとして使えるし、これで殴ると石が入ってる分、威力が上がる」

「それはまたいい物を……」

「それだけじゃないぞ!」

「まだなんかあるのか……」

「実はだな――このグローブに魔力込めて殴ると爆発しまーす!」

「え? それ手は大丈夫なの?」

「多少は問題ないけど続けて使い続けると手に火が付きます! 気をつけてねー!」

「怖いな……というかなんで爆発するんだ?」

「その石は魔法石っていって、魔法が中に記憶されていて魔力さえ流せば半永久的に魔法が使えちゃう便利な物なんだよ」

「そんな物が...」

「ただし、あまりでかい魔力を流すと壊れるのと魔法と違って火力の調節が出来ないのはあるかな」

「充分だろ。どこでこれを?」

「昔、余ってた金使って知り合いに頼んで作ってもらった!」

「珍しく私物なのか――そんな物もらっていいのか?」

「あー、いいよいいよ! どうせ使わないし」

「じゃあ、もらおうか」

「おう! 使ってくれ!」

「なんか結局すごいいろいろ貰うことになっちゃったな。ありがとな!」

「いやいや、俺もマジTシャツ貰えたことだし」

「そういやそのTシャツ何に使うんだ?」

「まだ決めてないけど、王様にけんか売るときとか、王国軍の兵士に絡まれたときとか?」

「おいおい、大丈夫かよそれ……」

「俺のスキルがあればなんとかなるさ! 実際いままで姿すら見られたことないし」

「スキルの悪用だな…………でも、俺に見られてるけど大丈夫か?」

「おまえなら大丈夫だろ?」

「何を根拠に……」

「勘だ!」

「そうか」


 今日会ったばかりだというのに随分と信用されたものだ……。こいつは勘で俺を信用したらしいが、まぁ実際、俺もこいつのことを誰かに言おうなんて気はさらさらない。

 こんだけいろいろとして貰っているんだ、言えるわけがない。

 それに勘で物事を決める考え方は嫌いじゃない。というか俺もどちらかというとそっち側の人間だ。

 考えてもしょうがない時は悩む暇があったら勘でいいと思ったことをする、これが出来る人はかなり貴重な人だと思う。

 間違った方向に行く場合もあるが良いにせよ悪いにせよ、何か新しいことを成し遂げる人間はこんな人から生まれると俺はおもう。

 それも含め、俺はこいつが気に入っている。そんなやつをおとしめるようなこと言えるはずがない。


「よし、じゃあクエスト行くか! アリサ!」

「そうだな!」


 俺たちはトイレさんの家を後にした。


 ◇◆◇◆TO BE CONTINUED◇◆◇◆

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