4話 噴水広場にて
俺とトイレさんは真ん中に噴水のあるまるい大きな広場に着いた。
噴水は、背中から翼をはやした美男美女が美しく飛び交うような石の彫刻の中心から水が美しく出ているようになっている。
おそらくとても綺麗なのだろう。
だが、残念なことにあの堕天使を見てしまった後では、背中に翼がはえているというだけでイラッとくる。
くそ、またあの憎たらしい笑みを思い出してしまった...。
それはさておき、この広場は、俺の来た道と噴水を挟んでそのまま直線に抜ける道、そしてそれに垂直に交わるように左右に道が延びている。
そして、それぞれの道が噴水に当たるであろうと思われる噴水の周りの四カ所に丸い水色のガラス玉の付いた、俺の胸部ほどの高さの柱が建っている。
そのガラス玉に時々人が触れて、嬉しそうな顔をしたり何か納得のいかないような顔をしている。
あのガラス玉に触れると何か起こるのだろうか?
他にはこの広場の外周に二カ所、何色ものボードが建っている。
そこには紙が乱雑に貼られていて、周りに人だかりが出来ている。
クエストボードといったところかな?
まぁ、トイレさんが後で説明してくれるだろ。
そして、俺が一通りながめた後、それが終わるのを待ってくれていたトイレさんが、俺を四つのうちの正面にあったガラス玉のところに連れて行った。
「これに触ると何が起きるんだ?」
「自分のステイタスが更新されるんだよ」
なるほど、だから触った後にみんな顔色が変わったのか。
「ということは、ここに来なければステイタスが上がらないということになるのか?」
「そういうわけではない。べつにここに来なくてもステイタスは上がっている」
「ん?じゃあ何これ?」
「それの説明には、まず自分で自分のステイタスを見られると言うことを知ってもらわなければいけない」
自分で自分のステイタスが見られる...人に見せられたんだから自分で見られて当然だよな。
人に見せるときは自分の情報をその人に見せるイメージだったから、じゃあそれを自分で見るイメージに変えてみるか!
自分の情報を見るイメージ.......あ、何か視界に出てきた。
文字は読めないけど数字は同じみたいだな。
えーっと、...156...121...238...389...5...。
どうやら自分のステイタスに間違いなさそうだな。
「自分のステイタスを見るにはだね、まず...」
「できた」
「へ?」
「だから、自分のステイタス見られたって!」
「え...分かった...。じゃあガラス玉の説明に移るね」
なんか、少ししょげている。
こいつなんだかんだで俺に何か教えるの楽しんでたのか?
あまりに普通のことばかり聞いてたみたいだから、てっきり少しぐらいは面倒くさがっているものだと思っていた。
性癖を除いてはとてもいい人なのかもしれない。
感謝しなければな...。
「このガラス玉なんだが、さっきステイタスを更新するための物だと言ったが間違いではない。正確に言えば自分の中に記録されている自分の情報を書き変えるための物だ」
「つまり、仮にモンスターと戦ってステイタスが上がっていても、さっきみたいにステイタスを見たら戦う前と数値が上がっていないってことだな?それがこのガラス玉に触ると上がった後の数値が見られるようになる。そういうことだな?」
「さっすがー!相変わらず理解が早いな!」
「ふーん、じゃあここには定期的によった方がいいってことか」
「そういうこと!俺も毎日、家に帰る前に寄ってるよ」
「へー」
「じゃ次はあれだね!」
そう言ってトイレさんは、俺の手をつかんで二カ所あるうちの近い方のボードに俺をぐいぐいひっぱうような形で歩き出した。
こいつほんとに楽しいんだな。
それはとても嬉しいことなんだが、この歳で手をつないでいるみたいで嫌だから手は離して欲しい...。
まぁ、少しの距離だし我慢しようか。
そのままされるがままに引きずられていたら、四色あるうちの一番左側にあったピンクのボードの前で止まった。
「着いた着いた!これがクエストボードでーす!」
なんかテンションがおかしな方向にいってやがる。
この数十メートルの間に何があったというのだ...。
それに、まだ俺の手を離す様子がない。
どうやら少し頭のねじが飛んでしまってるらしい。
よし、直してやろう。
「手を離せ」
「わっ!ごめん!」
「早く説明しろ」
「は、はい...!」
顔から笑みを消して少し殺気を込めて言ってやった。
自分の殺気をコントロールするのも中学時代に迷走していたときに覚えた物だ。
こんなところで使うことになるとはな...。
しかし、効果はあったみたいだ。
少し落ち込んでいるようだがテンションは元に戻ったみたいだ。
これを前にいた世界で使うと試合前から怖がって試合放棄みたいなことが多々あったが、こいつには俺に恐怖しているという感じはない。
こいつには怖がっているというよりは、俺の機嫌を悪くしてしまったことへの後悔といった気持ちが大きいように感じられる。
そこら辺は普段からモンスターと戦っているだけあってさすがと言えるな。
それにしても、自分のためにやってくれていると知りながら、少し鬱陶しかっただけでこんなことをしたのはさすがに大人げなかったな...。
あ、でもこいつどう見ても俺より年上だよな?
だったら大人げなくはないのか?
まぁ、どちらにせよ今回は少し自分勝手が過ぎたかな...。
そう思い、今度は楽しそうな口調で言ってみた。
「トイ...オテアライ、このたくさん張ってある紙はクエストか何かかな?」
「そうそう!」
ちょろいな...。
少し口調を変えただけだというのにすぐに元通りになりやがった。
いい人なんだけどなんか変わってるよな。
「クエストで金がもらえるんだよな?どんなシステムなんだ?」
「クエストにも国からのものと個人がだしているものの二つがある。元々は国からのものしかなかったんだが、最近は個人的なものが増えてきてる」
「例のクエストの金の40%持ってかれるってやつのせいか」
「そうそう」
「ということは、クエストってのはいちいち国をからめなきゃいけないのか?」
「そういうことかな。クエストってのは本来、国民がモンスター討伐や武器素材の調達なんかを国に頼んで、国がそれに対する妥当な金額を提示して依頼者から金を取りその10%を国のものとし、残りをクエストの報酬金としてクエストをだす。これが本来のクエストでこれで国も何の問題もなくまわっていた」
「そこにあの国王のタコス王国の建国計画か...」
「あぁ」
「そうなると、クエストの報酬金が無駄に減って怒るクエスト受注者と払う金は今までと変わらないが無駄に払わされていると思うクエスト依頼者が出てくると」
「そういうこと!それでそんな人たちによって作られ始めたのが国を通さずそのまま金の受け渡しをするクエスト、俺たちはこれを民間クエストって呼んでる」
「なるほど。ちなみに国をからめたクエストはなんて呼んでるの?」
「正規クエストって呼んでる」
「ふーん」
そこで俺はあらためてクエストの書いてある紙を一枚一枚よく見た。
どれもだいたい下の方に数字が書いてある。
数の大きさから見て報酬金か何かと考えていいだろう。
相変わらず文字は読めないが数字の下に文字のある紙とない紙がある。
これが受け渡し場所だとかのことなのだろうか。
そうしてみると正規クエストと民間クエストの数は半々ぐらいなのか。
そうやってながめていると一つおかしな紙を見つけた。
「なぁ、トイ...オテアライ。俺は文字が読めないからよく分かんないんだけど、このクエストは何なんだ?数字が書いてないが報酬なしってことはないよな?」
「あ、そういや読めなかったね。それは報酬に回復薬×5個って書いてあるんだよ」
「金じゃなくてもいいのか!?」
「あー、それが民間クエストの一つの特徴だね。正規クエストだったら国が金を取れるように依頼から報酬まで全部が金なんだけど、民間クエストはべつに金である必要性がないからあんな風に依頼者の都合によって報酬を変えられるんだよ」
「ふーん、それは便利だな。確かに民間クエストが増えるわけだ」
「でも正規クエストも俺たちにとっては欠かせないんだよ」
「そうなのか?」
「クエストの内容をよく見てみて」
「だから読めないんだって!」
「あー、そっか!ごめんごめーん!ははっ!」
こいつ確信犯だろ...。
さっさと文字を教えてもらわなくては...。
「しょうがない!僕が読んであげよう!」
「うっ...お、お願いします...」
「お願いされました!えーっと、あれが『ゴリゴリスライム討伐 ×5体 報酬6000コス』」
「ゴリゴリ....つ、続けて...」
「これが『ゴブチン討伐 ×3体 報酬1500コス』」
「ゴブチン...ぐっ..目に灰が...!」
「...?それでこれが『鉄鉱石 ×20個 報酬こんがり焼いた肉×3個 受け渡しは危ない肉屋パピヨンまで』」
「上手に焼けてるのかな...というか危ない肉屋って何だよ!その後にパピヨンってどんなネーミングセンスしてんだよ!」
「おいおい、どうしたさっきから」
「どうしたもこうしたもねぇーよ!この世界来てずっと思ってたけど変な名前の物が多すぎんだよ!」
「え?おまえの名前の方がよっぽど変わってるぞ?」
「な...」
今まで名前で散々いじられてきたが今のは一番ショックだ。
王様の名前がドンタコスでゴリゴリスライムや危ない肉屋パピヨンなんて物まで存在するこの世界で、名前がトイレの人に名前が変わってると言われた...。
やばい、涙出てきた。
「そ、そんなにショックだったのか!?悪かった変わってるとか言って悪かった!後で好きな物やるから泣かないでくれ!」
ほう、それはなかなかいいではないか!
これは利用しない手はないな。
俺はそのまま笑っている顔を手で隠して泣いているふうに言った。
「うぅ..じゃあ、剣と防具一式ちょうだい...」
「いや...それはちょっと....」
「うぅぅ...う..うぅぅ..」
「あー、分かった分かった!やるから泣き止め!」
「あ、どうも」
「おまえ泣いてたよな?」
「これ以上まだ俺の心をえぐろうと...?」
「いや、なんでもない...」
ちょっとやりすぎたか?
ここまでちょろいと自分がものすごく悪いことしてるみたいだな。
いや、実際してるのかな?
こいつはもう少し頭のいいやつだと思っていたんだが俺に利用されているとも分からないのか?
それともそれに見合った見返りがこのダサいTシャツにあるというのか?
未だにこいつのことが全然分からないな。
「そ、そうだ、まだ途中だったな!話戻すよ?」
「あぁ、取り乱して悪かった」
「こちらこそごめんな」
「「.....」」
「じゃ、気を取り直して!これが『リュウセイアップル ×20個 報酬20000コス 受け渡しは甘酸っぱい恋の味するアップルパイまで』」
「そのアップルパイどんな味するんだ...?でも、リンゴ20個で20000コスって報酬いいんじゃないのか?」
「そっか、知らないんだもんな。リュウセイアップルは味は抜群なんだが、人が近づくとすごいスピードで実を地面にたたきつけるんだよ。地面に当たると粉々に砕け散るから食べられるリンゴを採るのは至難の業だし、そのリンゴにあたると自分も死にかねないからそれぐらいの報酬が妥当なんだよ」
「この世界は食い物まで物騒なのか...」
「そんなことないよ?ワライジニダケとかトベナイブタとかは安全だよ?」
「あ、うん...」
相変わらずすごい名前だ。
ワライジニダケはキノコなのかな...?
そういやそんな感じの名前のキノコあったよな?
あの笑いながら死んでいくっていう...。
トベナイブタは...ただの豚だよな?
逆に飛べる豚がいるのか!?
この世界のことだからいてもおかしくないのか...。
「で、今のクエストから分かることは何でしょう?」
「唐突だな。じゃあ一つ確認なんだが始め二つが正規クエストで後二つが民間クエストであってるか?」
「そうだよ」
「じゃあ、簡単だな。つまりおまえが言いたいのは、討伐系のクエストは正規クエストじゃないといけないってことだな?いや、正確には難しいってことかな?」
「その通り。民間クエストだと討伐の確認がついて行かないと出来ないからね。自分で討伐依頼しときながら自分も危険をおかしてついて行くなんて人はそう滅多にいないから、どうしても国に依頼することになっちゃうんだよね」
「でも、討伐クエストの確認が出来ないのって国も一緒なんじゃないのか?」
「国は特別な道具を持っていてそれで倒したモンスターの数とかを見ることが出来るんだよ」
「まじか」
「まじまじ。あの建物見えるか?あれがこの村のクエスト管理局なんだけど」
そういってトイレさんが指さした方を見た。
俺らが来た道から噴水を挟んでまっすぐに延びる道の突き当たりに少し大きめの神社らしき物が見えた。
どう見ても神社にしか見えないんだがあれがクエスト管理局らしい。
「あぁ、見えた。」
「それで、正規クエストを受けるにはここに張ってあるクエストの紙をクエスト管理局に持って行ってクエストを受ける。それで、終わったらまたそこによって報告をする。そのときに討伐クエストの場合は赤いガラス玉に触らせられる。俺たちはこれをレッドクリスタルボールⅡと呼んでいる!」
「長いな...というかⅡってなんだよ!赤い玉じゃダメなのかよ!」
「この方がかっこいい!」
「...」
「それでこのレッドクリスタル..クリスタル...クリスタ...クリス......レッドクリサンセマムで」
「レッドクリスタルボールⅡだ!赤い菊になってんじゃねぇか!だいたいⅡはどこに行った!覚えられないんだったら変な名前つけるな!」
「くっ...。それでその玉に触れるとどうも経験値やなんかで本当に倒したかどうかが分かるらしい」
「曖昧な言い方だな」
「国しか持ってないからな」
「じゃあ逆にそれさえあれば正規クエストの需要がなくなるってことなのか?」
「そうなるのかな?...そうなるのか!そうかそうだな!」
何がそんなに喜ぶ要素があったのだろうか?
その機械が手に入れられないから正規クエストがまだこんなにあるんだろ?
「アリサ!おまえはすごいな!」
「いや、分かりきったことだろ?だいたい何がそんなに嬉しいんだ?」
「今まではもっと大きい物ばかり考えてたから気がつかなかったけど確かにそんな物でもいいな!」
「答えになってないぞー」
「これで正規クエストと民間クエストについてはだいたい終わりかな?他に聞きたいことはないか?」
「流された...まぁいいか。じゃあ、もう一つ。この色の違う四つのボードは何か違うのか?」
「そういや言ってなかったね。えーっと、今まで見ていたピンクのこのボードが初心者用のクエストが張ってあるクエストボードで、だいたい1~20レベぐらいの人用。」
「じゃあ、俺が受けるならまずここってことか」
「そうだね。なんせまだ1レベのひよっこちゃんだもんねー?」
「そのひよっこちゃんに知能負けてる馬鹿に言われたくないな」
「おまえが高すぎるんだよ!」
「どやぁ」
「うぅ..。それで一つ右の緑のボードが中級者用。21~50レベの人用ってところかな」
「じゃあそのさらに右の青いのが上級者用か?」
「そういうこと。これはだいたい51レベ以上のソロ用だな」
「51レベ以上のソロ用ってじゃあその隣はなんなんだ!?」
「壊滅級クエスト」
「急にやばそうですね」
「このクエストは上級者がパーティーを組むかそのパーティーの集まりのレイドでしか倒せないと判断されたもので、そういうクエストがその赤いボードに貼ってある」
「そんなに難しいのか?」
「たとえばドラゴンだとか?もっと得体の知れない物だと魔王軍の指揮官たちとか?」
「ドラゴン!?あと、魔王軍の指揮官!?そんなものいるのか!?」
「正確にはいるらしいかな?昔、魔王軍指揮官の内の一人に会ってどうにか逃げてきたやつが、喋るめちゃくちゃ強いモンスターがいて、そいつが自分みたいなやつがまだ何人かいると言ってたとか言ってただけだから実際はわかんないんだけど、これだけの魔物がいるんだからそれを指揮してるやつがいたって不思議じゃないってことでそういうことになってる」
「ほんとにいるのかそれ?」
「さあなー...で、話戻すけど、クエストには実は緊急クエストというクエストがもう一つある」
「緊急クエスト?」
「これは事前に察知できなかった凶悪なモンスターがでたときなんかに国から魔法で近くの村の人全員に伝えられる」
「まさか強制参加?」
「その通り。戦える人はみんな強制参加だね」
「国嫌いの国民がちゃんと戦うのか?」
「そこは金だよ。報酬はいいし結果的には自分らの命救ってる可能性もあるからみんな結構喜んで行くよ」
「なるほど...」
やっぱりどこの世界も金という物は強力な武器になるんだな...。
まぁ、金がなきゃ生きていけないし、俺自身も前の世界でかなりお世話になっていたんだろうな...。
今、木の剣程度しか買えないほど貧乏になって金の重要さがよく分かった。
というか俺金全然持ってないよな。
もしかしてこのまま今日、金稼げなかったら人生初野宿じゃね?
いや、もしかしなくてもそうだよな!
一度やってはみたかったけど、ここは異世界だからおそらく村の外で寝るのは自殺行為...。
となると、村の道端かどっかで野宿!?
嫌だ、それじゃあただの金もなく帰る家もないかわいそうな人だと思われる。
実際そうなんだけれども、それはさすがにいい気がしない。
俺の求めていた刺激のある生活はそんなんじゃない!
やばいな、出来るだけ早くクエストか何かで金を稼がないとほんとにそうなり兼ねないな。
確か次はトイレさんの家に行って武器とかもらうことになってたよな?
時間は充分にあるのだろうか?
というか今何時だ?
「おい、トイ...オテアライ!今何時だ?」
「おまえほんとに俺の名前でよくかむな」
「そんなことより今何時だかきいてるんだよ!」
「そんなことって....まぁいい。今か?今は10時ぐらいだよ」
トイレさんは胸元に入れていた時計で確認して言った。
この世界にも時計があるのか、また買わなければな。
幸いなことに時間の表し方も同じみたいだ。
そこで俺は空を見上げた。
太陽が俺たちの来た道から噴水の方を向いて右側にある。
よし、太陽の動き方を前の世界と同じと仮定して、俺たちの来た道の方角を南、クエスト管理局の方角を北、今太陽のある方角を東、その反対を西ということにしておこう。
太陽の上がり方から見て日が落ちるのは6時~7時の間といったところだな。
焦るほど時間がないというわけでもなさそうだな。
「次はおまえから武器とかもらうんだよな?」
「防具もね...」
「そんなに嫌なんだったら無理にとまでは言わないけど、どうせTシャツあげたら俺の着る服なくなっちゃうよ?それにその後クエスト行くんだからただの服で戦うのは危ないんじゃないのか?」
「え?クエスト行くの!?」
「当たり前だろ?金ないんだぞ?」
「どんなクエスト行くつもりなんだ?」
「そりゃあ、自分がどれくらい戦えるかも試したいし、何かの討伐クエストかな?」
「いきなり一人で討伐クエスト行くのか!?」
「何か問題でも?」
「もし何かあったらどうするんだよ!」
「それがあってこその異世界だ!」
そうだ、俺はそういうスリルと隣り合わせな生活、自分より強いものとの戦い、そんな刺激を求めてこの世界に来た。
もし何かあったら?そんなの大歓迎だ!
俺はそんな物も含めてこの世界で楽しみにきたんだから。
「異世界って...。ともかく、いきなり一人で討伐クエストは反対だ!予期せぬことがあったときに対処できない」
「えー、べつにかまわないのに。じゃあ、どうしたら行っていいんだ?」
「俺も行く」
「へ?」
「だから俺もついて行くと言ったんだ!」
「いいのか?」
「あぁ」
こいつには迷惑かけてばかりだな。
そもそもTシャツと武器や情報をもらうだけだったのにクエストにまでついてきてくれるとは...。
確かにこの後も文字とかまだ知らないことについて少しは聞いておこうと思っていたんだが、そこまでしてもらうとさすがに少し気が引ける。
こいつには本当に感謝しなきゃだな。
「ありがとな、いろいろと」
「急にどうした、アリサ」
「素直に受け取れ!それより早くおまえの家までつれてけ!」
「お、おう。分かった。こっちだ」
◇◆◇◆TO BE CONTINUED◇◆◇◆