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病人よ、安らかに眠れ

凪沙「ハックション!!」


ニート「おいおい、風邪か?。…移すなよ」


凪沙「ニートが風邪を引いても誰も困らないだろ」


ニート「この世界に風邪を引いて良い人間なんて一人もいないだろ」


凪沙「何良い感じのこと言ってんだよ」


暦も冬に近づいてきた今日この頃、連日BL活動に向き合い、日々椅子で寝落ちするという生活を繰り返してきたせいか私は体調を崩してしまったようだ。


凪沙「うわっ、39度もある。…ニート、さすがにベッドで休みたいから退いてくれない?」


体温計で39度もあるとわかるや否や、気分も優れなくなり、身体がだるくなった私はニートにそんな提案を持ちかけた。


ニート「ええ〜…しょーがねーなぁ。今日はベッドに入れてやるよ」


居候の身にも関わらず上から目線のニートにツッコミを入れる気力もない私は黙ってベッドに潜り込んだ。


心地よい反発でベッドは久しぶりに布団に体を埋めた私を迎え入れてくれた。


凪沙「嗚呼、ベッドさんのなんと心地よいことよ…」


1、2ヶ月ほど硬い椅子に座りながら寝るという生活を繰り返して来た私にはそれはもう極楽に匹敵するものであった。


ニート「全く…これしきのことで風邪を拗らせるなんて軟弱者だな」


凪沙「ははは、誰のせいだと思ってんだか…。でもこれから冬になって寒くなるっていうのにいつまでも椅子で寝てられないよね。この部屋、電気ストーブくらいならあるけど、さすがにそれで冬を越すのは厳しいし…」


ニート「ベッドがないなら床で寝ればいいじゃない」


凪沙「貴様はマリーアントワネットかなにかか?」


その後、ニートは何を言うでもなく部屋を出て行った。


しばらくした後、何かが入った食器を持ってニートは部屋に戻って来た。


凪沙「…なにそれ?」


ニート「お粥作ってやった」


凪沙「え?ニートが?お粥を?…WHY?」


ニート「そんなに驚くなよ」


お粥を作って来たと吐かすニートをまるで白いカラスを見るかのような目で私は見ていた。


凪沙「…これには一体どんな裏が…お前の目的はなんだ!?」


あのニートがお粥を作ったなどという都市伝説めいた出来事に私の警戒心は止まなかった。


ニート「いや、だからそんなに驚くなよ。冷める前に食えよ」


ニートからお粥の入った食器を受け取った私は震える手で恐る恐るそれを口に運んだ。


一見するとただのお粥にしか見えないその料理の背景に潜むものを警戒しつつ、慎重にゆっくりと…いま、私はお粥を口に入れた。


凪沙「…うまいな」


お粥の味は普通に美味しかった。少なくとも私が作るよりは上手に出来ていると思う。


凪沙「…ニートのくせに、お粥を作れるなんて…」


以前、自らの女子力を見せびらかすために料理に挑んだが、結局全体の99.9%を母の手を借りてしまった私は目の前のニートが作ったと吐かすお粥に敗北感を抱いていた。


凪沙「私の女子力はニート以下、か…」


お粥を食べ、私は一人でただただ意気消沈していた。


ニート「せっかく作った料理を食べて、元気無くされると凹むんだが?」


凪沙「うるせえ!!お前に私のなにがわかる!!」


ニート「病人が怒鳴るなよ」


凪沙「で、なんでニートのくせにお粥が作れるんだよ?」


ニート「まぁ、それは…昔教わったんだよ」


そう呟くニートの目線は、どこか遠くを見つめているように思えた。


その後、刻々と時は流れ…そろそろ就寝の時間になった。


凪沙「…そろそろ寝るか」


ニート「そうだな」


そう言ってニートは部屋の明かりを消した。


凪沙「…ふぅ」


部屋の明かりも消え、寝る準備が整った私は布団の中で一息ついて、目を閉じた。


風邪をこじらせて体調が悪くなっているとはいえ、久しぶりにベッドで眠れることはとても快適であった。


あぁ、寝具とはなんと素晴らしきかな。


硬くて窮屈な椅子の上とは違い、ここは柔らかいし、伸び伸びと足を伸ばせる。


ただ、考えていたよりは横幅が狭いのか、寝返りを打つとぶつかるくらいの幅しかないが、優しくて、そして温かいお布団は自然界の厳しさから私を切り離してくれた。


私…オフトゥンになら…抱かれてもいい。


自らの純潔をお布団に捧げてしまうほど、ベッドの上は心地よかったのだ。


ニート「おやすみ」


凪沙「おやすみぃ」


耳元でささやくような小さな声で『おやすみ』と告げたニートに私も小さくそう返す。


ニートの小さな鼻息が耳元に聞こえる中、私はお布団に優しく抱かれながらひたすらに夢見心地に浸っていた。


もう…君を離さない、オフトゥンを離したくない。


お布団を束縛したい…またはお布団に束縛されたい欲求に駆られた私。


だが、私はふとあることに気がついた。


…このベッド、こんなに狭かったっけ?。


そう、私はベッドの横幅の狭さが気になっていたのだ。


私の記憶ではこのベッドはもっと広々と余裕があるはずなのだが、今は寝返りを打とうとするとすぐに何かにぶつかってしまう。


何かってなんだ?…壁か?。


…いや、壁にしては妙に生温かい。私のすぐ真横にまるで生物のような体温を感じるのだ。


自分の真横に潜む謎の体温が気になった私はふと目を開けてその正体を確かめた。


するとどうだろうか?私の真横にはニートがスヤスヤと眠っていたのだ。


…要するに、いつの間にか同じベッドでニートが添い寝していたのだ。


突然の出来事に目を開けてから状況を理解するのに5秒ほどかかった私は…


凪沙「セイヤ!!」


思いっきりニートに蹴りをかましてベッドの外に蹴飛ばした。


ニート「ぶへ!!…なにするんだよ!?」


凪沙「なにするんだはこっちのセリフだ!!なにベッドに入って来とんじゃ、ワレ!!思わず蹴っちゃったわ!!」


ニート「なにって…寝るんだからベッドに入るのは当たり前だろ?」


凪沙「いや、私がベッドで寝てるんだから他の場所で寝ろよ」


ニート「他の場所って…どこだよ?」


凪沙「それは…」


部屋を一通り見渡したが、BL同人誌が散乱したこの部屋にはベッド以外に寝るようなスペースはなかった。


ニート「まさかあなた、この私にあの硬い椅子で寝ろっていうの!?そんなの酷すぎる!!鬼!悪魔!腐女子!」


凪沙「じゃあその椅子で毎晩寝かされてる私はなんなんだよ?」


ニート「酔狂だなぁって思ってる」


凪沙「なるほど、殴りてえ」


ニート「とにかく、ベッドは一つしかないんだから仕方ないだろ?。幾ら何でも病人の凪沙を椅子で寝かせるわけにはいかないし…」


凪沙「お前が椅子で寝るっていう選択肢は無いのか?」


ニート「ない、俺は何が何でもベッドで寝る」


そう語るニートの目は強い信念を宿していた。


凪沙「でも、さすがに私達が一緒に寝るのはマズイでしょ?」


ニート「マズイって…まさかあなた…この私を襲おうって言うの!?」


凪沙「私がそんなことするわけないだろ。…襲う(物理)ならありえるが。むしろ心配なのは私の方でしょ、いつニートに襲われるか分からないし」


ニート「バッキャロウ!!俺にそんな度胸があるわけないだろ!!いい加減にしろ!!」


凪沙「お、おう…。でもどちらにせよ、カグヤに悪いとは思わないのか?」


ニート「そんなの今更でしょ?」


凪沙「…まぁ、そうなんだけど。っていうか、一緒に寝たら風邪移るんじゃない?」


ニート「ニートが風邪を引いても誰も困らないだろ」


凪沙「それ、私が最初に言ったやつ」


どうやらニートはベッドのためなら風邪を引くことも厭わないようだ。だからと言って一緒に寝るのはマズイ。


ニートとはいえど男、腐女子とはいえど女なのだ。私達に限って事が起きるわけはないが、周りから見たら心象はよろしくないだろう。


それにしてもこいつ、童貞のくせにためらいもなく女の子のベッドに入ってくるとは…。


…待てよ、こいつ本当に童貞か?。


もしや…私の知らぬ間に卒業した可能性が…。


だとしたら合点が行く。女を経験し、場慣れしたことによって抵抗が無くなったのかもしれない。

一度聞いてみる必要があるな…。


凪沙「…ち、ちなみに聞いておくけど…カグヤと寝たことはあるの?」


ニート「そ、そそそそそそそんなことできるわけないじゃない//私達、まだキ…キキキキキキ…キスもしてないっていうのに…。女の子と一緒に寝るなんて…私にできるわけないよ////」


凪沙「お前、私をなんだと思ってんだよ!?」


乙女のように顔を真っ赤にしながら否定するニートに、私は思わず恫喝してしまった。


いや、ほんとこいつ私をなんだと思ってるんだか…。


結局、根負けしてしまった私はみすみすベッドにニートの侵入を許してしまった。


まぁ、こいつに私を襲う度胸なんてあるわけないし、彼女持ちのニートはなにか損害はありそうだが、私は別に男と寝て何か困るわけでもないし、別にいいんじゃないかな?。


そんなことを考えていると、私の目にはスヤスヤと鼻息を立てて眠るニートの姿が映った。


一緒の部屋で暮らしているとはいえど、こんなに間近くで顔を見る機会はいままでほとんどなかったため、少し新鮮な気持ちになった。


凪沙「こいつ…よく見るとこんな顔してたんだな…」


私は思わずそんな言葉を口にしてしまった。


そのまま私は吸い込まれるように彼の穏やかな顔を見つめ続けていた。


なんでだろうな…ニートの顔を見てると…なんだか不思議と…ふつふつと湧き上がってくるこの気持ちはなんだろう。


こんな気持ち…初めてだ。


なんといえばいいんだろう…どうしようもなく…どうしようもなく君を…殴りたくなるこの気持ちは…。


静かにじわじわと…私の心を染色して行くこの感情は…。


そうか、これが…これが殺意か。


積もり積もったニートへの積年の恨みが私の中ではっきりした意志として具現化していたのだ。


まぁ、いくらなんでも殴るのは勘弁しておいてやろう。


だが、せめて代わりに…なにか一矢報いてやりたいが…。


私がそんなことを考えているとはつゆ知らずに、一人でスヤスヤと寝ているニート。とりあえずこの私を差し置いて一人で速攻で仰向け寝ているニートになんだか腹が立った。


凪沙「ほんと、こいつは…私のことなんだと思ってんだか…」


童貞のくせに一応女の子である私の布団になんの躊躇いもなく入って来たかと思えば、彼女とはまだキスも出来てない純情ぶりを見せたり…。


とりあえず自分がぞんざいに扱われていることに腹が立ったので、寝ているニートの鼻の先端に軽くデコピンを食らわしてやった。


ニート「ふがっ…」


凪沙「…ふっ、今日はこの辺で勘弁してやろう」


とりあえず気が済んだので私も寝ようとしたその時、ニートの口から寝言が溢れて来た。


ニート「痛いよ…姉ちゃん…」


凪沙「…誰が姉ちゃんだ」


私とニートは姉弟などではない。


家族というわけではないし、ましてや恋人などではない。


大した縁も所縁もない、言って仕舞えば他人同然、ただの同居人だ。


だけど、こうして一緒の屋根の下で暮らして、こうして隣で寝ている。


そんな私達の関係をなんと呼べば良いのだろうか?。


友達?居候?同居人?


なんだかどれもピンと来ないな。


ねぇ、ニート…君は私のこと、なんだと思ってるのさ?。


一人でそんなことを考えて見たが、目の前にあるニートのアホそうな寝相を見ていたら考えるのがバカらしくなってしまった。


凪沙「はぁ…アホくさ。…寝よ」


きっとこの私達の名状しがたい関係は普通では無いのだろう。


周りの人からしたら理解出来ないだろうし、当事者である私自身よく分かって無いし。


普通ならありえない関係…だけど、思いの外居心地は良いからもう少しだけそばにいさせてやるよ、ニート。





…そう、もう少しだけ…。

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