腐っても鯛、腐っても女子
今回の話は似たような話を前作で描きましたけど、あんまり気にしないでください。
初見の人のための人物紹介
汐入凪沙 主人公、腐女神
ニート 姉がいたらしい
母 父 凪沙の母と父
凪沙「…っていうかさ、ニートはいつまで私の部屋に入り浸るつもりなの?」
いつものようにベッドで横になって漫画を読む地蔵と化したニートにある日私はそう問いかけた。
凪沙「これは別に出て行けと催促しているわけではなくて、さすがに彼女がいるのに他の女の子と同じ部屋で過ごすってのはどうなの?」
ニート「…女の子と同じ部屋?…一体何のことを言ってんだ?」
私なりに気を使った質問に素でなんのことか分かっていない顔をして返答するニート。
凪沙「お前ふざけんなよ?さすがに傷つくぞ?オイ。腐女子だって腐っても女子だからな?」
ニート「いや、消費期限過ぎた女の子は女の子じゃないだろ」
凪沙「私の場合は消費期限が切れてるわけじゃねえよ。ただ途中で発酵加工されてるだけだよ。ヨーグルトみたいなもんだよ」
ニート「確かに腐女子ではなくヨーグルト系女子と言えば響きは良くなるな。あくまで響きだけな」
凪沙「言っておくけど、お前の彼女もヨーグルトだからな」
ニート「ほんとね…それにはこっちも困ってるんだよね…」
凪沙「っていうか、私は別にニートが住んでるのはいいよ。でも、一番心配してるのはカグヤじゃないのか?」
ニート「そんなに気になるならカグヤに直接聞いてみれば?」
そういうわけで、翌日、学校にて…
凪沙「カグヤはさ、ニートが私の…仮にも女の子の部屋に入り浸ってることに心配にならないの?」
カグヤ「大丈夫だよ、凪沙だし」
凪沙「おい、私のことなんだと思ってんだよ?」
カグヤ「悪口じゃ無いよ、褒めてるんだよ」
凪沙「…完全になめられてるな」
ニートにしても、カグヤにしても…この私が仮にも今を輝く女子高生であることを認識していないようだ。
くそぅ、どいつもこいつも…私の内に秘められし女子力を侮っているようだな…。
ふっふっふ、だったら見せてやろうじゃないか、私の本気というものを…。
凪沙「いいよ、こうなったらニートに色気で攻めてドギマギさせて、私だって女子だって証明してやるよ、覚悟しろよ?」
私はそう言ってカグヤに宣戦布告し、足早に家に帰って行った。
こうして、私の女子力を証明する戦いが幕を開けたのだった。
翌日…
凪沙「ごめん、背中のファスナー閉めてくれない?」
ニート「…え?なにその服?」
普段ならば、近所のコンビニに行ってもギリギリおかしく無いレベルのオシャレしかしない私だがこの日、いつになく可愛げのある服を着て、ニートに背中のファスナーを閉めるように促していた。
これは何かの弾みで買ったが、1,2回しか着ることもなく、そのままタンスに2年ほど封印されていた服なのだが…この日、ニートにお色気攻撃を仕掛けるため封印を解いたのだ。
いくら彼女ができたからといって、ニートはまだまだ童貞のチェリーボーイ。経験の浅いニートならば、女子のこの背中のファスナーを閉めることに多少なりともドギマギするはずだ。
普段は見せない私の背中や、うなじになんかこう女子力的なアレを感じてオドオドするはずだ。
腐女子「お願い、一人じゃ閉めれなくてさ…」
…さあ、照れろ!恥ずかしがれ!そして私が女子でないと発言したことを後悔しろ!。
ニート「いいよ。…ちょっと待ってろ」
しかし、気持ち可愛さ増しでお願いする私の考えとは裏腹に、ニートは慣れた手つきで服のファスナーを閉め始めた。
…バカな!?ニートのくせにファスナーを閉め慣れてるだと!?
私がニートの行動に驚いているとニートがこんなことを呟いた。
ニート「…腐女子って…意外に綺麗な背中してるな」
腐女子「…お、おう。ありがと…」
不覚にも嬉しいと思ってしまった私。
…いや!なに嬉しがってんだよ!?。
ドギマギさせようとしたつもりが逆にドギマギさせられた。
実はニートは普段は童貞を燻らせているため、あまり女性に慣れたイメージはないが、姉がいた関係でこういったものには手馴れていたのだ。
だからといって、私もここで引くわけにはいかない。世界中に蔓延るヨーグルト系のみんなのためにも、私が女の子であることを証明しなければならない。
凪沙「どーよ、似合ってる?」
いつもとは違ってノースリーブで大胆に腕を露出し、ふわりと膨らんだミニスカートを着こなしてくるりと可憐に一回転して腐女子は可愛さをアピールした。
ふっふっふ、どうだ?私だって少しオシャレをすれば立派な女子になれるんだぞ?。99%は服そのものの可愛さだがな。…さぁ、照れろ!恥ずかしがれ!そしてドモリながら『に、似合ってる』と言え!!。
スカートなど制服以外で何年も履いたことがない私の渾身のアピールを目の前に、ニートはそれをまじまじと眺めて、感想を述べた。
ニート「…うん、可愛い。似合ってんじゃん、女装」
凪沙「お前『女装』ってどういう意味じゃ!?オラァアアアア!!!」
さすがに怒りが沸点を飛び越えた私は気がつけば渾身の回し蹴りをニートの顔面に炸裂させていた。
後々考えたらスカートで蹴っていたので下着が見えていたかもしれない。
…いや、むしろ見えていた方が女子力アピールに繋がるのでは?。これで女子力アップに繋がるのなら、布切れの一枚や二枚くらい…。
無駄に打算的な私はそんなことを考えたが、結局、可愛い服装作戦は失敗に終わった。
可愛い服装作戦が失敗に終わってしまった私は次なる作戦を考えていた。
凪沙「女子力…なにか女子力を証明できるものは…」
20分くらい机に向かって頭をひねっていたが、なにも思いつかなかった。
…この辺が私の女子力の底の浅さなのかもしれない。
凪沙「ねぇ、ニート的に女子力ってなに?」
ニート「…え?急になんだよ?」
もうなにも思いつかなかった私はニートに聞いてみることにした。
凪沙「いいから、ニートが考える女子力ってなにさ?」
ニート「えっと…料理とか?」
凪沙「それだ!!」
ニートの発言に思わず食いつく私。…すぐに料理と思いつくあたり、私よりニートの方が女子力が高いのかもしれない。
それはさておき、料理の方が服よりも分かりやすい女子力の証明になると考えた私はリビングへ向かい、母に声をかけた。
凪沙「お母さん、今日の晩御飯、私が作るから」
母「…え?凪沙が?料理を?…大丈夫?いろんな意味で」
最後の『いろんな意味で』とはどういうことですかな?お母様。
こうして、心配そうにそばで見守る母を尻目に私の調理が幕を開けた。
本日のメニュー、ブリ大根。
凪沙「えっと…まずは大根を切るか…」
大根を取り出し、まな板に置き、包丁を握りしめ……あれ?大根ってどうやって皮を剥くんだっけ?。
ピーラー使うんだっけ?。…いやいや、確かなんか桂剥きとかそんな感じの切り方で切ったような…。
そんな半端な知識で取り掛かり、慣れない手つきで大根を扱う私を横で母はそわそわしながら見守っていたが、悪戦苦闘しながら大根の皮を削る私を見てられなくなった母は私から包丁を取り上げ、慣れた手つきで大根の皮を剥いていった。
母「怪我しそうで見てられないから、大根は私が剥くわ」
凪沙「お、お手数おかけします」
母「面取りは凪沙がやってね」
凪沙「はーい」
…あれ?面取りってなんだ?。
流れで返事したはいいが、私は面取りとはなにかをよく理解していなかった。
これ以上母を心配させたくないのでグーグル先生にお尋ねしたいところだが、あいにくこの町には通信規制がかけられており、ネットは使えない。
気軽に調べる術がない私は小声で母に尋ねた。
凪沙「…面取りってなに?」
母「…私がやっとくわ」
凪沙「重ね重ねお手数おかけします」
こうして…
凪沙「ダシってどうやって取れば…」
母「私がやっとくわ」
私の女子力を証明するための…
凪沙「調味料はなにを合わせれば…」
母「私がやっとくわ」
ブリ大根が…
凪沙「大根ってどのくらい煮れば…」
母「私がやっとくわ」
完成した。
父「いやぁ、今日の晩御飯は凪沙が作ったんだって?。美味しいじゃないか!!お母さんの味に引けを取らないよ」
凪沙「う、うん、そうだね…」
ニート「ほんとだ、お母さんの味と比べて遜色無いよ。むしろお母さんの味そのものだよ!」
凪沙「う、うん、そうだね…」
父「いやぁ、お父さん嬉しいなぁ…あの凪沙でもこんなものが作れるなんて…」
凪沙「う、うん、そうだね…」
…食器並べただけとか言ったら、お父さん卒倒しそうだからやめておこう。
こうして、女子力を証明するための料理は99%母の手で完成したのであった。
凪沙「女子力…女子力とは一体…」
部屋に戻って頭を抱える私。
女子力を証明しようとすればするほど自分の女子力の無さが浮き彫りとなる。
もしかしたら…私は女子では無いのでは…。
一瞬、本気でそんなことが頭をよぎってしまった。
しかし、机に向かって頭を抱えていた私の目に首元から見え隠れする自分の胸の谷間が映った。
凪沙「…うん、胸はある」
両手で自分の胸を鷲掴みにしながら確かめるように私はそんなことを呟いた。
だが、それと同時にこんな凹凸でしか自分が女子であるという自信を持てない自分に涙が出て来てしまい、思わず天を仰いでしまった。
ニート「…なにしてるの?お前」
お風呂から上がり、部屋に戻って来たニートは涙を流して自分の胸を鷲掴みしながら天を仰ぐ私を見てそんなことを聞いて来た。
…いや、ニートが疑問に思うのも確かだ。客観的に見てほんとなにやってんだってなるわな。
凪沙「…ニートよ」
ニート「なんだ?」
凪沙「胸の大きさは女子力に含まれますか?」
女子力のためならばもはやなりふり構ってられない私はニートにそんなことを尋ねた。
そんな私の唐突な質問にニートはいつになく真剣な表情をしてなにかを考えていた。
しばらく黙って考えたのち、いつになく真剣な声でニートは語り始めた。
ニート「胸が大きいということはいいことだ。やはり巨乳というものは太古から神ステータスとして崇められてきたものだからな。だが、胸が小さいというものも風情がある。日本文化の象徴とも言える着物は胸の大きくないスレンダーな人にこそ似合う服だ。昔から存在する着物が胸の小さい人に映えるように作られているということは歴史的観点から見ても胸が小さいということを評価する人は少なくなかったということだろう。そして、着物というものは男の憧れの女性の服装のベスト3には入るほど魅力的なものだ。昔から四季を重んじる日本の文化が生み出した産物である着物、祭、花火というものはそれはそれは素晴らしいものだ。夜空に浮かぶ花火をバックに着物をきたスレンダーな女の子…もうこれだけでご飯三杯はいける。だが、巨乳のあの破壊力はそれに引けを取らない。どんな服の上からでもその存在をこれでもかとアピールしてくるあのダブルメロンは多くの男性の視線を釘付けにしてしまうだろう。隠しても隠しきれないそのはち切れんばかりのたわわな果実は確実に男の夢とアレを膨らませるだろう。着物などのコンビネーションによって鮮やかに彩る貧乳に対して巨乳は単体で全てを飲み込む破壊神だ。それ故に服によるアシストは意味を成さずにどんな服装でもアピールが可能だ。しかし、サポートの整った貧乳は組み合わせによって無限の可能性を妄想させる。うぅむ…やはりどちらも甲乙付けがたい。一人で敵をなぎ倒して勝ち星を掴むワンマンチームの巨乳か…味方のコンビネーションを取りつつみんなで勝利を手にする意思の疎通の取れた貧乳か…」
凪沙「………」
なに言ってんだ?こいつ。
凪沙「…結局、胸の大きさと女子力は…」
ニート「関係無い!どちらも違ってどちらもいい!」
結論から言うと、結局私の女子力は皆無なんだそうだ。
凪沙「うぅ…くやじいよぉ、くやじいよぉ…。ニートごときも魅了できないなんてくやじいよぉ…」
あの手この手で散々女の子のアピールしたが、結局ニートのハートには響かせることが出来なかった私は河川敷の上でアパレルの膝にしがみついて泣きじゃくっていた。
アパレル「大丈夫大丈夫、ニートが鈍いだけで、凪沙は十分魅力的だからさ」
凪沙「ニートにすら相手にされないなんて…もう私は胸張って自分は女の子って主張できないよぉ」
アパレル「大丈夫大丈夫、凪沙も本気出せば可愛いからさ」
凪沙「でもニートにすら通用しないんだよ?もう私終わりだよ」
アパレル「ニートは…ああ見えて意外と一途だからね…。カグヤ以外に照れたりしないからさ」
凪沙「…そうなんだ。…てっきり、ちょっと気を持たせれば誰にでも惚れると思ってた」
アパレル「まぁ、ニートに気がある人が少ないから分からないだろうけどさ…」
凪沙「確かにね、あいつのことが好きなやつとか、正気を疑うしね」
アパレル「ふふ、それもそうかもね。…でもさ、凪沙はニートのこと、好きなんじゃないの?」
凪沙「…は?私が?ニートを?…いやいやいや、何言ってんのさ?」
アパレル「好きじゃないの?」
凪沙「いやいやいや、別にそういうのじゃないよ。そりゃあ好きがどうかって聞かれたら好きだよ?でもそれは決してLOVEなんかじゃないし、ただ友人としてのLIKEだよ?」
アパレル「好きでもないのに同じ部屋で暮らしたり、いろいろ世話焼いたり、振り向かそうと頑張ったりするの?」
凪沙「いやいやいや、同じ部屋で暮らしているのはニートが帰る場所とかないから仕方なく部屋を貸してるだけだよ?それにルームシェアにLOVEなんて必要ないでしょ?むしろ煩わしいでしょ?。いろいろ世話焼いてるのも、ニートが危なっかしくてほっとけないだけだよ?振り向かそうと頑張ってたのは、私だって女子なんだって証明したかっただけだし…」
アパレル「ほんとに?」
凪沙「ほんとだよ」
アパレル「本当にこのままでいいの?」
凪沙「そりゃあ構わないよ」
アパレル「後悔しない?」
凪沙「しないしない。…っていうか、ニートのどこを好きになれっていうのさ?。よっぽどの変わり者でもない限り、あんなやつ好きにならないでしょ?」
アパレル「そっか。…それならいいの…」
そのとき、河川敷に流れる風が、とある二人の男女の声を運んできた。
多分それはたわいもない、なんの面白みもないつまらない会話なのだろう。
それでも、私は夕日に照らされた河川敷を少し照れながらも嬉しそうに二人で寄り添って歩くニートとカグヤの姿から目が離せなかった。
それは純粋にカップルが羨ましいからとか、妬みとか、そういう理由ではない。なんで目が離せないのか…自分でも分からなかったのだ。
ただ、一つ…胸に突き刺さるような小さな痛みを感じた。
原因は分からない…いや、分かりたくない。
多分これは、自分でも気が付かないように、自ら蓋をしていたから…知らないフリをしていた方が楽だって分かっていたから、考えないようにしていたから…いままで表に出ることのなかったもの。
そんな胸に感じる痛みを差し置いて、二人は私に気がつくことなく近くを通り過ぎたそのとき…この胸の痛みが割り込む隙間のない二人の世界を感じてしまった。
凪沙「…おかしい、絶対おかしい…」
アパレル「………」
凪沙「私、どうかしてる。異常だ」
アパレル「…そうね」
凪沙「…だって…ニートだよ?。これっぽっちの優しさも、デリカシーのかけらもないし、ガサツだし鈍感だし、ただの穀潰しのニートだよ?」
アパレル「うん…そうね」
凪沙「そんなやつを好きになるとか…変だよ。絶対…変だよ」
アパレル「そうね、変よね。…でも、恋ってそういうものだから」
気が付かば、私はボロボロと涙を流していた。
それは叶わぬ恋に気がついてしまった悲しみと、いままで気がつかないフリをして何もしてこなかったことへの後悔。
流しても流しても仕方のないのに、それでも止めることのできない涙を惜しげもなく、私はいつまでも流し続けた…
…と、いう夢を見た。
いつもの部屋のいつもの作業椅子で眼が覚めると目の前には描きかけの半裸の男のまぐわいが広がっていた。
凪沙「…人生でワースト3に入る酷い夢を見た」
ニートに惚れるなどという悪夢を見た私は肩にニートの上着がかけられていることに気がついた。
凪沙「…これを肩にかけるくらいならいっそのことベットまで運んでくれよな」
凪沙は当然のようにベットを陣取って寝ているニートに悪態をついた。
凪沙「…しっかし、ほんとに酷い夢だった」
この私があのニートに惚れるなど…夢とはいえど一生の恥だ。
そんな風に考えていると、ちょうどそこにニートが目を覚ました。
ニート「おう、おはよう」
凪沙「おはよう、上着ありがとね」
一応、私は上着をお礼をいった。
ニート「それはそうと、お前なんかうなされてたぞ?『変だ、絶対変だ』とか寝言言ってたし…」
凪沙「マジかよ…一生の不覚だわ…」
ニート「どんな夢みてたんだよ?」
凪沙「それは…秘密だ」
ニート「あんなにうなされるなんてよっぽどの悪夢だったんだろ?どんな夢か教えろよ」
凪沙「教えない」
ニート「別に隠すことでもないだろ?」
凪沙「秘密ったら秘密だ」
ニート「いいから教えろよ!」
凪沙「うるさい!!」
しつこいニートに私は羽織っていたニートの上着をニートに投げ返しながら叫んだ。
凪沙「悔しいから、お前にだけは絶対教えてやらん!!」
ニート「…えぇ、なんか理不尽だな」
こうして、結局何事もないまま、二人のまた新たな1日を迎えたのであった。
…ただ、この時の凪沙は、あの時の気持ちがどこまで夢だったのかを知る由もなかった。




