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祝福の果実
ここに、林檎がある。
これは君のための林檎。
まだ来ぬ春を手招く乙女の紅い頬に似た。
後れ毛の光る輝きに、柔らかに漂う朝の香り。
君の指をなめらかに受け止める素肌。
すべてが、君のために用意された甘い果実。
君は疑うだろうか?
まつげの先に霜の降りる朝に。
湿った白い息で濡らす鼻先のむこう。
紅に染めた頬を、朝焼けに照らしながら。
あかぎれの指先に、滲む血をジーンズに擦りつけ。
1人の少女が、君のために紅い宝玉をもぎ取る。
まだ知らぬ、子を育む愛をその木に注ぎ込んで。
ひととせの先に、ようやく手にした収穫。
これは、君のための林檎。
正しくも美しくもない昼間の蛍光灯を越え。
孤独な夜、手元を照らすディスプレイの先に。
君のことばが、描く世界が、僕を抱き締める。
眩しさにくらむ僕の手を引く、君の。
その愛らしくも生々しい、無邪気で狡猾な。
指先に紡がれた、意地悪で優しい言葉達に贈る。
これは、君のための。
君を祝福する、楽園の果実。