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月のキャンディ
落ちていく月のキャンディ一つ、
君の手のひらに握らせてあげよう。
誰もが君を見向きもしない、
蛍光灯の闇の隙間で。
手の中で溶け落ちる痛みだけが至福。
消えていく星のジェリィ一滴、
君の唇に含ませてあげよう。
誰もが君の歌も聞かない、
窓の向こうの酔漢の声で。
舌先を湿らす震えだけが甘露。
沈みゆく雨のシャーベット、
吹き散らす風のメレンゲ、
舞い上がる雪のシフォンケーキ。
どれもどれも、ぜんぶ君のもの。
誰もが君を見向きもしない、
深夜の窓辺に届けてあげよう。
甘い蜜に包んだ苦しみは、明日に持ち越して。




