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一歩目の人魚
そこに何があるのか、僕は知ってる。
砂浜に築いた城の中に。
ひときわ輝く魂の欠片。
満ち潮にのまれて引きずり込まれても。
白い波の下に隠されてしまっても。
流れていく言葉があることを知ってる。
オフィーリアの歌う唇の端に。
掠れて残る血肉の残滓。
鱗にくるまれて水辺から引き離されても。
つつかれて散り散りに破片となったとしても。
放っておけば良いさ、たいしたことじゃない。
上からでも横からでも、好きなように眺めるが良い。
的外れにひるがえして、引きずり下ろしたいんだろう。
君がそこにいないことを、僕は知ってる。
君の心はいつも、君の戦場に。
閃く剣先の踊る場所に。
観戦者達には目もくれず、先へ走る。
自ら築いたものの価値を、君は知ってる。
明日には波にさらわれても。
いつか水底に沈む輝きでも。
君が信じる限り、僕も信じる。
足裏に確かな感触があること。
きっとその踏み台に足をかけ、朝へとのぼること。




