永劫の書棚
この書棚の中には、あなたの書いた物語があるのです。
都会の排気ガスと舞い上がる熱風で燻製になった、私の脳細胞の真ん中。
内側のまだみずみずしい場所を、規則正しく区切った木製の書棚。
私だけの秘密の分類で並べてあります。
小さな私は隙間に入り込んで、今宵の1冊を探します。
どこからか、甘い香りが漂ってきました。
しっとりと肌を覆う、大人の恋。
頬がきゅっと窪むような、少年少女の淡い想い。
時折、書棚の影を照らし出すように、稲妻が奔ります。
ページの間から閃光がはみ出ているのはヒロイックサガでしょう。
敵に挑む勇者達の剣の煌めき。
人々に紛れ込む闇の軍勢を押し退け、光を当てる英雄達。
こちらの棚からこぼれ落ちるのは、まだ見ぬ異国の香ばしいスパイス。
あちらの棚から流れてくるのは、遠くから響く至高の音楽。
空中を舞ってキラキラ輝く、友情、愛情、希望に栄誉。
胸を貫いて飛び抜けていく、悪意、嫉妬、破壊に孤独。
指先が迷って、大事な1冊を取り落としてしまいました。
私はそれを拾い上げ、角の折れたページを指先で伸ばし、そして、胸の中に抱え込むのです。
書棚の隙間に戻って、広げたページの中へ潜り込むために。
あなたの物語が、ここにあります。
私の命の中で、最も熱い血の流れる、永劫という名の書棚に。




