見知らぬ誰かを応援する詩集

物語をつくるひと

　痛みを知るひとだけに見える、深い傷跡。

　挫折を越えぬ若芽には、ただ胸躍る冒険と感じられても。

　確かにそこにある、拒絶と排除。

　踏みにじられた誇り。空虚を歩む孤独。

　否定を受け止めるために紡がれた柔らかい嘘。

　また１つ壁を乗り越えて。

　今宵、あなたの言葉は有（いち）と無（ぜろ）の世界を超越し、現実の淵を掠めて浸み出していく。

　それは、誰かにとっての祈り。

　わたしにとっての救い。

　弱さも青さも、土臭さも。

　どんな苦しみも内包して、それでも輝く星。

　あなただけがつくる生命。

　この世ならざる者の完璧な美。

　どん底よりなお深い絶望の無力感。

　あなたの瞼によって濾過された世界の真実。

　零れ落ちる花びらのひとひら。

　汚濁を抉る英雄のひとふり。

　わたしの心を貫く、永遠の楔。

　あなたは物語をつくるひと。

　世界の始まりをうたうひと。

　最後の夜を越えて、あと一つ羽ばたく白い鳥。