独唱
背中丸めて、足下だけ見てる。
集まったスポットライトで、薄くなった小さな影を見下ろすように。
舞台の上の君は決死の表情だね。
小さな身体を、精一杯縮めて固くして。
名前が呼ばれて、ようやく顔を上げた。
潤んだその目に何が見えてるの。
ホールいっぱいの聴衆。
暗闇の中に見え隠れする人、人、人の頭。
湿った手のひらをもう一度握りしめる。
巻き込んだスカートの裾がしわくちゃになるのも構わずに。
人混みが怖いかい?
みんな敵に見えるかい?
震えてしまって声が出ないんだろ。
そんな肩に力が入ってちゃ。
歌えない君を急かす心ない野次が、胸元を刺してくる。
誰の言葉かも分からない、顔のない誰かの意地悪な声。
ねえ、だけど、覚えていて。
満員のホールの中、たった1人。
君の歌を待っていた人がいる。
僕じゃないよ、分かるだろ。
こんな通りすがり、ふらりと立ち寄った僕なんかじゃなくて。
君が歌う、君の歌だから。
他の誰にもなれない君の。
どんなに音を外しても、リズムを間違えても。
その過ちも君のモノ。
さあ、くちびるを開いて。
息を吸って。
まっすぐに空へ駆け上るように、声を震わせろ。
君にしか出来ないやり方で。
世界に愛を告げろ。
歌が終わったとき、皆どうするだろう。
たとえ誰もが席を立ち、拍手1つなかったとしても。
舞台に残された君がひとり孤独を感じたとしても。
君はそこにいる。
君の歌う愛を、また1つ抱えて。




