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門番でどうなるか、捕まることや追い返されることも考えてはいたが、結論は行くしかなかった。
バイトの面接の緊張を思い出しながら、駆け足で街の門まで向かっていく。壁はビル3階分はあるだろうか、近づけば近づくほど、無骨な威圧を感じる。轍と同様の横幅を持った門には、番が左右に分かれて2人いる。出来れば他の人を参考に、街に入りたいが、特に回りに一緒に街に入る人も見かけなかったので、できるかぎりの僕は悪い人じゃないですよーと心をこめた笑顔を保ちつつ、顔が目視できる距離まで近づいたとき、先制で挨拶をする。
「こんにちはー!」
大きく一声。ただそれだけ。余計な言葉は、一切文化の分からない世界において、デメリットを高めるだけだ。コンマ1秒1秒が過ぎる緊張の中、返答は……無い。最悪のパターンを想定しながら、かけていく。
鉄製の兜をつけているため、表情まで読み取りにくい。あたって砕けろ、背筋がピシっと伸びている方の目の前まで行き挨拶をする。もう一人は、壁にもたれている。
「こんにちは!」
再びただ、それを大きな声で、笑顔とともに言う。ここからはゴールデンサイレンスだ。相手が何か反応するまで、決してこちらからは声をかけない。冷や汗が出て、心臓のテンポが速まっても、絶対に……だ。
「う……」
絶対にだ!
体感にして5分後、実際はより短いのは間違いない。帰ってきたファーストコンタクトは言葉ですらなく、顎をクイックイとさせ、街の中へと示していた。これは後から気づいたことであって、今、自分は、緊張のあまり些細な変化に気がつかずに、張り付いた笑顔で待機していたら、手でシッシとされてようやく気がつき、
「あ、はい……」
ファーストコンタクとがあまりにずさんな対応であり、何かに期待していたようで、落ち込んでる自分に少し恥ずかしくなった。気合を新たに入れなおし、駆け足で街を進む。町並みは創造していたとおり、そして期待していた通り中世ヨーロッパ風だ。街端で見かける人々も間違ってもプラスチックで出来た服を着た物等はいない。そして何より日本語に聞こえてくる。
「つまりは、偶然ではなく、必然……。僕はこの世界から求められている! 僕の、いや、俺の時代キター!!」
んぬへへへへ……と、笑い殺しきれずに漏れ出る笑いは止まらない。俺は止まらない。駆けるこの足、いまだ場所しれずの冒険者ギルドへ!
と、そこでタイマーが鳴ったので、俺は路地裏にさっと入り、地球へと帰える。