第二話 冒険が始まる
「よし、これにしよう!」
いくつもある野球バッドの中から、直感でしっくり来る物を手に、レジへと向かう。今年貰った使い道の無かったお年玉から、支払いをすませる。
「さぁ、次はホームセンターだ!」
用意無しじゃあまりに無謀だと感じ、休日の時間を利用して、冒険に役立ちそうなものを片っ端から買い集めに商店を回ることにしたのだった。ホームセンターに着いた僕は、籠を片手に良さそうな物をどんどんと入れていく。
「んー……? モンスターに殺虫スプレーは効果は抜群か……?」
少し悩み、実際にその現場を想像してみると――
「いやいやいや、無いわ。スプレー届く範囲に来てるモンスターにスプレーしてる暇がある気がしない」
そっと元の位置に戻したところで、横から声がかかった。
「あれ、兄貴。こんなところで珍しい。何を買いにきたの?」
横を見ると、我が妹が男を連れて居た。
「え? ん、いや、まぁな。生活必需品をな」
「……ふーん。とてつもなく怪しい」
カゴの中に手を伸ばそうとしてきたので、とっさに体の後ろに下げて、話を逸らす。
「それよりもお前こそ何でここに?」
言葉とともに、隣に居る男子を見ると、男子は「どもっ」と軽く頭を下げ、妹が答える。
「文化祭のための買出しよ」
「なるほどなー……。そうかー……。まぁ、がんばれよ。デートの邪魔する訳にも行かないし、またな」
特にうまくつなげる言葉も見つからなかったので、適当にごまかしてそそくさと後を去る。後ろから、「帰ったら部屋を漁りに行ってやる」、とか小生意気な声が聞こえてくるが、無視だ。
それからホームセンターで結局2時間も時間を費やすこととなった。ホームセンターは良いところだ。高枝霧バサミを買うか非常に迷ったところだが、刃物類は留意しておくことにした。
「さて、今日こそは草原から脱出するぞー!」
自室のたち鏡の前で頬を手でたたき、気合を入れる。5分間は現実世界でも時間が流れているため、自室で行うことにしていた。
「上から、動きやすい上下ジャージよし、腕時計よし、バットよし、ウェストポーチよし、運動靴よし」
小物武器類はウェストポーチに居れ、すぐに出せるようにしておいた。腕時計に備わったストップウォッチの機能を使い、5分経ったら音が鳴るタイマーをONにする。
「さあ、いくか……。"異世界に行きたい!"」
その一言ですぐさま世界が変わる。すぐに周りを見渡し、危険が無いことを確認し、ウェストポーチからコンパスを出して北の方角を確認し、向かうことにする。
「限られた時間は5分! 街を見つける!」
まずは小走りから、慣れてきたら徐々にスピードを出していく。1日限られた時間は5分だけだ。進めるだけ進む。ひざの高さまであるニラのような草の中を走る。眼前はなだらかな上り坂になっていて、遠くに山が見えるがその間には何があるかはここからでは丘が見えるだけで見渡せない。進むしかないだろう。
どうやらここはなだらかな丘がいくつもあるようで、小さな小山の上に到着した。少し荒れている呼吸を整えながら、周りを見渡すと――
「何か動いた……? 風か?」
草の一部がふいに動いた場所があった。少し遠くて分かりにくいが、風とは逆に動いた気がする。
「こんな時のための……! タカタカッタターン! そーがんきょー!」
一人でドラエモン風に言いながら双眼鏡を取り出し、少し楽しくなる。
時間は限られているが、動いた箇所を双眼鏡で覗いていると、
「ウサギ?」
白く丸々とした物凄くさわり心地が良さそうな、毛玉の塊のような、枕にして持ち帰りたいような、バレーボール程の大きさのウサギもどきが草から上に飛び上がったのが見え、そのまま何度もピョンピョン飛び跳ねている。少し面白くなってみていると、ふいに止まり、草の中を移動し始め――
「こちらに向かってきた!?」
あわてて双眼鏡をしまい、バットを手にする。