第一話
「あー、異世界に行ってみたいなー」
何気につぶやいた言葉だった。
学校の帰り道、帰宅部である僕は、異世界へ旅立った。
「え、え? ええ? どこだここ?」
自宅へ帰るため、住宅街を歩いていたはずなのに、目に映っているのは草原だった。
肌で感じる気持ち良い風も、鼻で感じる新鮮な空気も、聞こえる風切る音も、すべては草原に居ることをつきつけていた。
「冷静になろう、冷静になろう、小説家になろう……じゃなくて……」
理解を超える現象に、体が震え、冷や汗もかき、発狂しそうになる中、なぜか死を感じ、今までの記憶が走馬灯のように思い出される。その中で、今居る状況が説明できる言葉を思い出した。
「神隠しなのか……?」
ふと出た、この一言は自分に安心を与えた。
「もしくは……異世界? トラックに跳ねられて無いけど? いや、跳ねられないに越したことは無いよ」
一人突っ込みを入れると、緊張していて動かすことが出来なかった体に、自分の意識が張り巡らされる。呼吸をしていなかったのではないかと自身を疑うぐらい詰っていた息を吐き、そして大きく吸った。
「――うん。ここは異世界だ。自分の言葉がトリガーとなって……、魔法で召還されたか、自身で発動したかしたのだろう」
そこまで思い至り、とりあえず試しにつぶやいてみることにした。
「地球に戻りたいなー…………」
チラッチラッと横を見るが――特に変化は無かった。ならば後はすることはひとつだ!
「帰る方法を探すぞー!! 街を探すぞー!! 繰り広げられる奴隷っ子と、魔法学校と、闘技場と、魔王の娘!! 僕の冒険は今ここから始まる!!」
さっきまでとは打って変わり、弾む心でそう言って、足を一歩踏み出したその瞬間――。
「はいぃぃ?」
足が踏みしめたのは、生い茂る草ではなく、アスファルト。つまりは地球の通いなれた通学路だった。
喜ぶべきか悲しんだらいいのか怒ればいいのか、この時の僕の表情は僕にも分からなかった。
「あー、なんだったんだろなぁ」
次の日の登校中、僕は眠い目をこすりながら、歩いていた。
結局、あの後、もう一度、「異世界に行きたい」と小声で言ったり、大声で言ったり、異世界に行ったその場所で飛び跳ねたりしてみたが、何も起きず、夜に布団についてからも様々考えるが、答えは出ないまま眠りに入ったのだった。
「夢だったのかなぁ……。できるならまた異世界に行ってみたいなぁ……はぁ……」
ため息をつきながら、前に出した足が踏みしめたのは今度は、――生い茂った草だった。
「――えっ!? もしかしてこれた!? よっしゃー!!」
二度目の異世界に、僕は草原を走り出した。そして――。
あれから数日、色々と検証を重ねた結果、大きく2点、判明した。
①、異世界に行けるのは1日に5分だけ
②、行くためには「異世界に行きたい」旨を言葉に出すこと。
そして僕はこれから異世界での目標を、"滞在時間の延ばし方"に決めた。