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Absolute Plaything  作者: N
4/22

幸福

「『幸せ』って何?」

「……お前何言ってんだ?」

「何って、『幸せ』の価値観について」


何が幸せで、何が不幸なのか、そんなこと考えたこともない。

誰かに訊かれなければ、一生考えることもなかったんだろう。出来るだけ面倒なことをしたくないと言うのが人間だ。

それに、そんなくだらないことを考える余裕などない。


「そう言うアンタはどうなんだ?」

「は?」

「……アンタの言う、幸せに対する考えが訊きたいぞ…と」


何気なく訊き返す。

返って来るであろう答えを予測することなく、深い意味すらなく言っただけだった。


「死ぬことよ」


さらりと、何でもないことのような口調が聴こえた。


「あたしは、あたしを好きだと言ってくれる誰かに殺されるのが『幸せ』なの」


訊かなきゃよかった。


「……そぅ、か…」

「うん」


相の心情など考えることのない、固定の声。


「だって、本当に好きならそう思うのは当然でしょ?」


無邪気に訊き返されたが、どう応えていいのか判らない。

本心を言うなら、何も言いたくない。


「そうじゃなきゃ、欲しいものは手に入らないもん」


同じぐらい無邪気に応えるのは無理がある。

息の詰まるような沈黙。

空気が停滞するそれに耐えかね、絡みつく視線から逃れるように口を開く。


「何でもねぇよ」


猫を撫でるかのように、髪に触れてやる。


「で、何の話だったけ?」

「むぅ」

「はいはい俺が悪かった。ちゃんと覚えてるって」


気持ちいいのか、まるで本当の猫のような仕草で擦り寄って来る。

それは唐突なまでに彼女を連想させる。最後は何も言わないモノになって、縋るように足元に転がった彼女の記憶を呼び起こす。


「『幸せ』の価値感についてだろ?」


こびりつく記憶を脳裏に浮かべながら、何食わぬ顔で訊く。


「正解」


その返答に満足した微笑を浮かべた。

フラッシュバックする記憶。それは既に過去のデータに過ぎない。


或いは――――


「じゃあ俺の『幸せ』は、アンタが俺の傍にいてくれるコトだな」


これから起こり得る未来のことか。


「何バカなこと言ってんの」


酷く飽きれたような声。

彼女の持つ『幸せ』の価値観が『誰かによってもたらされる死』ならば、その願いすら平然と叶えるだろう。

ただ、それは俺の望むカタチではあるが。


「バカなことじゃなくて、最良の方法だと思うけどな」


二重の意味を込めて、満足そうに微笑った。

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