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Absolute Plaything  作者: N
21/22

赫色

赫は、嫌い。

だって、連想するのは血と、炎の色だから。


だから私は――――


「君の髪は綺麗だね。とても綺麗な赫だ」


そう言われるのが、死ぬほど嫌いだった。



 ***



『君の髪は綺麗だね。とても綺麗な赫だ』


そう言った直後、彼女は私から逃げるように何処かへと走り去ってしまった。

だから多分、原因はそれだろう。


「――――と、言うわけなんだが、何か知らないか?」


ことのあらましを彼女と一番付き合いの長い彼に、私は訊く。


「どうして俺に訊く?」

「義兄であるお前なら知ってそうだから」


訊き返した彼に、一瞬の間も置かずに私は答える。

私に即答されると思っていなかったのか、彼はたじろぐと少しだけ考え込むような沈黙の後に開口する。


「……俺から聞いたって、あいつには言うなよ」

「それは構わないが…」

「『赫』はあいつに取って、忌まわしい記憶だからだ」

「記憶? 何の…」


「あいつの父親との最期の記憶が『赫』なんだよ」


「でもそれは…」


今時珍しい話ではない。

目の前で肉親を亡くすことは、今の時代ならそこら中に転がっている話だ。珍しいことではないし、ましてや彼女は戦場を知っている。仮にも正規軍に属し、戦場で剣を振るう彼女が最も見慣れているはずの色彩なのだから。

それを『嫌い』だと言うことなら判るが、それに対して彼女が見せたのは違う感情だった。

その感情が何なのか、恐らく本人は気づいていない。

でなかったら、もっと違う反応が返って来るはずなのだろうから。


「だからあいつは、自分の髪の話をされるのが嫌いなんだよ」

「そう…、か。それは悪いことをしたな」

「しょうがないさ。お前は知らないで言ったんだから」


私が落ち込んだように見えたのか、彼が励ますように言う。


「あぁ。彼女が私を避けるのはその所為か」


私は苦笑混じりに応えて、困ったような表情を浮かべた。


 ***


はらはらと雪が降る平原で、


「どーしてこんな色してんのよ」


灰色の閉ざされた空を見上げて、私は呟いた。

赤みがかった茶系の髪。ここ数年でその色は更に『赫く』なった気がする。

何でよりにもよって、嫌いな色が自分の髪の色に該当するのだろう。しかも、それを愛おしい彼に指摘されるとは思っても見なかった。

普段はあえて意識しないようにしているのに、どうして――――


「………のバカぁ!!」

「――――いくらなんでも、バカはないんじゃないかな」


不意に彼の声がして、私は振り向く。


そこには、たった今、私がバカ呼ばわりした青年が立っていた。


「こんなところで何をしてたんだい?」

「……べ…、別に。何でもいいでしょ。あなたこそ、こんなところで何してんのよ…」

「私は君を探しに来たんだよ」

「は、何で?」


「謝ろうと思って」


「……………いーよ。気にしてないし……」


そこまで言って、私は微かに目を見開く。

謝ると言うことは、理由があるからだ。彼のことだから原因は判っているのは間違いない。問題は――――


「誰から聞いたのっ?」


濁流する感情に身を委ね、私は彼の腕を掴む。

私は彼がどうしてそのことを知っているのかを、混乱している頭で考える。意外と結果は直ぐに見つかった。このことに関して、思い当たるヤツは一人しかいない。


「っ、義兄か…」

「他に心当たりは?」

「ない」


彼女は舌打ちし、即答する。

私の口から、知らずにため息がこぼれた。

後で彼女が彼を問い詰めるのは目見えている。何も言わなくても判ってしまう辺り、本当に彼しか知らなかったのだろう。これでは約束も何もあったもんじゃない。


「君は」

「何?」


「私のことは嫌いかい?」


沈黙。


「……………嫌い……」

「それは、私の髪が『赫』だからかい?」

「………………ん、そー……」


「でも、私は君が好きだよ」


無防備な彼女の手を取り、私は強引に彼女の身体を自分へと引き寄せる。

いつもなら抵抗があってもおかしくないのだが、今日に限って彼女は素直に従う。


「『赫』は嫌なモノだけじゃない。それだって君は判ってるんだろう?」


抱きしめて、彼女の背中にまわした手に、少しだけ私は力を込めて言う。


「……ね…」

「ん?」

「……訂正するよ…」

「何を?」


「……………私はあなたのコト、嫌いじゃないデス……」


 ***


だって『赫』は、この白銀に覆われた世界で唯一映える色だから。

それを教えてくれたのは、記憶よりも『赫』を連想させる人。


この瞬間から、私は『赫』が嫌いじゃなくなった。

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