永遠の終わり_SideC_
SideBの続き
雑踏の中で見かけたのは見覚えのある、弟のような親友の姿。
かつて少年だった彼は、昔の面影を強く残したままの姿で、私の前に現れた。
考えるよりの先に、自分の身体が反応したのが分かった。
「まっ、て!」
手を伸ばし、彼の腕を掴む。
振り返った彼の目は驚きに見開かれ、私の名前を呼ぶ。
薄らと独特の光彩を持ったその瞳を私に向け、確かに聞き覚えのある声で、その口調だけを変えて彼は言う。
ある日、突然、私の前から姿を消した彼を確かめるように、私も彼の名前を呼ぶ。
「あのなぁ」
懐かしい声と、私に触れる彼の手はあの頃のままで。
「まさかとは思うけど、俺のこと忘れたわけじゃないだろ?」
「…んなわけ、ないじゃない」
呆れたように微笑する彼は、大好きだったあいつに似ていて。
私は少しだけ違和感を覚える。
何かが違うと脳が警鐘を鳴らすが、理性よりも、感情が先走ってしまう。
「生きてたんなら、連絡ぐらい寄越しなさいよ」
「あれ? もしかして、俺のこと心配してた?」
意地悪そうに彼は目を細め、私の耳元で囁く。
いつの間に私の背を追い越したのか、少しだけ屈むようにして言われ、不覚にも心臓が高鳴った。
同時に、奇妙な既視感がした。
「っ、だ…誰があんたの心配なんか!」
「うわぁ、相変わらず素直じゃないな」
「ちょっと、私の何処が素直じゃないのよ」
まるで、あいつと話しているような感じがして。
「んー、そう言うトコ」
無視できないほどに違和感が強くなる。
「本当、相変わらずだな」
それは決定的な、記憶の齟齬だった。
「………何か、変わったね?」
「何かって、何だよ? 俺は俺だろ」
瞬間、彼と共に行方知れずになっているあいつの姿が思い浮かぶ。
どくん、と。跳ねる心臓。
「…ねぇ」
「ん? どーした」
あいつと同じ口調で、彼は言う。
どくどくと心臓の鼓動が耳朶を打って、脳内を反響して、私の感情を犯す。
「……あのさ…」
どくん、
「約束、覚えてる?」
どくん、
「約束?」
「……………」
「………あぁ、覚えてるよ。あれだろ?
『任務が終わったら、直ぐ戻る』って約束だろ」
違う。
「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ…」
「……へーき。何でもないから」
彼とは、約束をした覚えはない。
「何でも、ない…よ」
だって、あの任務の前に、そう約束したのはあいつとだった。
「じゃあ何で…」
「……………」
「そんな顔してんだよっ」
頬を伝うのは生暖かい感触。
不意に腕を掴まれ、倒れそうな身体を彼に支えられる。
「泣くなよ。ごめんな、ごめん」
「誰も泣いてなんか…」
「 」
「……ぇ…」
彼の言葉に、私は顔を上げる。
そこにはあいつと同じ色彩をした、私の大好きな『青い』空と海を混ぜ合わせた瞳があった。
「ごめん」
どくん、
「約束、守れなくて」
多分、それは――――
「そっか…」
あいつの言葉だった。
もうこの世界の何処を探してもいない、彼の、想いの破片。
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