永遠の終わり_SideB_
SideAの続き
何処までも遠く、晴れ渡った空を眺めて、思うことはただ一つ。
「あいつ、どうしてるかな…」
口に出して、彼は呟いた。
「やっぱ怒ってるかな?
なぁ――――お前はどう思う?」
「………ぅ…あ、ぁ……」
『……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!』
子供扱いする度に返ってくる彼女の反応がおもしろくて、ついつい俺はからかっていた。
これからもずっと続くと思っていたその光景は、
こぽ、
と、水中で息を吐く音によって、脳内から掻き消えた。
「……………っ、………」
ぐもった自分の声で、ここが何処だか思い出す。
身を捩って隣を見ると、そこには当然のように親友がいた。自分と同様に、親友の身体も実験液に満たされたホルマリンケースの中で、意識があるのかないのか判らない状態だった。
あれからどれぐらいの月日が流れたのかは、判らない。
毎日のように実験を繰り返されているうちに、時間感覚などとっくに失っていた。それどころか、自我があるかどうかすらも危ういところだ。
僅かに残る意識で、
「ほら、エサの時間だ…」
ぐしゃっ、
肉が潰れる嫌な感触と、音が、した。
決まった時間にやって来る研究員だったモノが、ずるり、と床に崩れ落ちた。何とか逃げ出さなければと思考が働き、長い間動かさなかった筋肉を無理矢理に酷使して、親友の入っているホルマリンケースを壊した。
そこから親友を引きずり出し、完全に意識のない彼を背負って、俺は研究所から脱出した。
「っ、ごめん、ごめんな。ごめん」
ほとんどうわ言のように呟きながら、俺は追っ手を叩き伏せ、無意識のうちに彼女がいる組織へと向かう。
今更行ったところで居場所なんかあるはずないのに、組織のある場所へ向かうなど自殺行為以外でしかないのに。
「今行くから…」
彼女との約束を果たすためだけに、組織がある場所を目指す。
何処までも高く、
何処までも遠く、
何処までも続きそうな、
晴れ渡った空の下で、
『任務が終わったら直ぐ帰って来てやるから、いい子にしてろよ』
『……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!』
ただ一つの約束を果たすためだけに、彼女がいるはずの場所へと向かう。
いつの間にか非日常になった世界を求めて、
彼女の名を呼びながら、
俺は晴れすぎた空を見上げた。
「なぁ、やっぱ怒ってるかな?」
「……………」
「出てくる時、あいつに直ぐ戻るって言っちまったからなぁ」
「……ぁ、うぅ…」
「大丈夫だよ、あいつは待ってってくれるって。俺のこともお前のこともさ」
自我も意識もない状態の親友に、俺は笑って言う。
安心させるように弟みたいな年下の親友の頭を撫でると、
「おい、オッサン! まだ着かないのか!?」
と、運転席にいる男へと大声で訊いた。
トラックの荷台にいる俺たちにも聞こえるほどの大声で、怒鳴るように返す親父に、俺は愛想良く笑った。
「何でも屋――――
一緒にやりたかったな…、あいつとお前と三人でさ……」
冷たくなる体を起こすことなく、俺の声は擦れていて。
灰色の分厚い雲に閉ざされた空からは、冷たい雨が降り注ぐ。晴れた空はもう見れそうにないな、と薄れ行く意識の片隅で思う。
「……約束、守れそうにねぇ…ごめん………」
『本当にすぐ戻ってきてくれる?』
「ごめん――――、……好、きだ…よ」
「っ!!」
薄れゆく視界に飛び込んできたのは、ずぶ濡れの親友の顔。
中毒症状が収まったのか、それとも一時的に正気を取り戻したのか、俺を呼ぶ親友の叫び声が聞こえた。
その顔に、手を伸ばして触れる。
「…、あいつに伝え、てく……好き、だ…って、ごめん…」
さっきまで降っていた雨は上がり、その空は綺麗な澄んだ青。
微かに笑みを浮かべてた彼の顔は、どこか満足げで、投げ出されて四肢からは既に事切れているのが明確だった。
そして、SideCへ