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Absolute Plaything  作者: N
16/22

永遠の終わり_SideB_

SideAの続き

何処までも遠く、晴れ渡った空を眺めて、思うことはただ一つ。


「あいつ、どうしてるかな…」


口に出して、彼は呟いた。


「やっぱ怒ってるかな?

 なぁ――――お前はどう思う?」

「………ぅ…あ、ぁ……」


『……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!』


子供扱いする度に返ってくる彼女の反応がおもしろくて、ついつい俺はからかっていた。

これからもずっと続くと思っていたその光景は、


こぽ、


と、水中で息を吐く音によって、脳内から掻き消えた。


「……………っ、………」


ぐもった自分の声で、ここが何処だか思い出す。

身を捩って隣を見ると、そこには当然のように親友がいた。自分と同様に、親友の身体も実験液に満たされたホルマリンケースの中で、意識があるのかないのか判らない状態だった。

あれからどれぐらいの月日が流れたのかは、判らない。

毎日のように実験を繰り返されているうちに、時間感覚などとっくに失っていた。それどころか、自我があるかどうかすらも危ういところだ。

僅かに残る意識で、


「ほら、エサの時間だ…」


ぐしゃっ、


肉が潰れる嫌な感触と、音が、した。

決まった時間にやって来る研究員だったモノが、ずるり、と床に崩れ落ちた。何とか逃げ出さなければと思考が働き、長い間動かさなかった筋肉を無理矢理に酷使して、親友の入っているホルマリンケースを壊した。

そこから親友を引きずり出し、完全に意識のない彼を背負って、俺は研究所から脱出した。




「っ、ごめん、ごめんな。ごめん」


ほとんどうわ言のように呟きながら、俺は追っ手を叩き伏せ、無意識のうちに彼女がいる組織へと向かう。

今更行ったところで居場所なんかあるはずないのに、組織のある場所へ向かうなど自殺行為以外でしかないのに。


「今行くから…」


彼女との約束を果たすためだけに、組織がある場所を目指す。



何処までも高く、

何処までも遠く、

何処までも続きそうな、

晴れ渡った空の下で、


『任務が終わったら直ぐ帰って来てやるから、いい子にしてろよ』

『……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!』


ただ一つの約束を果たすためだけに、彼女がいるはずの場所へと向かう。


いつの間にか非日常になった世界を求めて、

彼女の名を呼びながら、

俺は晴れすぎた空を見上げた。


「なぁ、やっぱ怒ってるかな?」

「……………」

「出てくる時、あいつに直ぐ戻るって言っちまったからなぁ」

「……ぁ、うぅ…」

「大丈夫だよ、あいつは待ってってくれるって。俺のこともお前のこともさ」


自我も意識もない状態の親友に、俺は笑って言う。

安心させるように弟みたいな年下の親友の頭を撫でると、


「おい、オッサン! まだ着かないのか!?」


と、運転席にいる男へと大声で訊いた。

トラックの荷台にいる俺たちにも聞こえるほどの大声で、怒鳴るように返す親父に、俺は愛想良く笑った。


「何でも屋――――

 一緒にやりたかったな…、あいつとお前と三人でさ……」


冷たくなる体を起こすことなく、俺の声は擦れていて。

灰色の分厚い雲に閉ざされた空からは、冷たい雨が降り注ぐ。晴れた空はもう見れそうにないな、と薄れ行く意識の片隅で思う。


「……約束、守れそうにねぇ…ごめん………」


『本当にすぐ戻ってきてくれる?』


「ごめん――――、……好、きだ…よ」

「っ!!」


薄れゆく視界に飛び込んできたのは、ずぶ濡れの親友の顔。

中毒症状が収まったのか、それとも一時的に正気を取り戻したのか、俺を呼ぶ親友の叫び声が聞こえた。

その顔に、手を伸ばして触れる。


「…、あいつに伝え、てく……好き、だ…って、ごめん…」


さっきまで降っていた雨は上がり、その空は綺麗な澄んだ青。

微かに笑みを浮かべてた彼の顔は、どこか満足げで、投げ出されて四肢からは既に事切れているのが明確だった。

そして、SideCへ

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