表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Absolute Plaything  作者: N
15/22

永遠の終わり_SideA_

「そんな顔するなって…」


飽きれたような表情を浮かべて、彼はいつも通りの口調で言う。

くしゃり、と子供をあやす様に私の頭を撫でた。

子供扱いされるのは嫌だったけど、彼にこうされるのは割りと好きだ。何て言ったら言いか判らないが、強いて言うなら安心するのだろう。

いま自分がどんな顔をしているのか判らないが、そのままの表情で私は彼と目線を合わす。


「任務が終わったら直ぐ戻るから、いい子にしてろよ」

「……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!」


笑い声を上げながら、騒ぐ私を彼は楽しそうに優しい目で見る。


いつも通りの光景。

そんな当たり前の日常がなくなるなんて、思っても見なかった。


「…じゃあな」


そう言って、彼は軽く片手をあげると、止めてある車に向かって歩き出した。

それが、私が見た、彼の最期の姿だった。

しばらくして、彼が死んだと知らされた。

正確には行方不明と言うことだが、生きてる可能性は絶望的だった。

何故なら、彼の任務地であった村は全焼し、生存者は発見されていないと聞かされた。


その事件の犯人であるのは彼の『英雄』である義兄だったことも聞いた。

義兄が突然暴走して、それを止めようとした彼が返り討ちあったらしい。そして、その義兄もまた行方が判らないらしい。

それが本当に事実かどうかは私の知るところではないが、その話を信じるのならばそう言うことなのだろう。


「……嘘吐き、すぐ戻るって言ったじゃない」


ぽつり、と。頬を伝って小さな水滴が落ちた。

後から後から、涙は止め処なくあふれて流れ、私の頬を伝い落ちて、地面を濡らす。


義兄がどうして暴走してのかは、私には判らない。


私にとって義兄は特別な存在だった。

ただ、それは『英雄』に対する憧れなんかじゃなく、かと言って思慕でもなく、本当に『兄妹』としてだった。そう言う意味で、義兄は特別だった。恐らくそれは、義兄にとっても同じことなのだろう。

長い間誰よりも近くにいて、大切だった存在には変わりなかった。


けど、彼は自分のことをどう思っていたのだろう。

義兄と同じように私のことを見ていたのか。そんな考えが浮んだが、違う気がした。


上手く言えないが、違うと思う。


『いつか一緒に、俺の故郷に行こう?』


不意に、彼に言われた言葉を思い出した。

そう約束したのは任務に行く数日前だったと思う。


あはは、と口から乾いた笑いがもれた。それは自嘲だと自分でも気づいく。

笑いが止まらなかった。

やっと自分の想いに気づいた。

何度体を重ねても何も感じなかったのに。

傍にいた時は気がつかなかったのに。

いなくなってやっと気づいたのだ。自分はどうしようもないバカだ。

彼は私にとって特別だったのだ。義兄とは違う意味で、彼は特別な存在だったんだと、今ごろになって、やっと気づいたのだ。

気づいたところで、今さら伝えられるはずのない感情。


だったら、気づきたくなかった。


気づかなければよかった。

そうすれば、なかったことと同じことなのだから。


「…好きだよぉ……何でこんなに好きなのに、あんたは傍にいないのよ…」


いつの間にか、笑い声は嗚咽に変わっていた。

SideBに続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ