永遠の終わり_SideA_
「そんな顔するなって…」
飽きれたような表情を浮かべて、彼はいつも通りの口調で言う。
くしゃり、と子供をあやす様に私の頭を撫でた。
子供扱いされるのは嫌だったけど、彼にこうされるのは割りと好きだ。何て言ったら言いか判らないが、強いて言うなら安心するのだろう。
いま自分がどんな顔をしているのか判らないが、そのままの表情で私は彼と目線を合わす。
「任務が終わったら直ぐ戻るから、いい子にしてろよ」
「……子供扱いするなっていつも言ってるでしょ! 私のこといくつだと思ってるの!」
笑い声を上げながら、騒ぐ私を彼は楽しそうに優しい目で見る。
いつも通りの光景。
そんな当たり前の日常がなくなるなんて、思っても見なかった。
「…じゃあな」
そう言って、彼は軽く片手をあげると、止めてある車に向かって歩き出した。
それが、私が見た、彼の最期の姿だった。
しばらくして、彼が死んだと知らされた。
正確には行方不明と言うことだが、生きてる可能性は絶望的だった。
何故なら、彼の任務地であった村は全焼し、生存者は発見されていないと聞かされた。
その事件の犯人であるのは彼の『英雄』である義兄だったことも聞いた。
義兄が突然暴走して、それを止めようとした彼が返り討ちあったらしい。そして、その義兄もまた行方が判らないらしい。
それが本当に事実かどうかは私の知るところではないが、その話を信じるのならばそう言うことなのだろう。
「……嘘吐き、すぐ戻るって言ったじゃない」
ぽつり、と。頬を伝って小さな水滴が落ちた。
後から後から、涙は止め処なくあふれて流れ、私の頬を伝い落ちて、地面を濡らす。
義兄がどうして暴走してのかは、私には判らない。
私にとって義兄は特別な存在だった。
ただ、それは『英雄』に対する憧れなんかじゃなく、かと言って思慕でもなく、本当に『兄妹』としてだった。そう言う意味で、義兄は特別だった。恐らくそれは、義兄にとっても同じことなのだろう。
長い間誰よりも近くにいて、大切だった存在には変わりなかった。
けど、彼は自分のことをどう思っていたのだろう。
義兄と同じように私のことを見ていたのか。そんな考えが浮んだが、違う気がした。
上手く言えないが、違うと思う。
『いつか一緒に、俺の故郷に行こう?』
不意に、彼に言われた言葉を思い出した。
そう約束したのは任務に行く数日前だったと思う。
あはは、と口から乾いた笑いがもれた。それは自嘲だと自分でも気づいく。
笑いが止まらなかった。
やっと自分の想いに気づいた。
何度体を重ねても何も感じなかったのに。
傍にいた時は気がつかなかったのに。
いなくなってやっと気づいたのだ。自分はどうしようもないバカだ。
彼は私にとって特別だったのだ。義兄とは違う意味で、彼は特別な存在だったんだと、今ごろになって、やっと気づいたのだ。
気づいたところで、今さら伝えられるはずのない感情。
だったら、気づきたくなかった。
気づかなければよかった。
そうすれば、なかったことと同じことなのだから。
「…好きだよぉ……何でこんなに好きなのに、あんたは傍にいないのよ…」
いつの間にか、笑い声は嗚咽に変わっていた。
SideBに続きます。