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Absolute Plaything  作者: N
13/22

夜蝶

私の前に彼が現れたのは、彼女が死んで直ぐのことだった。


「実に君はおもしろいね」


唐突に、彼は言った。

くつくつと、嘲笑うかのように喉の奥で嗤いながら、そう言った。


「…何処が?」

「君自身が、だよ」


怪訝そうに訊く私に、彼は応えた。


「人と同じ世界を見ながら、その一方で全く別の異質な世界を見ているのに、精神が壊れていない。一部の感情が欠落してしまった彼女と同質なのにも関わらず、その方向性が真逆だ。

 実に興味深い」


言って、彼は酷く楽しそうな笑みを浮かべた。

常人なら背筋が凍るような彼の態度に、臆することなく軽く息を吐き出した。


「…あのねぇ、見ている世界なんて他人と違って当然でしょ」

「どうしてだい?」

「知っているのに態々言う必要がある?」

「ないな」

「そ、だから言わないし、応えないよ」


そう言って、私は微笑う。


「大体、精神が壊れていない人なんて本当にいると思う? 正常とか異常とかって言う観念があるから、そう言う考えや定義が出来るわけだよ」

「そのことに気づいてしまった君は不幸だと思うかね?」

「さぁ」


と、肩を竦めて見せた。


「そのことに気づかなかったら、意味がないんじゃないかな」

「それが君と世界を齟齬させ、乖離させている原因だとしてもかい?」

「だとしても、あたしは同じことを言うよ。同じ質問をされたら、同じ答えを返すし、考えを変える気は更々ないね」

「ほう…」

「人間は定義することによって、神を造り出した。


それだって、充分に狂気の範疇だよ。だって、妄想を固定して現実に挿げ替えただけでしょ」


「誰もその事実には気づいてはいないがね」


くつくつと、彼は嗤う。


「うん、だから自分たちが狂ってることに誰も気がつかないの。

 壊れた世界を否定して、必死で繋ぎ止めてるんだよ」


バカみたいだよね、と自嘲する。

それは世界に向けてか、それとも自分に向けてだろうか。

精神破綻を来たしかねないような会話を繰り広げ、二人は嗤う。それは異常なことだと言えるし、同時に又、正常なこととも言える。


「世界は酷く醜くて、それ故にあやふやで綺麗なのに、どうして誰も気がつかないのかな?」


呟いて、空を仰いだ。

どんよりとした闇の向こうに、カケタ月が見える。


「だからこそ、生きて行けるんだろうと思うがね」


同じようにカケタ月を見ながら、彼が応えた。

さて、と一呼吸置いて訊く。


「君の願いを訊こうか」

「ん?」

「私を呼び込むほどの『願い』とは何だね?」


取り巻く闇が濃くなった気がした。


「君は君の意思で、私をここまで呼び込んだのだ。さあ、聴こう。君の願いは何だ?」

「……さあ、私はただ…」


続く言葉は闇に飲まれ、消えて行った。

けど、私の言葉はしっかりと彼に届いていた。


くつくつ、と彼は嗤う。


嗤いながら、彼は言った。


「全く、君は本当に興味深い…」

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