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通りすがり
「じゃあね」
明け方のベッドから聴こえたのは、冷たい別れの言葉。
もう二度と聴くことのない声。
「あぁ、じゃあな」
一晩だけの『恋人』ごっこ。
「さよなら」
お互いに名前も知らない相手。携帯も住所も、連絡先は一切知らない。
この部屋を出れば何の関係もなくなる。それで終わり。
続くことも交わることもない道であっただけの、そう言う存在。
例えるならば道端に転がる石と同じだ。
どうでもいい。相手のことなど考える必要がないから、別れた後の責任が一切ない楽な関係。
同意上である以上は金もかからない。
適当に遊んで、楽しい夢だけ見て、醒めないうちに『さよなら』する。
それがルール。暗黙の了解。
次はない。いつかも、そのうちも、二度とない。
ただそれだけのこと。
例え嘘であっても『温もり』は手に入る。
やっていることは恋人のソレと同じ。
嘘であるか。本当であるか。たったそれだけの違い。
醒めてしまえば残るモノは一緒。
夢から醒めたその後で、同じ夢はもう見れない。
続きは現実だけだ。
だからこそ、ヒトは夢を見続けるのだろうと思う。