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夏休みのアルバイト ―四号結界防衛戦―  作者: 墨人
第一章 パーティー結成編
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パーティーを組む1

 結界での初めての一夜を過ごし、明けた翌日はアルバイトの初日である。

 宿舎はあくまでも生活の拠点に過ぎず、守備隊員としての仕事の拠点は別になる。まずは仕事道具(装備品)を運び込むところから始まった。


 朝食後、宿舎のエレベータホールに集合したら出発である。

 ちなみにこの場に堂島学園長はいない。再雇用枠で採用された学園長は私達と扱いが異なり、過去に勤務経験がある事、実力でも現役隊員に遜色無い事から既に配属が決まっている。


 宿舎を出て北へと向かう。

 向かうのは守備隊本部棟、ではなく、私達の拠点となる隊舎だ。


 結界を地図で見た場合、円形の土地の中心に結界核と守備隊本部棟、これを挟んで南端に門前町・物流センターがあり、北端に『穴』がある。本部棟から南は街、北は戦闘域になっており、この両者を区分する境界として本部棟北側に結界の端から端までを東西に貫く一線が走っている。

 その一線は街側と戦闘域側を隔てる壁だ。頂上部は胸壁を備えた通廊になっていて大規模戦闘の際には後衛の魔術使いが陣取る場所にもなる。壁の基部には一定間隔で戦闘域への出入り口となる頑丈な金属扉が設けられている。この扉に寄り添うにして建てられているのが隊舎だった。

 総延長2km近い壁に沿って隊舎が点在し、それぞれの隊舎に所属する隊員の宿舎は街の中でもできるだけ近い住所になるように設定されている。私達も真っ直ぐに北上して行き着く最寄りの隊舎を使う事になっていた。


 隊舎の外観は学校の校舎の様な箱型をしている。

 中に入ると飲料や軽食の自販機コーナーを併設したホールになっていて、ホールから左右に伸びる廊下に沿って扉が並んでいた。


「俺達の待機部屋はこっちだ」


 先生達は昨日の内に下見に来たそうで、二人に先導されて扉の一つを潜ると、そこはクラブハウスの様な一室になっていた。

 縦に長い部屋の中央には二十人くらいで囲めそうな大きな長方形のテーブル。

 左右の壁面には装備品を収めるためのロッカーが設えられている。これはスポーツ施設の控え室にあるような扉の無い大型のタイプだった。ロッカーと言うよりは、収納棚を個人用に区切っているような感じだ。

 出勤時にはここで着替えて装備を整えることになる。つまり更衣室を兼ねている訳だ。


「女子は右側を使ってくれ。着替えはあれの向こう側でな。言うまでも無く、男子はあそこには立ち入り禁止だ」


 後城先生が示した先、右奥の角に衝立(病院や保健室にあるスチール枠にカーテンを取り付けたアレ)で仕切られたスペースが作ってあった。男女で同室なので、着替え中の女子を男子の視線から守るために先生が急遽用意してくれたそうだ。


 ……森上君が凄く残念そうな顔をしていた。

 これはあれだろう。

 戦争物の映画とかで良くある男女関係無しの共同生活みたいなのを期待していたに違いない。女性兵が男性兵の前で平気で着替えたり、仕切りの無いシャワー室で男女の兵が混じり合ってシャワーを浴びていたり、そんなシーンを見た事がある。あれは軍隊という戦闘集団を形成する中で、性差に起因する羞恥心が行動を鈍らせることを防止するのが目的だと聞いたことがある。


 そうした考え方も理解できなくは無い。

 例えば戦闘中に防具が破損したり服が破けたりしておっぱいポロリなんていう事態は普通に有り得る。そんな時に恥ずかしがって胸を隠せば手が塞がり、戦闘能力が失われてしまう。それはとても危険だ。

 普段から異性の目に肌を晒し慣れていれば、羞恥心が鈍くなっていざという時にも変わらず戦い続けられるようになる。

 以前、師匠も常在戦場の心得を説く一環として「やるとなったらどんな状況でも即応できるようでないと駄目」と言って「お風呂に入っている時でも私がやると言ったらそのままの格好でやるのよ!」と私に全裸で剣術の稽古をさせようと企んでいた。流石にそれは全力で拒否したけれど。あれも考え方は同じだったのだろう。


 この待機部屋の造りからして守備隊でも似たような考え方になっているのかもしれないが、私達はあくまでも短期隊員。そこまで染まる必要は無いし、思春期の女子に男子に見られながら着替えをしろなんて羞恥プレイを強要できないと先生達が配慮した結果の衝立だ。

 後城先生と村上先生が紳士で良かった。

 残念そうにしている森上君は二人を見習った方が良い。


 先生の指示に従って女子は右側、男子は左側のロッカーに荷物を収めた。全員が荷物を入れても空いているロッカーがいくつもある。本来はもっと大人数で使うべき部屋なのだろうし、こんな所からも今の守備隊の人員不足が窺えた。


「さて、説明しておくことがある。皆席に着いてくれ」


 荷物入れが落ち着いた頃合いを見計らって後城先生が言った。ロッカーの配置で左右に分かれていたので、自然とテーブルにも男子が左、女子が右と分かれて座る事になった。何となく合コンみたいだなと思っていたら、「っす! 天音先輩、っす!」と妙な声を上げながら森上君が正面に陣取っていた。

 村上先生は男子側に座り、後城先生だけは立ったまま司会の位置にいる。


「パーティーの編成は事前に決めていた通りだ。そこに変更は無い」


 後城先生の言葉に灯は残念そうな顔を、森上君は嬉しそうな顔をする。


 守備隊の活動において、通常の巡回任務や小規模戦闘を行うための最小単位は六人一組のパーティーとなっている。戦闘の規模が大きくなれば複数のパーティーが連携したりする。

 先週バイト募集を締め切った宇美月学園では、確定した参加者名簿を元にして二つのパーティーが編成されていた。


 まずAチームのパーティー。

 前衛:私、成美、空き

 後衛:珠貴、森上君、空き

 引率:後城先生


 次にBチームのパーティー。

 前衛:剣士タイプの二年生男子が三人

 後衛:灯、水無瀬君、三年女子の魔術タイプ

 引率:村上先生


 生徒十人と教師二人で十二人。六人パーティーを組むなら丁度二つ、とはならない。短期隊員のバイトは生徒が主体なので生徒で六人のパーティーを組み、教師が一人引率に付く七人編成が基本とされていた。未熟な学生バイトが正規隊員と同じ六人パーティーでは不安があるから、という事情もある。

 その為Aチームには前衛後衛ともに空きが一人ずつあり、補充の人員は他からという事になっていた。


 ちなみにこのチーム分けはパーティーの特色になっている。

 Aチームは私と成美がガンガン前に出るタイプなので、攻撃速度が速い珠貴と森上君が後衛になっている。言わば攻撃型のチーム。

 Bチームは砲撃特化の灯と、似たタイプの三年女子、回復術士の水無瀬君が後衛になり、どちらかというと足を止めての戦いが得意な剣士タイプの男子三人が前衛を務める。前衛には盾役もいて、回復役の水無瀬君もいる守備型のチームだ。砲撃魔術によって火力も期待できる。

 もちろんこれはパーティー単位で戦う場合限定で、対魔族や大規模の戦闘になれば解体され、もっと大きな括りで再編成されることとなる。


 先生達がきちんと考えた上でのパーティー分けなので文句は無い。

 が、3-B女子で一人だけBチームになってしまった灯は残念がっていたし、男子で一人だけAチームになった森上君は「うはっ! またしても自分ハーレムっすか!」と喜んでいた。森上君が「また」と言ったのは冬休みの合宿でもそんな感じだったからだろう。まあ今回は引率で後城先生もいるからけして森上君がハーレムではない。空きの部分に入って来る人の性別もまだ判らないし。


「はあ……やっぱりあのままなんですか……」


 と、溜め息交じりに灯が言えば「相沢はBチームの主力だ。変えられんよ」と後城先生。もう一人の三年女子も似たタイプとは言え、やっぱり一貫して砲撃特化にしてきた灯の方が一枚上手だ。チームが分かれてしまったのは残念ではあるけれど、どっしりと腰を落ち着けて砲撃に専念できるBチームの方が灯には合っていると私も思う。


「この後の着任式が終わったらBチームは自由時間だ。昨日で足りなかった買い物をするなりしていてくれ。で、Aチームは補充人員との顔合わせ……というか試験か……がある。ちなみこれはお前らが試験を受ける側だからな」

「……相手が編入試験を受ける、のではないんですか?」

「後衛はもう決まっている。試験は前衛に入る剣士タイプだが、候補に上がっているのが上級専門校生だ。入るのに相応しいパーティーなのか試させてくれと先方が言ってきている」

「上級専門校生が入るんですかー?」

「ああ。昨夜引率で来ている専門校教師と上級専門校講師で会議をしてな。うちのAチームみたいな補充を必要とするパーティーの話題になった時に、ある上級専門校の講師から人数的にも戦闘スタイル的にも……ついでに性格的にも浮いちまってる剣士タイプがいる、どこかの学校で引き取ってくれないかと話が出た。聞いてみると天音や霧嶋と合いそうだったし、逆に他の専門校の生徒じゃお前達のレベルに合わせるのはきつそうだ。それでうちでどうかと申し出たんだ。だがまあ、やはり上級専門校生と専門校生で組むのはどうかってのはある。それでこっちのメンバーと手わせしてレベルを見てみようとなった訳だ」


 先生達は昨日の夜にそんな会議をしていたのか。待機部屋の下見やら衝立の調達やらしてくれた上に会議までだなんて頭が下がる。

 そして編入候補が上級専門校生となればこちらが試験を受ける側というのも当然だ。昨日一緒に結界に入った上級専門校生達は、見るからに強そうな人ばかりだった。専門校生のパーティーに入るとなればこちらの実力を試したくもなるだろう。

 そんなふうに納得していたら、珠貴が「あの、先生?」と手を上げていた。


「なんだ三条?」

「今、さらっと流してましたけど、その人性格的にも浮いてるんですよね? 人数とかスタイルで浮くのは仕方ないと思うんですが、性格的に浮いちゃってる人ってどうなんでしょう」

「ああ、それか」


 後城先生は苦笑している。

 先生の話し方がさりげなかったので私も聞き逃していたけれど、確かに「性格的にも浮いている」と言っていたような気がする。それでいて「天音や霧嶋と合いそう」とはいかなる意味なのだろうか。

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