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作者: 社会死人

 そのとき、私は原稿用紙を無駄にする作業をしていた。駄目だ、全く書けない。休日は書斎と称した自室に引きこもっては小説を書いているのだ。けれど今日はからっきし。部屋の中には廃れた原稿用紙の山ができている。

「どうして今日に限って……」

 頭をぽりぽりと掻くが、全くと言っていいほど案が思いつかない。明日までにはあそこまで、いやプロットか大まかな流れをまとめなければとてもじゃないが、次の新人賞に間に合いそうにない。どうする、私。

 徐に立ち上がり、私は考えた。そうか、息抜きをすればいいのか。しかし、息抜きと言っても私に趣味などなく。仕方なしに部屋の奥、窓の外に目をやると、鳩が一羽。

 見た目は特におもしろみもない普通の鳩なのだが、何ともそいつは私に向かって頷いているようなのだ。これは本当に私になのか? と思いつつ、私も頷き返してみる。すると鳩もまた頷き返してくる。

「ほほー。この鳩は人の挙動がわかるのか」

 感心しながら頷き返していると、鳩が近づいてきた。ちょんちょんと律動的な動きはまるで芸でもしているかのようで。曇った窓の向こうでしか見られないのが惜しいくらいだった。

「お前、餌でも欲しているのか?」

 鳩は無言で頷く。きょとんとしながら。こいつはよく考えが回るなあ。まさか餌を求めるあまりに、芸達者になった鳩なんて存在があるとは。私は餌をやるべきか心が揺れた。

 自分とて稼ぎがいいとは言えない。それでもこの鳩に何かをしてやりたかった。考えた末に、私は、

「それでは、あのカラスを殺してここまで持ってきてくれないか」と近くの電信に止まっているカラスを指さした。そんな大それたまねをする鳩になら私の薄給をすべてつぎ込んでやってもいいとすら思った。

 カラスを一目見て、沙汰の限りと言わんばかりに私をにらみ返す鳩。しかし、よほど腹が空いていたのだろう。ぱたぱたと飛び立つとカラス相手に果敢にも攻撃を仕掛けた。

 カラスは寝耳に水状態。一旦は攻撃を許すが、体勢を立て直し鳩を襲った。その早さは鷹狩りでも見ているかのようで。カァという一声ですぐさま鳩は肉片と化す。肉を貪るカラスはおどろおどろしくて、私の発想力がかきたてられた。私は触発したかのようにパソコンを付け邪魔な机の上のものを片付けた。

「芸達者な鳩の一生」

 モニターにはその文字列が並ぶ。これならノンフィクションであるから、少しのアレンジだけで書ける。私は更にキーボードで打ち込んでいた。

 芸達者な鳩は私に芸を仕込んで死んでいったのだった。そいつの意志はともかくとして。

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