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     星の記憶 ②


ソルセブンの医務室、E.B.Bとの激しい戦いによって大勢の新生メシア兵達が運ばれていた。

一週間前、過去最大クラスのE.B.B出現による影響か各地でのE.B.Bの活動が急激に活発化し始めている。

新生メシア兵の討伐が追い付かなくなり、人々への被害が拡大し続けている状況に陥ってしまっていた。

一刻も早く全地区へのシェルターの実装、またはシェルター地区への難民となった住民達の受け入れを検討しなければならない。


だが、ついにE.B.Bは絶対安全と言われていたシェルターすら破壊する術を覚えた。

シェルターが破壊された例は、アヴェンジャーによる意図的な襲撃を覗けば初めてのケースだ。

もしあのE.B.Bがもう一度現れてしまえば、或いは大量に出現してしまえば人類は成す術を失う。

シェルター技術で人々の平穏を保ち続けてきたが、いよいよ限界が近い。

人類は想像以上に追い込まれていた。


しかし、まだ希望は捨てない。

人々が生み出したHAという兵器がある限り、E.B.Bとは戦い続けられる。

この体が動く限り、戦い続けるだけ。

シリアは包帯でグルグル巻きにされた自分の両腕を眺めながら、そんな事を考えていた。


気が付けばシリアは、ソルセブンに運ばれていた。

フリーアイゼンの部隊は元々隊員が少なく、今となっては救護班もほとんど機能していない状態だ。

だから、ソルセブンの救護班に救助されたのだろう。

しかし、機体はメシア本部のだったとしてもシリアがフリーアイゼンの一員である事は筒抜けのはず。

今やソルセブンとフリーアイゼンは敵対関係である以上、シリアは捕虜として扱われる事になるという事だ。

一時的にE.B.Bの討伐時に協力をしたと言えど、イリュードがフリーアイゼンを追う姿勢に変化はないだろう。


一刻も早くソルセブンから脱出しなければ――

機密事項を手にしたフリーアイゼンは、恐らく何らかの動きに出るはずだ。

ソルセブンにはE.B.B討伐に使うHAは大量に保管されている。

それらを使って外に出れれば……と、考えていると医務室の入り口から見覚えのある金髪の女性が入ってきた。

間違いない、ラティアだ。


何処か不安に満ちたその瞳で、新生メシアの兵士と話し込んでいる様子が見える。

姉はフリーアイゼンを裏切り、ソルセブンへと戻った。

ラティアは元々ソルセブンでスカイウィッシュ部隊を率いていた。

本来いるべき場所は確かにソルセブンではあるが、それでも一次はフリーアイゼンの一員として動いていたのは事実。

裏切り行為である事は間違い。


シリアは昔、実の姉であるラティアに強い恨みを持っていた。

E.B.Bに襲われた時、助けに来てくれなかった事、両親を失った事、ずっと自分自身を避け続けていた事。

だが、今は違う。 姉であるラティアを信用しているし、もう恨んだりしていない。

ソルセブンへと寝返ったと言えど、人類の為に戦っているという点は同じだ。

姉の考え方と自分の考え方が違った、それだけの話なのだと自分の中で結論付けていた。

そんな事を頭に過ぎらせていると、ラティアは悲しい目のままシリアに歩み寄ってくる。


「……ごめんなさい、私はまた貴方を傷つけてしまったわ」


「アタシは別に姉貴を咎めるつもりはない、ソルセブンは少なくとも人類の為に戦っているのはアタシだってわかってる。

ただ、フリーアイゼンも目的は同じなんだ。 どうか、それだけは信じてくれ」


フリーアイゼンは決してアヴェンジャーのようなテロ組織ではない。

メシアに属さないと言えど、人々の為にE.B.Bとは戦っている。

ただ、アッシュベルのプロジェクト;エターナルを阻止する為にメシアと敵対しているのは事実ではあるが。

ラティアはそっと、包帯で巻かれた腕に優しく振れた。

悲しみに満ちた瞳で、その腕を優しく撫で続けると突如大粒の涙を流し始める。


「な、何泣いてんだよ姉貴? ど、どうしたんだよ?」


「――全部、私の所為ね。 私は貴方の人生を滅茶苦茶にしてしまった。

せっかく貴方に近づけたというのに、また貴方を裏切り……傷つけ、追い込んでしまった」


「姉貴……」


未だに過去の事を引きずっているのだろう。 両親を助けてあげられなかった事を、シリアをパイロットにしてしまった事。

何よりも、シリアが事故で両足の機能を失ってしまった挙句、それでも戦おうと立ち上がりエターナルブライトによる治療を受けた事。

全てにおいての責任を、未だに感じていたのだ。


「これを見て」


ラティアはシリアから目線を逸らしながら告げると、両腕に巻かれた包帯をゆっくりと解いていく。

すると、そこには変わり果ててしまった自分の両腕が姿を現す。

腕の半分以上が悍ましい姿に変化しており、限界を失いかけている。

……E.B.B化の進行が、ついに両腕までに広がっていた。

その衝撃的な事実を目の当たりにし、シリアは言葉を失ってしまう。

あれだけの事故を起こし重傷を負っていたのだ、エターナルブライトの治癒が働き進行が進んでも何も不思議はない。

ラティアはそっとシリアの事を両腕でギュッと抱きしめた。


「もういいの、貴方はこれ以上戦わなくていい。 これ以上戦ってしまったら、貴方はE.B.Bに変化してしまう。

そんなのは嫌なの……私の所為で貴方が戦って傷つき、その度に進行が進むなんて……あまりにも悲しすぎるわ」


「だ、だけど……戦わなくても結果は同じだ。 いずれアタシはE.B.Bになっちまうのかもしれない、そんなのは覚悟の上だ」


「嘘よ、その震えた声では説得力の欠片もないわ。 もう無理しなくていい、お願いだからもう――」


「嫌だっ!!」


感情的になったシリアは、つい大声を上げてラティアを突き放してしまう。

その瞬間、表情をハッとさせた。

ラティアは困惑の表情を見せ、戸惑っている。

こんなに弱々しい姉は見るに堪えない、だけど……ここで戦う事を止める真似なんてできなかった。


「姉貴……ごめん、アタシは戦い続ける。 アタシはプロジェクト;エターナルを認める事は出来ない。

エターナルブライトは確かにどんな病気でも治すし、アタシもそれで一度は失った夢を叶えることが出来たのは事実だよ。

でも、その代償が大きすぎるんだ。 自分の身体がE.B.B化していく恐怖と毎日戦い、時には体の痛みに苦しむことだってある。

だからアタシは、こんな思いを他の人にさせたくない。 絶対にアッシュベルをやっつけてやるって決めたんだっ!」


「シリア……本当に、貴方は……」


「姉貴は何も悪くない、アタシはもう姉貴の事なんて恨んじゃいないっ! フリーアイゼンを裏切った事だって、姉貴の考えがあっての事なんだろ?

アタシはちゃんと、自分で考えて自分の意思で戦い続けている。 だからもう、アタシは大丈夫だよ」


「――強いのね、シリア。 それに比べて、私は最低ね。 私が貴方達を裏切ったのは人類の為じゃないわ。

私は不安に押し潰されそうになっていて、自分の正しい考えを持てなかった。 だから、イリュードにすがって、戦う意味を求めただけなのよ」


「戦う理由なんて、人それぞれだ。 それが人類の為に繋がるのなら――」


「もういいのよ、シリア。 私はこれ以上、貴方の傍にはいれない。 その資格はもう、とっくに失っているのよ」


ラティアはシリアにそう告げると、何処か悲しげな背中を見せる。

これ以上、何も話す事はないとゆっくりと遠ざかっていった。

その姿は、シリアにとってはまるで逃げるように去っていくように見えた。

もう、ラティアはこのまま……二度と戻って来ないかのように感じてしまった。


「また、そうやってアタシから逃げるのかよっ! それじゃ、昔と何も変わらないじゃないかっ!!」


思わず、そう叫んでしまった。

あまりにも自分の事を責め続け、周りを見失いかけてる姉を見るに堪えなくて。

つい、感情のあまりに出てしまった言葉。

すると、ラティアは足を止めた。


「姉貴は姉貴だろ、世界で一人しかいないアタシの唯一の肉親だろ? 家族が傍にいちゃいけないなんて誰が決めたんだ?

もう、自分の事は責めないでくれ。 アタシはそんな弱々しい姉貴なんて、見たくないんだよっ!」


「――シリア」


姉はフリーアイゼンを裏切ったというのに、シリアは本当にそれを咎める事無く信用していた。

もう姉を恨んだりなんかしない、いやしたくはない。

だからもう、過去に縛られたりしてほしくないから。

これ以上、苦しみ続けたらラティアは壊れてしまう――

姉が過去を断ち切れるようにと願いを込めて、シリアは必死で訴えていた。


「やれやれ、相変わらずだなお前は」


すると赤毛の長髪の男、イリュードが医務室へと入ってきた。

シリアの事となると、いつも見せる悲しい表情を見てイリュードは思わず呆れてしまう。


「初めましてだな、シリア。 私が――いや、今は畏まる必要もあるまい。 俺がソルセブンの艦長を務めるイリュード・ブラッシュだ」


「アンタがソルセブンの?」


シリアはイリュードの事を少し警戒しながら、そう聞き返す。

イリュードが深く頷くと、シリアの目の前へと歩み寄ってきた。


「フリーアイゼンはメシアを敵に回し、本気でアッシュベルに立ち向かおうと思っているらしいな。

お前達がアッシュベルを狙うのは、例え『世界の敵』と成り果ててでもするべきなのか?」


「当たり前だ、これ以上アタシのような犠牲者を増やしてたまるかよ」


「それはお前達が散々否定してきたアヴェンジャーと同じ行為に等しい、それを承知しているのか?」


「アヴェンジャーが正しいとまでは言わない、でも……アッシュベルのやっている事は明らかに間違っている。

アタシ達が戦う理由は、それだけだよ」


「なら、お前は――俺達メシアと戦い、姉貴を討つ覚悟もあるという事だな?」


「そ、それは……」


イリュードがシリアに尋ねると、思わず言葉を詰まらせてしまう。

本当なら肉親同士が戦う事なんて避けたい。

だけど、アッシュベルに敵対する以上は新生メシア全体を敵に回す事を意味する。

シリアが戦う覚悟というのは、まさに姉貴を討つという覚悟があってこそなのだ。


「すまない、意地悪な質問だったな。 迷うのは当然だ、お前達二人は強い絆で結ばれた姉妹なのだから」


「……で、アタシをどうするつもりだ?」


ソルセブンとは敵対関係にある以上、シリアは警戒を解くつもりはない。

シリアはイリュードをギロリと睨み付けてそう尋ねた。


「お前の力をソルセブンに貸してほしい、と言ったらどうする?」


「アンタ達が人々を守る為にE.B.Bと戦っているはわかる。 だけどアタシは、悪いけど協力できない」


「何故だ?」


「これ以上、アタシのような犠牲者を生み出さない為にアッシュベルと戦う。 プロジェクト:エターナルを阻止しない限り、アタシ達に未来なんてないさ」


「だがお前は、戦う為の翼を失った。 翼を失った以上、お前にもう飛ぶことは叶わないぞ」


翼を失った、恐らくレビンフラックスの事を指しているのだろう。

代わりに手に入れたトリッドエールはソルセブンに回収されていると思われるが、あの状態ではすぐに使えない。


「アタシはまだ生きている、飛べないはずがない。 何ならアンタ達からアタシの新たな翼を奪い取ってやるだけさ」


「ほう、アヴェンジャーと同じ行為を働くと? 結局お前達はアヴェンジャーと何も大差がない組織に成り下がっただけという事だな?」


「今は何と言われてもいい、だけどアヴェンジャーと違う事は必ず証明してやる。 アタシ達が正しかった事を、世界に知らしめてやるさ」


シリアの言葉に迷いはない、フリーアイゼンはそれを覚悟した上で戦っているのだから。

シリアの思いが通じたのかイリュードは深く頷き、二人の様子を心配そうに眺めていたラティアの肩に手をそっとおく。


「……私が間違っていたな。 お前は私の元に、いるべきではなかった」


「イリュード――」


「すまなかったな、私の愚かな行為がお前の傷口を広める結果を生み出した。 だからお前は過去に捕われ、周りを見失い始めた。

だがな、過去から逃げ続けるだけでは鎖を断ち切る事は出来ない。 それこそ、お前の大事な妹を傷つける行為に繋がる。

今のお前の戦いには迷いが生じている、とてもじゃないがその状態で我がソルセブンのスカイウィッシュ部隊を任せる事は出来んよ」


「いいえ、貴方は悪くないわ。 私は貴方が間違っているとは思えない、世界の為にE.B.Bと戦い続けるのはメシアとしては正しい行為よ」


「しかし、お前はフリーアイゼンを否定できない。 ましてや、大事な妹のいる部隊を相手に戦う事は出来ない」


「それは――」


「私の代わりに、フリーアイゼンが成すべき事を見届けてくれ。 ひょっとしたら彼らは、本当に世界を救うかもしれない」


ラティアはただ困惑して、イリュードから目を逸らすだけだった。

頭の中には様々な事がグルグルと廻る。

世界の事、E.B.Bの事、イリュードの事、シリアの事。

ラティアはシリアのように強い意志と覚悟を持たずに、迷い続けていた。


「まだわからないのか、ラティア。 あの子はお前を必要としている。 そうでなければ『家族が傍にいちゃいけない』なんて言葉が出るはずがない」


「家族が、傍に――」


ラティアが医務室を立ち去ろうとした時に、咄嗟に出たシリアの言葉だ。

これ以上シリアを傷つけるぐらいなら、このままシリアと決別した方がいい。

その意図を察知られたのか、確かにシリアはラティアを引き止めた。


「シリア・レイオン、お前をフリーアイゼンに戻る事を許可する。 我々はこれ以上、フリーアイゼンに手を出さない事を約束しよう」


「んなっ――、ど、どういうつもりだ?」


シリアは思わず素っ頓狂な声を上げた。

あれだけフリーアイゼンを敵視してきたはずなのに、どうして今になってそんな事を?

何か裏があるのではないかと、シリアは疑ってしまった。


「俺は俺のやり方で世界を守る為に戦い続けている。 だが、お前達は俺達と違う。 お前達は『世界を変える』為に戦っている。

ならば世界を変えて見せろ、この混沌に満ちた悲しい世界を」


「……ヘヘッ、そこまで言われちゃ責任重大だな。 アンタの願い、艦長にしっかり伝えておいてやる」


「私も行くわ」


「あ、姉貴っ!?」


散々悩み続け、答えを出せずに苦しんでいたラティアだが……ようやく、答えを導き出せたようだ。

ラティアの瞳は、先程までの不安に満ちた瞳ではない。

迷いを断ち切り、強い決意をその瞳から感じた。


「シリア、私は散々貴方の事を裏切り、傷つけ、苦しめ続けてしまった。 それは私が未熟だったから、最低なお姉さんだったから――。

私はもうこれ以上、貴方を傷つけたくはない。 だからずっと、貴方の傍にいたい。 だって私は貴方のお姉さんだし、妹である貴方の事が大好きだから」


「や、やめろよ。 そんな事言われると、ちょっと照れくさいよ」


「いいじゃない、本当の事だもの。 シリアは私の事、嫌い?」


「嫌いなわけ、ないだろ……そりゃ、昔はそうだったかもしれないけど」


シリアは照れくさそうに目を逸らしながら、ボソボソと呟く。

イリュードはその光景を見て、一安心したのか微笑んだ。


「お前達に、新たな翼を授けよう。 ブレイアスとレビンフラックスの技術を元にソルセブンの技術班によって開発された新型HAだ」


「新型HAだって?」


「そうだ、我々人類の勝利を願って作られた『勝利の翼』……その名も、ブレイアス(ウィン)だ」









イリュードはシリアとラティアを格納庫まで案内した。

そこにはブレイアス、ウィッシュと無数のHAが保管されている。

フリーアイゼンの格納庫よりも何倍も広く、その圧倒的な光景にシリアは驚かされた。

新型HAであるブレイアス(ウィン)、試作機として作られた2機がそこに並べられている。

黄色を中心にしたカラーリングされたのと青を中心にカラーリングされた2種類だ。

ブレイアスとは少し形が異なり、ところどころレビンフラックスと似ている。

恐らくレビンフラックスのように飛行形態へ可変する事が出来るのだろう。

2機の外見は色だけの違いではないようだ、黄色いブレイアス(ウィン)には近接武器用のサーベルやクロー等といくつも備えられているに対して

青いブレイアス(ウィン)には数種類のライフルからレールガンにキャノン砲と射撃を中心とした武装が豊富だ


「見ての通り、この2機は射撃に特化したブレイアスと近接戦闘に特化したブレイアスの2種類を元に開発されている。

近接特化は機動性を重視し、トリッドエールに備えられていたオーバーブースターと呼ばれるものを搭載している、我々の技術ではないのだがね。

オーバーブースターには特別な処置を施したコアが必要であったらしいが、その点は回収したトリッドエールのを流用させてもらった。

ブースターのリミットを解除する事により莫大な加速力を得るが、使用の際は気を付けたまえ。 並大抵の人間が耐えきれるようなGではない」


「だったら、適任者はアタシしかいないだろうね。 こっちはアタシが頂くよ」


「なら、ラティア。 君が青いブレイアス(ウィン)でいいな。 君が得意とする射撃を軸としたHAだ。

リボルバーにライフルにミサイルと基本的な武装は君がいつも使っているブレイアスと何ら変わりはない」


「ええ、初めからそのつもりだったわ」


「ブレイアス(ウィン)の最大の特徴は、ドッキング機能にある。

近接型のブレイアス(ウィン)を軸にドッキングを行う事により、オーバーブースターの安定性が跳ね上がりスペックを最大限にまで引き出すことが出来る。

更にフラム博士が残した圧縮砲の技術を元に、ドッキング時限定ではあるが圧縮砲を使う事も出来る。

但しオリジナルとは違い、一点だけに絞り込むライフルタイプを実現させている。 通常のスナイパーライフルとは使い勝手が違うから気を付けたまえ」


「ドッキング機能だって? いつの間にかそんな技術まで手にしていたんだなぁ、メシアって」


「フラム博士の貢献によって我々の技術は急速に進み始めているからな。 その分E.B.Bとの戦いも激化しているのも事実だ、奴らも我々と同じように進化を続けている。

いつかは我々の兵器が彼らに通じなくなる日も近いだろう」


イリュードは眉間に皺を寄せてそう告げる。

アヴェンジャーの出現を始めとし、安定しかけた世界は徐々に崩れ始めていた。

人類はいつまで戦い続けなければならないのか――


「お前達に勝利の翼を授ける。 お前達が正しいというのなら、我々に勝利という名の希望を見せてみろ」


「ああ、わかってるさ。 アンタが託した新しい翼、必ず使いこなして見せる」


シリアはそう告げると、ブレイアス(ウィン)のコックピットへと向かっていく。


「……イリュード、貴方は来ないの?」


「俺はソルセブンの艦長だ。 俺の役目は人々の為にE.B.Bと戦い続けるだけだ」


「でも、貴方だってプロジェクト:エターナルを認めていないんでしょう?」


「我々がE.B.Bと戦わなければ世界はどうなる? 少なくとも俺達は、人々から世界を任されているんだよ」


「そう、ね。 わかったわ」


ラティアは悲しそうな目を見せて振り返ってコックピットへと向かおうとする。

すると、イリュードがガッと肩を強く掴みラティアを引き止める。

ラティアは不思議そうに振り返った。


「全てを終わらせたら……必ず大事な妹共に生きて帰って来い。 俺はいつでもお前の事を待っている」


「――ええ、わかっているわ。 あの子の為にも、私は死ねないもの」


ラティアが微笑むと、イリュードも微笑み貸してラティアから手を放して背中をポンッと押した。


「ほら、行って来い」


「ええ、行ってくるわね」


そう告げると、ラティアはブレイアス(ウィン)のコックピットへと向かって歩み出していく。

イリュードはその背中を見送ると、静かに格納庫から立ち去っていった。








食堂から離れ、晶は自室に戻って横になろうとしていた。

どうしても同じ思考がグルグルと廻る。

ι・ブレードは世界を救う鍵となる。

父親の言葉を信じるのなら、それは事実なのだろう。

だから、艦長もフリーアイゼンが追い込まれた時に晶とι・ブレードだけは逃がそうとした。

結果的に晶は、フリーアイゼンを守る為に留まってしまったが……次にこんな事が起きてしまったら、今回のように上手くいくのだろうか?

もし全滅してしまい、晶とι・ブレードがやられてしまう事態にまで陥ったら?

誰がアッシュベルを止めることが出来るというのか?


晶には世界の命運を背負っているという自覚がそれほどない。

あまりにも漠然としすぎているし、本当にそうなのかも確かめる事も出来ないから。

こんな状態で、晶は戦い抜く事が出来るのか不安だった。

今までも色々な偶然が重なって勝ち続けてきただけで、仲間の力に頼りっぱなしだ。

ゼノスなら、それを含めて『晶の実力』と表現してくれるだろう。

だけど、晶はそんな自分に納得が出来ずにいた。


「ここにいたか、晶」


「は、はいっ!?」


突然背後から声を掛けられ驚いた晶は、思わず背筋をピンッとさせる。

自然と聞こえてきた艦長の声に、無意識のうちに反応したのだろう。


「大事な話がある、私の部屋へ来てくれ」


「大事な、話?」


もしや機密事項に関わる話だろうか?

機密事項についてはフラムが解析を続けており、その結果がもう出ていても不思議ではない。

何故か、とてつもなく嫌な予感がする。

背筋に寒気が走るのを感じながら、晶は恐る恐る艦長の後をついていった。


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