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     ラストコード ⑤


アヴェンジャーの襲撃により、新生メシア軍は次々とHA部隊を展開していく。

ι・ブレードがメシア本部内に墜落していった情報はフリーアイゼンにも届いており、何度も通信を試みたが晶と通信が繋がる事はなかった。

万一の時の為に、ゼノスからも連絡が来るはずであったが……その連絡すらも受けられていない。

恐らく、メシア本部内で何かが起きたのだろう。

本部内のセキュリティが作動したことにより、ゼノスが捕らわれてしまった可能性は否定出来ない。

このまま戦闘が長引けば、メシア本部の部隊が徐々に展開されていき、フリーアイゼンが完全に包囲される危険性すらあった。

最悪の場合、艦長は晶とゼノスを置いて撤退する、という決断を下さなければならない。

艦長はモニターを睨み付けた後、深く目を閉じて考え込んだ。

同時に、ズガァァンッ!という派手な音と共に敵の襲撃により艦が大きく揺れ始めた。


「チィッ、アヴェンジャーの奴らのせいでこっちも巻き添えじゃねぇかっ!」


「これ以上は持たせることが出来ない……だが、あの二人を置いて行く訳には――」


戦況は考えるまでもなく、最悪だ。

今の状況をレビンフラックス単機でひっくり返る事は当然不可能、このまま戦闘を継続すれば全滅してしまう。

ふと、誰かの視線を感じて艦長は目を開けた。

戦闘の最中だというのに、ヤヨイが心配そうな表情を艦長へ向けていた。

情けない、今の自分はクルーに心配される程悩み苦しんでいるのか、と艦長は顔を上げた。

艦長とは瞬時に状況を判断し、決断をしなければならない。

一瞬でも迷いを生じてしまう事が死を意味する事さえもあるのだ。

今こそ、決断を下す時だ。


「――撤退だ」


「何っ!?」


「ほ、本気ですか?」


「艦長……?」


3人はほぼ同時に、声を上げた。


「シリア機を帰還させろ、今ここでフリーアイゼンを落とされるわけには行かん」


「何言ってんだよ、ゼノスや晶を見捨てろって言うのかっ!?」


「彼らを見捨てるつもりはない、しかしこのまま我々が全滅してしまえば元も子もない。 誰がアッシュベルを止める? 誰が彼らを助け出すというのだっ!?

いいか、生きていれば必ずチャンスはやってくる……その時までは、生き抜かねばならん」


「――了解。 フリーアイゼン、戦域から離脱します」


「お、おいリューテっ!?」


ライルはリューテを止めようと身を乗り出したが、ふと艦長と目を合わせると思わず動きを止めた。

あの瞳を見ただけで、艦長がいかに苦悩の末にこの結論を導き出したのかが一気に伝わってくる。

冷静になったライルは、何とか高ぶる気持ちを抑え込んで、席へと静かに座った。


「これは……?」


ヤヨイは突如、モニターに映し出された映像を目の当たりにして思わず声を漏らす。

その時、クルー一同はほぼ同時に信じられない事態を目の当たりにした。


「おいおい、なんだあれは?」


「まさか、そんな馬鹿な事がっ!?」


モニターに映し出された光景は、誰もが目を疑いたくなるような光景が広がっていた。

メシア本部から次々とHA部隊が出撃していく中、メシア本部の施設が所々変形をし始め、徐々に空へと浮かんで行く。

ゴゴゴゴゴと地響きを立てながら、上昇していくメシア本部はあっという間に『巨大な戦艦』へと変形したのだ。

レギス級が何十隻並んでも比べ物にならない程、凄まじいサイズの戦艦だ。

まさかメシア本部にこのような機能が眠っていたとは、誰もが夢にも思わなかっただろう。


「……アッシュベル、これもお前の仕業なのか?」


目の前に繰り広げられた戦艦と化したメシア本部に目掛けて、艦長は力なくそう呟いた。









突如変形をし、浮遊をし始めたメシア本部を目の当たりにして、思わずシリアは呆然としてしまった。

シリアだけではない、同じ場に居合わせていたラティアやイリュードも同じような反応を取っている。

何故同じメシア所属である二人が、メシア本部のあの姿を見て驚くというのか?

つい最近までフリーアイゼンにいたラティアならともかく、イリュードすらもメシア本部の機能を知らされていなかった?


「クッ、何なんだよ……姉貴、あれはどういう事だっ!?」


『メシア本部が巨大戦艦だったというの……? 嘘よ、そんなはずは――』


『あの男の仕業か、或いは最初からメシア本部はそのように設計されていたか』


やはり、二人は何も聞かされていないようだ。

しかし、何故このタイミングでメシア本部が空を飛んだというのか?

アヴェンジャーから逃れる為であれば、展開されていった新生メシアの部隊の意味が薄い。

むしろ現時点でも圧倒的な力でアヴェンジャー及びフリーアイゼンを押し切っているはずだ。

ならば、別の狙いがあるか、アッシュベルの独断であるか――


『シリア機、応答してくださいっ!』


「あ、ああ。 なんだ?」


シリアがメシア本部に気を取られている時、丁度コックピットにフリーアイゼンからの通信が入った。


『すぐに帰還してください、フリーアイゼンは戦域から撤退します』


「撤退だって? ゼノスは戻ったのか?」


『……いいえ』


「なっ――なら、晶は戻っているのかっ!?」


『シリア、何も考えずに撤退してください。 これは命令ですよ』


「そうか、あいつらまだメシア本部にいるんだな?」


『……』


ヤヨイは何も答えなかったが、その沈黙だけでもシリアにはわかる。

二人がメシア本部に捕らわれたままだという事が。

ならば、やるべき事は一つしかない。


「アタシは、戻らないよ」


『シリアっ!?』


「あの二人を必ず、連れ戻すからっ!」


シリアはそれだけ伝えると、一方的に通信を切った。

一息ついて深呼吸をし、スロットルを握りしめた。


『何処へ向かう気だ、貴様』


「悪いけどアンタらの相手をしてる場合じゃなくなったんでね」


『我々がテロリストである貴様を見逃すとでも?』


「チッ、そのテロリスト呼ばわりってのはどうにかならないのか?」


『かつて同士だったと言えど、容赦はせんぞ』


レッドウィングは両手に真っ赤に染色されたサーベルを手にし、構えた。

やり方は違うと言えど、イリュードとシリアが目指す先は同じモノがあるはずだ。

本来であれば互いに争い合うようなことはあってはならない。

だが、お互いに譲れない物があってこそ、それを貫こうと人は戦い続ける。

しかし、今はその時ではない。 仲間を助ける為にも、イリュードとラティアの狙撃から逃れなければならなかった。

振り切る事が、出来るのか?


「やるしか、ないっ!」


命令に背いてまで決めた事だ、こんなところで落とされるわけには行かない。

シリアはスロットルを最大まで押し込んで、機体を飛行形態へと変形させて豪速で飛びだって行った。

強烈なGが襲い掛かり、気を失い掛けながらもシリアは必死で機体をコントロールする。

バァンッ! ふと銃声が耳に飛び込んだ。

恐らくブレイアスによる狙撃だろう、間一髪で避けた……いや、外したというのが正しいだろう。

続いて背後からは、レビンフラックスに引けを取らないスピードでレッドウィングが迫ってくる。

最大速度だというのに、レッドウィングは徐々に距離が縮まっていく。

このままでは逃げ切れない――腹を括ったシリアは、くるりと機体を回転させて人型へと変形させる。

そして迫り来るレッドウィングに向けてミサイルを発射させた。

レッドウィングはライフルで瞬時にミサイルを撃ち落とし、一気に間合いを詰めてサーベルを振るった。


『落とさせてもらうっ!』


「させるかぁぁっ!!」


レッドウィングが懐へ飛び込んだ瞬間、シリアはサーベルを出さずにそのままスロットルを一気に押し込んだ。

すると機体は再び飛行形態へと変形し、凄まじい加速を乗せたままレッドウィングへと突撃していく。

ガキィィィンッ! レビンフラックスの翼に装着されたサーベルとレッドウィングのサーベルが火花を散らしぶつかり合い、金属音が鳴り響いた。


「これ以上、アタシの邪魔をするなぁぁぁっ!!」


機体を更に加速させ、シリアは一気にレッドウィングを押し込むと、ライフルを数発放ちくるりと宙返りで再びメシア本部へと向けて加速し始めた。

背後からレッドウィングが追ってくる様子はない、振り切れたか?

油断はできないが、今のうちにメシア本部へ向かうしかない。

シリアは全速力でレビンフラックスを飛ばした。







父親の最後を見届けて、晶とゼノスは案内された通りの道を進んでいくと格納庫へと辿り着いた。

この光景には見覚えがある、ι・ブレードが落下した地点はまさにこの位置だ。

辺りを見渡すと、そこには横たわったまま動かないι・ブレードと……ブレイアスが2機置かれていた。

片方のブレイアスはあの赤色といい、何処かで見覚えのある配色ではあるがもう片方は塗装がされていない状態の真っ白なブレイアスだ。


「ι・ブレードは動くのか?」


「……わからない、さっきまでは全く動かなかったけれど」


「なら、コックピットの中で待機していろ。 脱出ルートを確保してから、ブレイアスで外へと連れ出す」


「ああ、わかった」


とにかく今はゼノスを信じるしかないだろう、晶は指示通りにι・ブレードのコックピットへと向かって歩き出す。

父親は言っていた、ι・ブレードのコアには母親が使われていると。

何故、母親がエターナルブライトとなってしまったのか?

父親は自らの妻を使ってまで、ι・ブレードを完成させなければならなかったというのか?

世界からエターナルブライトを『消す』事と、ι・ブレード……一体それに、何の繋がりがあるのか晶にはわからない。

答えが隠されているとすれば、父親に託された機密事項とラストコードだけ。

これが、対アッシュベルに対する『切り札』となり得るというのか――


「よぉ、ビリッケツよぉ」


「――お前っ!?」


ふと、俊の声がすると晶は顔を上げた。

するとι・ブレードのコックピットから俊が姿を現した。

恐らく待ち伏せをしていたのだろう、しかしこのタイミングで姿を見せてしまっては意味を成さない。

俊が何を狙っているのかはわからないが、晶はギロリと俊の事を睨み付けた。


「ヒヒッ、どうしたんだお前? その目は何だよ、あ? あの白衣のおっさん、テメェの親父だったんだろ? 泣けるじゃねぇか、息子を庇う父親だなんてよぉ?」


「……もう、やめろっ! お前が恨む対象は俺だけのはずだっ! これ以上、周りに危害を与えないでくれっ!」


「俺の復讐はテメェを殺す事だけじゃねぇ、言ったはずだぜ? テメェの全てを奪い尽くしてやるってな」


「まさか――親父を殺したのは――」


「本当はあのゼノスって野郎が庇うかと思ったんだがよ、丁度テメェの親父が居合わせていたみてぇだからな。

まぁ、この際誰でもいいだろ……少なくとも、テメェの肉親を奪ったという収穫は俺にとってはデケェだからな……クヒヒッ!」


気味の悪い笑い声をあげて、俊は晶に向けてそう告げた。


「お前って奴はぁぁっ!!」


俊を目の前にしても、何とか感情を抑え込んでいた晶であったが、もはや感情が爆発するのは時間の問題だったのだろう。

怒りに身を任せた晶は、俊に殴りかかろうと拳を握りしめて走り出した。

バァンッ! その時、晶の右足を銃弾が貫通していった。

激しい痛みに耐えきれず晶は倒れ、その場でもがき苦しんだ。


「ヒヒッ、いいザマだぜビリッケツよぉ……だがな、ソノ姉の痛みはこんなもんじゃねぇ。 テメェにもっと地獄を見せてやるよ。

さあ、ι・ブレードに乗りやがれ。 生身のテメェと戦っても俺の圧勝に決まってるからな、せめてケンカぐらいは『HA』でしてやんよ」


「……こんなことして、本当にシラナギさんが喜ぶと思ってんのかよ?」


「テメェがソノ姉を語るんじゃねぇよ。 今はテメェが不幸になる事が俺の幸せだ。 ソノ姉が俺の幸せを望まないワケねぇだろうがっ!」


「他人を不幸にする幸せなんて、そんなの間違ってんだろっ!」


晶が再び立ち上がり拳を振り上げた時、ふと背後からガシッと腕を掴まれてしまった。

振り向くと、そこにはゼノスがいた。

騒ぎを聞きつけて心配になって来てくれたのだろう。


「白柳 俊、今のお前をシラナギが知れば奴は悲しむぞ」


「あん? テメェにソノ姉の――」


「わかる、奴との付き合いは長い。 シラナギは弟であるお前の事を心配していた」


「それがどうしたってんだよっ!?」


「お前にとってシラナギという存在は大きすぎた。 俺達の想像以上にな。 お前は孤立していたが故に、シラナギに強く依存しすぎている。

だからこそ、お前は自分が歪んでいる事に気づきすらしない」


「俺にとってソノ姉は全てだった、その全てを失った俺の事を、誰も理解できるはずがねぇ」


「そんなお前を、恨まれようが何されようが救おうとした人物が目の前にいる。 お前は、それを忘れるな」


「何……?」


ゼノスが突如そう告げると、晶は思わず呆然としてしまった。

それは俊も同じで、言葉を失って動揺してしまっている。


「気に入らねぇな、ゼノス・ブレイズっつったっけか? いいぜ、テメェにも俺の叫びを聞かせてやるよ……この、クライディアでなぁっ!」


俊はギロリとゼノスを睨むと、ポケットからリモコンを取り出してボタンを押す。

すると、俊の背後には突然真っ黒なHA『クライディア』が姿を見せた。


「なっ――いきなりHAが出現したっ!?」


「いや、ステルスだ。 恐らくそれを利用してお前を追ってきたのだろう。 晶、歩けるか?」


「な、何とか止血はしたけど、コックピットまでなら何とかして歩ける。 だからゼノスはブレイアスへ急いでくれっ!」


「あまり無理をするなよ、晶」


ゼノスは晶にそう告げると、速やかにブレイアスへと向かって走っていく。

右肩も右足も激しく痛む中、晶は立ち上がって這いつくばってι・ブレードのコックピットへと向かう。

短い距離ではあるが時間をかけてようやくコックピットの中へと向かうと、晶はι・ブレードを動かそうと試みるがやはり反応がない。

レーダー機器や通信は生きているようだが、制御系統が全く作動しないのだ。


「クッ、ダメか……ゼノスに、頼るしかないのか」


ここまで来て人の力を借りないと何もできない自分に、少し嫌気がさした。

こんな自分が父親に全てを託されたというのか。

本当にそんな資格が自分にあったのだろうかと、晶は悩み苦しんだ。


『無事に乗れたか?』


「あ、ああ。 何とか大丈夫だ」


するとゼノスからの通信が入り、晶は慌ててそう答えた。


『施設の外へ繋がる扉は防壁が降ろされているようだ』


「突破できないのか?」


『ブレイアスのリミッターを解除した、最大出力まで上げて体当たりをすれば破壊できるかもしれん』


「ゼノス、大丈夫なのか?」


『俺は死なない、そう約束しているからな。 だが、それよりも問題なのは奴の方だろう』


ゼノスがそう呟いた途端、ι・ブレードの目の前でクライディアが真っ黒な翼を広げて宙へと飛び立つ。

俊をどうにかしない限り、防壁を突破するのは難しいという事だろう。


「……ゼノス、ブレイアスはもう1機あるんだろ? 俺がそいつを使えば――」


『やめておけ、死ぬぞ』


「ど、どうしてだよっ!? た、確かに俺はι・ブレードのおかげでこれまで生き残っているかもしれないけど――」


『そうではない、あれは普通のブレイアスではない。 お前も見覚えがあるはずだ、あれはトリッドエールだ』


「トリッドエールっ!?」


あの見覚えのある赤色は、アヴェンジャーによって奪われて……そして改修されたあの『トリッドエール』だというのか。

だが、トリッドエールはアヴェンジャーとの決戦の時に大破したはずだ。

何故こんなところにトリッドエールがあるのか?


『恐らく復元作業中だったのだろう、調整が終わっていない今の状態であれを使うのは危険すぎる。 俺が乗るならともかく、お前とでもなれば乗せる訳には行かん』


「だ、だからと言って」


このまま何もしないわけには行かない、そう繋げようとした瞬間――ι・ブレード宛に通信が届いた。


『晶、晶なのかっ!?』


「シ、シリアっ!?」


『よかった、アンタは無事なんだなっ! ずっと通信が繋がらなかったから心配してたんだぞ』


恐らく晶が本部内に潜入している時に何度か通信があったのだろう。


「今俺はメシア本部内の格納庫で身動きが取れないんだ、ゼノスとは合流出来たけど防壁が邪魔をして簡単に外に出れそうにないんだ。 何とか俺達のところまで来れないか?」


『ヘヘッ、頼りにさせるってのは気持ちがいいね。 OK、待ってな。 すぐに向かうっ!』


シリアとの通信を終えると、晶は何とかι・ブレードを動かせないかガチャガチャと操縦桿を動かすが何も反応がない。

スロットルレバーはビクともしないし、ι・ブレードは語りかけても反応はしない。

まさか本格的に故障してしまっているのか?


「ゼノス、今シリアから通信が入った。 それまではクライディアを何とか凌いで――」


『その必要はない、多少強引にでもこじ開けるぞ』


ゼノスがそう伝えると、ブレイアスは防壁の前まで移動をしてその場に留まる。

すると、機体から煙が吹き出し始めた。


「な、何してるんだよ?」


『言ったはずだ、出力を限界まで上げると。 新生メシア兵の奴らがここに来たら手遅れだ、何としてでも脱出するぞ』


「ゼノス……わ、わかった」


『おっと、そうはさせねぇぜ。 テメェが嫌と言おうが関係ねぇ、この俺の相手をしてもらうぜぇぇっ!!』


クライディアは目にも留まらぬ速さでブレイアスへと向かっていく。

ブレイアスは出力を無理やり上げている状態だ、そこに外部の衝撃が加われば当然ながら爆発を引き起こす。


「やめろ、やめろぉぉぉっ!!」


これだけ叫んでも、ι・ブレードが動く事はなかった。

晶の叫びも虚しく、クライディアは勢いを止める事無くレイジングクローでブレイアスを貫いた。


『ヒャッハッハッハァッ! 死ねよ、死ねよゴミクズがよぉっ!!』


『――俺は、生きる事を諦めないっ!』


ブレイアスは各部を爆発させながらも、防壁へと向かって突進していく。

ブレイアスは驚異の推進力を叩き出し、纏わりつくクライディアを弾き飛ばしながら防壁へと向かっていく。

ズガァァァァンッ!! 激しい爆発と共に、ブレイアスは防壁へと体当たりを仕掛けた。

だが、防壁は僅かに穴が開いただけで、とてもじゃないがHA一機が脱出できるような大きさではない。

ブレイアスは吹き飛ばされ、地面へと激しく叩きつけられた。


「ゼノス、ゼノスっ!?」


『――大丈夫だ、問題はない』


あれだけの爆発を受けておきながら、まだゼノスは生きているようだ。

ブレイアス自身も身動きは取れるようで、ボロボロになりながらも再び立ち上がる。


『どうしたιよぉ? 仲間のピンチだぜ、助けてやれよ……ヒヒッ!』


「クッ……っ!」


『ま、無理だろうな。 ι・ブレードはもう壊れちまってる、素人の俺にでもわかるぜ? もうお前の大事にしていたι・ブレードは、動かねぇんだよっ!』


「そんな事は、ない――」


晶は力なく、そう返した。

だが、現実は俊の言う通りなのだろう。

ι・ブレードはシステム面に異常をきたしてしまっている、このままではせっかくもらったラストコードすらも使えない状態なのだ。

こうしてゼノスが危機に陥っていても、何もする事が出来ないというのか。

一体、どうすればいいのか――


『晶、今行くぞぉぉっ!!』


すると、ι・ブレードの元にシリアの声が届いた。

同時に、バギィィィンッ! と激しい金属音を鳴らしながら、豪速でレビンフラックスが飛行形態で防壁を突き破って侵入してきた。


『ケッ、黄色いハエのお出ましかよっ!』


『アンタはこの前の……また、アタシらの邪魔をしに来たのかっ!?』


レビンフラックスは人型へと変形し、クライディアへと斬りかかる。

だが、クライディアは一撃を容易に交わしてあっという間にレビンフラックスの背後を取った。


『この前の借りは、返させてもらうぜぇぇぇっ!!』


「やめろ、やめろやめろやめろぉぉぉっ!!」


ゼノスに続いて、シリアまで――

そう頭に過ぎらせた瞬間、クライディアはレビンフラックスの動力部をレイジングクローで貫いた。


『クッ――ただでは、やらせないっ!』


辛うじて機体が動くうちに、シリアはサーベルを力任せに振るうとクライディアの右腕が切り落とされる。

その瞬間、シリアは脱出ポッドを作動させて飛び出すと……レビンフラックスは爆発し、大破してしまった――


「レビンフラックスがっ!?」


『チッ、やりやがったな……クソがっ!』


俊は切り落とされた右腕を回収すると、開かれた防壁と通り抜けてさっさと脱出していってしまった。


『晶、何としてでもお前をフリーアイゼンに送るぞ』


「ゼノス? その機体で大丈夫なのかよ? それに、シリアだって――」


『お前は未乃 健三に未来を託された、だから生きなければならない。 今優先すべき事を忘れるな、いいな?』


「だけどっ!!」


『行くぞっ!』


ブレイアスはボロボロになった機体でι・ブレードを支えて、防壁を通り抜けて行く。

あっという間に外へと飛び出すと、目の前に広がる光景は地上でなく大空だった。

やはり、未乃 健三の言う通りメシア本部は本当に空を飛んでいたのだろう。

飛行機能を持たないブレイアスは、空中での制御が全くできない。

ゼノスはせめてι・ブレードを守ろうと、バーニアを吹かせて誤魔化していたがそれでも落下時の衝撃は免れないだろう。

落下地点を定めようとしたが、制御がずれてしまい停泊していた輸送機へ落下しそうになってしまっていた。

バーニアで誤魔化したが、空中での制御をどうする事も出来ず、ι・ブレードとブレイアスはほぼ同時に着地……いや、墜落していった。

ガシャァァァンッ! 激しい衝撃が晶に襲い掛かった。

幸い爆発は引き起こされなかったようだが、ついにモニターが死んでしまい映像にノイズが入るようになっていた。


『晶、無事だったのだな』


「か、艦長?」


すると、突如艦長から通信が飛ばされた。


『ついさっきお前達が落下していくのを確認した。 今回収しに行くからそこで待機していろ』


「りょ、了解です」


どうやらフリーアイゼンと無事合流する事が出来そうだ。

しかし、まだ本部にはシリアが残されてしまっている。

せっかく助けてもらったのにシリアが残されていては何も意味がないではないか。

何とか助けに行くことが出来ないか、と思っていた矢先……突如、メシア本部から黒い巨大な何かが飛び出していくのを目の当たりにする。

あの禍々しい姿、間違いない――E.B.Bだ。


『フリーアイゼンの諸君、君達が私の留守を狙って機密事項を狙った事はわかっている。 まさか無事に脱出されるとまでは思っていなかったがね』


「アッシュベル……っ!」


通信機から聞こえてきたのはアッシュベルの声だった。


『そんな君達にご褒美だよ、懐かしい人物に逢わせてあげよう』


「懐かしい、人物?」


『君達も覚えているだろう、『ジエンス・イェスタン』の名をね』


「ジエンス、だって?」


晶はふと、メシア本部から落下してきたE.B.Bの姿を確認した。

まさか――


『喜びたまえ、彼は史上最強のE.B.Bとなって甦ったのだよ。 ククッ、君達との再会を楽しみにしているだろうからな、是非手厚く歓迎してくれたまえ』


「まさか、あれが……あのジエンスだって言うのか?」


これまで見た事もない程の巨体のE.B.Bを目の当たりにしながら、晶は思わず言葉を失っていた。

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