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     ラストコード ④

ι・ブレードの付近には、いくつかのメシア兵が集まっていた。

メシア本部にはいくつかアッシュベルが用意したι・ブレードの量産型は存在するが、やはりそれとは違う事にすぐ気づいたのだろう。

識別コードが異なる謎のι・ブレードに調査のメスが入ろうとしていたところ、突如施設の付近で爆発が引き起こされた。


「何事だっ!?」


「何だ、あのHAは?」


施設内に突如潜入してきたのは、まるで獣を連想させる真っ黒なHAだった。


「レーダーには何も反応がなかったはずだぞ、外の奴らは何をしているっ!?」


「ええい、そのιは使えないのか? 迎撃しろっ!」


「ダメだ、こいつ全く動きやしねぇっ!」


メシア兵がざわついている間にも、黒いHA……クライディアは四つん這いでノソノソと近づいてくる。


「に、逃げろっ!!」


メシア兵は一斉にι・ブレードから離れていくが、俊はそんな事を気にも留めずに進み続ける。

倒れたι・ブレードを目にして、中に誰もいない事を確認するとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


「ヒヒッ、ビリッケツ……何処へ逃げても無駄だ、絶対に逃がさねぇぜぇぇっ!!」


俊の狂気に満ちた笑いが、不気味に響き渡った。








アヴェンジャーの襲撃により、メシア本部内はセキュリティが作動して侵入する事が不可となっているはずだった。

しかし、どういう訳かガジェロスと晶はまるで誰かに誘われているかのように施設内をスムーズに進んでいく。

晶は何かの罠じゃないかと不安を抱きつつも、ガジェロスは気にも留めていないように見える。

途中、何度かメシア兵と遭遇しかけるが隠れてやり過ごしたり別ルートで迂回をしたりと、ここまでは無事見つからずに進めていた。

ゼノスは今頃どうしているのだろうか、無事に脱出できたのか……或いはセキュリティが作動していない今を狙って潜入を続けているのか。

そんな事を頭に過ぎらせていると、ガジェロスは突如足を止めた。

またメシアの兵でも見つけたのかと、晶は背後に隠れて周囲を注意深く見渡すが、どうやら違ったようだ。


「奴と、逢ったか?」


「奴?」


「白柳 俊の事だ」


晶はその名を耳にして、思わず背筋をゾクッとさせた。

何故このタイミングでその事を尋ねるのか?

逢ったも何も、ついさっきまで晶は俊と死闘を繰り広げていたのだ。


「俺は奴の事は何もわかってはいない。 だが、一つだけわかる事がある。 それは奴にとっていかに姉であるシラナギが大切な存在であったのか、だ。

聞けばお前はシラナギの命を奪ったようだな」


「……違う、俺は――」


「それが事故であっても、故意であっても奴にとっては何も変わらない。 奴は全ての負の感情を復讐心に変えた。 そうしなければ、シラナギが死んだ現実を受け入れることが出来なかった」


「俺が、アイツを復讐鬼に変えてしまったのはわかってる。 だから、俺は――」


「やめておけ、敵に情けをかけるな。 貴様のその甘さが自身の命を危険に晒し、仲間さえも巻き込む事となる」


晶が何を言おうとしたのかわかっていたのか、ガジェロスはすぐに否定した。

いくら晶が俊の痛みを知ったところで、それは何も解決にはならない。

晶が何か行動すれば行動するほど、俊の憎しみは悪戯に広がり続けるだけなのだろう。

どうする事も、出来ないのか――


「奴が復讐を果たしたところで、シラナギは蘇らない、世界は何一つ変わらない。 だが、復讐は新たな復讐を生み、悲劇を作り出すだけだ。

負の連鎖は断ち切るべきだが、弱い人間にはそれが出来ない。 だから、俺達は復讐に染まっていった」


「負の連鎖を、断ち切る?」


「正直貴様には驚きを隠せん。 俺はお前の故郷やクラスメイトの命を目の前で奪っていった張本人である事は勿論の事、その計画に加担した未乃 健三を、未だに父と呼び、救おうとさえしている事。

とてもじゃないが、俺には理解できん。 俺がお前の立場であれば、怒りで我を忘れて……このように平然と二人でいるような事はないだろうな」


「俺はアンタを許していない、それは勿論親父もだ。 だけど、今はそんな事している場合じゃないだろ」


「ゼノスが、お前をここまで強くしたのか?」


「俺が、強いだって?」


いきなり何を言い出すのかと、晶は思わず耳を疑った。

そんな事はない、いつもゼノスやシリアといった仲間に支えられて、転んでも転んでも辛うじて立ち上がり続けてきただけだ。

本当は心がズタボロで、復讐に構っている余裕がないだけだというのに。

ガジェロスは以前に逢った時よりも、少し雰囲気が変わったように感じる。

それは今、晶が復讐に捕らわれていないからなのか、それとも本当にガジェロス自身に変化が起きたのかは定かではない。


「……どうやら、辿り着いたようだな」


「ここ、なのか?」


「ああ。 だが、お前の父親がここにいるとは限らん。 この後お前はどうするつもりだ? まだ、俺についてくる気か?」


「それは、機密事項を目にしてから決める」


父親が知らせようとした、エターナルブライトに関する機密事項。

ガジェロスと晶はいつの間にか、その隠し場所にまで辿り着いていた。

ここまでスムーズに辿りつけた事は却って気味の悪さを増幅させる。

アッシュベルの研究成果、それは一体何を示すのか――


「念の為もう一度言っておく、俺は何が起きてもお前を守る気はない。 自分の身は、自分で守れ」


「ああ、わかっている」


「なら、開くぞ」


晶が強く頷くと、ガジェロスは静かに扉を開く。

その先には、大量に積まれた書類の山と無数の本棚があった。

散らかされた資料の数々と本、その内容は様々で法則性を全く見受けられない。

まさか、無数に積まれた書類の山から機密事項を探し出さなければならないのか?


「どうやら、先客がいるようだな」


「先客?」


ガジェロスの視線の先を辿っていくと、部屋に設置されていた端末を操作している人物の姿が見えた。

あの赤髪……もしや――


「やはり貴様も潜入していたか、ゼノス」


「……輸送艦の時に感じた気配、やはりお前だったのか」


「ゼノスっ!? 無事だったのか?」


「その声は、晶? 何故お前がここにいる?」


端末の操作をしていたゼノスは、晶の声を確認すると顔を上げた。

驚くの無理はないだろう、本来なら晶は外での待機を命じられており、この場にいるはずがないのだから。


「外での戦闘でメシア本部内に落とされたんだ」


「……その男と、行動を共にしたのか」


「ああ」


「安心しろ、晶とやらには何もしてねぇさ。 それよりも、機密事項とやらは見つかったのか?」


「お前に答えてやる義理はない」


「そうかい、なら――」


ガジェロスがゼノスにそう告げた途端、突如晶はグイッと強い力で首を掴まれる。


「このガキを殺されたくなきゃ、テメェの知る限りの情報を吐くんだな」


「な、何を――」


「言ったはずだ、テメェの身はテメェで守れとな…。 俺は復讐に全てを掲げた男だ、使える物はなんだろうと使わせて貰うっ!」


グッと左手で首を掴まれると同時に、晶の首に激しい激痛が走る。

思わず叫びたくなるほどの痛みであったが、晶は何とか堪えて声を殺していた。

迂闊だった、これは一瞬でもガジェロスという人間を信じた晶のミスだ。

これではゼノスの足をまた引っ張ってしまう事になる。

何とかならないか、と晶は思考をグルグルと廻らせ続けていた。


「やめろ、ガジェロス。 今の俺達は争っている場合ではないはずだ」


「俺は俺自身の復讐を果たすだけだ、例え貴様と目的が同じだとしても手を組む理由にはならん」


「どうしても俺を拒むのか?」


「そうだ、テメェは俺を裏切った。 だから俺は、誰一人信用する気はない。 俺は俺の復讐を果たす為に、戦う。

さっさと機密事項をよこすんだな、これが単なる脅しじゃない事ぐらいテメェにもわかるはずだ」


「……機密事項は、ここに隠されている」


ゼノスは無言で端末の操作を続けると、ふと散らばっていた本棚の中から台座が出現し始める。

そこにはショーケースに包まれたデータチップが保管されていた。

恐らく、これがアッシュベルが残したとされる機密事項なのだろう。


「――ゼノスっ!!」


その瞬間、晶は突如暴れてガジェロスは思いっきり突き飛ばす。

僅かに生まれた隙を狙い、晶は出現した台座に向けて全力で駆け出した。

だが、台座を目の前にして手を伸ばした瞬間――晶の右肩に、激痛が走る。

ガジェロスの右腕から伸ばされた触手が、容赦なく右肩を貫いていた。


「……っ!?」


声にもならない激痛に、晶は膝をつき倒れてしまう。

必死で右肩を抑えるが血はドクドクと流れ続け、痛みも治まらなかった。


「晶っ!? しっかりしろ」


「ゼノス、機密事項を持ち帰ってくれっ!!」


「お前を見捨てる訳にはいかんっ!」


ゼノスは迷わず晶に元へと駆け出し、自分の服を千切って負傷を負った晶の右肩に巻きつける。

とりあえずの応急処置であったが、その間にガジェロスはショーケースを破り、小さなデータチップを既に手にしてしまっていた。


「機密事項を頂いていく、あばよ」


ガジェロスはそう告げると、部屋の外を出て行こうとすると――どういう訳か、扉にはロックがかかってしまい開かなくなっていた。

チッと舌打ちをし、力任せにバケモノと化した右腕で扉を殴りつけるが……扉は傷一つつかない。


『フフ、実に愉快だよ。 ネズミが複数侵入していたようだが、まさか同士討ちをしているとはな』


「アッシュベルっ!?」


突如何処から共なく、アッシュベルの声が伝ってきた。

恐らくこの場にはいない、通信か何かで話しかけているのだろう。


『ι・ブレードを勝手に持ち出したかと思えば、今度はメシア本部に土足で侵入かね? あの男の息子は何を考えているかわからんよ』


「チッ、どうも簡単に行き過ぎだと思ったんだ。 やはり、罠だったんだな?」


『私ではないさ、恐らく未乃 健三が余計な真似をしてくれたのだろう。 不思議に思わなかったのかね、メシア本部内のセキュリティが作動していない事に。

親子揃って、実に不愉快だよ……私の留守を狙い好き放題してくれていたようだな。

ま、ともかく機密事項なら君達の好きにするがいい、もっともここから無事脱出できればの話だがね』


アッシュベルが言うように、どうやら本部内のセキュリティが何者かによって解除されていたようだ。

だからこそ晶とガジェロスはここまで容易に侵入する事ができたのだろう。


「ふざけるな、こんな壁ぶち破って見せるっ!」


ガジェロスは苛立ちを見せながらも、力強く壁を殴り飛ばす。

だが、何度殴っても壁はビクともしなかった。

すると突如、施設内がグラグラと激しく揺れ始める。

この揺れ方は、地震ではない。 しかし、外での戦闘による振動にしても、揺れが激しすぎた。


「晶、動けるか?」


「あ、ああ……何とか」


「なら脱出するぞ、嫌な予感がする」


「機密事項はどうするんだ?」


「それどころではない、いずれ奴から奪って見せるさ」


ゼノスはギロリとガジェロスを睨み付けて、そう告げる。


『では私は失礼するとしよう、いつまでも君達の相手をしている程暇でもないのでな。 精々、足掻いて見せるがいい』


「待て、アッシュベルっ!!」


ガジェロスが叫んだが、既にアッシュベルとの通信が途切れてしまい返事は帰ってこなかった。

長い地震がようやく収まると、一瞬だけ3人の間に沈黙が生まれる。

とにかくまずはここを脱出しなければ、晶は体を起こして周囲を見渡していると……ふと、ガチャリと扉が開き始めた。


「君達、こっちだっ!」


「お、親父っ!?」


扉の先には、白衣を身に纏った未乃 健三の姿があった。

やはりメシア本部内にいたというのは事実のようだ。


「話は後だ晶、脱出をしたければ私の言う事に従え」


「あ、ああ……」


「行くぞ、晶」


晶はゼノスに引っ張られながらも、部屋の外へと連れ出される。

だが、ガジェロスは何故か部屋から一歩も出ようとしなかった。


「ガジェロス……晶を利用した借り、いつか返させて貰うぞ」


「それまでに、お互い生きてりゃいいがな」


ガジェロスはそう告げると、扉は閉まってしまいロックがかけられた。


「久しぶりだな、ゼノス・ブレイズ。 息子が世話になっていると聞いたぞ」


「今はそれどころではない、後にしてくれ」


「彼はいいのかね、置き去りにしても」


「奴なら自力で脱出するだろう、どちらにせよ俺達と行動する気はない」


「ならばついてくるのだ、今ならば脱出にまだ間に合うだろう」


どうやらゼノスと健三は知り合いだったようだ。


晶は別にその事に関して疑問は抱かなかった。

元々ι・ブレードに初めて搭乗した時から、ゼノスが父親の知り合いである事は確信していたのだから。


「一体外では何が起きている?」


「……メシア本部が、空を飛んでいるのだよ」


「メシア本部が、だと?」


流石のゼノスも驚きを隠せなかったのか、思わず動揺してしまった。

メシア本部と言えば、建物であり空を飛べるような機能が搭載されているわけではない。

仮に空を飛べるとしても戦艦とは違うのだ、レギス級で換算しても何十、何百隻と匹敵するほどの大きさだ、そんなものが飛べるはずがない。

だが、未乃 健三が嘘を言っているようにも見えなかった。


「ついてきたまえ、私が必ず君達を返してやると約束しよう」


「ああ、頼んだ」


警報が鳴り響き、グラグラと施設内の揺れを感じながらも、ゼノスと晶は健三の後を黙ってついていった。









先程から似たような細長い通路を走り続けていた。

侵入した時と建物の構造が明らかに変わっている。

恐らくセキュリティが作動して防壁等が働いた結果なのだろう。

こんな状態ではとてもじゃないが脱出が出来ないのでは、と思ったが健三が行く先には所々不自然に開かれた防壁が続いていた。

恐らく何らかの手段で防壁が作動しないようにしたのだろうが、もしそうだとすればやはりあのメッセージを送ったのが健三だという可能性は高い。

そうでなければここまでして、たまたま侵入してきた晶達を逃がそうとしてくれないはずだ。


「もう少ししたら施設の外に出れるはずだ、その先にはι・ブレードと武装されていないブレイアスが一機だけある。

しかし、閉められた防壁を破壊しなければ施設からの脱出は無理だ。 おまけにι・ブレードは現状、身動きを取る事が出来ん状態だ」


「いや、ブレイアスがあれば十分だ。 何とかして見せよう」


「そうか、なら頼んだぞ。 ……それと、晶」


「……」


突如父親に名を呼ばれた晶は、少しだけ目を逸らすとしばらく考え込み、健三へと目線を合わせた。


「私はまだメシア本部内でやらねばならぬことがある。 だが、アッシュベルが私の行動に気づいた今……もはや私の命はそう長くはないだろう」


「なっ――」


晶は言葉を失った。

まさかアッシュベルに命を狙われているというのだろうか?

そうであれば、この施設から何が何でも連れ出さなければ――


「言っておくが、私はここから出るつもりはない。 私は私で最後までアッシュベルと戦う事を選んだ」


「何言ってるんだよ、俺達だってアッシュベルと戦うつもりだっ! 死ぬのをわかっていて、この施設に残るって言うのかよっ!?」


「それでも、私にはやるべき事が残されているのだ。 だが、私に万が一の時があった時の為にお前には――」


「見つけたぜぇ、晶ぁぁぁっ!!!」


突如、何処から共なく思わず聞こえてきた声を耳にし、晶は背筋をゾクッとさせる。

この声は間違いない、俊だ。

こんな施設にまで晶を追ってきたのかと思った矢先、バァンッ! と銃声が響き渡る。

弾丸は明らかに晶に向けられていた。

不意打ちに対応できずに、晶は銃声にも気づかずにただ声にだけ反応して振り返った時だった。


その瞬間、目の前が真っ白な白衣に覆われて何も見えなくなった。

ドスッ、と鈍い音が聞こえた気がした。

何が起きたのか理解できずに、晶はただ呆然と立ち尽くしていた。

気が付いたら、俊が銃を両手に握りしめている姿が目に入る。

それと同時に、ドサッと目の前で一人の人物が倒れる。

床にはドクドクと血が広がっていく。

倒れていたのは、ついさっきまでそこで話していた父親……未乃 健三だった。

バァンッ! 遅れてゼノスが銃を放つと、俊が握りしめていた銃が弾き飛ばされる。


「ヒヒッ、またテメェの大事なもんを一つ……奪ってやったぜ、ビリッケツよぉぉぉっ!!」


「――親父?」


頭の中が、真っ白になった。

父親が、目の前で撃たれた。

撃ったのは、復讐心に満ちたあの白柳 俊。

恐らく晶を狙って放った一発だったのだろうが、もしや庇ったというのか?


「悲しいか、悲しいのかビリッケツよぉ……どうなんだ、大切なもんを奪われた気分ってのはよぉっ!?」


「……貴様っ!」


ゼノスは耐えきれず、俊の足に目掛けて銃を放つが察知られたのか俊は素早く後退しそのまま逃げ出してしまった。


「――親父を、殺したのか? アイツが……っ!!」


ようやく事態を理解した晶の心が、一瞬にして怒りに満ちて感情を爆発させた。

許せない、肉親を目の前で奪っていった俊の事が。

怒りに身を任せた晶は、逃げて行った俊を全力で追おうと駆け出そうとした。


「やめるんだ……晶、追うなっ!」


すると、健三が上半身を起こし力強く叫んだ。

晶はハッとして足を止めて、健三の元へと駆け出し上半身を抱えた。


「いずれにせよ、私はこうなる運命だったのだよ。 彼を責めるな……悪いのは、こんな世界を作り上げたアッシュベルだ」


「親父……何言ってんだよ、親父はあいつに――」


「出来れば、息子のお前に全てを押し付けるような真似はしたくはなかった。

私の手でアッシュベルの暴走を止める事が出来れば、世界がこんな事態にまで陥る事はなかっただろう」


「もういい、喋らないでくれ……まだそんだけ喋れるのなら、生きれるかもしれないだろ? 諦めるんじゃねぇよ……っ!」


「――いや、これは神が与えた私に対する罰なのだろう。 あまり時間も残されていない……良く聞くのだぞ。

ι・ブレードは、私が対アッシュベル用に開発した機体だという事は、もう知っているな?」


「親父……やめろよっ!」


晶がユサユサと父親を揺さぶる中、ゼノスは晶の肩にソッと手を置いた。

力強く晶と目線を合わせると、晶はようやく落ち着きを取り戻したのか静かに父親と目を合わせる。

全身から汗をビッショリと流し、息も絶え絶えとしながら必死で晶に告げていた。


「ι・ブレードのコアには……私の妻、つまりお前の母親が使われている」


「――何だって、母さんがっ!?」


「これも私の過ちの一つなのだろう……お前はι・ブレードに乗っていて、母親を感じたことがあるはずだ」


思い返せば確かに健三の言う通りだった。

コックピットの中では妙に暖かい光を感じたり、この前共鳴を起こした時もしっかりと母親の声が聞こえていた。

あれは偶然なんかじゃない、ι・ブレードのコアに母親が宿っていた、という事なのだろう。

しかし、疑問は残る。 今の話を真実のであれば、母親はもしや――


「母さんを、アンタの研究に利用したのかっ!?」


「今更許してもらえるとは思わん、だが真実を話そう。 私の妻は不治の病を抱えていた。 命もそう長くはない状況に陥った時、私はアッシュベルの誘惑に負けてエターナルブライトに手を出してしまった。

結果、妻の病気は完治したが……E.B.B化が進み始めて、深刻化していった。 そんな時だった、私は共鳴反応という物を発見し、ある事に成功してしまった」


「ある事……?」


「人を……エターナルブライトへ変化させる方法だ」


「っ!?」


思わず、自分の耳を疑ってしまった。

人が、E.B.Bではなく……エターナルブライトへ変化を遂げた?

そんな事、出来るはずがない。

エターナルブライトは単なる鉱石のはずだ。

いくら不思議な力を持とうと、人間を鉱石に変えてしまう力を持つはずがないと思ったからだ。


「私は妻をアッシュベルに利用されたくないが為に、ι・ブレードを開発しそのコアとして使う事によって誤魔化し続けていた。

……アッシュベルはついに、私が生み出した技術を手にしてしまった。 恐らく世界は――ゴホッゴホッ!」


健三は突如吐血をし始めた。

晶は健三から知らされた真実に驚きを隠せずに、呆然としてしまっていた。


「アッシュベルを止める方法はたった一つ……この世界から、『エターナルブライト』を消す事だ」


「エターナルブライトを、消す?」


「晶、お前を裏切るような真似をして……すまなかった。 信じてもらえないかもしれないが、私は自分が犯した罪に後悔している。

もっと早く、お前達に力を貸すべきだった。 アヴェンジャーはただ、悪戯に世界を混乱に陥れた……だけだったのだ」


「……バカじゃないのか、何で今頃になってそんな事言いやがるんだよ。 確かに親父は酷い事をしたさ……でも、それはアッシュベルを本気で止めようとして起こしたんだろ?

ただ、そのやり方を間違えちまっただけ……なんだろ」


「この私の為に、涙を流してくれるのか? ……晶、お前は優しすぎる。 その優しさがあれば……私の意志を継ぐ事が出来るだろう」


段々と健三の声が掠れていく中、健三は震えた手で懐からデータチップを取り出し、晶にそっと手渡した。


「これは?」


「私が保持していた機密事項……そして、ι・ブレードの最終形態を呼び起こす『ラストコード』が記録されている」


「ラストコード……?」


「行くのだ、晶。 この私に変わってアッシュベルの野望を阻止し、世界を救え。 真の救世主と、なってみせろ――」


「親父……親父っ!?」


健三はまるで電池が切れた人形のように、ふと意識を失った。

ゼノスが脈を計ったが、顔を下に俯かせて静かに首を横に振る。


「……何でだよ、どうしてだよっ!? バカ野郎が……俺に押し付けるだけ押し付けて、勝手に死にやがって……っ!!

ふざけんなよ、目を開けろよっ! 親父にはまだまだ言いたいこと、あるんだよっ! 母さんのことだって、もっと聞きたかったのに――」


晶がいくら呼びかけても、健三の意識が戻る事は二度となかった。

手渡しされたデータチップを、晶は強く握りしめる。

父親は言っていた、アッシュベルの野望を防ぐにはエターナルブライトを消すしかないと。

そのカギを握っているのが、機密事項と、このラストコードだというのだろうか?


「……大丈夫か?」


「――ああ、俺なら平気……だ」


「なら、急ぐぞ。 今は悲しんでる暇もあるまい」


晶は重い腰を上げて、倒れたままの父親を静かに見つめる。

父親は、確かに間違っていた。

アヴェンジャーに手を貸し、息子を不幸にした挙句、ι・ブレードの開発に母親でさえも利用した。

だけど、それでも晶にとってはたった一人の肉親だ。

晶は、父親を恨むことが出来なかった。


「親父……俺、親父の代わりに出来る限りの事を……やるよ。 だから、安らかに眠ってくれ――」


今はもう動く事のない父親に向けて、晶は自分の意思を告げた。

晶は父親に背を向けて、ゆっくりと歩み始める。

決して振り返るな、今は前だけ進んでいけ。

もう、こんな悲劇を起こさない為にも……アッシュベルを必ず止めて見せると、晶は誓った。


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