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     ラストコード ②


D支部付近にて、クライディアが眠りにつくかのように大木に背を預け座っていた。

コックピットでは俊が横たわり、睡眠をとっている。

アヴェンジャーという組織を失い、帰る場所がない俊にとってはコックピット内は生活スペースの一つとなっていた。

俊はι・ブレードに敗北し、長年使用していた愛機『レブルペイン』を失った。 それと同時に、大切な姉までも。

レブルペインがι・ブレードに撃墜された後、俊は脱出ポッドで何とか戦域を離脱し、第7支部までたどり着き、『あの男』の店へと向かった。





第7支部の町の外れにある廃れたジャンクパーツショップ。

世界からメシアという組織が消え大混乱に陥っても、店主である中年男は呑気に新聞を読みながらレジに座っていた。

相変わらず客足も少ないままで、本来であればいつ潰れてもおかしくはない店だ。

だが、この店が潰れないのには理由がある。

何故なら彼の本業は『ジャンクパーツショップ』ではないからだ。

特定の客から特注を受け、改造された『HA』を提供する。 それが彼の本業であった。

淹れたばかりのブラックコーヒーを啜りつつ、クラシックなBGMを今時珍しいラジカセで流していた。

もはや店を営んでいるというより、単純に店に住み着いているという表現が正しいのかもしれない。

すると、ギギギギと店内に錆び付いた扉が開く音が飛び込んできた。


「おう、お前さんか」


新聞を広げたまま、顔を見ずに中年の男はそう言った。

店に直接訪れる客は大抵限られており、ある程度誰が訪れたのかは容易に推測ができる。

扉を開いたのは、俊だった。

普段よりも目付きは鋭く、ズカズカと店内を突き進んでいった。

一応商品であるはずのガラクタ達が体に引っかかり次々と地面に音を立てて落ちていくが、俊は気にも留めずに歩き続ける。


「おいおい、お前さんまーたやらかしやがったな。 片づけるの面倒なんだからよー勘弁してくれよな?」


「その臭ぇ口を閉じろ、クソジジイ」


「ケッ、その荒れ方は大方俺っちの自信作をぶっ壊してきちまったんだな? まぁ命があって何よりじゃねぇか――」


「俺が、壊す? 俺がιに負けた、そう言いてぇのかテメェは?」


ギロリと俊は店長を睨み付け、胸倉を掴んだ。


「俺が負けるはずがねぇ、あんなクズ野郎によ」


「年よりはもっと労わりやがれってんだ、ったく最近のガキってのは沸点が低いんだからよぉ。 で、なら何でおめえさんの目的はなんだ?」


「復讐だ」


「は?」


「ソノ姉が死んだ、あんなクズ野郎にソノ姉が殺されちまったんだよぉっ!!」


ガンッと俊がレジを強く叩きつけると、立て付けが悪かったのかグラグラと激しく揺れ、コーヒー入りのマグカップが見事にひっくり返ってしまう。

だが、店長はそんな事を気にも留めずに、俊の表情を見て思わず呆然としてしまっていた。

そう、あんなに威勢の良かった男が何故か『涙』を流していた。

その涙から伝わってくるのは『怒り』や『悲しみ』、『恨み』といった感情が滲み出ている。


「……おめぇさん、『獣』になってみないか?」


「……」


俊は何も言わずに、ただじっと店長を睨み付けていた。


「アヴェンジャーの量産機に、もう一つの候補があった事を知っているか? 正直性能自体はレブルペインを圧倒的に上回っているモンスターマシンがあった事をよぉ。

だがな、採用はされなかった。 余りにも性能が高すぎる故にまともに扱える人間が少ない点、生産には莫大なコストがかかる事から、量産されなかったHAがあんだよ。

正直おめぇさんに託した違法パーツをフル活用したレブルペインよりを超越したバケモンHAだ」


店長はゆっくりと俊に語りかけるが、俊は何も答えずにただ黙ったままだった。


「まず一つ、そのHAにはまともな武装が存在しねぇ。 持ち前の超スピードを活かし、圧倒的な破壊力を誇る『レイジング・クロー』での戦いを軸とする超近距離戦に特化させている。

ι・ブレードのムラクモと同じ材質で作られたと言えば、どれだけヤベェ破壊力かはわかるだろう?

その爪を装着しているが故に、他の汎用機の武器は何一つ持つことができねぇ。 試作段階ではレイジング・クロー以外の武装は持ち合わせちゃいなかった、全くとんでもねぇ設計だぜ

悪魔のような翼型ブースターを名いっぱいに広げて、両手の爪で敵を切り裂いていく姿……まさしく『獣』としか表現できねぇ戦いっぷりなワケだ」


「そいつぁ、何処にあるんだ?」


そこでようやく、俊が口元を不自然なほど釣り上げて尋ねた。


「ヘヘ、おめぇさんいい顔になったじゃねぇか。 勿論、俺が大事に大事に保管しているさ。

ただ、ちぃーっとばかり趣味で改造をしている最中でな。 最近流行の『圧縮砲』ってのを搭載しようとしている。

後は腕に『隠し銃』を仕込んだりと、俺っち独自の改修を施しているけどな」


「そのHAの名、教えやがれ」


「かつては黒き獣って呼ばれてたがよ、それじゃ味気ねぇと思ってな。 誰ががこんな名をつけやがったんだよ。『クライディア』ってな」


「……ヒヒッ、気に入ったぜぇ。 よこせよ……そのクライディアってのよぉっ!!」


怪しい笑みを浮かべた俊は、店内中に響き渡るような声で、力強くそう叫んだ。





あの店長が語った通り、クライディアは凄まじい性能を秘めたバケモノであった。

レイジング・クローの破壊力は、クライディアのバケモノじみた出力に上乗せし、想像以上の破壊力を生み出していた。

圧縮砲は威力が抑えられていると言えど、ロングレンジキャノンかそれ以上の力を持っていた。

ι・ブレードには損傷を与えることが出来たが、あの程度であればすぐに修繕されてしまうだろう。


「―――ヒヒッ、ビリッケツよぉ」


突如、俊を目を強く見開きそう呟いた。


「この程度で終わらせねぇ、テメェの全てを奪い尽くすまで俺の戦いは終わらねぇ。

待っていろ、すぐに地獄に突き落としてやっからよ……ヒヒッ!」


俊は甲高い笑い声をあげていた。

もはや俊の頭には『晶』と『ι・ブレード』に対する復讐心しか残されていない。

俊の復讐はまだ終わらない、ι・ブレードの息の根を止めるまでは――











作戦当日、潜入員として任命されたゼノスはメシア本部周辺で単独行動を行っていた。

艦長の話通り、一応近くにはフリーアイゼンが待機をしているが出来る限り騒ぎを大きくしないうちに全てを済ませたい。

メシア本部で騒動が起きてしまえば、とてもじゃないが全員が無事で逃れる事が出来ないと考えているからだ。

最悪ゼノス自身が囮になってでも、と考えたが……それはあくまでも最終手段だと胸に留める。

周辺には新生メシア軍の新たなデザインの軍服と思われるのと、旧メシアで使われている軍服の2種類の兵がいるようだ。

これはアッシュベルが旧メシア軍を完全に信用しておらず、旧メシア兵と新生メシア兵の見分けがつくようにと意図的に分けられていると聞く。

ゼノスは旧メシアの軍服を身に纏ってはいるが、旧メシア兵はメシア本部内へ入る事ができない。

その為、輸送艦では事前に荷物チェックが行われると同時に輸送機や輸送艦のクルー達を全員新生メシア兵へと入れ替えてからゲートへ進んでいるようだ。


ゼノスが目を付けたのは、近くに停泊されている大型の輸送艦だ。

一体何を運んでいるのかは不明だが、あの大きさであれば中に潜入すればいくらでも隠れられる場所は存在するだろう。

旧メシア兵がゾロゾロと艦から出て行き、新生メシア兵が入れ替わりで艦内へと進んでいく。

その間にゼノスは裏へと回り、輸送艦へ潜入する機会を伺っていた。

輸送艦の構造は基本的にほぼ同じような作りをされており、新生メシアの輸送艦と言えどメシアで使っていたものと全く同じだ。

構造が全て頭に入っているゼノスは、頭の中で輸送艦への潜入ルートを描き周りの状況を冷静に分析する。

裏側のハッチから潜入する事が出来れば、無理やりハッチをこじ開けてしまえば異常検知がされてしまい、見つかってしまうリスクが高まる。


だが、輸送艦内のチェックが行われている今は、艦内のセキュリティ機能が一時的に解除されている。

その隙をつけば異常検知を起こさずに潜入する事が出来るが、問題はその後だ。

このタイミングで迂闊に潜入すると、新生メシア兵に見つかる可能性が非常に高い。

他に手段がない以上、上手く隠れるしかあるまいと腹を括ったゼノスは輸送艦へと近づき、裏側のハッチを静かに開く。


トンッと素早く艦内へと潜入をし、音を立てないように静かにハッチをロックさせた。

潜入した先はゼノスの推測通り、貨物等が置かれるスペースだ。

巨大なコンテナがいくつも並んでおり、何名かが機械を使って作業をしている様子が見える。

するとゼノスは背後から気配を察して、バッと振り向いた。

……しかし、振り向いた先には誰もいなかった。

気のせいだとは思えない、見つかってしまったか? と考えたが、艦内で騒ぎが起きている様子もなく、新生メシア兵も作業を中断することなく続けている。


「……いや、考えすぎか」


ゼノスは一つの仮説を頭に過ぎらせたが、それはないとすぐに否定した。

自分以外にも、『潜入者』がいると――











数時間経過し、輸送艦が動き出した。

使用された形跡のない空き部屋へと身を潜めていたが、どうやら何事もなく上手くいったようだ。

ここまで見つかっていない以上、後はゲートの通貨を静かに待つだけだがその前にゼノスにはやるべき事がある。

このまま旧メシア兵の恰好をしていては不審に思われる危険性が高い。

輸送艦に限らず、艦内には予備の軍服やパイロットスーツはおいてあるものだ。

しかし、事前に調査をしたゼノスであっても流石に更衣室の位置までは把握できてはいない。

輸送艦の構造は同じと言えど、更衣室といった細部の部分までが必ず同じとは限らないからだ。

迂闊に動き回る事も出来ず、ゼノスは悩んだ挙句一つの手段は思いつかせた。


ゼノスは慎重に部屋のドアを開き、辺りに兵がいないかを警戒する。

すると通路を見回りしている兵の姿があった。

咄嗟に引っ込んだゼノスは逃げはせずに、息を潜めてその場に留まる。

ドアを開かせたまま、ひたすらメシア兵が通り過ぎるのを待つ。

そして、メシア兵が過ぎ去ろうとした瞬間――

ゼノスは素早くメシア兵の口を片手に塞ぎ、空き室へと強引に引き込んだ。

声を上げられる前に、鳩尾に重い一撃を与えると新生メシア兵はいとも簡単に気絶して倒れた。


「悪く思うなよ」


ゼノスは手際よくメシア兵の軍服を剥ぎ取り、代わりに旧メシア兵の軍服を着せて、ゼノスが隠れていた場所で寝かせた。

顔がはっきりと見えないように帽子を深くかぶり、ゼノスは何事もなかったかのように部屋の外へと出ていく。

すると、ばったりと見回りに来ていたもう一人の兵と遭遇してしまった。


「どうした、その部屋には何もないはずだぞ。 何かあったのか?」


「ドアが開かれた形跡があったようだから中を徘徊していた。 特に異常はなかったようだ」


「そうか、念の為他の空き部屋についても調べておいてくれ。

ないとは思うが、輸送艦を利用して部外者が入っちまったら我々の責任問題が問われるからな、頼んだぞ」


「了解した」


見回りの兵がそれだけ言い残すと、スタスタと早足で進んでいった。

新生メシア兵の軍服だったと言えど、ここで他の者との接触は出来る限り避けたかった。

気絶させた兵は当分目覚める心配はないと思うが、他の者に見つかってしまうと厄介なことになる。

隠れているとは言えど、見つからない可能性はゼロではないのだから。


『ゲートの通過が完了した。 乗組員は直ちに物資の移動を開始せよ』


突如、艦内から放送がされた。

どうやら無事ゲートを通過し、メシア本部へ潜入する事が出来たようだ。

後は輸送艦から脱出し、機密事項の回収を行ってから――


ビービービービーッ!

突如、艦内にサイレンが響き渡り始めた。

まさかこのタイミングで気づかれたというのか。

輸送艦の中にいては逃げ場がない、脱出を急がねば……とゼノスが走り立とうとした先には、先程通り過ぎたメシア兵が慌てて駆け寄ってきた。

ゼノスを確保しに来たようには見えない、むしろゼノスに何かを伝える為に慌てて走ってきたようだ。


「おい、作業は中止だっ! 出撃命令が出てるぞっ!」


「出撃?」


「そうだ、モタモタすんなっ! アヴェンジャーの奴らが本部に攻め込んできたらしいぞっ!」


「アヴェンジャー……だと?」


輸送艦内で響き渡った警報は、侵入者を告げる警報ではない。

それは、アヴェンジャーが攻め込んできたことを告げる警報だった。








アヴェンジャーがメシア本部を襲撃したという知らせは、フリーアイゼンにもすぐに届いていた。

艦長の指示により晶とシリアは出撃を要請される。

アヴェンジャーが余計な騒ぎを起こしてしまった以上、作戦は失敗と言えるだろう。

当初予定されいた通り。二人はゼノスの離脱をサポートする為に、新生メシア軍の注意を引き付ける事となった。


『晶、いけるか? ι・ブレードは万全じゃないんだろ?』


「大丈夫、何とかして見せる」


『んじゃ、期待してるぜっ!』


シリアがそれを告げると、レビンフラックスは先にフリーアイゼンから飛び出して行く。

晶はスロットルを握りしめたまま、目を静かに閉じた。


「ゼノス、無事でいてくれ……行くぞ、ι・ブレードっ!!」


スロットルを押し込むと同時に、ι・ブレードは遅れてフリーアイゼンから出撃した。


『メシア本部の第3ゲート付近へ向かってくれ、アヴェンジャーの奴らもそこで交戦しているはずだ』


艦長から通信が送られると、コックピットのサブモニターに周辺地図のデータが受信された。

ポイントの先には何機ものレブルペインとウィッシュ、ブレイアス、量産型ι・ブレードといったHA同士の戦闘が入り乱れていた。

本部からは次々とHAが出撃され、何処からどう見てもメシア側の戦況の方が圧倒的有利に見える。

想像を超える凄まじいHAの数に驚かされるが、晶は怯まずにブラックホークを構えた。


その時、背筋からゾクッと寒気が走り出した。

凄まじい殺気を感じる……この感覚は、間違いない。

晶は背後へと振り返ると、そこには凄まじい速度で接近してくる黒いHAの姿があった。

間違いなく『クライディア』だった。

同時に、危険察知が発動しクライディアの凄まじい突進が繰り出される映像が出力される。

ι・ブレードはムラクモを握りしめ、構えた。


「俺は……俺はっ!」


ガキィィンッ! 金属音が鳴り響くと同時に、ι・ブレードはムラクモごと押し付けられ空から地上へと叩き付けられる。

だが、倒れることなくι・ブレードはムラクモでクライディアを振り払った。


『無駄だぜぇ、ビリッケツよぉ……テメェが何処に逃げようと、俺は地獄の果てまでテメェを追い続ける。 テメェをこの手でぶち殺すまではなぁっ!!』


「やめろっ! 俺達は今、争っている場合じゃ――」


『テメェが……テメェがソノ姉を殺さなければぁぁっ!!』


俊の叫びと同時に、晶に危険察知が発動した。

クライディアの腕から突如銃口が出現し、ι・ブレードの頭部に目掛けて放たれる瞬間だった。


「腕から銃がっ!?」


晶は一度身を引き、映像を頼りに回避行動を取ろうとしたが、迂闊だった。

その途端にι・ブレードのコックピットが青く灯り始めたのだ。


『晶、伏せろぉぉっ!!』


その時、シリアの怒声がコックピット中に響き渡ると晶はι・ブレードを伏せさせた。

すると、変改したレビンフラックスがクライディアに向けて突進を仕掛けようとライフルを放つ。


一旦クライディアは空高く飛んで行ったが、それを追跡しようとレビンフラックスは全速力でクライディアを追っていく。


「助かった……ごめん、俺も今すぐ行くっ!」


遅れて晶はι・ブレードを上昇させようと、シリアに通信を送った瞬間――ダァンッ! と、銃声が鳴り響いた。

一瞬だけ青い一閃が飛行形態のレビンフラックスを貫いていき、バァンッ! と爆発が引き起こされる。

バランスを失ったレビンフラックスは、煙を出しながら地上へと落下していった。


「い、今の光って――」


『そこまでよ、貴方達』


ふと、通信に聞き覚えのある声が飛び込んできた。

まさか――と思い晶は青い一閃が起きた方向を確かめると、そこにはブレイアスの姿があった。

間違いなく、そのブレイアスは『ラティア』が乗っているタイプと同じだったのだ。


「貴方が、シリアを撃ったんですか?」


『……ええ』


ラティアは短く、そう答えた。


「何でだよ、どうしてなんだラティアさんっ!?」


『動かないで、貴方も撃つわよ』


「説明してください、貴方がシリアを撃つなんて――」


その時、晶に危険察知が発動した。

ブレイアスのスナイパーライフルから青い一閃が放たれ、ι・ブレードを貫く映像が映し出される。

止むを得ず、ι・ブレードは空高く飛び上がった瞬間――またしてもコックピットが青く灯った。

まさかブレイアスが瞬時にι・ブレードの動きを捕えたのかと考えたが、違った。


『よそ見してんじゃねぇよ、ιァァァァァ!!』


ブレイアスの射撃に合わせて、クライディアがι・ブレードに突進を仕掛けてきたのだ。

晶は何とかムラクモで防ぎきろうとしたが、間に合わずにクライディアのレイジング・クローがι・ブレードの胴体を捕える。

バギバギバギッと鈍い音を立て、装甲がグシャグシャに潰されていった。


『ハッハッハァッ! イテェか、苦しいか? ソノ姉の痛みはこんなもんじゃねぇぞ……わかってんのか、ビリッケツよぉっ!?』


「……もうやめろっ! こんな事をしたって、お前の痛みと苦しみが癒えることはないんだぞっ!」


『俺は痛みを感じても苦しんでもいねぇっ! 苦しんでいるのは、ソノ姉……テメェに殺されたソノ姉だっつってんだろうがぁぁっ!!』


「そうやって自分が苦しんでいることに気づけないから、お前は人の痛みもわからないし、知ろうとしないんだっ!!」


ι・ブレードはクライディアの右腕に向かい、ブラックホークを放った。

バァンッ! と銃声が響くと、ブラックホークはクライディアの関節部を撃ちぬき右腕を切り離した。

ι・ブレードの胴部にはクライディアの右腕がくっついたままだが、幸い動作に異常をきたしていないようだ。


「大切な人を殺されて苦しんでいるのは、お前だけじゃないんだよっ!!」


ι・ブレードがムラクモを振るうと、クライディアは片手でムラクモを抑え込んだ。


「俺だってアヴェンジャーに故郷も親友も全て奪われたっ! アヴェンジャーに対して復讐の念を抱いたり、そんな組織に身を置いていた親父を憎んだりもしたさっ!

だけど今は違う、俺はもう一度……親父と向き合うと決めたんだっ!」


『ワケのわからねぇ事いってんじゃねぇ、クズがっ! テメェが何を言おうが、ソノ姉を殺した事実は買わんねぇだろうがっ!!』


「わかっている、だから俺はずっとシラナギさんを殺したことを背負うんだ……それが例え、意図した事でなくても……事故だったとしても――」


『黙れよ、ビリッケツぅぅぅっ!!』


晶に危険察知が発動し、クライディアの動きを避けようとした瞬間――コックピットが青く灯った。

バァンッ! 銃声が響くと同時に、ι・ブレードに青き一閃が走る。

……ブレイアスによるスナイパーライフルの一撃が、直撃した。


「ラティアさん……どうして――」


ι・ブレードはバランスを崩し、メシア本部の方面へと墜落していく。

このまま敵の本拠地に落ちてしまえば取り返しのつかない事になる。

だが、機体の制御がまるできかずにι・ブレードは徐々に高度を下げ墜落していった――









地上から、ラティアはメシア本部へ落ちていくι・ブレードを見て呟いた。


「――ごめんなさい、今の貴方達を正すにはこうするしか……」


フリーアイゼン部隊はもう片付いたはずだ、ゼノフラムの姿が見えないのが気がかりではあるが今はアヴェンジャーの対処に集中するべきだろう。

ラティアは残りのアヴェンジャー部隊を殲滅しようと、他の部隊に合流しようとした途端――


『……姉貴』


ブレイアスの目の前に、両手にサーベルを構えたレビンフラックスが立ちはだかった。

ラティアは驚きが隠せなかった。

あの時、確かにスナイパーライフルはレビンフラックスを一撃で仕留めたはずなのに。

狙いを無意識のうちに外してしまった……ともでいうのだろうか。


「シリア、ごめんなさい。 例え貴方だとしても……今の私は、撃つのを躊躇わないわ」


『姉貴、どういうつもりかしらねぇけど……アタシは、認めないからな』


「認めない?」


『姉貴が理由もなしにアタシ達を裏切るはずない。 ワケを全部、話してもらうから』


「退きなさい、シリア。 私は本気よ」


『なら、アタシを倒してみろっ! 姉貴の本気、アタシにぶつけてみろよっ!』


「……」


ラティアは目を閉じて、深く考え込んだ。


「……いいわ、相手してあげる」


『ヘヘッ、そう来なくちゃな……アタシも、本気で行かせてもらうからっ!』


シリアが何を考えているかわからないが、ラティアは手加減するつもりはまるでなかった。

一瞬で決着をつける、ラティアはスナイパーライフルをレールガンに切り替えて、シリアが仕掛けてくるのを待ち構えた。


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