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第24話 ラストコード ①


フリーアイゼンのブリーフィングルームに、クルーが集められた。

会議卓上座の中央には、艦長は難しい表情で座っている。

何度経験しても慣れない緊迫感溢れる空気によって、晶の緊張感はより一層高まった。

艦長はこの場に存在する全クルー、整備兵等も含めた総勢50名に対してフリーアイゼンが現状置かれた状況について説明した。

メシア本部を守る為にアヴェンジャーと戦い抜いた後、アッシュベルにより立ち上げられた新生メシア軍に攻撃を受け、フリーアイゼンは反逆者となった事。

ジエンスを討ったι・ブレード、そしてフリーアイゼン部隊に強い恨みを持つアヴェンジャー残党に攻撃を受けた事も告げた。


このままフリーアイゼンが新生メシアに捕らわれるのはもはや時間の問題と思われる。

おまけにD支部からι・ブレードを奪取した事により、新生メシア側も血眼となってフリーアイゼンを狙うはずだ。

更に、アヴェンジャーという厄介者は未だにフリーアイゼンに付き纏う始末である。

そこまで一通り説明したところで、艦長は一呼吸を置いて周りを慎重に伺い始めた。

場は短いようで長い沈黙に支配され、晶は思わず息を呑んだ。

恐らくこれからが本題なのだろう、と推測した。


「我々はメシア軍の一員であったが、今となってはメシアという組織は存在しない。 つまり、世の中から見れば我々はアヴェンジャーと大差がない、下手をすればテロ組織とさえ見られているだろう。

だが、私はアッシュベルの『プロジェクト:エターナル』を認めるわけには行かない。 彼の理想が現実のものとなってしまえば、世界から『人類』が消え、『E.B.B』に支配されると考えているからだ。

だからこそ、私は最後まで抗う。 例え世界から悪と思われようが、たった一人になってしまおうが、アッシュベルの野望を食い止めるだけの覚悟はある」


艦長は目を閉じて、クルー達に静かにそう告げた。

丁寧で力強く、偽り無き自分の言葉で、艦長は自らの覚悟を口にしたのだ。


「だが、無理に私の元へ居続ける理由はあるまい。 もはや我々はE.B.B討伐を行っていたフリーアイゼン部隊ではなく、ただの『反逆者』となったのだから。

この中には家庭を持つ者もいるはずだ……世界にはアッシュベルの思想が正しいという人々が存在するのも事実だ、強制はするつもりはない。

私と共に、戦い続ける覚悟がある者だけがここに残れ。 少しでも迷いが生じた者は、フリーアイゼンから降りたまえ。

艦を降りれば、新生メシア軍から付け狙われる事もあるまい」


自らの覚悟を口にした後は、今度はクルーの意思を確認するかのように、艦長はそう告げる。

晶は父親が生きてはいるものの、故郷はもう存在しない。

帰る場所のない晶は当然降りるという事を選択しない上に、志は艦長と同じであり、何よりも艦長の事を強く信頼している。

晶自身は既に、アッシュベルと戦う事に迷いは生じていなかった。

だが、他の者は艦長の言う通り家族がいる者だっているはずだ。

E.B.Bと命を懸けて戦っている以上、元より覚悟の上なのだろうが、今は状況は大きく異なっている。

フリーアイゼンは人類の敵であるE.B.Bとではなく、同じ人であるアッシュベルとアッシュベルが率いる新生メシア軍と戦おうとしているのだから。


長い沈黙が続いたが、誰も立ち上がる者はいなかった。

クルーの目は、艦長の瞳をしっかりと捕え、その視線だけでも十分に意志が伝わって来ていた。

傍から見ている晶でさえも、その意志が本気である事がわかるほどに。


「……お前達の覚悟、確かに受け取った。 ならば、早速今回の作戦内容を告げよう。

これよりメシア本部へ潜入し、エターナルブライトの機密事項の脱会、そして『未乃 健三』の身柄を確保するっ!!」


「親父をっ!?」


思わず、晶は声を荒げてそう口にしてしまった。

幸い晶のみならず、他の者もざわめき始めていた。

当然だ、メシア本部と言えば今も昔も変わらずメシアの本拠地、つまり新生メシアにとっても本拠地である事には変わりがないのだから。

そこへ潜入すると言われれば、とても正気だとは思えないはずだ。

すると、艦長は立ち上がりスクリーンを広げてプロジェクターから映像を出力させる。

そこには、メシア本部周辺の地図が出力されていた。


「メシア本部内に潜入するには、三つに分かれたゲートを必ず通る必要がある。 行き交う艦やHAといったものは、一人一人ゲートで厳重なチェックを受けて初めて通る事が可能だ。

少しでも騒ぎを起こせばメシア本部内に警報が鳴り渡り、メシア本部内はセキュリティによって閉ざされてしまい侵入する事が不可となる。

おまけにあっという間に新生メシア軍に取り囲まれて捕らわれてしまうのがオチだ。

周囲には常時監視カメラが作動されており、少しでも不審な動きを見せれば奴らに気づかれてしまう。

つまり侵入するには何らかの手段でゲートを通過するか、或いはジエンスのように内部から混乱を起こさない限りは難しいだろう」


艦長は地図に表示された三つのゲートを指さしながら、順を追って説明していく。

流石にメシア本部というだけあって、セキュリティに関しては完璧と言える。


「ゲート付近にはメシア本部の審査を待つ輸送艦が停泊していることが多い。

停泊中の輸送艦に潜入員を潜入させ、メシア本部へと潜入するのが今回のプランだ。

機密事項については暗号文にあった通りだが、未乃 健三の所在については掴めていないのが現状だ。

あまり長居をしてしまえば気づかれる可能性も高い、最悪機密事項だけでも持ち帰れるようにしてくれ。

潜入員についてはゼノス、お前に一任する」


「了解した」


艦長から告げられた作戦内容は実にシンプルだった。

選抜した潜入部隊を停泊している輸送艦へと忍ばせ、メシア本部内に潜入を計る。

潜入後は機密事項の隠し場所へと向かい、資料を確保。

余力があれば未乃 健三を救出する、といった内容だ。

健三がアッシュベルに捕らわれていると決まったわけではないが、今は救出という言い方がしっくりくるだろう。

恐らくフリーアイゼンの中では、ゼノスが最適任である事は晶にも納得できるが、とてつもない不安感が残る。

万一にでもゼノスが捕まるようなことがあれば、今のフリーアイゼンでは救出するだけの力は残されていないからだ。


「万が一セキュリティが作動した際は、我々の部隊で注意を引き付け脱出する隙を作るしかあるまい。 その役割は晶、シリアの2名に一任する。

恐らく大量の量産型ι・ブレード出現が推測される、できれば戦いは避けたいところだが……あくまでも緊急手段だ」


「は、はいっ!」


「あいよ、任せとけっ!」


晶は思わず畏まって起立して敬礼したのに対して、シリアはいつもの調子で軽い返事をするだけだった。

いかに自分が今、どれ程緊張しているのかを晶は身を以って思い知った。

ここまで聞いて、ようやく潜入作戦が本気なのだなと晶は強く再認識した。


思えば晶が父親と最後に顔を合わせたのは、アヴェンジャーを脱出する時だ。

それ以降、父親とは一切逢っていない。

アヴェンジャーに身を潜ませていた理由、晶にι・ブレードで何をさせようとしたのかを未だに理解していなかった。

アヴェンジャーが失われた今、何故父親は敵であるアッシュベルの元にいるのか、そして本部からメッセージを送ってきた真意は何か。

本来なら晶も父親と直接対面する為に潜入をしたいというのが本音だ。


しかし、晶が行けばゼノスの足を引っ張るだけなのはわかっている。

それに焦らずとも、ゼノスが父親を必ずフリーアイゼンに連れて来てくれるはずだと信じていた。

前に父と逢った時は、故郷を失った怒りに捕われて父親には恨みという感情をぶつけ続けた。

勿論、その恨みが全て消えたわけではない。

いかにアヴェンジャーの行いが正しかったと証明されても、晶が故郷を、親友を失ったという事実は変わらない。

だが、今はそれよりもアッシュベルの暴走を食い止める事が先決だと、自分に強く言い聞かせていた。


「今回の作戦内容は以上だ、作戦は明日決行へと移す。 ……諸君らの健闘を祈るぞ」


艦長は静かにそう告げると、長期に渡ったミーティング及びブリーフィングは終了を告げた。











晶は久しぶりに自室へと戻り、ベッドで横になった。

明日の出撃に備えてι・ブレードは徹夜で修繕作業が行われるようだ。

耐久力は落ちてしまうが装甲については今あるパーツを代用すれば、修理は何とか間に合うと聞いている。

幸い損傷は装甲面だけに留まっていたことが救いと言える。

もしιシステムに支障がきたしていたら、未乃 健三以外に治せる者はいなかっただろう。


一人で横になっていると、色々な事が頭に浮かぶ。

明日の作戦の事は勿論、行方不明となった木葉の事、自分に訪れた体の異常……そして俊の事。

アッシュベルは『君の大切な友人を預かっている』と確かに告げた。

それが木葉の事である事は間違いない、ならば捕らわれているのは事実だ。

助けなければならないが、実際何処に木葉は捕まってしまっているのか?

また、アヴェンジャーに捕らわれた時のように『兵器』に乗せられようとしているのなら――

もう、木葉にそんな怖い思いをさせたくない。

ずっと一緒にいる、離さないとと約束したのに、こうも簡単に約束が破れてしまうのは何と情けない事かと晶は嘆いた。


更に晶の頭を悩ませるのが、復讐鬼と化した『俊』の存在だ。

シラナギの死により、俊という人間は復讐の道へと落ちてしまった。

どんな理由であれど、晶がシラナギを殺してしまったのは紛れもない事実だ。

晶がいくら何を言おうと、俊は復讐の為にひたすらιと晶の命を狙い続けるだろう。

ただでさえ執念深い俊の事だ、必ず機を狙ってもう一度晶に仕掛けてくる時が訪れるはず。

だが、あの状態の俊と戦うのは気が引けた。


俊の痛みが、晶にも十分すぎる程伝わっているからだ。

自らの学校を襲った連中と平然と一緒にいたあの俊が、これ程までに強い感情を抱くというのは

それほど俊の中でシラナギという存在が大きかったという事を意味している。

もし、俊の手により木葉が殺されたりしたら、晶もきっと同じような行動をするはずだ。

現に初めてι・ブレードに搭乗した時、晶は親友を殺された怒りで迷いもなくガジェロスが乗ったウィッシュを撃墜したのだから。

一体どうすれば、俊を救うことが出来るのだろう。


気が付けば晶はそんな事を考えていて、思わずハッとした。

晶ははっきり言えば、俊という人間が学生時代から嫌いだ。

授業をサボる癖に成績は優秀で運動神経も抜群、外見もどちらかと言えばイケメンで女子にも人気はあった。

だが、人を見下すような態度といい加減な性格、パイロット適性試験においてはまるで周りをバカにするかのように毎度遅刻をし、必ずスコアを満点にしていく。

そんな俊を、晶はとてもじゃないが好きにはなれなかった。

ι・ブレードに搭乗してからも、その俊の性格は浮き出ていた。

性能が劣るはずのウィッシュでι・ブレードを互角、いやそれ以上の勝負をし、通信では見下すような事ばかりを口にする。

どうして救いたいと考えてしまったのだろうか。


戦いを通じて、一種のライバル意識というものは確かに強まっていったのかもしれない。

あいつにだけは負けたくない、見返してやりたいという強い気持ちがあった。

HAで戦うのは勿論、時には意見をぶつけあったり、拳で殴り合ったりすることもあった。

そんな事を繰り返していくうちに、晶は俊の事を単なる『敵』という一言で片づけられなくなっていたのだろう。


「難しい顔をしているな」


「うわぁっ!?」


突如、予想だにしない他人の声が耳に飛び込んできて晶は飛び跳ねて驚いた。

何時頃入ってきたのか、晶の部屋の椅子にゼノスが座っていたのだ。


「い、いつからいたんだよ」


「さっきだ、ノックはしたんだがな」


考え事をしていたせいで、ノック音に気づかなかったようだ。

とはいえ、ゼノスの気配をまるで感じることが出来なかった。

よほど自分が思考に捕らわれすぎていたのか、それとも単純にゼノスが気配を消すのが上手いのかはわからなかった。


「……聞いて、いいか」


「なんだ」


「シラナギさんに弟がいた事、ゼノスは知っていたのか?」


「ああ。 だが、まさか奴が弟だったとはな。 差し入れだ、受け取れ」


ゼノスは片手に持っていた炭酸飲料を投げると、晶は上手くキャッチする。

この前シリアが同じ飲み物を持ってきたときは、缶を開けた瞬間に中身がぶちまけるという悪戯が待っていたが、

流石にゼノスに至ってはないだろうと、少し体を退かせながらプシュッと缶を開けた。


「……アヴェンジャーのガジェロスって奴、ゼノスの知り合いなんだよな。 あいつとは、どういう関係だったんだ?」


「かつて仲間だった。 奴は自らの手で家族を失い、その原因を作ったアッシュベルを強く恨んでいた。

だからこそ、アヴェンジャーの行き過ぎたやり方でも、奴はアッシュベルを討てればそれでいいと考えていたんだろう。

勿論、アヴェンジャーの奴らもアッシュベルが今みたいな暴走をする事は推測できていた。 結果的に、防げなかったがな」


「やっぱり、俺達が邪魔しちまったせいなのか?」


「奴らが世界の頂点に立ったとしても……アッシュベルの暴走が、今度はあのジエンスに変わっただけだろうな」


「そ、そうか、そう……だよな」


何を変な事を聞いてしまっているんだろうと、晶は思わずため息をついた。

聞きたいのはそんな事ではないというのに。


「なぁ、その……和解したいとか、そんな事考えたことあるのか?」


「何故俺にそんな事を聞く?」


「い、いや、その――」


ゼノスに問われて、晶は言葉が詰まる。

ゼノスとガジェロスの関係をそんなに深く知っているわけではない。

だが、二人の関係は何処か俊と自分に似ているんじゃないかと思った。

とはいえ、晶が俊と親しいという事は決してなかったが、それでも何か参考になるんじゃないかと思っただけだ。

頭であれこれ考えているうちに、晶は自然に口を開き、ほぼ無意識に言った。


「アイツを、救えないかって考えただけだ」


「白柳 俊、のことか」


「……ああ」


「復讐の道に落ちた人間を復讐から絶つ事は難しい。 奴を救いたいと考えるのなら、受け止め続けろ」


「受け止め続ける?」


「気が済むまで、やらせろということだ」


それだけ言い残すと、ゼノスは椅子から立ち上がって歩みだす。

晶はポカーンと口を開けたまま動かなかった。


「な、何か俺に用事があったんじゃないのか?」


慌てて晶が呼び止めると、ゼノスは振り返らずに足を止めた。


「お前の父親は、必ず俺が連れて帰って見せる」


「……ああ」


「それだけ、伝えに来た」


ゼノスは扉を開けて、パタンと静かに扉を閉じた。

しばらく天井を眺めて、首を強く横に振るって邪念を吹き飛ばす。

今日はもう休もうと、晶は再びベッドで横になる。

余程疲れがたまっていたのか、寝付くまでには5分とかからなかった。


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