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     プロジェクト:エターナル ③


フリーアイゼンの一室にて、ゼノスは黙々と作業を続けていた。

アッシュベルの宣言から既に三日過ぎていた。

未だにフリーアイゼンはι・ブレードの行方を掴めていない。

アヴェンジャーとの決戦日から辿ると、既に2週間近く経過している事となる。

晶の容態が心配されるが、今は無事である事を祈るしかない。


アッシュベルが立ち上げた新生メシアは現在、フリーアイゼンの行方を探っているという。

しかし、フリーアイゼンは現状動けない状況だ。

破棄されたメシアの基地では設備が整っておらず、フリーアイゼンの整備は満足に行う事が出来ない。

この場に留まれば新生メシアに見つかるのも時間の問題、かといって下手に動く事も出来る状況ではなかった。


『ゼノス、少しいいか』


「艦長か」


突如、艦長室から直に通信が入った。

アッシュベルの裏切りにより、艦長は動揺を隠し切れずにいた。

しかし、晶等といった子供とは違い艦長は成熟しきった大人。

仕事に私情は挟まずに、黙々と艦長はその務めを果たし続ける。

無理をしすぎなければいいのだがとゼノスは不安に感じていた。


『メシア本部からとある暗号文が送られてきた』


「暗号文だと?」


『我々指揮官クラスでしか知りえない極秘のルートを使用したものだ。 恐らく旧メシアの何者かが我々に何かを伝えようとしているに違いない。

――とは言えど、決してリスクが低いわけではないがな。 とにかく、唯一の手がかりになるのは間違いない』


「しかし、何故俺達になんだ? 俺達以外にも襲撃から逃れたメシアの艦はあったはずだ」


『うむ、どうやらこの通達は我々だけに届けられたものではない。 恐らくメシアの指揮官に片っ端から送付されたのだろう』


艦長の話が事実だとすれば、その人物は新生メシアにバレる事を承知の上にやっているとしか思えない。

しかし、暗号文である以上内容を知られるのには少なくとも時間がかかる、といった判断なのか。

いずれにせよ、中身を確認する価値はあるはずだ。


『正直私ではこの暗号文の解析はできん。 ゼノス、お前なら何か掴めないか?』


「……すぐに解析する」


ゼノスは即答でそう答えた。











メシア本部周辺。

そこには2週間前に繰り広げられた戦いの後が、生々しく残されていた。

戦いの後も人の手は付けられてはいない、文字通り戦場の跡地がそのままの形で残されている事となる。

広がる光景は戦艦の主砲により抉られた地面と破壊されたHAの残骸と、まさに地獄絵図と呼ぶに相応しい。

そこに、1機のウィッシュが姿を現していた。


「チッ、戦場の後ってのはヒデェもんだな」


ウィッシュを操縦していたのはガジェロスだった。

モニター越しから見える残酷な風景に、思わずガジェロスはそう呟いた。

メシアが滅んだと同時に、アヴェンジャーも主を失い、今では組織としての機能を失っている。

だが、それでもガジェロスの目的は変わらず『アッシュベル』への復讐だった。

世界がどう変わろうとも、ガジェロスの目的が揺らぐことはない。

その復讐を果たす為だけに生きているのだから。


あの戦いから新生メシアの『量産型ι・ブレード』は姿を現していない。

アッシュベルが用意したと思われるι・ブレードは、決してオリジナルである晶のι・ブレードに劣っていない。

まともに戦っては、量産型ι・ブレードを突破する事は難しいだろう。

ガジェロスは少しでもあの機体の痕跡を探す為に、単機でこの地へと訪れていた。


「……あれは」


ふと、ガジェロスはウィッシュの足を止めた。

そこには見覚えのある真っ赤なHAの残骸が一つ。

形を失っていると言えど、その機体が何であるかはわかる。

フィミアの乗っていた『トリッドエール』だった。


「チッ――」


ガジェロスはトリッドエールの残骸付近にウィッシュを止めて、コックピットのハッチを開いた。

フィミアの戦死は耳にしていた、だがその残骸を目にするまでは実感がわく事がなかった。

あの戦いではたくさんの命が失われた。

戦死した全員分の墓を作ってやれることはないが、フィミアとは付き合いが長い。

せめてフィミアの分ぐらい作っても罰は当たるまい、と考えた。


コックピットは爆発の影響かほとんど黒焦げの状態だ。

死体が焼かれている状態で放置されていると考えると、中を開くのは多少勇気がいる。

ガジェロスはコックピットのハッチを近づくで開いて見せた。


「何……?」


コックピットの中は、蛻の殻だった。

爆発中、外に投げ出されてしまったのだろうかと思ったが、ハッチは厳重にしまっていたはず。

中は確かに灼熱で燃やされているが死体が焼き尽くされる程だったとも考えにくい。

黒焦げでわかりにくいが、シートには大量の血痕が残されている。

妙に感じたガジェロスは、一度ウィッシュまで引き返して他のHAの状況を調べた。

付近にあったウィッシュの残骸、そこには腐りきったメシア兵の一人。

同じくウィッシュの残骸、コックピットの中には誰もいない。

続いてレブルペインの残骸……死体は、なかった。


「一体これは――」


ガジェロスは思わず寒気を感じた。

何故死体が残されている状態のHAと残されていないのが存在するのか。

フィミアに関して言えば、エターナルブライトによる再生が間に合って辛うじて生きていたという可能性も考えられる。

しかし、他の者についても同様と言えるだろうか。

更に周辺を調べようとした時、ガジェロスの目の前に正体不明のHAが姿を現した。


それは全く見たことがないようなタイプのHAだ。

全身真っ黒なボディに怪しく輝く赤い瞳、まるで悪魔のような翼が背中につけられている。

通常のHAとは違い、腰が低く背筋は不自然なほど曲がっており、その姿から獣を連想してしまう。

一見E.B.Bと見間違えてもおかしくない程、異端な姿をしたHAだった。


『―――ヒヒッ』


「通信? 誰だ、お前は」


『ああ? 俺だよ、オレェ……ヒヒヒッ』


「白柳 俊……なのか?」


通信から聞こえてくる声からして、その声の主が俊である事は間違いない。

だが、何処か様子がおかしい。

以前の俊とはまるで別人のような感覚に陥った。


『なぁ、テメェなら知ってるんじゃねぇか? 俺の姉貴、何処いっちまったのかをさぁ』


「……シラナギが実の姉だという事を、知ったのか」


ガジェロスはシラナギの正体について知らされていた。

だが、決して口外はするなとシラナギに念を押されていたことがある。

ガジェロスは彼女がどのような結末を迎えたか知っていた。

だからこそ、それ以上は何も語らなかった。


『いねぇんだよ、何処にもいねぇんだよ……ソノ姉がよぉっ! イヒヒッ……あいつが殺っちまったからだよなぁ?

ι・ブレードがよぉ、俺の大事な大事なソノ姉を殺しちまいやがったぁっ!

もうソノ姉は帰ってこねぇ、帰ってこねぇっ!! だからよぉ、俺がこの手でビリッケツを殺してやんだよぉ。

なぁ、ガジェロスさんよ……復讐に全てを掲げたテメェなら、わかるだろ?』


「お前の言う復讐をどうこう言うつもりはない、たが今はその時ではない。 俺と協力してアッシュベルを討て」


『おいおいおいおい、どうしちまったんだよぉガジェロスさんよ? アンタ、姉貴と仲良くやってたじゃねぇか、姉貴を殺されて何も感じねぇのかぁ?』


「復讐は好きにしろ、だが今は暴走したアッシュベルを何としてでも止めるべきだ」


『今やらなくていつやるんだよ、あぁっ!? 殺してやる、殺してやるよιぁっ!

この『クライディア』で、必ずιの息の根を止めてやるぜぇ、イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒィッ!!』


謎のHA、クライディアはその奇妙な翼を開き空高く飛び立った。

ガジェロスはその姿を静かに見送った。


「……復讐の道に落ちたか、白柳 俊」


まるで俊を哀れむような瞳で、ガジェロスはそう呟いた。










暗号文の解析を始めてから数時間は経過した。

解析を続けていく中で判明したのは、このメッセージは一部の技術者間で使われている高度の暗号が使用されていること。

解のパターンは数億通りを超えており、どんな高性能な端末で解析を続けるにしても数十年はかかる代物だ。

暗号自体はそれ程出回っている技術ではなく、存在を知っている者すら限定される。

つまり、ほとんどの者が暗号文の解読をする事が不可能だという事になる。


このような怪しげな文章が外に向けて発信されたとすれば、新生メシアが黙っているはずはない。

これ程高技術が使われている以上、中には相当重要な機密事項が記されている可能性は極めて高いはずだ。

例え相手に暗号を解析する術がなくとも、そのようなデータを外部に向けて発進している時点でリスクは相当高いと思われた。

ゼノスはそのような暗号文を無差別に送り付けた理由、意図が全く読めなかった。

それ程の危険を冒してまで伝えなければならない事があったのか、もしくは新生メシアが用意した『罠』なのか。


『君、ちょっといいかね』


「なんだ?」


ゼノスが一人で考え事をしていると、突如フラムがゼノス宛に通信を入れてきた。

しかし、フラムは今ゼノフラムの改修を行っている最中のはずだ。

普段は作業に没頭し続けるはずだというのに、このタイミングで通信を入れてくるのは珍しいと感じていた。


『君のゼノフラムの事で提案があるんだが、いいかね』


「ああ」


『実は余ったパーツから面白そうな武装が作れそうでな、君の為に素晴らしい武装を追加しようと思っているのだよ』


「……ああ」


何やら嫌な予感を感じながら、ゼノスはとりあえず頷いていた。


『その武装に素晴らしい名称でも付けようと思っているんだが、どうも思い浮かばなくてな。 是非、君の意見を参考にしようと思っていたところなのだよ』


「参考までに聞くが、どんな武装だ?」


『うむ、聞いて驚くではないぞ。 簡単に言えばHAの鋼の拳を勢いよくすっ飛ばす『ロケットパンチ』だ。

しかし、ただのロケットパンチではないぞ? ゼノフラムの両手をブーストハンマーの如く巨大な鉄球としてな、それを勢いよく発射させるのだよ。

チェーンで繋ぐ事により、一度発射しても再利用する事を実現したまさにエコ兵器だ、上手く使えばそのチェーンで相手を拘束する事も可能だっ!

だが、やはりただの『ロケットパンチ』では味気がなくてな、ここは『チェーン』や『破壊力』にかけた言葉を上手く組み合わせてだな――』


「余ったパーツは他に修理が必要なHAに回せ、ゼノフラムは今のままで十分だ」


『君は相変わらずつれないねぇ』


「お前の冗談に付き合ってられる程余裕がないんでな」


ゼノスは黙々と作業を続けながら、そう答えた。


『私は本気だったんだがね。 ま、本音を言わせてもらうと少し君の事が心配になってな。 ιの行方を辿っているほかに暗号文の解析を行っているのだろう?

そろそろ君が過労で倒れてもおかしくはあるまい、少しは休んだらどうだね」


「俺は艦長やアンタと違ってすぐに倒れるような人間ではない、この程度は問題あるまい」


口ではそう言うものの、ゼノスの疲労が見え始めているのも事実だ。

部屋に籠ったっきりろくに姿を見せずに、飲まず食わずで作業に没頭しているのだ。

エターナルブライトがあったとしても、その疲労感までも誤魔化す事はできないだろう。


『ま、君がそれだけ仕事を抱える必要はないだろう。 私が力になれる事があれば遠慮なく言ってくれたまえ。

私も技術者の一人だ、決して君の足を引っ張るつもりはないぞ』


「ならば、聞きたいことがある。 メシアで使われていた技術者間の暗号技術について心当たりはないか?」


『ほう、そんな事か。 勿論だとも、私ほどの優秀な技術者となればメシア内で使われている暗号は全て把握している』


「……なら、解析を頼めるか。 正直手詰まりな状況だった、こちらから発信者を割り出して捕える以外に解読手段が浮かばなかったものでな」


『うむ、引き受けよう。 データは私の端末に送っといてくれ、明日の朝までには結果を報告する』


「すまないな」


『何を言うか、君の力になれて嬉しい限りさ。 では、また明日な』


そこでフラムとの通信は途切れた。

ゼノスは深くため息をつくと端末の操作を行い、机に突っ伏した。

今までの疲労感が今になってドッと押し寄せてきたのか、気が付いたらゼノスはそのまま眠ってしまっていた。


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