表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/112

     プロジェクト:エターナル ②


フリーアイゼン内の食堂。

人が誰もいない食堂に、ラティアはポツンと窓際の席で座っていた。

戦闘が続いたこともあって食堂は現在休業中だった。

ここにきても食事が出される事はない。

悲しそうな目をして、ラティアは窓の外を眺めていた。


戦いには勝利した、勝利したはずだったのに。

突如現れた謎のι・ブレードの大群により、メシアはアッシュベルに敗北した。

幸いフリーアイゼンは戦域を逃れることが出来たが、残されたソルセブンや他の艦隊はどうなったのだろうか。

あれからイリュードとは連絡が取れていない事に不安が増すばかりだ。

それだけではない、イリュードの他にも晶と木葉、そしてι・ブレードが行方不明となっていた。

世界の平和の為にはメシアが必要だ、だからこそアヴェンジャーの行為を否定し彼らと戦った。

なのに、メシアは滅びてしまった。


「……いけない、このままではいけない。 前を向かなきゃ、現実を受け止めなきゃ」


ラティアは現状の世界に対する不安を隠しきれずにいた。

アッシュベルは言った、人類が生き残るには『進化』をするしかないと。

エターナルブライトを体に埋め込むことにより、人類を強制的に進化へと導く。

『プロジェクト:エターナル』、その恐ろしい計画を彼はそう呼んでいた。


しかし、彼が言う進化には一つだけ穴がある。

今までのラティア達の認識では、エターナルブライトを埋め込んだ人間は例外なくE.B.B化が進んでいるのだ。

シリアは足の自由を取り戻した代わりに、E.B.B化という爆弾を抱えてしまった被害者の一人。

だが、それでもシリアはメシアの為に戦いを続けていた。

シリアはどう思うのか、アッシュベルの言う『プロジェクト:エターナル』を。

メシアの為に戦い続けてきた彼は、どう思うのか――


「ねぇ、イリュード。 貴方なら、今の世界をどう思う?」


必ず何処かで生き延びていると信じて、ラティアはイリュードに問いかけた。










頭がズキズキと痛む。

内部から脳が締め付けられるかのような激しい痛みが。

以前にも感じた、ιシステムを使いすぎた時の反動。

段々と意識がはっきりとしてきた。

どうやらコックピットの中ではない、ぼやけた視界で周りを見渡したが薄暗くてはっきりと見えない。

室内のはずではあるが、少し肌寒さを感じる。

体に伝ってくるヒンヤリとした感触から、ベッドで寝そべっているわけでもないことが分かった。

ふと腕を動かそうとしたら、グッと何かに拘束されていて動かなかった。

そこでようやく意識がはっきりとした。


「――何処だよ、ここ」


晶の目の前には、頑丈な鉄格子が並んでいた。

室内には簡易的なトイレと一人分の布団、既に乾いているが一人分の食事が置かれている。

所々クモの巣がはられており、あまり手入れをされているようには見えない。

ヒンヤリとした感触は、どうやらこの石造りの床と壁だったようだ。

腕は後ろに回され、手首が紐か何かで厳重に縛られていた。

少なくともここは、フリーアイゼン内ではない。

ここは間違いなく囚人等を入れる牢獄だ。


何故こんなところに晶が入れられているのだろうか。

状況から見る限り何処かの組織に捕まったのは間違いない。

またしてもアヴェンジャーの仕業か、と考えたがふと思いなおす。

だが、それよりも重要な事を晶は思い出した。


「――そうだ、木葉っ!?」


そう、木葉が何処にもいない。

晶が掴まってこの場にいるというのなら、ι・ブレードに一緒に乗っていたはずの木葉も何処かで捕まっているはずだ。

助けなければ……晶は必死で手首の縄を解こうとするがそう簡単に解けることはなかった。

こういう時ナイフでも仕込めればよかったのだが……と後悔する。


カツン、カツン、カツン。

ふと、何処からともなく足音が聞こえた。

どうやらすぐ近くまで迫っているようだが、暗闇に目が慣れてないせいかはっきりと姿が見えない。

その時、パッと牢獄が明かりに照らされた。

晶は眩しさのあまりに思わず目を細めた。


「ふむ、どうやら目を覚ましたようだな」


「……貴方は?」


そこには白衣を身に纏った年老いた男がいた。

白髪に眼鏡と、一見何処にでもいそうな科学者の一人には見える。

外に出たことがないのか、気色悪い程肌の色が白かった。

だが、その姿は何処かで見覚えがあった。


「君の父上のお友達だよ。 彼とは古き友人でね、昔はよく研究の成果を競い合ってたもんだったよ」


「親父の知り合いだって?」


「そうだ、私の名はアッシュベル・ランダー。 よろしく頼むよ、ιのパイロットくん」


「アッシュベルだって……お前がっ!?」


晶は思わず声を上げて驚いた。

何処かで見たことあるかと思えば、それは当然だ。

昔、エターナルブライトについて全国に向けて演説を行った張本人だったのだから。

同時に、アヴェンジャーと父親が危険視していた人物でもあった。


「そう強く睨まないでくれたまえ、君には少し質問したいことがあるのだよ」


「お前に答える事なんて、あるもんかっ!」


「なるほど、その威勢の良さは父親譲りだな。 しかし、君は父親と同じで実に愚かしいよ。

もう少し頭を冷やして周りを分析するといい、君はまだ自分の立場を理解できていないようだからな」


「何故俺達を攻撃した? 俺達はメシアを守る為に戦っていただけに過ぎないんだぞ、どうしてあんな真似をっ!?」


「頭を冷やせと、言ったはずだが?」


アッシュベルはギロリと晶を睨めつけながら、白衣から銃をちらつかせた。

途端に晶は体をビクッとさせ、黙り込んだ。


「上っ面だけのメシアを見てきた君に何がわかると? 無知は時には大きな罪となる、私は君達の間違いを正しただけに過ぎないのだよ」


「俺達の、間違い……?」


「そうだ、あのままメシアを好きにさせていたら世界は確実に滅びを迎えていたよ」


「どういう事だ?」


メシアは世界をE.B.Bの脅威から守る為に戦い続けているはずだ。

それがどうして、世界の滅びに繋がるのかを晶はまるで理解できなかった。


「E.B.Bは常に進化を続けているのだよ、我々人類がHAを開発し続けるように……彼らも進化を続けている。

更に最近ではE.B.Bは急激な進化を遂げている、オートコアの出現等がいい例だろう。

もはや、E.B.Bは我々の手に負えない領域にまで達してしまっていたのだ……残念なことにね。

しかし、そうにも関わらずメシアはエターナルブライトの技術を独占していた。 HAの開発は勿論、人体実験は裏で好きなだけ繰り返していたよ。

私の研究成果を元に彼らは好き放題やっていたからね」


「メシアが、進んで人体実験を?」


「……君の艦にもいただろう、ミケイルという男が。 彼はメシアから莫大な報酬金を貰う代わりにエターナルブライトによる人体実験を繰り返していた。

どうやらアヴェンジャーのスパイに気づかれ、余計な事をしゃべる前にあっさりと殺されてしまったようだがね」


「そんな――」


「これでわかっただろう、それがメシアの真の正体なのだよ。 人類を守るなんて上っ面だけの理由なのだ。 だから私が滅ぼした、この手でっ!」


晶は言葉を失っていた。

アッシュベルが嘘を語っているようには見えない。

メシア内で人体実験が行われていたのは事実だろう。


「だけど、メシアを滅ぼしてどうするんだよ? メシアを失った世界は、これから何を頼りに生きて行かなきゃいけないんだよっ!?」


「君は愚かだな、私が言いたいのはただ一つ。 人類はエターナルブライトで進化を迎えるべきなのだよ。

だが、今までのメシアのやり方はそれを妨げている。 人類はメシアという力に頼らざるを得ない状況、それこそが世界の異常だったのだよ」


「なら、どうするんだ?」


「私が全人類を進化へと導く、全人類にエターナルブライトの力を与えるのだ。

そう、もはや人類は自分の身は自分で守らなければならない状況に陥っているのだ。

だからこそ、進化を急がねばならない。 人類の進化を、完全にしなければならないのだっ!」


「まさか……全人類にエターナルブライトを?」


「流石に察しがいいな、未乃 健三の息子よ。 それがまさに私が生み出した人類の救済……『プロジェクト:エターナル』の全貌だよ。

これでわかっただろう、君がいかに愚かしい行為を続けてきたかをなっ!」


「冗談じゃないっ! アンタはわかっているのか、エターナルブライトによって改造を受けた人間の末路をっ!

確かにどんな病気も怪我も直す万能な力ではあるけど、それは人を捨てるってことじゃないかっ!

アンタそれでいいのか、全人類をE.B.Bにしちまってもっ! アンタがそれを知らないはずがないだろうがっ!!」


晶はアッシュベルの言葉を聞き、確信した。

やはりこの男が、正しいはずがない。

全人類に『進化』を強制する事により世界を救う方法が、正しいはずがなかった。

個々の意思とは関係なしに進化を強制させられ、挙句人類はE.B.Bへと姿を変えてしまう。

そんな方法では、世界を救ったと言えるはずがないのだから。


「ククク、父親のようによく吠えるな。 ならば問おう、君ならば解決できるのかね? 進化を続けるE.B.Bを、1匹残らず地球から消し去ることが出来るとでも?」


「……今は、ないかもしれない。 だけど、人類だってただ指を咥えてみているだけじゃないっ! いつか、いつかきっと――」


「もういい、君は理想を求めすぎている愚かな男だという事はよくわかったよ」


「理想を求める事のどこが悪いんだ――」


バァンッ!

突如、銃声が響き渡ると晶の右足に激痛が走った。

声にもならない痛みが晶に襲い掛かり、思わずその場で倒れこんだ。


「もういい、といったはずだ。 それよりも私の質問に答えろ。 君はι・ブレードで、何をした?

ι・ブレードのあの白い輝き、明らかにただのιシステムによる共鳴反応とは異なっていた。」


「グッ……」


何とか起き上がり、晶はキッとアッシュベルを睨み付ける。


「君の大切な友人も預かっているのだ、出来る限り大人しくした方が身のためだと思うがね?」


「――まさか、木葉っ!?」


ダァンッ!! 再び、銃声が響き渡る。

今度は晶の右肩が撃たれた。

両肩から激痛が走り、晶はその場でもがき苦しんだ。


「次は、君の頭を撃ち抜いてもいいのだが?」


「お、俺は……何も知らない、気が付いたらι・ブレードが――」


痛みに苦しみながらも、晶は何とかそう答えた。

だが、それがアッシュベルの望んでいる答えかと言えば疑問が残る。

下手をすれば何かを隠してると思われて、再度撃たれる可能性は高い。


「なるほど、おかげで私の推測が確信へと繋がったよ」


アッシュベルはニヤリと笑みを浮かべると、突きつけていた銃を白衣の中へと戻した。

そして静かにその場を去っていこうとする。


「さて、私の用事はこれで終わりだ。 これからι・ブレードの解析をさせてもらおう。

そうそう、君は私に逆らった罰として死んでもらおうか。 丁度民衆にも見せしめというのが必要だろうしな」


アッシュベルは去り際に一言そう言ったが、晶の反応がなかった。


「……おや、もう痛みで気絶してしまっているかね? ハッハッハッハッ!!」


アッシュベルの甲高い笑い声が、牢獄内に響き渡った。







メシア本部。

既に上層部の人間は皆殺しにされていた。

恐らくアッシュベル自身が始末したのだろう。

メシア本部には今、アッシュベルの配下に属する『不死の軍団』がメシアとして活動している。

『不死の軍団』は、アッシュベルが事前に選抜した兵士の集まりである。

彼らの中には元々メシアに属していた人間もいたが、アッシュベルの改造を受け入れ配下に属したという者がほとんどだ。

アッシュベルは『プロジェクト:エターナル』を立ち上げると同時に、メシアを新たに『新生メシア』として立ち上げていた。

まさに世界はアッシュベルの思うがままに動こうとしている。


そんな状況下であっても、健三は何もすることが出来なかった。

アッシュベルの計画については、以前から察していた。

何時かはこのような行動に出るのではないかと、ずっと動向を探っていたというのに。

何も阻止できなかった、何も力になれなかった。

健三は自分の無力さを悔やんだ。


アッシュベルは今、メシア本部にはいない。

ι・ブレードの研究を行う為に、D支部へと移動をしていた。

アッシュベルがいない今、健三は動き出そうとしていた。

もはや自分の力ではアッシュベルを止めることが出来ない。

だが、自分が成し遂げたかったことを誰かに託すことはできるはずだ。

その為には、ι・ブレードを……息子の晶を失うわけには行かない。

健三は見張りの目を掻い潜りながら、メシア本部の端末で黙々と作業を続けていた。


「……頼んだぞ、フリーアイゼンの諸君」


そう呟くと健三は静かに端末の電源を落とした。

まだまだやるべきことはたくさんある。


「急がねば……全てが手遅れとなる前に――」


彼らが来る前に全ての準備を整えておかなければ。

動けるチャンスは、アッシュベルがいない今しかない――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ