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第21話 プロジェクト:エターナル ①


アヴェンジャーを率いるジエンスの計画は、意外な結末で幕を閉じた。

アヴェンジャーの猛攻はフリーアイゼンを中心とした部隊により、メシアの勝利に終わろうとしていた。

だが、その先に待っていたのは結局『メシア』の崩壊であった。

全ては、突如現れた謎のHA……『ι・ブレード』量産型の出現から始まった。


量産型ι・ブレードは、メシア・アヴェンジャーに対して攻撃行動に移ったのだ。

両者共に消耗しきった状態では抵抗する事も出来ず、やむを得ずに両軍はメシア本部から撤退した。

その結果、メシア本部はアッシュベルの手により制圧されてしまったのだ。

メシアが落とされた事が世界に広まるのは、それ程時間を要さなかった。

アッシュベルが自ら、全世界へと向けてとんでもない演説を行い、世界は更なる大混乱に陥っていく事となった。









「諸君、私はエターナルブライトの研究を続けてきた科学者の一人、『アッシュベル・ランダー』だ。

もはや私は世界から忘れられた存在ではあるかもしれん、しかし私はあえて、もう一度世界に向けて姿を晒した。

私が告げたいことはただ一つ、人類よ……進化せよ、革新を迎えよっ! もはや我々には時間が残されていない、生き延びるには『進化』以外の道は残されていないのだよ。


世界はエターナルブライトの出現をきっかけに、大いなる変貌を遂げてしまった。 そう、我々人類はエターナルブライトが生み出したE.B.Bと戦い続けている。

しかし、我々がHAという力を手にしたように、E.B.Bもまた次々と新たな力を手にし、我々と同じような『進化』を続けている。

もしもこのままE.B.Bの進化が続けば、もはやHAですらもE.B.Bを止めることが出来ずに、世界はE.B.Bによって滅ぼされる事になるだろう。


しかしっ! 我々には最後の希望があるのだ、それが『エターナルブライト』だ。

私は昔、エターナルブライトについての研究成果を同じような形で発表した。 エターナルブライトは未知なるエネルギーを含んでいるうえに、生命体に異常な治癒能力を与えると。

それが事実である事は、諸君らもE.B.Bの出現により十分に理解しているはずだ。

ならばここで疑問にもうはずだ、何故そんな効果を持ったエターナルブライトが一度も人間に使われたという話を聞かないのか?


否、エターナルブライトは使用されている。 全てはメシアによる情報隠蔽が招いた結果なのだよ。

メシアはエターナルブライトを使い、その未知なる力を解析しようと、人体に鉱石を埋め込む等といった人体実験を繰り返していたのだよ。

勿論、エターナルブライトの効果は本物だった。 どんな病気も治し、どんな怪我ですらも完治させるまさに夢のような力を持った鉱石だったのだ。

そこでメシアの連中は考えたのは、この力を民衆に与えるには惜しすぎる。 ならば、エターナルブライトの力をより完璧なものとし、選ばれた人類のみが『究極の人類』になれば良いと。


ここまで言えば諸君らでもわかるだろう、メシアは『エターナルブライト』が持つ真の力を隠蔽し、独占しようとしたっ!!

エターナルブライトは人類の未来を見出す最後の希望、E.B.Bと唯一対抗できる力だというのにメシアはその力を独占し、

民衆の事を何一つ考えずに、自らの欲望の為に何千人もの人間を実験台として研究を続けていたのだっ!

何故研究が必要だったか? エターナルブライトと言えど決して万能ではあるまい、恐らく完全な不老不死を目指すためのデータ徴収だったのであろう。

私は危機感を覚えた、このままメシアが力を独占し続ければ……いずれE.B.Bが力をつけ始めた頃には手遅れになりかねないと。


私は何度もメシアを説得し続けた。 しかし、メシアは私の意見を受け入れず、むしろエターナルブライトを唯一知る有能な科学者として、私を監禁し、何年にも渡って監視をし続けられたのだ。

だからこそ、私はメシアを滅ぼしたっ! 力に溺れたメシアに今の人類を守れるはずがないっ!! 私はメシアに代わり、全人類を輝かしい未来へ導くと誓ったのだっ!

メシアが崩壊したことにより、世界はまさに変革の時を迎えようとしている……目を覚ませ、人類よ。 どんなに優秀な組織があろうと、全人類を守る事などこの私ですら不可能なのだよ。

人類よ、今こそ進化せよっ! エターナルブライトを使い、新たな力を身につけよっ! そして戦え、我々を脅かす悪しきE.B.Bを、その手で滅ぼすのだっ!


これより、私は『プロジェクト:エターナル』を始動するっ! 全人類よ、エターナルブライトによる治療を受けるのだ。

もはや我々に残された手段は、『進化』をする以外にはないのだよ。 もしも、進化を受け入れられない……私に刃向う者がいるとするのならば

私は『武力』を持って、制裁を加えよう。 いいかね、これは必要な独裁なのだよ。 言っておくが諸君らに選ぶ権利はない、これは命令なのだ。


猶予期間は半年だ、この半年の間に全人類を進化へと導いて見せよう。 ま、半年後に君達が進化を受け入れないというのであれば……その時は考えさせてもらうがね。

諸君らのいい返事を期待しているよ……では、また逢おう、人類よ」









アッシュベルの襲撃を受けたフリーアイゼンは、艦をぼろぼろにさせながらも戦闘区域を離脱する事に成功した。

戦いの代償は大きすぎた。 メシアは多くの兵を失い、フリーアイゼンのHAはほとんど動かせる状態にない。

艦自体の損傷もひどく、当分の間フリーアイゼンは身動きを取ることが出来ない状況に至っていた。

幸い混乱の中、ゼノス、シリア、ラティアの3名はフリーアイゼンにより無事に回収されたのだが、晶が乗るι・ブレードだけは戦場で行方を暗ませてしまっていた。

同時に木葉が艦内にいない事が発覚し場は混乱したが、ゼノスの話によりι・ブレードと共に出撃していたことが初めて発覚する。

何故晶がこのような行動に出たのかはわからないが、それは彼を探し出した後に十分に問い詰めればよい。


艦長はフリーアイゼンを破棄されたメシア基地へと隠し、フリーアイゼン及びHAの修理を続けていた。

修理を待つ間、ブリッジルームではアッシュベルによる全世界へ向けた宣言が放送されていた。

アッシュベルが何故あのような行動に出たのか、全てはこの演説で明らかになるだろう。

艦長は息を呑み、アッシュベルの演説に耳を傾けていた。

――演説の内容は想像を絶する内容であり、誰もが顔を真っ青にさせるような衝撃的な内容だった。


「――何故なのだ、アッシュベルよ」


艦長は帽子を深くかぶり、俯きながら呟いた。

かつて友だったはずのアッシュベルは迷いなくフリーアイゼンへ攻撃を仕掛けたのだ。

それだけではない、アッシュベルは全世界に向けてとんでもない発言をした挙句……エターナルブライトによる人体実験を行った事を、事実上公言しているように見えた。

いや、実際アッシュベルが手を付けていなかったとしても、これから堂々と人体実験を行うと宣言しているのと変わりはしない。

艦長は友に裏切られたショックを、隠しきれずにいた。


「おいおい、これ本当に全部真実か? 冗談じゃねぇぞ、何だってこいつはメシアを悪と決めつけてやがるんだ?

こんなので民衆の心動かせると思ってんのかよ……」


「思うさ、事実メシアへ不満を抱く住民も少なくはない」


ライルは呆れた表情でそう言ったが、ゼノスは逆に深刻そうな表情でそう答える。

メシアは世界が混乱に陥った時に、HAを用いたE.B.B討伐を目的とした組織だ。

国という概念がほぼ崩壊した世界には指導者たるものが存在しなかった、だからこそメシアは必然的に世界を束ねる組織へと発展していく結果となった。

だが、たった一つの組織が全ての民をE.B.Bの脅威から守れるはずがない。

メシアの力が及ばず、その結果メシアに対して不満を抱く者も決して少なくはなかった。


「どっちにしろ、これってやばいんじゃないか? あのアッシュベルって野郎は、エターナルブライトによる副作用の事を何一つ明かしてないじゃないかっ!」


「副作用というのはE.B.B化の事よね……エターナルブライトの研究者である彼がそれを知らないというのはおかしいことよね。 どういうことなのかしら」


「私が思うに考えられることは二つあります。 一つはE.B.B化を防ぐ術を握っている事、もう一つはE.B.B化しても『治療』を行う術を持っている、はずです。

出なければ彼が言う『進化』が成し遂げられるはずがありませんから」


シリアとヤヨイが続けてそう言うと、今度はリューテが二人にそのように話した。

アッシュベルの目的が人類の進化である以上、人の形を維持したまま異常な生命力を手にする事を目的と考えられるだろう。

しかし、ゼノスはアッシュベルの宣言に違和感を覚えていた。


「恐らくどちらもない、副作用について伏せているのは別の理由が考えられるだろう。 完治方法があればわざわざ隠す必要もない」


「しかし、事実をそのまま告げれば人々は不安に陥ってエターナルブライトによる改造……彼が言う進化を受け入れようとはしませんよ」


「違うな、情報をある程度開示する事により逆に安心感を得るとも考えられる。 今までエターナルブライトの効力を隠し続けてきたメシアを悪とするのであれば、同じやり方を取るのは疑問が残る。

いずれにせよ、今の宣言でエターナルブライトによる進化を受け入れる者は、よほど窮地に立たされない限りいないと考えていい。 今まで通り、重い病気を持った者や怪我を負っている者を中心に広がり続けるはずだ。

だが、問題はこれからだ。 アッシュベルはどんな強硬手段に入るかわからん……このまま奴を野放しにしておくのは危険すぎる」


ゼノスはそう告げると、思い立ったのかスッとその場を立ち上がる。

すると、すぐさま振り返りブリッジルームの外へ出ようとしていた。


「おい、何処へ行くんだよ?」


「ι・ブレードの行方を掴む。 未乃 健三は、ι・ブレードはアッシュベルに対する切り札になると言っていたと聞く。

それは、あの戦闘で見せた『白い輝き』が関係しているのだろうと俺は確信している」


ι・ブレードがブラックベリタスと戦った時に見せた輝きは、戦闘区域にいる全員の目に届いていた。

神秘的とも言える真っ白な輝きは、何処か温もりを感じる優しさを感じた。

あの時、ι・ブレードに何かが起きていたのは確実だ。 その力にアッシュベルが目をつける可能性も決して否定はできない。

ならば、アッシュベルよりも先にι・ブレードを回収するしかない。 ゼノスはそう考えていた。


「何言ってんのさ、単純に晶が心配なんだろ? アタシも手伝うよ、今ならレビンフラックスも動かせるはずだしさ」


シリアが言う通り、ゼノスが晶の身を案じているのも事実だった。

これまでに何度も窮地を乗り越えてきたι・ブレードなら、余計な心配はする必要はない。

しかし、万が一という事もある。 晶が重傷で何日間も身動きが取れない状態である事も否定はできなかった。

それに非戦闘員である木葉も一緒に行方不明になっているのだ、一刻も早くゼノスはι・ブレードの行方を掴みたかった。


「今HAを出すのは危険だ、一度メシア本部周辺について俺が洗い出す。 それまでお前はここで待っていろ」


「なら、アタシにも手伝わせてくれよ」


「俺一人でいい、そんな暇があればHAの修理を手伝っていろ」


「チッ、しょうがないな。 言われた通り、そうさせてもらうさ」


シリアはしぶしぶとそう呟くと、ゼノスは一人ブリッジルームを退室していった。








ゼノスは一人、フリーアイゼン内にある自室でメシア本部周辺の状況を洗い出していた。

改修後もこの部屋は手を付けられおらず、ほとんど当時のままであった。

ここで作業をしていると、ゼノスはふとシラナギの事を思い返す。

思えばシラナギはここでゼノスのデータ収集を監視したり、端末を使ってアヴェンジャーとの連絡に使っていたのだろう。

いつも邪魔するように現れたり、一人で部屋にいたりしたのはその為と考えて間違いはない。

だが、調べ物をしていて誰も邪魔が入らないのは逆に落ち着かなかった。

ジエンスや晶の反応を見る限り、シラナギは既にこの世にいない。

それが真実であるかどうかはゼノスに確かめる術はない。

しかし、シラナギが亡くなったのは真実なのだろうと勘付いていた。


彼女はフリーアイゼンを裏切ったと言えど、誰よりも優しく芯が強い女性だ。

アヴェンジャーで活動を行っていたのも、その強い信念を持っていたからこそなのだろう。

事実アッシュベルが悪である事が、このタイミングではっきりとした。

フリーアイゼンと敵対関係になってしまったが、彼女は彼女なりに世界の平和を探していたのだ。


「どうだ、何かιの情報掴めそうか?」


「……邪魔をするなと、言ったはずだ」


気が付いたら、何故かシリアが背後からディスプレイに顔を覗かせていた。

いつの間にか部屋に侵入していたようだ。

邪魔をしないように釘を刺しておいたはずだが、やはり晶の事が気になるのはシリアとて同じだ。


「いいじゃないか、こんな狭苦しいところで作業してたら息が詰まるだろ?」


「問題ない、俺はお前とは違う」


「チッ、つれないなーゼノスは」


シリアは口をとがらせながらゼノスにそう言った。

その後、会話は途切れてしばしの沈黙が生まれる。

ようやく周辺の状況は把握できてきたが、やはりどこにもι・ブレードからの救助信号は確認できない。

大破した可能性も考えられたが、これだけHAの残骸から探し出すのは困難だ。

もしや先手を取って連れ去られたという可能性も否定はできない。

何とかメシア本部内の情報を取れればいいが……とゼノスは作業を続ける。


「なぁ、ゼノス。 一つ、聞いていいか。 アンタにしか聞けない事なんだけどさ」


「なんだ、言ってみろ」


「――アタシ達さ、正しかったのかな」


シリアのその一言を耳にして、ゼノスの手は止まった。

いつもよりもトーンを落とした、不安に満ちた一言。

それはシリア自身の心境を示すには十分すぎた。


「確かにさ、アヴェンジャーってのはやり方が非道すぎる奴らだったよ。 特にジエンスって奴は何でもかんでも利用するような汚ぇ野郎だったさ。

……でもさ、その結果アッシュベルが好き放題暴れてメシアを乗っ取っちまった。 もし、アタシ達が邪魔しなければアヴェンジャーがアッシュベルを止めたんじゃないか?」


シリアが言いたいことは、ゼノスに痛いほど伝わった。

アヴェンジャーが全て悪だったかと言われれば、そうではない。

彼らはアッシュベルの改造による被害者ではあるし、アッシュベルの暴走を止める為に戦っていたのも事実。

だからといって、ゼノスは自らが信じた道を決して否定はしない。

どの道アヴェンジャーの行為を許せるはずがなかった。


無関係な人々を大勢巻き込み、強引に世界の体制を変えようとメシア本部を落とそうとする暴挙。

世界は確かにそんな事の繰り返しだったのかもしれない、フリーアイゼンが望むことは決して叶わない夢幻なのかもしれない。

だが、それでもゼノスは自らの道を信じた。

今のアッシュベルの暴走が、フリーアイゼンが引き起こしたのだというのならば……ゼノスはその責任を取るべく、自らアッシュベルの野望を止めるまでだ。

それがゼノスの償いであり、アヴェンジャーを討った責任でもある。

例え一人になろうとも、必ず成し遂げなければならないのだ。


「俺達に迷いはなかったはずだ、自らの理想を信じてアヴェンジャーのやり方では俺達の理想が叶わないと信じ彼らを討った。

ならば、その責任を償うべきだ。 俺達のやるべきことは一つ、アッシュベルの暴走を食い止める事だけだ」


「……やっぱりアンタは強いね、ゼノス。 ごめんごめん、アタシの考えすぎだったな。 ありがとよ、ちょっとだけ吹っ切れた」


「お前らしくないぞ、少し休んでいろ」


「ああ、そうさせてもらうよ」


少しだけシリアに笑顔が戻っていたが、それでもいつもよりも元気がない。

アッシュベルの宣言に対して、少なからず不安を抱いているのだろう。

ゼノスの中にも焦りは生じている、一刻も早くアッシュベルを止めなければならないという使命があるのだから。

今はまず、ι・ブレードの行方を掴む事。

ゼノスはそれだけを考えて、黙々と作業を続けていた。

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