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     世界の変革 ③


フリーアイゼンから飛び出して最初に見えた光景は、メシア本部の艦隊だった。

どれもフリーアイゼンよりも一回り大きいメシアの主力艦だ。

これだけの戦力があれば大型E.B.Bの大群を退けたのも納得出来る。

しかし、いくつかの戦艦は大破し、激しく炎上していた。

バラバラになったスカイウィッシュの残骸に、地上にはいくつもの主砲が放たれた形跡が残されている。

晶の目に映る光景は、いかにメシア本部で激しい戦いが繰り広げられていたかを物語っていた。

木葉は隣で晶にしがみつくような形で、同じ光景を目にしていた。

体を小刻みに震わせている、本物の戦場を前にして恐怖を感じているのだろう。


「怖いか? 今ならまだ戻れるぞ」


「ううん、平気。 晶くんと一緒だから」


こんなに震えているのに平気なはずはない。

だけど、木葉は弱音を吐く事はなかった。

一度乗ると決めた木葉の決意は揺るがない。

もはやこれ以上問う事に意味はないだろうと、晶自身も腹を括った。


『ほう、ついに現れましたか……ι・ブレード』


「その声は、あの時の――」


ι・ブレードに通信を入れてきた人物の声、聞き覚えがある。

それはフリーアイゼンに通信を入れてきた『首謀者』と名乗った男。

そう、今回の騒動を引き起こした張本人『ジエンス・イェスタン』だった。

モニターには、ι・ブレードとそっくりな外見をしたHAが姿を現す。

違いと言えば背中にある四本の剣と黒で統一されたカラーリング。

全身からは赤い光のようなものが帯びており、何処かその光はι・ブレードが放つ光と酷似していた。


「い、ι・ブレードそっくりじゃないか……これが、ブラックベリタスなのか?」


『いかにも、ι・ブレードの兄弟機とでも言えばわかりやすいでしょうな』


ι・ブレードの兄弟機と聞き、ゾクッと晶の背筋に寒気が走る。

有り得ない事ではない、アヴェンジャーにはι・ブレードを開発した『未乃 健三』がいるのだから。


『貴方が私を討てれば、アヴェンジャーはもはや撤退を余儀なくされるでしょう。

しかし、逆ではどうでしょうか? 貴方が敗れたら、メシアはどうなりますかな?』


「……俺は負けない」


『その通りだ、これ以上お前の好きにはさせん』


『私達で、貴方を討ちます』


ゼノスとラティアが、晶に続いてそう言った。


『どうやら、役者は揃ったようですな。 では、始めるとしましょうか……』


『ケッ、趣味の悪い色をしやがって。 これ以上アンタの好きにさせないよっ!』


ι・ブレードに続き、ブレイアスとレッドウィッシュも遅れて合流を果たした。

最後にイエローウィッシュが到着すると、ウィッシュとは思えない速度でι・ブレードよりも先に先行していく。

2本のサーベルを抜刀し、イエローウィッシュがブラックベリタスに向けて構えた。


『おや、レビンフラックスではないのですか? そんな旧式の機体でよくもまぁ私の前にのこのこと姿を……』


『おっと、これ以上相方の罵倒は許さないよ。 どうしてもってんなら、アタシを倒してからにしな』


『威勢のいいお嬢さんですな、少しは楽しませてくれるのでしょうな?』


『当たり前だぁぁっ!!』


シリアが雄たけびを上げると、イエローウィッシュは猛スピードでブラックベリタスに向かい前進していった。


「シ、シリアっ! 待ってくれ――」


ズキンッ――その時、晶に激しい頭痛が襲い掛かる。

ι・ブレードの目の前に、2本の剣が凄まじい速度で斬りかかる映像が流れた。


「クッ!」


ι・ブレードはムラクモを抜刀し、横一閃に薙ぎ払う。

ガキガキィンッ! 激しい金属音と共に、2本の剣が弾き飛ばされた。


「は、速いっ!?」


一瞬何が起きたのか、晶には理解できなかった。

ブラックベリタスから射出されたソードコアは、想像を超える速度でι・ブレードに襲い掛かったのだ。

危険察知があったからこそ見切れたものの、あんなスピードを晶は肉眼で捕えきる自信がない。

シリアは無事なのかと不安になっていたところ、イエローウィッシュの隣には2本のソードコアを受け止めていたレッドウィッシュの姿があった。


『シリア、今の攻撃は見えたか?』


『い、いや……だが、次は見切ってやるよ』


『いい返事だ、ならばあの剣を破壊するぞ』


瞬時に4本のソードコアが周囲を取り囲み一斉に2機のウィッシュに向けて襲い掛かった。

間一髪のタイミングで、イエローウィッシュとレッドウィッシュはソードコアをサーベルで弾き飛ばした。


『冗談じゃないぞ、何なんだこの速さはっ!?』


『オートコア搭載型だ、お前もオートコアの機動性を目の当たりにしたはずだ』


『また厄介なもんを取り入れたもんだね、アヴェンジャーの奴らっ!』


『このままでは奴の思うつぼだ、どうにかして剣を破壊するぞ』


『ああ、でもどうすんだ? 力押しで破壊しろってのか?』


『剣に搭載されているオートコアを撃ち抜けばいい』


『チッ、そりゃ随分と無理難題を――』


イエローウィッシュはライフルを構え、数発撃ちながら後退していく。

しかし、ソードコアには掠りもせずに4本のソードコアはまとめてブラックベリタスの元へと戻っていった。


『ホホホ、やはり貴方も来たようですね……ゼノス・ブレイズ』


『貴様は既に敗北している、大人しくメシアへ投降しろ』


『私が敗北している? 相変わらずおかしなことを言いますね、貴方は』


ブラックベリタスのソードコアが2本射出された。


「クッ、やらせるもんかぁぁっ!!」


晶はスロットルを最大まで押し込み、凄まじい速度でι・ブレードを前進させる。

同時に危険察知が発動し、周囲に再びソードコアが襲い掛かる映像が映された。

一度足を止めた晶は、ムラクモを構えて何とかソードコアの一撃を凌いだ。


「ごめん木葉、苦しかったらいつでも言ってくれっ!」


「大丈夫、私なら大丈夫だから戦いに集中してっ!」


「ああ、わかった!」


パイロットスーツを着ているとは言えど、ι・ブレードに掛かる負担は尋常ではない。

木葉は平気なはずがないのだが、言葉を発する余裕がある事からどうやら嘘はついていないようだ。

しかし、晶には木葉を気にして戦う余裕はない。

レッドウィッシュの様子を伺うと、辛うじてソードコア2本を弾き飛ばしていた。

だが、ライフルによる追撃でソードコアを撃ちぬくことが出来ずに何度も何度も斬りかかってくるソードコアを受け止め続ける。

晶は追撃を警戒し身構えていたが、突如2本のソードはι・ブレードを通り過ぎて行ってしまった。

まさかと思い、ι・ブレードは後ろへと振り返る。

バギィィィンッ! 金属が割れるような鈍い音が響き渡った。

振り返った先には、スナイパーライフルを構えたまま両腕を切断されたブレイアスの姿があった。


「ラティアさんっ!!」


『参ったわね……ドジったわ』


『貴方の狙撃主としての才能は私にとっては脅威そのものでしたよ。 残念ですが、一番最初に死んでもらうのは貴方ですよ……ラティア・レイオンっ!』


力なく倒れていくブレイアスに向かい、更に2本のソードコアが容赦なく追い打ちをかけようとする。


『姉貴ぃぃぃぃっ!!』


その時、イエローウィッシュが凄まじい速度で駆け抜けていき両手のサーベルでソードコアを弾き飛ばす。

ブレイアスは、両腕を失ったまま静かに地上へ倒れて行った。

あと少し遅れていれば、今頃ブレイアスのコックピットがソードコアによって貫かれていただろう。


『よくも姉貴をっ!』


『ホホホ、本当に威勢がいいお嬢さんですな。 流石はあの娘が気に入るだけはありますよ』


『あの娘だって? まさか、トリッドエールのっ!?』


『そうですよ、くだらぬ感情に動かされ続けた挙句……哀れにも自ら命を奪ったあの娘の事ですよ。

彼女は実に優秀な兵士でしたよ、他人に愛されたいが為にただひたすら強い者を求め戦い続けました。

きっと、貴方と出会えて本望だったんでしょうな。 きっと、幸せな死を遂げたに違いありませんぞ?』


『……テメェにあの娘の何が、わかるってんだよぉぉっ!!』


イエローウィッシュは両手にサーベルを構えてブラックベリタスの元へと直進していく。


『晶、イエローウィッシュを援護しろっ!』


「ああっ!」


イエローウィッシュに続き、ι・ブレードはブラックホークを構えた。

するとソードコアがイエローウィッシュにまとめて襲い掛かろうとする。

晶はブラックホークを放つとバァンッ! と激しい銃声と共に、1本のソードコアの先端が破壊された。

だが、コアを撃ち抜いていない以上、まだまだソードコアの動きは止まらない。

バギンッ! イエローウィッシュの左腕が、ソードコアによって斬り裂かれた。

しかし、怯まずにイエローウィッシュは片腕にサーベルを構えたまま前進し続ける。


『テメェなんだろ、アイツを歪ませたのはっ!? アイツはな、ただ寂しかっただけなんだっ!

誰かに構ってほしい、家族に愛されたい、母親に会いたい、認められたいっ! そんな当たり前な感情を、アンタが歪ませたんだっ!!』


『いえいえ、私は切っ掛けを与えたにすぎません。 彼女が壊れたのは私の責任ではありません、彼女の心がガラスのように脆かったせいなのですよ』


『ふざけんなぁぁっ!!』


ブラックベリタスの目前まで距離を詰めたイエローウィッシュは、サーベルを突き刺したまま突進していく。

同時に、ソードコアが無防備となったイエローウィッシュに向かい襲い掛かろうとした。


『晶っ!』


「ああ、わかってるっ!!」


レッドウィッシュとι・ブレードがほぼ同時に、イエローウィッシュを挟むように着地する。

すると、2機はほぼ同じ瞬間にサーベルを抜刀しソードコアを弾き飛ばした。

2機によって守られたイエローウィッシュは、勢いを弱めることなくブラックベリタスへ突進した。


『ほう、やりますな』


ブラックベリタスがイエローウィッシュの重い一撃を、両手のサーベルで受け止める。

耳が痛くなるほどの金属音が響き、ガガガガッとサーベルを削るような音を立てながらイエローウィッシュへ前進していく。


『アンタに、アンタにアイツの痛みがわかるのかぁぁぁっ!!』


『おかしいですね、貴方は敵である彼女をかばうのですか? あれだけ命を狙われ続けたというのに』


ブラックベリタスが、両手のサーベルでイエローウィッシュを弾き飛ばす。

すると4本すべてのソードコアを、一斉にイエローウィッシュに向けて発射させた。


「やめろ、やめろぉぉぉっ!!」


晶の悲鳴に近い叫びが響き渡る。

その瞬間、イエローウィッシュに右腕、両足が一瞬にして切り裂かれた。

イエローウィッシュの胴体は宙へと舞い上がり、身動きが取れないまま地面に叩き付けられていく――


『姉妹揃って無様な姿ですな、貴方達は後でゆっくり調理して差し上げましょう』


「クソッ、ラティアさんに続いてシリアまで――」


次々と仲間達が、いとも簡単にやられていくのを目の当たりにし、晶は怖気づいてしまった。


『怯むな、俺に続けっ!!』


ゼノスの掛け声に体をビクッとさせ、晶は表情をハッとさせる。

こんなところで立ち止まっていたら敵の思うツボだ。


「大丈夫? 平気、なの?」


木葉が隣で心配そうに晶の顔を覗き込んだ。

木葉を不安にさせてはいけない、木葉は晶の腕を信じて一緒に乗っているのだから。


「行くぞ、ι・ブレードっ!」


晶はスロットルを握りしめ、力強く押し込む。

ギュンッと強いGが襲い掛かると同時に、危険察知が発動した。

ソードコアの動きを見抜き、晶はムラクモで弾き飛ばす。

その瞬間、コックピットが青く灯った。

晶の背中に、ゾクッと寒気が走る。

ソードコアの動きを肉眼で捕える事はとてもじゃないが無理だ。

ならば――


「……ι・フィールド展開っ!!」


晶の叫び声と同時に、ι・ブレードが赤い光に包まれた。

ガキィィンッ! 金属音と共に、4本のソードコアが弾き飛ばされていく。


『ほう? 流石はι・ブレード、我々が狙い続けてきた優秀なHAですな。 もっとも、今となっては貴方に価値はありませんがね』


「お前が俺達のシェルターを襲撃させたのかっ!?」


『だったらどうしますか? 私を恨みますか、憎みますか? ホホホ、結構結構……私を殺したければやってみなさい』


「アンタが全ての元凶だって言うなら、アンタを討つっ!」


ι・ブレードはムラクモを握りしめ、ブラックベリタスと距離を詰める。

凄まじい速度で前進し、ι・ブレードはムラクモを大きく振るった。

だが、ブラックベリタスはいとも簡単にι・ブレードの一撃を受け止めた。


『いえいえ、それは間違ってますよ。 元凶は私ではありませんよ、全てはアッシュベルから始まっているのですから』


「だからと言って、アンタのやり方が正しいのかよっ!? 罪なき人間を巻き込み、戦火ばかり拡大させたアンタが正しいとは、俺は思わないっ!」


『腐りきった世界は一度破壊されなければなりません。 だから私がメシアを壊し、世界の指導者として立ち上がるのですよ』


「ふざけんなっ! 神にでもなったつもりかよっ!?」


『ホホホ、素晴らしいっ! その通りです、まさに私は神に相応しい存在なのでしょうなっ!!』


ガキィンッ! ι・ブレードのムラクモが弾き飛ばされた。

晶はすぐにブラックホークを構え、ブラックベリタスに向かい何発も撃ちこむ。

しかし、弾は全て避けられι・ブレードの周囲は一瞬にしてソードコアに囲まれてしまう。

ブラックホークを2発撃ち込むと、2本のソードコアは弾き飛ばされ、一度ι・ブレードから離れて行った。

だが、残りの2本にまで晶の手は回らなかった。

容赦なくι・ブレードに向かい突き刺さろうとした瞬間、バァンッバァンッ! と2発の銃声が響く。

銃弾は見事、ソードコアの心臓部である『コア』を撃ちぬいた。

残りの1本はコアを外したが、軌道を強引に変えられ、ι・ブレードから一度離れて行った。

銃声が響いた方向を確認すると、そこにはライフルを2本構えたレッドウィッシュの姿があった。


『どうやら、少々貴方を甘く見ていましたな……ゼノス』


『お前は神になれん、ジエンス』


『ホッホッホッ、貴方を見ているとあの男を思い出しますよ。 無謀にも、ウィッシュ如きでこの私に逆らったあの男をね』


『あの男だと?』


『そうです、復讐のために生きつづけ……くだらぬ情に流された愚かな男ですよ、貴方が良く知っている、ガジェロスというクズをねっ!!』


『ガジェロス……だと?』


レッドウィッシュは3本のソードコアに囲まれた。


「やめろっ!」


そうはさせないと、ι・ブレードはブラックホークでソードコアのコアを撃ちぬこうとする。

ソードコアを弾き飛ばす事はできたが、肝心のコアは照準がずれたせいで狙えなかった。

レッドウィッシュはその隙を狙い、ブラックベリタスの元へと距離を詰めていく。


『そうそう、貴方には感謝しているのですよ……ι・ブレードのパイロット』


「感謝だって?」


『私は少々、シラナギという女を信用できなかったのですよ。 いずれ私の手で処分するつもりでしたが……貴方が私の代理を果たしてくれたようですから』


「――っ!?」


その時、晶の頭の中に浮かんだ。

シラナギのレブルペインが爆発していく瞬間が、鮮明に繰り広げられていく。


『晶っ!!』


ゼノスの声で我に返った時、気が付いたらι・ブレードの目の前にブラックベリタスの姿があった。

両手にサーベルを構え、今にも斬りかかろうと向かってきていた。


「なっ――」


危険察知が発動しない?

一体どういう事だ、と混乱したが……答えはシンプルだった。

バギィィンッ! と鈍い音が、目の前に響き渡る。

ι・ブレードの前で、レッドウィッシュがブラックベリタスの一撃を受け止めていたからだ。

だが、重い一撃で抑えきれずにレッドウィッシュのサーベルは真っ二つに切断されていた。


『クッ!』


武器を捨て、レッドウィッシュはブラックベリタスを蹴り飛ばしι・ブレードを抱えて一旦離れていく。

敵が離れた事を確認すると、レッドウィッシュは拳を振るいι・ブレードのヘッドを殴り飛ばした。


「なっ、何するんだ――」


『敵に惑わされるな、集中しろ。 お前が落ちたら、あの娘まで落ちる事になるぞ』


「き、気づいていたのか?」


『事情は後で聞かせてもらう、今は奴を倒す事だけに集中しろ』


「あ、ああ」


いきなり攻撃された時は驚いたが、恐らく喝を入れてくれたのだろう。

晶は自分自身の頬を叩き、深呼吸をした。


『ふむ、なるほど。 どうやら本気でこの私を倒そうと考えていたようですね。 これはこれは失礼しました……私とした事が、貴方達に夢を見せてしまったようです。

このブラックベリタスに、たった2機のHAで勝てると思い込ませてしまったようですな』


ジエンスがそう呟くと、ブラックベリタスは両手のサーベルを天に捧げた。

すると、ブラックベリタスから放たれていた赤い光が更に強まっていった。

眩しいぐらいに輝くその光は、何処かムラクモが解放された時の強い光と酷似している。


『この光は?』


「な、なんだよ……あれ?」


ブラックベリタスから放たれる光は、やはりι・ブレードが放つ赤い光とよく似ていた。

いや、もしや同じものだとでもいうのだろうか?


『わかりますか、貴方達のこの光の意味が? ホッホッホッ、E.B.Bのコアやエターナルブライトはそれぞれ自らの意思を持っているのです。

そう、私という人間の意思と動力源であるエターナルブライト、そして私のE.B.Bコアの意思が固く結ばされた時、ブラックベリタスは全てのHAを凌駕するのですよ』


『エターナルブライトの、E.B.Bコアの意思……』


「同じだ……ιシステムとっ!」


『違いますな、貴方の『ιシステム』は疑似的な共鳴しか行えない不完全なシステムです。

私は違います、自らのE.B.Bを通じてコアコントロールシステムを使い、エターナルブライトの意思を乗っ取る事ができるのです。

少々強引な手段ではありますが……ま、これも立派な『共鳴反応』ですよ。

貴方にわかりますかな、共鳴反応を起こしたHAの恐ろしさというものが』


晶にはジエンスの言っている言葉の意味が、よくわかっていた。

ブラックベリタスから放たれる強い光は、ι・ブレードが何度も見せた光と酷似している。

ι・フィールドに、ムラクモ解放……そして、意思伝達。

それらは全て、ジエンスのいう『共鳴反応』の一つだったのだ。


「晶くん……」


木葉が体を震わせながら、晶の体に必死にしがみついた。


「だ、大丈夫だ。 恐れる事はない、ι・ブレードだって同じ事は出来るんだっ!」


「違う、違うの。 あのHAから声が聞こえる……苦しい、助けてって。 だから、凄く怖くなって……」


「ブラックベリタスが、助けを求めている?」


ジエンスは言っていた、『少々強引な手段ではあるが』と。

あの共鳴というのは、ι・ブレードの共鳴とは性質が異なる。

もしや、無理やり従わせているというのだろうか?


『まずは、貴方からですよ……ゼノス・ブレイズっ!!』


ブラックベリタスはソードコアを射出し、両手にサーベルを構える。

ι・ブレードの前の前に赤き閃光が走った途端、バギィィンッ! と鈍い音が響き渡った。

レッドウィッシュが、3本のソードコアに貫かれていた。


「ゼノス、ゼノスっ!?」


『晶、奴を必ず止めろ。 お前のι・ブレードだけが……頼りだ』


「嘘だろ、ゼノスっ!?」


『安心しろ、簡単に死ぬつもりはない。 アイツと、約束しているからな』


ゼノスがそう言った瞬間、レッドウィッシュから脱出ポッドが射出される。

同時に、レッドウィッシュから大爆発が引き起こされた。


「皆が、皆がやられていく……」


一人、また一人とブラックベリタスの手により、仲間が敗北していった。

残ったのはι・ブレードを駆る晶一人。

4人掛かりだというのに、ブラックベリタスはまだソードコアを一つ失った程度しかダメージを受けていない。


『残りは、貴方だけですよ』


「……クッ!」


晶はスロットルを力強く握りしめた。


「ι・ブレード、お前の力を俺に貸してくれっ! 仲間の為にも、俺はあいつを討たなきゃならないんだっ!」


晶の言葉に応えるように、コックピットは赤く灯った。


「ありがとう、ι・ブレード……行くぞっ!!」


掛け声と同時に、晶はスロットルを強く押し込んだ。

凄まじい速度で前進していき、ι・ブレードはブラックベリタスとの距離を縮めていく。

危険察知でソードコアの動きを見切り、全てムラクモで弾き飛ばした。


『ホホホ、少し動きが良くなったようですね。 これが、ιシステムの力でしょうか?』


「倒す、お前は必ず俺が仕留めて見せるっ!」


ブラックベリタスの前に立ち、晶はムラクモを振るう。

だが、ブラックベリタスは高く空へと飛び上がりライフルを数発撃ち込んだ。

危険察知で回避した晶は、ブラックホークで空のブラックベリタスを狙い撃つ。

しかし、ブラックベリタスの速さに追いつけず、動きを捕えることが出来なかった。

ι・ブレードが高く空へ舞いあがろうとした瞬間、ブラックベリタスがサーベルを構える。

その瞬間、再び危険察知が発動した。

サーベルを持ったまま急降下をしてくる映像だ。

ギリギリまで敵の攻撃を引き付け、避けることが出来ればわずかにだが攻撃のチャンスが生まれる。

しかし、あのスピードを前にはリスクが高すぎる。

晶に迷ってる時間はない、ブラックベリタスを倒すには僅かな可能性でも信じるしかなかった。


映像が終わった直後、ブラックベリタスは映像の通りにサーベルを持ったまま急降下を始める。

ムラクモを構えた晶は、ひたすらブラックベリタスの降下を待った。

ムラクモからは既に赤い光が強く輝いていた。

次の一撃で、勝負が決まるはずだ。


「今だっ!」


晶はギリギリのタイミングでブラックベリタスの攻撃を避ける。

猛スピードで突進してきたブラックベリタスに、僅かな隙が生まれた。


「これで、終わらせるっ!!」


その隙を逃すまいと、晶はムラクモを横に大きく振るう。

赤色の横一閃が、綺麗に描かれた。

凄まじい勢いで光の刃がブラックベリタスを切り裂いていった……かと思われた。

だが、ブラックベリタスの位置は僅かに光の刃の軌道からずれていた。


「外したっ!?」


『ホッホッホッ、何をするかと思えばその程度の事ですか。 所詮、それが試作品の限界という訳ですな』


まだチャンスはあるはずだと、晶は諦めない

ムラクモを開放できる数は限られているが、まだ限界ではないのも確かだ。


『いいですか、私にも貴方と同じこと……いえ、それ以上の事が出来るんですよ。 見せて差し上げましょう、絶望という名の刃をっ!!』


ブラックベリタスは両手のサーベルを構えると、突如サーベルが赤い光を放ち始める。

一目見て晶は理解した、あれは『ムラクモの解放』と同じだと――


「クッ、木葉……しっかり捕まっててくれっ!」


「う、うんっ!」


晶はι・ブレードの出力を限界まで上げた。

その瞬間、尋常ではない速度で二つの赤き光の刃が襲い掛かる。

危険察知である程度攻撃は見えている。

晶は冷静に状況を確認し、空高く舞い上がった。

しかし、ブラックベリタスは凄まじい速度でι・ブレードの後を追う。

コックピットに青い光が灯された。


「フィールドを――」


『無駄ですよ』


「え――」


ブラックベリタスの持つ2本のサーベルからは赤い光が強く放たれたままだった。

ι・ブレードの周りには赤い光が展開される。

次の瞬間、信じられない事態が引き起こされた。

バギィィン――鈍い金属音と共に、ι・フィールドが破られた。

ι・ブレードの左腕と右足が、2本のサーベルにより切断される。


『勝負、ありましたな』


無防備になったι・ブレードは、ブラックベリタスに地上へ向けて蹴り飛ばされた。


「クッ、木葉ぁぁっ!!」


せめて木葉だけでも守ろうと晶は咄嗟に、木葉を庇うように抱き抱えた。

ガァァンッ! ι・ブレードは激しく地面に叩き付けらられ、その場で動かなくなった。


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