世界の変革 ②
フリーアイゼンはメシア本部へと向けて進路を進み続けている。
その間にゼノスとシリアはゼノフラムとレビンフラックスの状況を確認するが、やはり再出撃は難しい状況にあるようだ。
「参ったなー、アタシのマシンがないじゃないか。 何処かにウィッシュでも余ってればいいんだけど」
「本部に向かえば予備があるはずだ、今はそれで凌ぐしかあるまい」
「あー、アタシもイエローウィッシュが無事だったらそっちに乗ったのにさー。 やっぱ予備は必要なんだなぁ」
ゼノスとシリアは格納庫で話し込んでいた。
激しい戦いの末、お互いに愛機に無理をさせすぎてしまった。
ゼノスには予備のレッドウィッシュが存在するが、シリアのイエローウィッシュは既に大破してしまっている。
他の機体も修理が間に合っておらず、フリーアイゼンには余っている機体が存在しなかったのだ。
「おお、いたいた。 おい、シリアっ!」
「ん、なんだ?」
シリアが口をとがらせていると、体中オイルまみれになっているエイトの姿があった。
鼻が曲がるかと思うぐらい強烈な油の臭いで、思わずシリアは顔をしかめた。
「いやぁ、間に合ってよかったぜ。 お前を驚かせようとこっそり再現しといたんだけどよ」
「再現? 何のことだ?」
「上の許可貰うのも苦労したんだぜ、俺に感謝しろよ?」
「ニヤニヤして相変わらず気持ち悪い奴だな、アタシに何の用なんだっつってんのにっ!」
不機嫌そうにしているシリアに対して、エイトはニヒヒと歯を見せた笑いを浮かべている。
今のシリアにとっては実に腹立たしく、思わず殴りたくなるほどの嫌な笑顔だった。
「おいおい、せっかく俺がサプライズプレゼントを用意してやったってのによぉ。 何なら解体しちまってもいいんだぜ?」
「解体? だから何のことだよっ!?」
「ほら、あれ見ろって」
エイトが指さした先には、HAがあった。
全身が黄色に塗装された何処か懐かしいウィッシュ……まさかと、シリアは叫んだ。
「イ、イエローウィッシュじゃないかっ!? な、何で? あれはもう修復できなかったはずじゃ?」
「まぁデータはしっかりと残ってたしな、大本はウィッシュだし再現するのにはそんなに苦労しなかったぜ。
レビンフラックスはゼノフラム程じゃないが癖が強いマシンだしな、メンテナンスには時間がかかるし万が一のことを考えて俺がコツコツと作業続けてたってわけよ。
本当ならこの戦い終わった後に仕上げるつもりだったんだけどな、お前がレビンフラックスぶっ壊しちまったっつーから急いでこっちを調整してきたんだ」
「サ、サンキューッ! くぅ、懐かしいなぁアタシのウィッシュ……アンタはやっぱ最高の友だなっ!」
「ヘヘッ、これで心置きなくアヴェンジャーの奴らと最終決戦を迎えられるだろ? 最後はこいつでバシッと決めてくれよな」
「ああ、任せときなっ!」
隣ではしゃいでいるシリアの姿を見て、ゼノスは思わず微笑んだ。
まだ戦いが終わったわけではないのに、相変わらず緊張感がない奴だと。
その反面、晶と木葉は控え室に籠ったまま出てくる気配がなかった。
二人のせっかくの再会を邪魔するわけには行かないが、お互いに悲しそうな顔をしていたのは気がかりではある。
また何かを引きずらなければいいのだがとゼノスは心配になった。
「どうしたの、難しい顔しちゃって」
いつの間にか姿を現していたのか、ラティアが背後からゼノスに声をかけた。
「気にするな、いつもの事だ」
「わかってるわよ、どうせ晶くんの事が心配なんでしょう?」
「……」
ゼノスは何も答えなかった。
「図星ってことね。 彼は大丈夫よ、確かに私はそんなに長く一緒にいたわけじゃないけど……以前と変わったと思う。
迷いが消えたというか、強い芯を持っているというか。 きっと、私や貴方なんかよりずっと強くなってると思うわよ」
「だと、いいがな」
それだけ言い残すと、ゼノスは無言でその場を立ち去っていく。
「素直じゃないんだから、どっかの艦長とそっくりだわ」
立ち去っていくゼノスの後ろ姿を見て、ラティアは思わずため息をつく。
どうして無愛想な男というのは、こうも素直じゃないのかと。
「さ、アヴェンジャーとの戦いも次が最後になるといいわね。 もう、人同士の戦いなんてこれで最後にしないと……そうよね、イリュード」
本部で戦い続けてるイリュードに問いかけるように、ラティアはそう呟いた。
ソルセブンの活躍により、アヴェンジャーの戦艦は落とされた。
しかし、それでアヴェンジャーの進撃が止まる事はない。
突如姿を現した謎のHAは、戦艦クラスの力を持ったバケモノだった。
メシアの戦艦が沈み行く姿を見て、ジエンスは不気味な笑みを浮かべる。
ブラックベリタスは世界の指導者に相応しい力を持つHA。
圧倒的な力でメシアを崩壊させ、アッシュベルを始末し、自らが世界の指導者として新たに立ち上がる。
多少計画に狂いが発生したものの、ここまで来ればジエンスの計画はほぼ成功したと言えるだろう。
もはやブラックベリタスを止める力はメシアにはないと確信していた。
そんな状況下にも関わらず、一機のウィッシュがブラックベリタスに迫ってきた。
ただの汎用機であるウィッシュが単独で行動をしているのは妙だ。
何かの作戦なのか、或いは命知らずの者が特攻覚悟で迫ってきたのか。
いずれにせよ、邪魔をする者には変わりはない。
「ほう、この私に恐れずに立ち向かう者がいましたか」
ジエンスはブラックベリタスを地上へと降下させ、迫り来るウィッシュに対してライフルを構える。
トリガーを引くと、バァンッ! と銃声と共に目に見えない弾速で弾が発射された。
汎用機に使われる通常のライフルよりも速く、重い一撃が襲い掛かる。
だが、信じられない事にウィッシュはライフルの一撃を避けた。
土煙を上げながら前進を続け、サーベルを片手に距離を詰めていく。
「なるほど、ではこれならどうでしょう?」
ジエンスは特に驚く事もなく、ブラックベリタスからソードコアを2本射出させた。
ビュンッと風を切る音と共に2本の黒い剣がウィッシュに襲い掛かる。
スカイウィッシュ部隊を一瞬で全滅させたソードコアから逃れる事は出来まい。
しかし、目の前に映し出された光景はウィッシュが切り裂かれた姿ではなかった。
ギリギリのタイミングで上手くサーベルでソードコアを弾きながら、ひたすら前進を続けるウィッシュの姿だった。
「ほう? やるもんですな」
ジエンスはソードコアを戻すと、その場から動かずに両手にサーベルを構えた。
間合いに入ったウィッシュは、ギュンッと急加速をしながらサーベルを大きく振るう。
ブラックベリタスは2本のサーベルで、ウィッシュの一撃を受け止めた。
ガァンッ! と、思った以上に衝撃が伝わってくる。
コックピット内にも振動が伝わってくる程だった。
相手のウィッシュから映像付きの通信を確認すると、ジエンスは受信した。
「はて、おかしいですな? どうして貴方が私に剣を向けるのです?」
映像に映し出されたのは、紫色の髪にサングラス……そして右腕に包帯をグルグルと巻き付けた男の姿。
アヴェンジャーであるはずの、『ガジェロス・G・ジェイロー』の姿が映し出されていた。
フェザークイーンが戦場に姿を現した時、ガジェロスが胸騒ぎを感じた。
フェザークイーンの最大の特徴である『コアコントロールシステム』とは、コアとの共鳴が行える者にしか使えない。
エターナルブライトやE.B.Bのコアには『意思』というものが存在する。
その『意思』を感じ取り、理解し、自分の意思と結合させる事によりコアの持つ力を爆発的に引き上げる事を『共鳴反応』と呼ぶ。
しかし、『共鳴』は意図的に引き起こせるものではなく、未だにそのメカニズムが完全に解明されているわけではない。
未知なる力ではあるが、もしもそれを自在に引き起こすことが出来れば、どんなHAであっても現在のスペックを遥かに凌駕する性能となる。
以前、未乃 健三からガジェロスはその話を聞いたことがあった。
その条件に適合するのは今のところ、ジエンス以外に存在はしない。
彼は体内に飼いならしているE.B.Bを駆使する事により、強引にコアとの共鳴を起こすことが出来るという。
だが、あのクイーンフェザーに『ジエンス』は乗っていなかった。
ならば、一体誰があの機体を動かしていたというのか?
ガジェロスには心当たりがあった、たった一人だけ『コア』の意思を感じ取ることが出来る人物が身近にいたことを。
そして、ι・ブレードに乗る晶の言葉により、ガジェロスの予測は確信へと変わった。
あの男は、一般人である『早瀬 木葉』を利用した。
彼女が正式なパイロットではないどころか、何の力も持たないただの一般人である事はガジェロス自身は十分に知っている。
シェルターを襲撃したあの日の目を忘れない、E.B.Bと化した右腕を見て震えていた木葉の姿を鮮明に覚えていた。
全てはアッシュベルの復讐の為に。
それだけの為にガジェロスは戦い続けていた。
しかし、自らが犯した罪により木葉のような被害者が生まれた現実も知ってしまった。
木葉はガジェロスのように戦える人間ではないが、心の何処かでは復讐心を抱き続けている。
全てを捨ててまでも復讐を果たそうとするガジェロスとは違い、耐え忍ぶことしかできない。
木葉は守られるべき存在であり、他者に支えてもらわなければ壊れてしまう力なき人間だった。
にも関わらず、木葉はガジェロスに復讐心を抱く事はなくこう言った。
『私、貴方を恨めない。 だって、凄く悲しい顔をしてる。 この右腕から聞こえてくる声は、貴方自身の声だと思ったの』
今思えば復讐心に満ちたガジェロスの心が、体内のコアを通じて木葉に届いていたのだろう。
木葉は優しかった、誰に対しても優しくて強い心を持っていた。
ガジェロスはそんな木葉を自らの手で不幸にしてしまった事に罪悪感を抱いていた。
それでも復讐を優先させ、ジエンスの計画に力を貸した。
例えメシアが滅びる結果になろうと、復讐さえ果たせればいい。
それがガジェロスの望みであり、生きる理由だった。
だが、フェザークイーンに木葉が乗せられたと知った時。
復讐心に満ちていたガジェロスに、僅かながら変化が訪れた。
木葉という少女を戦争の道具として利用したジエンスに、怒りを覚えた。
「何故、あの娘を戦いに巻き込んだ?」
『はて、何の事でしょうか?』
「とぼけるなっ! フェザークイーンに『早瀬 木葉』を乗せたのは貴様の仕業だろうがっ!」
『何かと思えばあの小娘の事ですか……おかしいですね、確かに私が乗せたのは認めましょう。
ですが、繋がりが全く見えません。 あの娘をフェザークイーンに乗せたから、何だというんです?』
「貴様はそうやって、何人の子供を俺達の戦争に巻き込んできた? 戦争ってのは薄汚れた俺達大人だけでやるべきなんだよ」
「おや? 復讐心に満ちていた貴方が余計な情に流されるとは。 ホホホ、やはり貴方は人を捨てきれていないですな。
残念ですよ、貴方はもっと優秀な兵士だと思っていたのですがね。 私を討てるものならやって見るがいい、もっとも私の最終目的は貴方と同じである事には変わりありません。
復讐を捨ててまで、私を討つというのなら止めはしません。 但し、その時は貴方にも『死』を覚悟してもらう事になりますがね」
「勘違いするな、俺は必ずアッシュベルに復讐を果たす。 だが、今はテメェの存在が気に入らねぇだけだ」
「ほう、ならば世界の指導者となる私を討つと?」
「テメェに指導者たる器はねぇんだよっ!!」
ガジェロスは力強くスロットルを押し込み、叫んだ。
サーベルを握りしめたまま、ウィッシュはグググッとブラックベリタスを押し出す。
「無駄な足掻きとはこの事ですな。 いいでしょう、私が貴方の目を覚まして差し上げましょう」
「夢を見てんのはテメェの方だ。 たった一機えメシアを潰そうなんざ、それこそ大馬鹿野郎の考える事だ」
「出来るのですよ、私とブラックベリタスならばっ!!」
ブラックベリタスの背中から、2本のソードコアが射出された。
ガジェロスはウィッシュを退かせ、ソードコアの一撃を受け止めようとサーベルを構える。
だが、その瞬間バギンッと鈍い音が耳元に響き渡った。
ウィッシュの左腕が、一瞬のうちに切断されたのだ。
「何っ?」
「ホホホ、無駄ですよ。 人間如きがソードコアの速さについて来れるとでも?」
見えなかった、先程のソードコアの一撃とは違う。
段違いにスピードが上がったとでもいうのか。
「チッ、やるじゃねぇか。 単なるジジイではなかったんだな」
「爺だからと侮ってはなりません、私の姿は仮初でしかないのですから。 私の本質はE.B.Bなのですよ、貴方と同じようにね」
「ほざいてろ、ジジイィッ!!」
ガキィンッ! ウィッシュのサーベルが、目にも留まらぬ速さで動いていたソードコアを弾き飛ばす。
その隙を狙い、ガジェロスは手にしていたサーベルをブラックベリタスに向けて投げつけた。
「無駄な抵抗を……もしや、本気で私に勝てるとでも?」
「テメェこそ、たかが汎用機と侮るなっ!」
ウィッシュは片手にグレネードを持ち、出力を限界まで上げて前進した。
「ほう、グレネードですか。 しかし、この至近距離では貴方までも危害が加わりますぞ。
それに、ブラックベリタスの機動力であれば爆発から遠ざかる事は容易い事」
「逃げれるもんなら、逃げてみな」
その時、ウィッシュの腹部から数十本のワイヤーが飛び出す。
一瞬にしてブラックベリタスにワイヤーが絡まった。
「なるほど、少しは知恵を使ったようですな」
「強がってんじゃねぇぞ、老いぼれがっ!」
奴に隙を与える訳にはいかない、ガジェロスはグレネードを投げ込もうとした。
だが、腕を持ちあげた瞬間にソードコアの一撃が襲い掛かる。
一瞬にして右腕が切断され、くるくると宙へと舞い上がっていく。
しかし、ここまではガジェロスの計算通りだった。
「テメェの、終わりだ」
「はて、何の事でしょう?」
空に舞い上がったウィッシュの右腕に握られていたのは、時限式の高火力グレネードだった。
シンプルな武装ではあるが、ブラックベリタスと言えどかすり傷程度で済むはずがない。
G3やG4と違い、重装甲ではない分それなりに装甲を犠牲にしているはずだからだ。
「ブラックベリタスなんざ、クソ食らえだぁぁっ!!」
ガジェロスが起爆スイッチを押した瞬間、2本のソードコアがウィッシュへと襲い掛かる。
コックピットの機器が火花を散らし、システムがダウンした。
だが、起爆スイッチは間に合った。
外からはズガァァァァァンッ!と凄まじい爆発音が響き渡る。
コックピットは激しく揺れ、ガジェロスの体が壁へと強く叩きつけられた。
自らを巻きこんだ決死の一撃ではあったが、ガジェロスは悟っていた。
あの程度でブラックベリタスが落ちるはずがないと。
しかし、せめて何処か損傷を与えるだけでもしなければならない。
これからここに向かってくる『フリーアイゼン』に、全てを託す為にも。
ガジェロスはコックピットのハッチを強引に開き、外の様子を伺った。
凄まじい爆発が引き起こされたせいもあり、辺りには砂埃が舞い上がり続けている。
その砂煙の奥に、ブラックベリタスの姿があった。
ガジェロスは思わず言葉を失った。
ブラックベリタスは赤い光に包まれており、外見は傷一つ負っていなかったのだ。
あの光はまるで、ι・ブレードの放つ『ι・フィールド』と酷似している。
「チィッ!」
何か他に手はないかと、ガジェロスはウィッシュの中へと戻った。
システムダウンしたウィッシュは当然動くはずもなく、仮に動いたとしても両腕を失った状態ではどうしようもない。
「俺もここまでか、まぁいい。 やれる事はやった、後はテメェに託すとするぜ……ゼノス」
間もなくブラックベリタスが、確実に息の根を止める為にやってくるだろう。
コアが存在する限りガジェロス自身は生きることが出来る。
だが、ジエンスはそれを黙って見過ごすかどうかと言われたら別だ。
あの男の事だ、一度自分の逆らった者は確実に仕留めるだろう。
ガジェロスに後悔はなかった。
長年の間復讐に捕らわれ続けたガジェロスが、忘れていたモノを全て思い出すことが出来たから。
メシアが正義とは思わない、だがジエンスにもまた正義は存在しない。
ガジェロスはただ、ジエンスのような野心を持った男が世界を支配する事が許せなかった。
「……?」
じっとコックピットに身を潜めていたが、いつまで経ってもブラックベリタスは来なかった。
まさか見逃したとでもいうのか、あまり考えにくいが一度外の状況を確かめる必要がある。
ガジェロスはもう一度コックピットの外へと飛び出した。
その時、ガジェロスはニヤリと笑みを浮かべた。
「どうやら、俺の悪運は続くようだな」
メシアの艦隊の中に、見慣れた一つの艦が到着していた。
すっかりボロボロな姿となった『フリーアイゼン』の姿だった。
「イリュード艦長、到着が遅れたことを詫びる。 ブラックベリタスは我々フリーアイゼンが必ず止めて見せよう」
『すまないな、我々の手では奴を止める事は出来なかった。 君達の最先端HAであれば、彼に十分対抗できるはずだ。 ……全てを託すぞ、お前達に』
艦長は、ようやく本部との通信が回復した時にイリュードに状況について報告を聞いていた。
E.B.Bは無事殲滅できた事、アヴェンジャーの主力艦を無力化した事、そして中から出現したとんでもない力を持つ『ブラックベリタス』という名のHA。
まだフリーアイゼンの背後にはアヴェンジャーの部隊が迫っていると言えど、敵の主力はほぼ出尽くしたと考えていい。
ブラックベリタスを討つ事が、この長き1日の戦いに終止符を打つ事になる。
「しかし、ゼノフラムもレビンフラックスもいない状態で果たして勝てるのでしょうか?
頂いたデータを見るだけでもブラックベリタスの力は尋常ではありませんよ……」
「だが、やらねばならん。 今は我々が持てる力を全て出し尽くすだけだ」
ヤヨイが不安そうに呟くと、艦長は力強くそう言い切った。
「そうそう、たかがHA一機ぐらいどうにかなるっつーの。 俺達で戦いを終わらせてやろうぜっ!」
「私達の勝利は目前だ、敵も相当追い込まれている状況には変わりはない。 メシア本部を守り、世界を守りましょう」
ライルとリューテの一言に、艦長は力強く頷いた。
「各機、準備はいいな?」
『レッドウィッシュの状態は良好だ、問題ない』
『久々のイエローウィッシュさ、張り切っていくぜっ!』
『予備のパーツに切り替えたけど、動作に問題はなさそうだわ。 ブレイアススナイパー、いつでも出れるわよ』
ゼノス、シリア、ラティアの順で通信が届いた。
『い、ι・ブレードも問題ありません』
ワンテンポ遅れて、晶の通信が届いたことを確認すると艦長は力強く頷く。
「目標は『ブラックベリタス』だっ! 恐らく奴らは戦力を全て出し切ったはずだ、これをアヴェンジャーとの最後の戦いにするぞ。
各機……死ぬんじゃないぞ、必ず生きて帰って来い」
『当然だ、俺は死なないと約束したんでな』
『これまで何度も修羅場を潜ってきたアタシ達だ、HA一機如き大したことねぇさっ!』
『アヴェンジャーとの戦いを終わらせ、本当に戦うべき相手と戦う……それが私達の望み未来であり、あるべき姿よ。
その為には必ずアヴェンジャーに勝利し、生きて帰って見せるわ』
『もう、俺達のような被害者を生み出すのはたくさんだっ! 決着をつけましょう、アヴェンジャーとの戦いにっ!』
艦長はそれぞれの決意を耳にすると、無言で頷いた。
「各機、出撃せよっ!!」
『レッドウィッシュ、出るぞ』
『イエローウィッシュ、シリア・レイオン出るぞっ!!』
『ブレイアススナイパーラティア機、発進します』
『行くぞ、ι・ブレードっ!!』
力強い掛け声と共に4機のHAが、フリーアイゼンから一斉に飛び出していった。