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    メシアの遊撃部隊 ③


緊急事態を告げるサイレンが響く中、ブリッジ内には緊迫した雰囲気が漂う。

慌ただしく動き回るクルー達に対して、ただ呆然と晶は立ち尽くすだけだ。

こんな場所にいていいのか? と、晶は戸惑うばかりだった。


「味方機4機、複数のE.B.Bと交戦中。 うち2機は負傷。

数は20を超えています、場には霧が発生しており苦戦を強いられている、とのことです」


「視界状況は最悪か……パイロット達のフォローを頼むぞ、カイバラ」


カイバラと呼ばれた女性は、恐らくオペレーターを務めているのだろう。

こんな状況でも顔色一つ変えずに、冷静に状況を伝えていた。


「あの人はヤヨイさんよ、『ヤヨイ・カイバラ』っていうの。 近寄り難い人だけどすっごくいい人なんですよー」


シラナギが、例の女性オペレーターを指さしながらそう教えてくれた。


「……紹介はありがたいんですけど、いいんですか? 俺達こんなところにいても」


「いいじゃない、艦長も何も言ってこないし」


この人本当にこれでいいのか、とまた晶は不安に思う。


「しっかしさっきまで霧なんて発生してなかったけどな、これじゃ俺の出番もなさそうだぜ」


「そう言うな、彼女のサポートでもしてやるといい」


今度は二人の男が何やら話をしていた。


「あっちの軽そうな人が『リューテ・マインス』、主に操船を担当してるのでーす。

こっちの堅そうな人が『ライル・ラピード』、こっちはなんと武器管制担当なのでーすっ!!」


ジャジャーン、と口で効果音を立てながら、またしても空気を読まずに紹介をする。

シラナギの紹介通り、ライルという人はオレンジ色の短髪で何処か楽観的な人であろうというのは感じ取れた。

反対にリューテという青髪の男は、メガネをかけており何処か知的な雰囲気が漂う。

だがあくまでもシラナギの紹介だ、大きな偏見が含まれているのは間違いない。


「出撃準備は整ったか?」


「パイロット各位、HAホープアームズに搭乗を確認しました」


「ゼノフラムは出せるのか?」


「整備班からは異常なし、と報告を受けてます」


聞きなれない単語をふと耳にした。


「ゼノスさんのHAですよ、一緒に戦ったじゃないですかー。 あの機体、本当すごいんですよ。

メンテナンスだって大変ですし、パイロットさんも大変ですしっ!」


何も言わずともシラナギは親切に教えてくれた。

ありがたくは思うのだが、何処か不安が残る。


『こちらゼノス、いつでも出せるぞ』


『アタシもバッチリだよ、いつでも発進できるぜ』


「よし、発進させろ」


「了解、ハッチを開けます」


いよいよ、ゼノスとシリアが戦場へと駆り出される。

シミュレーターでも訓練でもない、実戦なのだ。

一度成り行きで実戦に出た身だとしても、晶は自分の事のように緊張してしまうのだった。


「小僧、よく見ておけ。 奴らと『戦う』というのは、どれ程危険が伴うのか」


「……はい」


艦長は晶に向けてそう告げる。

……もしかして、その為にブリッジへと残したというのか。


『ゼノフラム、発進する』


『イエローウィッシュ、出るぜっ!』


バシュンッ、と轟音を通信越しから耳にすると、ブリッジ内のモニターから2機のHAが一瞬だけ姿を見せた。

晶も見たことがある巨体なHAであるゼノフラム、巨体でありながらもその異常な推進力はモニター越しからでも伝わる。

あっという間に地上へと向けて飛び立った。


もう一機は黄色のウィッシュのように見えるが、何処か形状が異なる。

恐らくカスタマイズされたウィッシュだ。

汎用性の高いウィッシュは、パイロットによって独自にカスタマイズされることもある。

学校の授業で、そのカスタマイズについても習ったことがあった。


「……あれ、たったの二機なんですか?」


「そうなの、今フリーアイゼンは深刻な人手不足なのです」


「今までもずっとあの二人が戦って?」


「違います、他のパイロットは亡くなっていったのです……」


「え――」


悲しい表情を浮かべ、シラナギは静かにそう語る。

晶は思わず言葉を失った。

……戦場に出ることは常に危険と隣り合わせ。

メシアのようなベテラン部隊でも、いとも簡単に命が失われてしまうのか。

背筋にゾクゾクッと寒気が走った。

あの時、生きていられたのがどれだけ幸運だったのか。

艦長からあんなに厳しく言われるのも無理はない、と感じ取った。


「でも、あの二人は大丈夫です。 特にゼノスさんなんて何十回も死にかけてますから、あんな無茶な機体に乗ってるぐらいですからねー」


「そ、そうなんですか?」


「知らないんですか? ゼノフラムは別名『パイロット殺し』とか言われてるんですよー」


「パ、パイロット殺し……?」


「積めるだけ積み込んで運動性を犠牲にしてますし、その癖爆発的な推進力でパイロットへの負担がすっごいんですよ。

おまけにあのハンマーを扱おうとしたら、振り回されてたいっへんなことになっちゃいますっ! 他にも常に熱に気を遣ったり――」


晶の素人目から見ても相当無茶な設計である事は理解していたが

シラナギの話を聞いて改めてそれを認識した。

どうしてゼノスはあのHAに搭乗しているのだろうか。

ただでさえ戦場には危険が伴うというのに。


「シリア機、ポイントへ到達」


『ヤヨイ、映像を送ったから受信してくれ』


『了解、映像を受信します』


アナウンスと共に、巨大なスクリーンとは別に用意されていた小型のモニターに映像が出力された。

コックピット内からの映像と思われる。

フリーアイゼンから離れた個所である点と、霧が濃いせいで艦のカメラでは外の様子はほとんど見えなかった。


現地の映像は、パイロットの映像で確認するしかない。

しかしこれでは、敵機どころか味方機すら識別できないのではないか?

こんな状態で戦えるのだろうか、と晶は不安を抱いた。


「周囲に5機のE.B.Bを確認。 分析結果タイプは陸上四足型、多分元は虎です。

味方機が囲まれているようなので、速やかに救出してください。 くれぐれも味方を撃たないように」


『わかってるっつーの、すぐに片づけるさ』


シリアから通信が入った途端、映し出された映像は急速にグラグラと揺れだす。

見ているだけで酔いそうな映像ではあるが、晶は目を離さなかった。

2,3機のウィッシュの間を通り抜けるとその先には黒い獣がいた。


鋭い牙に赤い瞳、悍ましいその姿はもはやただの獣ではない。

正真正銘のE.B.Bだ。


『食らいなっ!』


ウィッシュの標準武装であるアサルトライフルを放つと、黒い獣は一瞬にして散開した。


『遅せぇっ!!』


コックピットの映像がぐるり、と急回転すると1匹のE.B.Bがロングサーベルで串刺しにされていた。

一瞬何が起こったのか理解できなかった。


レーダーの状況を確認すると中心に位置していたはずのシリア機が次々とE.B.Bのマークを消滅させていく様子が見える。

映像と照らし合わせると、近接武器で片っ端からE.B.Bを切り裂いているようだ。

……とてもじゃないが、晶にはこんな動きはできない。

あのシリアという少女は、若い年齢でありながらここまで戦えるのかと思うと、晶は自信を喪失していった。


『フリーアイゼン部隊か? 助かった、礼を言わせてもらおう』


「はい、我々が来たからにはもう安心です。 速やかに撤退してください」


別部隊からの通信が入った。

恐らく救援を要請したメシアの部隊だろう。

しかし、ウィッシュ四機が苦戦していたE.B.Bをいとも簡単に倒してしまうシリアの実力は想像以上だ。

もしかすると、この遊撃部隊はエリートの集団なのかもしれない。

……晶は改めて、採用されない理由を理解した。


『だが、敵はあの獣だけじゃねぇ。 俺達はもっと巨大なE.B.Bに襲われたんだ』


「巨大な? しかし、レーダーには何も反応がありませんが」


『見たんだよ、恐ろしいバケモノだっ! あんなタイプのE.B.Bみたことねぇ……助けてくれよっ!』


もう一人の隊員が乱心した状態で訴えていた。

確かにオペレーターの言う通り、レーダーにはE.B.Bを示す赤いマークした表示されていない。

それも次々とシリア機、ゼノス機が順調に殲滅していく様子がレーダーからでも伝わっているぐらいだ。


「カイバラ、すぐに大型E.B.Bの位置を確認しろ」


「しかし、今はレンジ外だと思われます。 一時退避して様子を見るべきかと」


「……状況は?」


「シリア機、ゼノス機共に10機ずつ撃破。 敵影反応ロストしました」


「よし、パイロットを帰投させろ。 負傷機の回収も忘れるなよ」


もう、戦いが終わったのだろうか。

あまりにも呆気ない終わりに、晶は呆然とした。


……あんな霧の中でも戦いをしなければならないのか。

コックピットの映像を見ているだけでも、敵の姿を把握するだけで精一杯だ。

シミュレーターでも霧の再現までされることはなかった。


「パイロット各位、速やかに帰投してください。 なお、ゼノフラムは負傷機の回収をお願いします」


『ヘッ、チョロイもんだね。 もーちょい骨のある奴だと思ってたんだけどなぁ』


戦場に出ているというのにシリアはまるで恐怖を感じていないような素振りだ。

とてもじゃないが、晶には真似はできない。

ふと、晶はレーダーを目にすると……突如、何やら赤いマークが一瞬だけ点滅した。


「ん……?」


今の反応は一体……?

死骸となったE.B.Bに反応した、のだろうか。


「……これは?」


「どうした、カイバラ」


「E.B.Bを確認しました……が、すぐにロストしてしまったようです」


晶は艦長とオペレーターの会話を耳にして、何やら嫌な予感がした。


ガシャンッ!


突如モニター越しから激しい音が鳴り出すと、映像がプツンと途切れた。

シリア機の映像だ……一体何が?


「どうしました? シリア機、応答願います。 シリア……? シリアッ!」


「……っ!」


まさか、やられた?

晶はレーダーを確認するが、何も反応がない。


『こちらゼノスだ、大型E.B.Bを確認した。 シリア機が捕獲されている、今から救助活動へ移る』


「大型ですって? そんな……レーダーに反応がなかったというの?」


『映像を送る、解析は任せるぞ』


真っ暗だったモニターに、再度映像が出力された。


「これは―――」


巨大な植物のようなE.B.Bだった。

中心には蕾があり、まるで生きているかのように蕾を咲かせては閉じていた。

数えきれないほどの根、触手が気味悪く蠢いていた。


「……E.B.Bってなんでもありかよ、植物までこんな姿に?」


あまりにも悍ましいその姿に圧倒されながらも、晶はふと黄色い機体を目に留めた。

無数に伸び続ける蔦が、イエローウィッシュが捕えていたのだ――


「主砲による援護はできるか?」


「いや、駄目っすね。 この霧じゃ照準合わせるのは無理ですよ」


「……ゼノス、いけるか?」


しばし無言となり、艦長はゼノスにそう告げる。


『やれるさ、その為のゼノフラムだ』


迷いなく、ゼノスは答えた。

一人で、大型E.B.Bに挑むというのか?


「……無理はするな、シリアの救出を優先しろ」


『承知した』


その途端、映像越しから無数のミサイルが発射された。

コックピットに伝わる振動は、映像から見ても凄まじいのがよくわかる。

ガトリングを発射し、イエローウィッシュの機体位置を確認しながら上手くHAを動かしていた。

その途端、無数の触手がゼノフラムに向けて発射される。

冷静にガトリングで撃ち続けるものの、触手の勢いが収まることはない。


『シリア、応答しろ。 聞こえるか?』


シリアに呼びかけるが反応がない。


「あの子……大丈夫なんですか?」


「……わかりませんよ、中の様子なんて見えないんですから」


シラナギは暗い表情をして、そう呟いた。

晶はただ映像を眺めて、拳を握りしめることしかできずにいた。


「コアの位置は蕾の中心です」


『だがこの蔦の数では近づくことができん、シリアの保護を優先するぞ』


ゼノフラムの猛攻が続く中、触手は数を減らすどころか次々と再生してしまう。

ミサイルは既に撃ち込んでしまい、流石に単機での戦闘継続は厳しいと、ゼノスは判断した。


『赤い機体を援護しろっ!』


『りょ、了解ですっ!!』


無傷のウィッシュ2機が、大型E.B.Bへ向けて発砲をし始めた。


『そこの2機、それ以上は近づくな。 仲間を連れて退避しろ』


ゼノスが2機に向けて、警告すると触手が容赦なくウィッシュへと向かって伸びて行く。


『チッ……』


舌打ちをしながら、ガトリングを触手へ向けて何とか撃ちとした。

弾は多く積んであるが無限ではない。

一刻も早くゼノスはシリアを救出する必要があった。


「……ゼノス、さん」


映像からでも伝わってくる緊迫感。

やはり大型E.B.Bは一筋縄ではいかない。

あのゼノスでさえも苦戦を強いられているのだから。


「他に援護は要請できないのか」


「できるのなら我々に依頼は来ません」


艦長は目を閉じて深く考え込む。

ブリッジルームが、一瞬だけ静まり返った。

やがて、その目を開いた。 あの目は、何かを決断した目だ。


「……退け、ゼノス。 一度立て直すぞ」


『駄目だ、シリアを助ける』


「命令だ」


『まだいける、何のための対大型E.B.B専用HAだと思っている?』


「分が悪いと言っているんだ」


艦長の言うとおり、あのE.B.Bは触手を無限に再生させて、ゼノフラムの攻撃も一切通用していない。

最初に与えたミサイルのダメージでさえも、今や完全に回復しようとしてたのだ。


『やれるさ、ゼノフラムなら』


仲間の命を見捨てたくない。

その気持ちは晶には痛いほど伝わった。

あの時、クラスメイトを見捨てて逃げ出したこと。

とても、悔しかった。


どうして、救えるほどの力がなかったのか。

……このままでは、二人が危ない。

だが、どうすれば――


ふと、晶の左手が握られた。

横を振り返ると、シラナギが真っ白な両手で優しく微笑みながら晶の手を握っていたのだ。


「はいはいー、それじゃいっきますよーっ!」


「う、うわぁっ!? ちょ、ちょっと――」


「何言ってるんですか、仲間のピンチですよっ!? これはもう、晶くんの出番ですっ!

ι・ブレードであんな怪物やっつけちゃってくださいっ!」


「そ、そんな無茶だ……仮に俺が出ても――」


「木葉ちゃんと約束したじゃないですか、絶対にみんなを守るって!

私、晶くんを信じますよ? 絶対に、このピンチ乗り越えてくれるって」


「……そ、それは」


晶は戸惑った。

あの映像を見ている最中に、確かに自分が出撃していればと何度も考えた。

だが、実戦に出る恐怖を再度認識してしまったのも事実。

また、あの時のように動けるとも限らないのだ――


「はいはい、迷ってる暇があったら動く動くっ! それじゃ、いっきますよーっ!」


「ちょ、ちょっとまって――」


晶に有無も言わさずに、シラナギは強引にブリッジの外へと出て行った――











格納庫まではすぐだった。

5分もしないうちに到着すると、

そこには既に整備が完了されているι・ブレードの姿があった。


「はーい、それじゃ生きて帰ってきてくださいねー」


ドンッ、と晶は強く押し出される。

……艦長に黙って出撃なんていいのだろうか。

不安を抱えつつも、晶はι・ブレードのコックピットに搭乗した。


『パイロット認識。 身体状況に異常ありません』


前のように適性診断が行われることはなかった。

通常通り、ι・ブレードは晶を認識して起動してくれた。

しかし、今は考えてる暇はない。


『システムオールグリーン、異常ありません。 ι・システム……起動します』


また、あの頭痛か……と、晶はため息をつく。

例の激しい頭痛が、晶に襲い掛かった。


「……乗る度にこれはしんどいだろ」


『ハッチあけましたよー、今ブリッジ大騒ぎですっ! ささ、今のうちにー』


全く緊迫感のないシラナギの通信がコックピット内に伝わってくる。

この人、本当やりたい放題だな、と晶は思った。


「また、よろしく頼むよ……『ι・ブレード』」


コックピット内で晶がそう呟くと、それに応えるかのように赤く点灯した。

ふと、『生きたHA』という単語を思い浮かべる。

もしかして、本当に人語を理解して返事をしているのではないかと考えてしまった。


『じゃ、恰好良くセリフきめちゃいましょー』


「……ι・ブレード、でます」


『あーちょっとっ!? せっかくセリフ準備してあげたのにーもーっ!』


この人と会話してるとやっぱ疲れる、晶はこれから戦場に出るというのに何処か気が抜けてしまっていた。

……だが、逆に言えば少しだけリラックスできているのだろう。

これから何かとシラナギには世話になりそうだな、と晶は感じ取った。


バシュンッ!


轟音と共に、ι・ブレードが発進された。

相変わらず息苦しくなるほどの激しいGが襲い掛かる。

何とかして晶はレーダーを確認した。


E.B.Bの反応はないが、味方機であればレーダーは移る。

晶は着実に位置を特定して、機体を動かした。


ズキンッ――


その途端、頭痛が起きた。

危険察知だ、晶は身構えて映し出される映像を息を呑んで待った。

霧の中から、突如無数の触手がι・ブレードに向けて放たれるシーンだ。

空中にいると言えど、ι・ブレードはある程度なら空中でも高稼働を保てるはずだ。

……いけるはずだ。


「いっけぇっ!!」


晶は触手を回避しようと、一気にスロットルを押し込んだ。

だが、勢い余ってバーニアを噴射させすぎてしまい

直角に近い急降下をしてしまった。


「うわぁっ!?」


慌てて晶はスロットルを操作すると、今度はグォーンっと弧を描くようにι・ブレードが上昇する。

何とか触手は回避できたが、霧のせいで状況が全く見えない。

戦場で止まるのは危険だ、とにかく晶は機体を動かしながら下の様子を伺った。


頭痛が起こる度に、下からは容赦なく触手が飛び交ってくる。

ギリギリになりながらも晶は何とか触手の回避を行い続けた。

そしてようやく地上へと降り立つことができた。


『……遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ』


「ゼノス……さん?」


突如、ι・ブレードにゼノスの通信が入った。


『シリアの救出を頼む、奴はまだ生きている』


そう言い放つと、ゼノフラムはガトリングと2連キャノンを放ちながら宙へと上昇していく。

そうはさせまいと、E.B.Bの触手が機体に絡みついた。

必死で振りほどこうとし、ゼノフラムは背中のブーストハンマーを宙へ向けて発射させた。

何十トンもする巨体が、爆発的な推進力と共に宙へと打ち上げられる。


「……シ、シリアさんはっ!?」


晶は必死で霧の中を探ると、黄色いHAの姿を確認した。

触手に絡まれており、腕や足のパーツが破損している。


「今、助ける……!」


必死でスロットルを押し込み、ムラクモを構えて次々と襲い掛かる触手を薙ぎ払った。

徐々に黄色いHAとは距離を縮めていき、黄色いHAが捕えている触手を切り裂いた。


「う、うわっと――」


再度バーニアを噴かせすぎてしまい、機体がバランスを崩したが何とかシリア機を確保する事には成功する。


「シ、シリア機確保しましたよ、ゼノスさん――」


通信を入れた途端、晶はふと上空を見上げる。

先程、宙へと舞い上がったゼノフラムが

今度は蕾目掛けて、ハンマーを発射させている姿が目に入った。

ズドンッ! ズドンッ! と、容赦なくハンマーは蕾を打ち続けていくと次第に蕾は花を咲かせるかのように開いていく。

ゼノフラムはその中心へと立ち、2連キャノン砲を何度も、何度も打ち込んで見せた。


「す、凄い……あんな無茶なことするなんて」


重い機体をハンマーのブースターで浮かせて、強引にコアを狙いに行ったのだろう。

徐々にE.B.Bの動きが弱まり、触手の動きも鈍くなっていった。

ゼノスの思惑通り、このまま順調にいけばコアを破壊することができるかと思われた。


ズガンッ!

突如、ゼノフラムが爆発を引き起こした。


「ゼ、ゼノスさんっ!?」


『……チッ、出力を上げすぎたか』


オーバーヒートを引き起こしてしまったのだろう。

ゼノフラムは、かなりオーバーヒートを引き起こしやすい性質がある。

いつもは調整していたのだが、流石に無理をさせすぎたのだろう。


更に、大型E.B.Bの動きに異変が発生する。

突如無数の触手がゼノフラムに絡みつきはじめたのだ。

すると何やら緑色の液体のようなものが流れ出し、装甲面がジューッと音を立てていた。

……装甲が、溶け出していた。


『晶……こいつを逃すわけにはいかん。 レーダーに乗らない以上、野放しにしておくのは危険すぎる。

だから、ここでこいつを確実にしとめるぞ』


「で、でもゼノスさんっ!」


『何としてでもコアを破壊してみせる……俺が駄目だった時はお前がトドメをさせ』


「そんな――」


リスクを承知で、ゼノスは捨て身の特攻を持ちかけたというのか。

身動きもとれないでいる中、それでもゼノスは猛攻を続けていた。


「……黙って、見てられるか」


仲間を見殺しにはできない、助けるんだ。

あの時とは違う、今の晶には戦える力がある。

何の為に戦場へ足を運んだのか。

シラナギも言っていた、『晶』を信じると。


「行けよ、ι・ブレードっ!!」


晶はシリア機を抱えたまま、最大出力で大型E.B.Bの中心部へと向かった。

グングンとスピードを上げていくが、まだまだ力強くスロットルを押し倒す。

徐々にゼノスの機体への距離を縮めて行った。


いける、はずだ――

晶は迷わず、機体をそのまま直進させた。


ガキィィィンッ!!


そのまま、触手に絡まれていたゼノフラムを強く押し出した。

小型のHAと言えど、あそこまで出力を上げた状態で体当たりをすれば

巨体のゼノフラムを吹き飛ばすことは容易だった。


「行けよっ!!」


力強く、晶は叫んだ。

片手でムラクモを下に向けて、蕾の中心部を刺す。

ブシュリ と、どす黒い液体が飛び出した。


「消えろよ……この、バケモノがぁっ!」


ムラクモを突き刺したまま、晶はこれでもかと両手でスロットルを限界まで押し込んだ。

ググッと、ムラクモが力強く押され……爆発的な推進力で前進した。

黒い液体を飛び散らせながら、大型E.B.Bの胴体を切り裂いていく――


晶は限界まで出力を上げ、空高く上昇した。

巨大な植物のE.B.Bは、ぐったりと触手を地面へと降ろし

黒い液体と化して、消滅していった―――



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