翼を持つ女王 ③
艦長の判断に伴い、全機には撤退命令が告げられた。
敵勢力とメシアの勢力では数が劣っており、今のままでは戦線を維持する事は難しい。
だが、この場を切り抜けてメシア本部まで後退したところで状況は決して良くならない。
メシア本部内では内通者によって混乱が生じている状況だ。
イリュードの手によって多少抑えることが出来たが、それでも完全に抑える事は出来ない。
更にメシア本部には数多くの大型E.B.Bも残されている、留まるにせよ退くにせよ……その先に待つのは地獄だった。
「た、大変です……スカイウィッシュ部隊内にて味方機に攻撃仕掛けるHAが現れましたっ!
ま、まさかアヴェンジャーがスカイウィッシュ部隊にも混ざっていたのでしょうか?」
「バカな――何が起きているのだ?」
「ア、アヴェンジャー同士での交戦も始まっているようです……い、一体何が起きているのでしょうか?」
「何だと……? まさか、あのクイーンの仕業かっ!?」
艦長は戦場の中心に聳え立つフェザークイーンを睨み付けながら、叫んだ。
不気味な赤い光を放ち、無数の小型HAを操るクイーンの姿に思わず恐怖した。
「やはり、クイーンにはオートコアが使用されていると考えるべきだ。 恐らく、あの小型HAを操作して他のHAをクイーンで制御させているのだろう。
全く……理論上は不可能ではないと言われてはいたが、本当に形になるとは考えもしなかったものだな。 ιシステムが提唱されたように、エターナルブライトを利用した技術の一つだろう。
確かにオートコアさえあれば問題の多くは容易に解決はできる……だが、問題はそれだけで全てのエターナルブライトをクイーンの制御下に置く事が本当に可能なのか?」
「おいおい冗談じゃねぇぞ……まさかι・ブレードが暴走した時と同じだってのかよ?」
「しかし制御を奪われるというのは一体……? エターナルブライトはあくまでも動力源でしかないのでは?」
ふと疑問を感じたリューテは、フラムに向けてそう告げた。
ι・システムのような特殊な構造ならともかく、通常HAに使われるエターナルブライトは単なる動力源のはずなのだ。
動力源を乗っ取る事で本当にHA全体の制御系統を乗っ取ることが出来るのだろうか?
「エターナルブライトには自らの意思がある……要はE.B.Bのコアとエターナルブライトは同一と考えていいかもしれん。
そうとなれば、エターナルブライトが自在に動いても不思議ではない」
「……全てのエターナルブライトに、自らの意思があるというのか?」
「あくまでも推測だがね、だがこうしている場合ではない――」
「ゼノス機から通信が入りました、今回線を繋ぎます」
突如、フリーアイゼンに向けてゼノスからの通信が入り込んだ。
撤退命令はとっくに下されたはずだが、このタイミングでの通信は何か胸騒ぎがする。
「……繋いでくれ」
艦長が頷くと、ヤヨイは速やかにゼノスと通信を繋いだ。
「手短に話す、俺達はあの大型HAを食い止める。 その隙に艦を後退させてくれ」
「何……?」
『大型HAに『早瀬 木葉』が捕らわれていることを晶が確認した。 速やかに救出した後に本隊と合流する……以上だ』
「何だとっ!? 何故あの娘が……ゼノス、待つんだ――」
「君、待ちたまえ」
ゼノスが通信を切ろうとした瞬間、フラムが一言そう告げた。
するとゼノスは通信を切らずに、そのまま繋いだままにした。
「君はまた随分と無茶をしているようだね……知っているぞ、今のゼノフラムでは戦闘を続行する事は無理だ。 速やかに帰還しろ」
『だが、仲間を放っておけない』
「今の君に何ができるというのだ? 例の大型、クイーンとでも言っておこうか。 奴は単なる巨大なHAとは違う、我々の知らない技術が使用された兵器なのだよ。
クイーンは小型HAを制御して他のHAをクイーンの制御下に置く力があると推測されている。 既に味方機、いやアヴェンジャーの機体にすらも被害が及んでいる……ゼノフラムも決して、例外ではないっ!」
『あの小型HAは大型HAの制御下にある、それは間違いないのか?』
「今時点では確証はない、だが私の直感はそう告げている」
『なら、大型HAからパイロットがいなくなれば、その制御は無効になると思うか?』
「……君、本気なのか?」
フラムはドスを聞かせた声で、ゼノスにそう尋ねた。
『フラム、お前が俺を止める事が出来ても晶を止める事は出来ん。 あいつはたった一人でも、あの娘を助けに行くぞ』
「しかし、君達の無事を待つクルー達がここにいるのも忘れるな」
『俺達はメシアの遊撃隊、フリーアイゼンだ。 この程度の修羅場、何度も潜り抜けてきている。
それに、奴を倒すのが目的ではない……あの娘を、救い出す事が目的だ』
「……少し、待ちたまえ」
ゼノスの言葉を聞き、フラムは目を閉じて深く考え込んだ。
木葉がただの民間人である事は知っている、それもアヴェンジャーに攫われてしまった事さえも。
彼女にHAを操縦する技術はない、だがゼノスの話が真実であれば彼女はHAを操作していることになる。
単なる洗脳でHAを操作できるようになるとは考えにくい……なら、どうやってHAを動かしているというのか?
「ああ、めんどくせぇっ! だったらあのデカブツをさっさと倒しちまえばいい事だろっ!?」
「おい、お前は人の話を聞いていないのか? あの中には木葉ちゃんが捕まっている可能性があるんだぞ?」
「足止めぐらいできんだろうがっ! あんな頑丈そうなデカブツ、すぐに壊れやしねぇっ!
どーせ戻っても本部は滅茶苦茶なんだろ? だったら先に、あのデカブツを片づけてから戻ったって遅くねぇさっ!!」
話を聞いていたライルは、突如操縦席を離れて大声で叫んだ。
フリーアイゼンのクルーは、皆木葉の事を知っている。
正式なクルーとなるべく一生懸命勉強をしていた事。
戦いを知る為に共にブリッジルームで戦いを見守ることだってあった。
彼女は彼女なりに戦っていた、例えHAに乗っていなくとも戦艦のクルーでなくとも。
「木葉ちゃんがもしあの中にいたら、きっと怖がってるはずですよ。
もし、アヴェンジャーが彼女を無理やり戦わせてるとしたら……私、絶対に許せません」
「リューテ、お前はどうなんだ?」
「……私も同じだ、彼女に殺しなんて真似は似合わないだろう」
「さあ艦長っ! どうなんだ、俺達の意見は一致したぞっ!」
「無謀なのは承知です、ですが……もし彼女の身に何かが起きたらと考えると、今すぐ助けてあげたいんです」
ライル、リューテ、ヤヨイの3人は力強く艦長に訴えた。
艦長も木葉を救いたい気持ちはある。
だが、ここですんなりと頷く事は出来ない。
強い想いだけでは戦況はひっくり返せない。
感情的になっているクルーに代わり、艦長は冷静に状況を分析しなければならなかった。
「――ふむ、そうか。 艦長、これは一つの仮説なんだがね。 もしかすると、クイーンのコックピットにはι・システムに近い代物が搭載されているのかもしれん。
そのι・システムによってオートコアを制御しているとすれば……つまり『早瀬 木葉』自身がそのシステムと繋がっていると考えられる」
「……何が言いたいのだ?」
「つまり、パイロットさえ救出してしまえば……あのクイーンはただの巨大な置物となり、制御を奪われたHAの制御は元に戻り、あの喧しい小型HAも機能停止するはずだ。
確証はないが、狙ってみる価値はあるかもしれん。 どうだね、ここは一つ賭けてみないか? ここでクイーンを止めることが出来れば、状況は一変する……とは言ってもまだまだアヴェンジャーの勢力は尽きないが。
だが、失敗すれば最後……下手すれば我々の命はないかもしれない。 良い判断を、期待しているよ」
フラムは簡潔にそう告げると、何事もなかったかのように椅子へと座った。
このまま軍を退かせて本部の部隊の助けに期待するか、戦線維持を継続してフェザークイーンを止めるか。
いずれにせよ、どちらを選んでも博打要素が高すぎるのだ。
その時、艦長は悩むのを辞めた。
「……本艦をクイーンへ向かわせろ。 フリーアイゼン部隊はこれより、クイーンから『早瀬 木葉』を救い出す……以上だ、ゼノス」
艦長からついに、決断が下された。
『了解した、艦長。 感謝する』
「よっしゃぁぁっ! 木葉ちゃんを助けろぞぉぉっ!!」
「さて、これで後には退けなくなったが……後悔はしていない」
「行きましょう、早く木葉ちゃんを助けてあげる為にも」
「フリーアイゼン、目標『クイーン』に向けて……前進せよっ!!」
艦長の指示と共に、フリーアイゼンはフェザークイーンへと向けて艦を進めた。
戦場で倒れるレブルペインの数々。
そのほとんどが激しい戦いによって損傷を負っていた。
無数のフェザービーが死骸に群がる虫達のように、倒れたレブルペインに次々と寄生していく。
独りでに動き出したレブルペインは、フェザークイーンの元へ向かっていった。
倒れているレブルペインの中には、俊の乗るレブルペインも混ざっていた。
今まさに周辺にはフェザービーが寄生する為に数匹集っていた。
「―――ビリッケツ」
俊はコックピットに座り、スロットルを握りしめながら呟いた。
ι・ブレードの一撃によって、レブルペインの制御系に異常がきたしていた。
急造された改造マシンは想像以上のスペックを引き出せたものの、長時間戦える状態にまでは至っていない。
だが、それが負けた理由にはならない。
何故だ、何故自分よりも劣っているはずの晶が勝てたというのか。
あの時は一切手加減をしていなかった。
圧倒的な力を見せつけ、晶が二度とHAに乗れなくなるほどのトラウマを焼き付けてやろうとさえ思った。
しかし、結果は俊の敗北に終わってしまったのだ。
マシンはもう動かないが、俊は認められなかった。
自分より遥かに劣っているはずの、晶に負けたことを。
「認めねぇ……俺は、認めねぇぞぉぉっ!」
ガァンッ! 俊が力強く叫んだ途端、突如コックピットが激しく揺れた。
幸いモニターは生きていた為、状況を確認する事は容易い。
……そこには、フェザービーの姿があった。
コアをむき出しにし、一機のフェザービーがレブルペインにべったりとくっついている。
そのHAが何なのか、俊は何も知らない。
だが、俊はレブルペインに異変が起きた事に気づいた。
「……お?」
突如正体不明のHAに襲われている事に恐怖するかと思えば、俊は逆に笑っていた。
レブルペインの制御系統が正常に稼働している。
恐らくフェザービーがコアで寄生する際に何らかの影響が加わったのだろう。
思わず俊は、その場で大笑いをした。
「ククク、そうか、そういうことかぁっ!」
レブルペインは胴部にべったりとくっついていたフェザービーを鷲掴みにし、強引に剥す。
メキメキメキ……と音を立てながら、パーツの一部が剥ぎ取られていたが俊は一切気にしなかった。
「まだ決着はついてねぇ……テメェが俺にトドメを刺さなかったのが仇となったなぁ、ビリッケツゥゥッ!!」
バキィィンッ! 鈍い音を立てながら、フェザービーはレブルペインから剥された。
幸いフェザービーのコアはレブルペインのエターナルブライトまで届く事はなかったようだ。
だが、俊はそれを知っていたわけではない。 ただ、目障りなHAを引きはがしただけに過ぎない。
片手に掴んだフェザービーを、レブルペインは思い切りぶん投げると空を舞っていたフェザービーを巻き添えにした。
俊は近くに倒れていたレブルペインから1本のサーベルを奪い取り、構えた。
「雑魚は引っ込んでろ……っ!」
レブルペインは凄まじい速度で空へと舞い上がり、あっという間に複数のフェザービーを一刀両断した。
「何処だ、何処だιぁぁっ!? 隠れてねぇで出てきやがれぇぇっ!!」
ブーストを最大まで吹かせながら、レブルペインは戦場のど真ん中へと飛び込んでいった――
フェザークイーンの周辺をι・ブレードが高速で飛び続けていた。
しかし、近づこうにも無数のフェザークイーンの操る小型HA……フェザービーが立ちはだかりι・ブレードの行く手を阻む。
「うおおおおぉぉっ!!」
一瞬のうちにムラクモで敵機を切り裂き、道を強引に切り開いたがそれでも敵の数は減らない。
フェザークイーンに近づかせないよう、小型HAは次々と集っていった。
「木葉っ! 俺の声が聞こえるかっ!? 返事をしてくれっ!!」
通信は繋がっていないが、晶はフェザークイーンに向けて叫んだ。
あの時、木葉の声が聞こえたように……自分の声が木葉に届くと信じて。
しかし、返事は帰ってこない。
声が届いていないのか、或いは返事が出来ない状況にいるのか。
その時、無数のフェザービーが一斉にι・ブレードに襲い掛かってきた。
危険察知が発動しているものの、あまりにも圧倒的過ぎる数に晶は戸惑う。
この状況では交わす事は出来ない、ならば敵の少ない個所を狙って一点突破するしかない。
「クッ――行けぇぇぇっ!!」
バシュゥゥンッ! 一瞬のうちに複数のフェザービーが一刀両断された。
晶はスロットルを限界まで押し込み、この場を切り抜けようとするが――突如、コックピットが青く灯る。
「なっ――」
死角に一機のフェザービーがコアを剥き出しに猛スピードで突進していた。
それに気づいた時は遅かった、まさにフェザービーはすぐそこまで迫っていたのだから。
――バァンッ! と、突如銃声が響き渡る。
死角に飛び込んできたフェザービーが、あっという間に粉砕された。
『助太刀に来たわよ』
『ったくよぉ、いくら木葉の為だからって一人で無茶すんなよっ!』
「……シリアにラティアさん?」
地上にはブレイアスとレビンフラックスの姿があった。
どうやらギリギリのところで助けてもらえたようだ。
しかし、2機の姿は大分傷ついている、特にレビンフラックスは片腕を失っているほどの重症だ。
再び、危険察知が発動すると晶はブラックホークでフェザービーを迎撃していく。
フェザークイーンから離れるにつれて、ようやく晶はフェザービーの追尾から解放された。
「クソッ、どうやって近づけばいいんだよ……」
無数のフェザービーをどうにかしない限り、フェザークイーンへ近づく事はほぼ不可能だ。
だが、シリアやラティアの助けがあったとしてもあの数をどうにかできるとは思えなかった。
『……ゼノフラムで突破口を開く。 晶、お前はその隙を狙って一気にあの大型に近づけ』
「ゼノス……ああ、わかった」
成す術もなく立ち止まっているι・ブレードの前に、ゼノフラムが姿を見せた。
だが、いつも足枷のようについていたブーストハンマーがない。
パーツのところどころが破損されているボロボロな姿は、G4といかに激しい戦闘を繰り広げられたのかを物語っていた。
『行くぞ、晶。 これから何があっても、前へと突き進め』
「ゼノス……?」
ゼノスの言葉を耳にして、晶は急に胸騒ぎを感じた。
『待って、ゼノフラムはもう限界のはずよっ! まさか、圧縮砲を使うんじゃないんでしょうね?』
『おい……冗談だろ、死ぬ気かっ!?』
ラティアとシリアがゼノスに向けてそう叫んだ。
『俺は、死なないっ!』
ゼノフラムから土煙も舞い上げながら、凄まじい速度で前進していく。
「……何をするつもりなんだよ?」
『言ったはずだ、お前の道は俺が示してやる。 だから、黙ってついて来い』
ゼノフラムの勢いは止まらない。
オーバーヒートしているのか、機体中から煙が吹き出し続けている。
ゼノスは毎度のように無茶をし続ける男だ。
常人であればいくつ命があっても足りない程、危険な事を平然とやってのける。
だが、全てが上手くいくとは限らない。
例え体にエターナルブライトがあろうとも、そのコアが毎度無事であるとは限らないのだ。
『まさか、ゼノフラムを自爆させる気か……?』
『何ですって……やめなさいゼノスっ! いくら貴方でも、お願いだからそんな無茶だけはしないでっ!』
「なっ―――」
まさか自らを犠牲にして、フェザークイーンまでの道を切り開こうとしているのか?
あのゼノスならやりかねない、ゼノフラムを自爆させた隙を狙って晶を進ませようとするだろう。。
もし、そんな事を本気で考えているなら――
「……クソッ!」
ι・ブレードは猛スピードで空を飛び、あっという間にゼノフラムの前へ立ちはだかった。
ゼノフラムはその場で足を止めて、お互いが睨み合うような姿勢で向かい合った。
『退け、晶』
「やめろよ……もうこれ以上、この戦いで犠牲者を生み出したくないだろっ!?」
『俺は死なない、信じろ』
「信じてるさ、俺はゼノスをいつでも信じている……だけど、これは違うだろ?」
『他に手段はない、俺は必ず生きて見せる……お前はあの娘を救い出せっ!』
「ゼノフラムをそんな使い方にしていいのかよっ!?」
『……退かぬなら』
ゼノフラムはその場で強く拳を握りしめた。
このまま強引に突破をするつもりなのだろう。
しかし、このまま晶は道を譲るつもりはない。
ここでゼノスを止めれなかったら、もう二度とゼノスに逢えなくなる可能性だってあるのだから――
『その必要はあるまい』
「艦からの通信?」
ι・ブレードに艦長の通信が届いた瞬間、近くでエンジン音が鳴り響いていた。
このジェット機のような凄まじい音は……戦艦以外考えられない。
ι・ブレードとゼノフラムの上空に、敵から激しい攻撃を受けながらフリーアイゼンが前進を続けていた。
『道は我々が切り開くっ! ι・ブレードはクイーンの元へ急げ、各機はι・ブレードを援護しろっ!』
「艦長……りょ、了解しましたっ!」
撤退命令は艦長自身から出されていたはずだ。
だが、現実にフリーアイゼンが戦場のど真ん中にまで晶を助けに来たことに驚きを隠せなかった。
絶望的な状況だというのに、艦長は木葉の為に艦を動かしてくれたのだ。
その事を信じられなくて、晶はただ戸惑っていた。
『ゼノス、今のうちに帰還したまえ。 これ以上ゼノフラムでの戦闘は無理のはずだ』
『……了解』
フラムがそう告げると、ゼノフラムは大人しく指示に従った。
ゼノス自身も想像してなかった、フリーアイゼンが助けに来てくれることを。
このような無謀な作戦に艦長が了承するとは考えにくかったが、晶の想いが勝ったのだろう。
『主砲発射と共に、前進せよっ!』
『あいよ、そらぶち抜けぇぇっ!!!』
ι・ブレードの上空を通り抜け、フリーアイゼンがクイーンへと向けて前進していく。
ズガァァァァァァンッ!! 凄まじい爆音と共に、2本の主砲が発射された。
紫色の光が一閃を描き、地面を抉るほどの強力な一撃を放つ。
あっという間に大量のフェザービーが一撃で消し飛んだ。
『道は開いたっ! 後はお前が突き進むだけだ、未乃 晶っ!!』
「……木葉――」
昔からずっと一緒だった。
竜彦と木葉の3人で一緒に遊んだり、勉強をしたりと色々な事を楽しんだ。
時にはケンカをした事もあったし、その度に木葉を泣かして竜彦に怒られていた事もあった。
いつも、どんな時でも木葉は晶を応援してくれた。
パイロットになると言った時、晶が夢を持ってくれた事に喜んでくれさえもした。
だが、シェルターが襲撃されたあの日……木葉は誰よりも一番傷ついていた。
家族は勿論、学校の友達も失い……二人の兄貴だった竜彦さえも亡くなった。
木葉は酷く傷つきやすく、自分をとことん追い詰める。
竜彦はその事を知っていたからこそ、晶に全て任せた。
だけど晶は気づけなかった、木葉のサインに。
酷く傷ついて、自傷行為を繰り返し続けていた木葉の事に全く気付けなかった。
だからシラナギに言われた、木葉を任せることが出来ないと。
「俺は……木葉を守れる。 それを、アンタに証明してやる」
口でなら何とでも言える、根拠はないかもしれない。
しかし、晶は木葉のサインに気づけた。
フェザークイーンの中で、助けを求める木葉の声を確かに聞いた。
だからもう、同じ過ちは犯さない――
「木葉ぁぁぁぁっ!!!」
必ず、救ってやる。
晶はその思いを秘めて、スロットルを最大まで押し込んだ。
コックピットが赤く灯ると、ι・ブレードは凄まじい速度で前進して行く。
何処かから復活したのか、複数のフェザービーがまとめてι・ブレードに襲い掛かってきた。
華麗な動きでι・ブレードはフェザービーを避けながら突き進んでいく。
避けきれないフェザービーはムラクモで切り裂き、危険察知を駆使しつつ確実に前へと進む。
だが、敵の数は絶えない。
主砲で一掃されたはずのフェザービーは徐々にその数を増やしι・ブレードに襲い掛かる。
危険察知で対処しきれなかった敵は、シリアとラティアの援護で何とか凌ぎきることが出来た。
今度は寄生されたレブルペインが複数一気に襲い掛かってくる。
何とか対処をしようとするが、フェザービー単体とは違いレブルペインはライフルとサーベルといった武器で襲い掛かった。
「邪魔すんなよっ!」
バンッ! バンッ! と、ι・ブレードは二丁のブラックホークを撃ち続けた。
『ここは私達が引き受けるわっ! 貴方は進んでっ!』
『晶、絶対木葉を連れ出して来いよっ! 約束だっ!』
「ああ、わかっているっ!!」
後ろは二人に任せればいい。
晶はただ前へ進む事だけを考えた。
段々とフェザークイーンの元へ近づいていく。
それにつれてフェザービーの数も更に増してきた。
ι・ブレード単機での突破は難しいか、だが敵を上手く引き付ければ……と、考えていた時――
『主砲、撃てーっ!』
そのタイミングを見計らい、フリーアイゼンの主砲が再度発射された。
ι・ブレードは一度レンジ外へと避難すると、一瞬にして紫色の光がフェザービーを一掃した。
フェザービーの残骸が散っていったのを確認すると、ι・ブレードはそれを飛び越えるように突き進んだ。
「ようやく……辿り着いたぞ」
短い道のりではあったが、険しい道であった。
フリーアイゼンの力がなければここまでたどり着く事は出来なかっただろう。
晶はついにフェザークイーンの元へと辿り着いた。
目の前には翼を広げた巨大なHAの姿がある。
無数の砲台がι・ブレードへと向けられていた。
「木葉……助けに来たぞ、木葉ぁぁぁっ!!」
晶はフェザークイーンに向けて、力強く叫んだ。
その瞬間、危険察知が発動した。
フェザークイーンに搭載されていた無数の砲台が、一斉にι・ブレードへと向けて発射された――